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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
モミジガサ編
270/343

つかの間の休息 中編

「今宵は感謝する、忙しい所を足労であった」


 ルシーラの話が終わった直後。

 彼女は、話の終了と一緒に、ドームを消滅させ、夜に集まってくれたことに礼を述べた。

 礼の言葉まで魔王っぽい感じだったのは、もうみんな気にしなかった。

 早速解散しようとしたが、キレンは待ったをかける。


「そう言えば、僕にもう一つ伝えたいって言っていたけど、何?」

「……ああ、そうであったな……その、なんだ、武器に困ってはいないか?」

「武器?……今の所は困って無いよ、アンタを殺した、この剣が有るからね」

「ッ……そうであったな、今の発言は、ぶらっくじょーく、と取っておこう……さて、本題だ……そいつは、質が良いとは言え、所詮は人の作った物、予備として、コイツも持っておくとよい」

「ん?」


 キレンの使用する剣は、三百年前のキレンの先祖が使用していた剣。

 当時のルシーラを討伐した剣であるが、三百年以上前の物である以上は、耐久に限界がある。

 破損した時の事も考えたルシーラは、次元収納の中に手を突っ込む。


「……おや?」

「どうしたの?」

「あ、いや、キレンに渡したい物があったのだが……どこへしまったか」


 シルフィに心配されながら、ルシーラは次元収納に両手を入れる。

 どうやら、探し物が見つからないらしく、慌ただしく探りだす。

 とりあえず、手に持ったものは収納から取り出し、その辺に投げ捨てていく。


「ど、どこだ?何処へしまった?ここか?これか?あれ?」

「(……何だろう、物凄く既視感が)」


 どこかの猫型ロボットの如く、物を手あたり次第に放り投げる姿に、シルフィは既視感を覚えた。

 次々と飛び出て来る武器と防具。

 金属の質感が有れば、片っ端から放り投げているようだ。


「(……あれ?剣とか捨ててるって事は)」


 嫌な予感がしたシルフィは、彼女が剣を投げ捨てている方を向く。

 そこには、予想通りと言えるような光景が広がっていた。


「ルシーラァァ!テメェ投げんならもうちょっと周り見ろ!」

「なんか、ひと昔前の、ゲームみたい」

「ちょ!ハンマー来た!逃げろ!」

「おい!誰か水持ってこい!燃えてる!」

「属性付きの武器が暴発してるわ!!」


 そこには、剣やら槍やらの雨が降り注ぐ光景。

 無駄に高く放り投げているせいで、無差別攻撃のように成ってしまっている。

 しかも、ルシーラの持っている武器は属性付きが多い。

 落下の衝撃で武器が暴発してしまい、二次被害をもたらしている。

 それを見たシルフィは、急いでルシーラを止めに入る。


「ちょ!ルシーラさんストップ!とんでもない事になってる!」

「有った!……って、痛った!!」

「みんな避けて!もう一個行った!!」


 ようやく見つかったらしいのだが、何故か放り投げてしまう。

 一瞬見えたのは、柄と四角い石。

 ハンマーの類かと思われたので、シルフィは急いで注意喚起をした。

 彼女の声を聞いて、ハンマーらしき物の下に居た面々は急いで逃げる。

 一際高く投げられたそれは、石の部分を下にして勢いよく落下。

 土埃をまき散らしながら着地する。


「……な、何?あれ」

「……これって」


 逃げ延びた者達の視界に映ったのは、土台に刺さった剣。

 見るからに聖剣と呼べるような美しいオーラを放つ剣。

 まき散らされるそのオーラのせいか、武器がもたらした二次災害が一気に消滅する。

 その外見から、レリアは一言漏らす。


「……これって、聖剣エクスカリバー?本物?」

「知っているのですか?」

「む、昔読んだ文献に、こんな形の剣があったような気がするのよね……」

「き、聞いたことが有ります、聖剣エクスカリバー、魔王を殺せる、唯一の、武器……」

「ん?」


 昔読んだ本から、その剣の名前を口にしたレリアだったが、アンクルの言葉で小首をかしげてしまう。

 聖剣エクスカリバー、魔王を殺す事の出来る唯一の武器。

 つまり、放り投げたルシーラを殺すための武器だ。

 その事に気付いたデュラウスは、大声でツッコミを入れ出す。


「ちょっと待て!何で魔王が魔王殺せる武器持ってんだ!?何でマリーの身体持ってるお前が、そんなダメージ受けてんだ!!?」


 デュラウスの見るルシーラは、何やら具合悪そうにしゃがみ込んでしまっている。

 彼女の疑問に答える為に、無理をしているかのように立ち上がる。

 手のひらに息を吹きかけ、気休め程度に痛みを和らげようとする。


「……ふぅ……考えてもみろ、自分に特効性がある武器があると知っていながら、みすみす野ざらしにすると思うか?」

「も、最もな答え」

「意外と真面な答え来たよ」

「ま、それが無くても、僕の先祖に倒されてるよね」

「ッ……と、とにかく、それは本物だ、見ろ、ちょっと触れただけでこれだ」


 キレンからの言葉に青筋を浮かべながら、ルシーラは手のひらを見せる。

 その手は、熱々の鉄板に長時間押し付けたように焼けている。

 今のルシーラの肉体は、マリーというエルフの肉体。

 魔王への特効武器である物が、そこまで効果を及ぼすとは考えられない。


「本当だ、大丈夫?」

「心配ない、回復魔法は通用せぬが、天を使えば、数分後に全快するだろう」

「……ですが、何故魔王の肉体でない貴女が、それだけのダメージを?」

「別にこれは、魔王のみが特効の対象ではない……その剣には、超高濃度の天の力が練り込まれてある、それこそ、耐性の無い者が握れば、ダメージを受ける程にな」

「……あれ?その理論だと、誰も握れないんじゃ?」


 キレンの疑問に、みんな頷いた。

 その気になれば、天をまとわせる事で手を保護できるルシーラが、柄を握っただけで大火傷をした。

 一番天を使いこなせている、であろうルシーラでさえ、この結果だ。

 下手をすれば誰も使えない鉄くずだ。


「安心しろ、あの薬の影響で、キレンの身体は天に耐性をつけている筈だ、実際、三年前はそ奴に手心を加えていない」

「……そう言えば、ミアナが手心がどうとか言ってたけど、何かしてたの?」

「一言に天と言っても、そうだな、いうなれば、プラスとマイナスの作用が有る、マリーとルシーラが主に使っているのは、マイナスの作用だ、出力次第では、生物に対する防御を完全無視でダメージを与える……お前も見ただろ?攻撃を掠めた敵が、どんどん腐っていくのを」

「……」


 七美の解説を聞いて、キレンは思い出した。

 先の戦いで、ルシーラの攻撃によって、身体が消滅して行く姿を。

 三年前の戦いでも、キレンはルシーラの攻撃を何度か受けていた。

 しかし、あの兵士と同じように、身体は消滅しなかった。

 七美が同じ目に遭わなかったのは、それだけの出力が無かったという事なのだろう。


「そ、そっか、なら、僕が握っても、問題無いってことだね」

「そうだ、安心して握るといい」


 新しい武器にワクワクしているのだろうか、妙ににやけながら、キレンは剣の刺さる台座に上がる。

 そして、決心したように深呼吸し、剣を掴む。


「……痛くない」


 ルシーラのように、手を火傷せずに済んだキレンは、早速力を入れる。

 刺さっている台座は、大理石のようなので、すぐに割る事が出来る。

 そう思いながら、キレンは引き抜こうとする。


「フン!……あれ?」


 だが、剣はピクリとも動かなかった。

 大理石の方も、ヒビの一つも入っていない。

 何度も力を込めて上へ引き上げるが、ちっとも抜ける気配がない。


「ちょっと!これ!どうなってんのさ!」

「……やっぱダメか……その台座が勇者と認めた者にしか、その剣は抜けぬ仕組みになっておる、だからそうやって無理矢理ほじくったのだ」

「やっぱって何!?僕が引き抜けないの知っててやらせたって事!?」

「いや、先ほどから嫌味だの言ったり、人を助けないだの言っている奴が、勇者と呼べるのだろうかとは思っていたが、奴の血を引いていたし、可能性はあるかと……やはり、性根が腐っているとダメか」

「ッ」


 ヤレヤレと言いたげに両手を広げるルシーラを見て、キレンは青筋を浮かべた。

 流石に頭にきたようで、一瞬にしてルシーラの背後を取り、七美直伝の拘束術でガッチリホールドした。

 そのままルシーラの頭を、剣へと持っていく。

 柄で大やけどだ、むき身の剣に触れたら、ただでは済まないだろう。

 そうならないように、ルシーラは台座をがっちりつかんでこらえる。


「フヌヌゥ~!」

「ま、待て!落ち着け!先ほどまで余は我慢しておっただろうが!この程度の煽りでキレるでない!」

「キレンだけにってか?」

「ウガアアア!!」

「おい!今言った奴誰だ!?」


 誰かが茶々をいれたせいで、キレンは余計にムキになってしまう。

 そんな彼女を、シルフィと七美は抑え込む。

 二人は興奮した猫のように暴れるキレンを、何とかなだめていく。

 しかし、近寄ったせいなのか、ルシーラの顔半分はちょっと焼けてしまっている。


「どうどう、ね?ちょっとした事で怒らないの」

「全く、相変わらず煽り耐性が無いな」

「うう」

「おいリリィ、余の顔は今どうなっている?」

「硫酸かけられたみたいになってますね」


 リリィに顔の様子がどうなっているのか尋ねるルシーラを横目に、アリサシリーズの面々が剣の周りに集まりだす。


「しっかし、キレンが抜けないとなると、誰が使うんだ?これ」

「このままだと、完全にただの鉄くずだな」


 台座に上がったデュラウスとカルミアは、剣を見つめる。

 下手をすれば、自分もルシーラのようになる。

 そんな恐怖から、触れようとは思わなかった。

 だが、デュラウスの背後に、いつの間にかヘリアンが現れる。


「……えい」

「ちょ!」


 こっそりと近づいたヘリアンは、気付いていないデュラウスの背中を押す。

 バランスを崩したデュラウスは、思わず剣の柄に手を置いてしまう。

 激痛を覚悟したデュラウスだったが、そうはならなかった。


「……あれ?」

「やっぱり……105型は、生体パーツを、使っているけど、皮膚は無機物だから、反応しない」

「そう言えばそうだったな」

「それ先に言え!てか、お前が試せよ!」

「生憎、私は、まだ103型、全部無機物だから、成功して当然」

「チ、だからって高い所前にした時の嫌がらせみたいな事止めろよな」


 ヘリアンの言う通り、生体パーツを用いた105型だが、それは内部のみ。

 皮膚は何時も通り人工皮膚を用いている。

 感覚が有るのは、生体パーツの部分がセンサーで読み取った結果。

 それでも、不安な部分は有ったので、こうして調べたのだ。


「けど、アタシらでも使えるんなら、まだ可能性あるんじゃないか?」

「そう、もしかしたら、私達の誰かが、抜けるかも」

「無理に決まってんだろ!?俺らの誰か、つっても、ロリマッドサイエンティストに!腹黒モッサリ女に!ヤンデレエセ主人公に!人間嫌いヘタレ女に!シスコン姉バカ女!ロクな奴居ねぇだろ!!」

「それ遠まわしに自分なら抜けるって言ってるだろ」

「抜けねぇよ!この通りガッチリ固定されてるわ!!」


 デュラウスも引っこ抜く素振りを見せるが、剣はピクリとも動かない。

 そんな彼女をみて、ヘリアンは頭を働かせ、一発蹴りを入れる。


「なら、こう!」


 と言っても、脳筋の発想。

 何故か刀身の方に蹴りを入れた。


「何で刀身だ!?せめて台座に蹴り入れろ!!」

「じゃぁ、引いてもダメなら、おしてみな!」

「だから剣を狙うな!」


 そう言ったヘリアンは、今度は真上からカカトを落とした。

 見事なかかと落としだったが、流石は伝説の剣。

 ヘリアンの蹴りではびくともしない。

 そのせいなのか、妙な対抗意識から、銃を取りだす。


「……悔しい」

「その下品なもんしまえ!」

「ム、下品じゃない、私お手製の、高級品」

「んじゃ、爆薬でも使うか」

「バカ!剣ごと吹っ飛んだらどうすんだ!?」

「スイッチオン!」

「すんな!」


 デュラウスの静止なんて聞かず、カルミアは設置していた爆薬を点火。

 物凄い爆音を響かせた爆心地から、三人は大急ぎで退避する。

 戦車さえ簡単に吹き飛ばせる量の爆薬であったが、剣はおろか、台座さえ傷ついていない。

 三人の奇行を目にしていたルシーラは、顔を回復させながらため息をこぼす。

 何しろ、剣と台座が破壊できるのなら、彼女が既にやっている。

 今三人の乗っている台座は、彼女がくりぬく事が出来た最低の量。

 それ以上の石は傷つける事さえ敵わなかった。

 というか、これ以上奇行で剣を汚されたくない。


「やめろ、それ以上はお主らの手に余る強度だ、破壊はできん、諦めろ」

「らしいですよ、魔王様の言う通り、諦めた方が良さそうですよ」


 という感じで、ルシーラの提案通りに諦めようとするが、カルミアは考え込む。

 何やら思いついたように手を叩き、リリィを指名する。


「……じゃ、リリィが試して終了って事で」

「は?」

「異議なし」

「は!?」

「そうじゃな、試してみよ」

「はぁ!?」


 この提案には、ルシーラも乗りきだった。

 当たり前のように賛成したヘリアンはともかく、諦めようと言い出した人物がこれである。

 リリィには理解できなかった。

 そんなリリィの背を、シルフィは押す。


「とりあえず、やるだけやってみたら?」

「し、シルフィまで……」

「……いや、結果は目に見えてるだろ、主人公って所以外、コイツの何処が勇者なんだ?」

「そうだけど、ほら、主人公補正的なあれで」

「無理が有るわ、ヒロインに丸太投げて、触手プレイ傍観して、毒物飲ませて、人殺し強要するような奴だぞ……何でシルフィは惚れたんだ?」

「シルフィって意外とMなので」

「う、うるさい!さっさと試して!」


 顔を真っ赤にするシルフィは、リリィを剣の方へ押しのける。

 だが、デュラウスの言う通り、リリィはとても勇者と呼べる存在ではない。

 ルシーラは勝手に彼女を勇者と呼んでいるが、彼女の全体を見てしまうと、とてもそんな良い物ではない。

 それでも、ダメ元で台座の上に乗る。


「……立ってからあれですけど、勇者の条件って何ですか?」

「大丈夫だリリィ、自信持て、勇者ってのは、人の家のタンス勝手に開けたり、壺壊したりして、物品を強奪し、魔王討伐のどさくさに紛れて逆玉に乗るクソだ」

「遠まわしに私をクソ呼びしてますよね?」

「実際クソだろ」

「その前にお主らにとっての勇者は一体どうなっておる?」


 ルシーラのツッコミは置いておき、とりあえずリリィは剣を手に取る。

 剣の大きさは台座に刺さっている部分を差し引くと、リリィの胸まである。

 その先を考えると、恐らくリリィの背丈より少し短い位の物だろう。

 それに、中々幅も広い。

 彼女の趣味の武器ではないが、とりあえず引き抜く為に力を入れる。


「ッ……無理ですね」

「クソ、これではただの鉄くずでしか無いぞ」

「もうこのまま振り回した方が早いきがしますねっと」

「それでは剣の意味が無くなるではないか!」


 そう言うと、リリィ力任せに土台ごと持ち上げる。

 確かにこの方が重量も有るし、このままでもある程度効力も有る。

 適当に振り回しながら、リリィは、いっそこれでいいかもしれないと思ってしまう。


「……やっぱ性に合いませんねっ」

「投げるな!!」


 だが、合わないと言う理由で、その辺に投げ捨ててしまう。

 乱雑に捨てられた剣は、宙で何度か回転すると着地し、重々しい音が響き渡らせる。

 それを見て、ルシーラは全力で剣の方へと走って行く。


「……ふぅ、ちょっと汚れた程度か」


 持ち前の頑強さのおかげで、無傷ではあるが、雑に使われ過ぎてホコリまみれになっている。

 この剣は、リリィ達に協力する事を決めてから、ずっと温存していた、とっておき。

 こんな雑に扱われるいわれはない。

 その筈なのだが、期待していたリリィ達は好き勝手にされてしまっている。

 まるでコレクションを台無しにされているオタクのように、剣を心配するルシーラの姿を見て、リリィは目を細める。


「貴様らいい加減にしろ!伝説の剣をなんだと思っている!?」

「……伝説の剣そんなに心配する魔王とか見た事ないんですが」

「伝説の剣をこんな雑に扱う奴の方が珍しいわ!大バカ者!!」

「んじゃ、バカ者どもはさっさと退散するか」

「だな、町が心配だし」


 ルシーラの叫びに応えたかのように、デュラウス達は退散する。

 彼女達に続き、今回の話に付き合った面々も、次々と町に戻って行く。

 中には大きなアクビをしている者もいるので、やっと帰れると言った所だろう。

 数分後、関係者は全員帰ってしまい、残ったのは、ルシーラ以外だと、シルフィとレリア位だった。


「……諦めろとは言ったが、こんなにあっさり帰るか?普通」

「……」


 すっかり落ち込んでしまったルシーラの肩に、シルフィはそっと手を置いた。



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