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トラックに轢かれたら異世界に行った件 前編

 アリサの装備が見つかり、ヴェノムの持ってきた爆弾で吹っ飛ばされた頃、アリサの母星にて。

 ――連邦軍第224番基地――

 町はずれの山岳地帯の奥にある平地を開拓し、コンクリートでできた滑走路や管制塔、戦闘機などを保管するためのガレージ等しかない、簡素なつくりの基地。

 一見すると、ただの質素な空港にしか見えないが、この地下には、アリの巣のごとく広がる地下施設が存在する。


 この基地では、世論の目には見せる事の出来ないような、危険な実験も行われているので、かなり人里離れた場所がある。

 その施設の奥にある会議室へと通ずる質素な通路を、革靴の音を響かせながら進む、初老のエルフが一人。

 軍服に身を包み、草色の髪をなびかせる彼は、ストレンジャーズ責任者である少佐だ。

 会議室にたどり着いた彼は、目の前のモニターを、直立姿勢で睨みつけた。

 薄暗い会議室の奥にあるモニターに、光がともると、獣の耳が生える一人の老人が映り込み、敬礼をしつつ挨拶を交わす。


「お久しぶりです、准将」

『元気そうでなによりだ、少佐』

「本日は、以前より立案されていた、異世界進行に関することでしょうか?」

『そうだ、会議の結果、君の所の大尉に先行してもらい、本隊を誘導してもらう』

「スレイヤーを……」


 准将の言う少佐の部下、大尉こと、スレイヤーを使う、その言葉を聞いた少佐は、目を細める。

 少佐は、スレイヤーとはストレンジャーズ結成時からの付き合い。

 もはや親友と言っても過言ではない程、二人の仲は深い。


 彼としては、スレイヤーを使用することには反対だった。

 友人として体を心配することもあり、最近のスレイヤーの状態を考えると、できれば、戦場にはしばらく赴かせたくはなかった。

 ナーダ達を異世界にまで排するまでの間、スレイヤーは戦い続けていた。

 過去の出来事から、ナーダ陣営へと猛り狂いながら戦い続けてきたが、最近は如何も様子がおかしかった。

 まるで払拭する事の出来ない罪を前にし、もはや神にすがるしかない罪人の如く、死んだ表情を浮かべ、戦場へと赴いていた。


 今まで、さんざん人殺しを行っていたのだから、何時かはそうなってもおかしくはなくとも、少佐は思っていた。

 そんなスレイヤーを、土地勘のない世界へと行かせる、そんな事は、友人として認める訳には行かなかった。

 反論をしようにも、上層の決めたことだ、少佐である彼では、変えることはできないだろう。


『もしや、我々上層部の命に、いや、連邦軍の決定に背く気か?』

「いえ、軍人として、我々は成すべきことを成します」

『よろしい、部隊編成に関しては、君に一存する、反政府勢力の殲滅、期待しているぞ』

「は」


 少佐が敬礼すると、准将は通信を終了し、会議室に明かりがともる。

 しばらく沈黙していると、少佐は体を小刻みに震わせ、青筋を浮かべながら壁をぶん殴る。


「あんのクソ爺、何でもカンでもスレイヤーに押し付けやがって!おかげで、私の部隊は、仕事が溜まる一方だ!私達以外が戦場に赴いたのは、五年前が最後だ!怠け者共が!」

「そういうの、通信中に言ってもらえますか?」


 愚痴を垂れながら、壁を殴り、蹴り飛ばしていると、会議室の扉が開き、彼の秘書を務めている女性型アンドロイドが、手に紙袋を持って入ってくる。

 名前はチハル、廃棄されかけていた秘書型モデルを頂き、軍の研究部門たちが改修し、アリサと同様に、人間に近い姿を持つ、第4.5世代型アンドロイドだ。

 彼女が入って来るなり、壁を殴るのを止めた少佐は、肩で息をしながら、着崩れた軍服を直した。


「……スレイヤーは?」

「先ほど到着し、現在は自室で、支給品を纏めています」

「そうか、久しぶりに、顔でも拝んで来るか」


 報告を受けた少佐は、スレイヤーが居るという部屋へと、チハルの案内を受けながら赴く。

 その道中で、少佐はスレイヤーの心境を考えていた。

 ここ暫く危険な任務は無かったとはいえ、最近のスレイヤーは、やはり様子が変だった。

 酒もろくに飲まず、食も細く成ってしまっている。


 どう考えても、何か悩みのような物を抱えているのは明らかだ。

 部屋の前へとたどり着くが、入る前に、顔を合わせる事を躊躇ってしまった。

 もしかしたら、部屋に入り、顔を合わせる事さえも、スレイヤーは拒んでいるのかもしれないと、少佐は危惧してしまう。


「……大尉、入るぞ」


 意を決し、部屋の敷居をまたぎ、部屋の中で準備をするスレイヤーが目に入る。

 黒い綺麗な髪をショートポニーを揺らしながら、ウエストポーチに、申請した道具を詰めこんでいく。

 戦場には無縁そうな綺麗な女性、彼女こそが、ジャック大尉(本名・五十嵐 紅蓮)、スレイヤーの一人だ。

 これと言って落ち込んではおらず、むしろ嬉々として荷造りをしていた。


「やっぱり味噌と醤油はヤマだなぁ、軍にあるやつだと思った味が出ないし、何より異世界に有るとは限らないもんなぁ、あ、それと煙草も10カートンくらい」

「……おい、大尉」

「あ、イケね、米頼むの忘れてた、後で申請しないとな」

「ジャック」

「それから、女引っ掻けるための、勝負下着、どうすっかなぁ、こっちのラ〇ジェリにするか、それともこっちのリボン付きの可愛い……」

「旅行気分かキサマ!!」

「ブベラ!!」


 鏡を見ながら、いかがわしい下着を持つジャックの後頭部に飛び蹴りを繰り出し、鏡とキスさせる。

 てっきり落ち込んでいるのかと思えば、ノリノリで荷造りをしている姿をみて、さっきまで心配していた自分が馬鹿らしくなってしまう。

 髪を鷲掴みにし、鏡の奥にある壁にめり込んだ顔を抜き取った少佐は、鏡の破片が顔に刺さるジャックの胸倉をつかむ。


「おいキサマ、さっきまでの私の心配返しやがれ」

「心配だぁ?アンタに心配させるような筋は無いんだが、それより今の俺を心配してくれ、破片手りゅう弾くらったみたいに成ってんだろ」

「黙れ、つーかなんだよ女引っ掻けるって、軍事作戦だぞ、そんな事やってる場合じゃないだろ、仕事を舐めているのか?キサマ、それに、お前のストライクゾーンは中学生以下だろうロリコン」

「やれやれ、少佐、アンタは俺の事を、ロリコンなだけの性悪に見ているのか?」


 胸倉を掴む少佐の手を外したジャックは、私服を直すと同時に目を見開き、少佐に物申した。


「俺が舐めてんのは、妹かロリの染みつきパンツだけだ!アイラブシスター!」

「黙れ!シスコン&ロリコン!!」

「ナバン!」


 気持ちの悪い発言をしたジャックに向けて、少佐は強烈なアッパーカットを繰り出した。

 怒りで荒ぶる気持ちを抑えつつ、少佐はホルスターからハンドガンを取り出し、銃口をジャックに向けた。


「いい加減妹離れしやがれ、そんな覚悟で異世界に行けんのかよ」

「何するのよ、私に乱暴する気?〇ロ同人みたいに」


 寝そべりながら、まるで襲われる5秒前のような体制をとり、涙目になりながら顔を赤らめるジャックを見て、心底気持ちの悪くなった少佐は、眉間に銃弾を撃ち込んだ。

 頭から血を垂れ流しながら、ジャックは力なく床に倒れこんでしまう。

 明らかに死んでいそうな状態であるが、少佐は人を殺したという自覚をもってはいなかった。


「おい、なに死んだふりしていやがる、その程度で死ぬわけ無いだろう、それに貴様があれやると滅茶苦茶気持ちが悪い事も覚えておけ」

「うるせぇ!お前の方こそ、毎回毎回頭に銃弾撃ち込むな!割れた破片とか取るのメッチャ大変なんだからな!不死系キャラあるあるの悩みなんだぞ!せめてあの別の少佐みたいに、全弾外して、ダメだ当たらん、みたいな感じにしやがれ!」

「知るか!そんな大当たりスキル持もっておいて!破片位でゴチャゴチャ言うな!そして私はその少佐程狂っとらんわ!」

「大当たりな訳有るか!こんなのハズレ以外の何物でもないわ!!」


 眉間の間に銃創を作っておきながら、起き上がったジャックは元気よく少佐と喧嘩を再開する。

 同時に少佐は、先程まで疑問視していたことを打ち明ける。


「ていうか、何故最近私生活だけでなく、戦場でも落ち込んでいた!?気になって仕方が無かっただろ!」

「ああん!?んなもん先週発売のフィギュアとゲーム買うための貯金で、金欠だったからと、転売を企てようというクズ共の先を超すために徹夜して、寝不足だったに決まってんだろ!」

「またかキサマ!以前消費量より、購入量の方が勝って、部屋が未開封の箱で荒れに荒れていただろうが!」

「あれはちゃんと片付けたわ!おかげで安い倉庫借りる羽目に成ったけどな!」

「そんなんだから万年金欠なんだろうがオタク女!」

「……」


 そんな二人を見つめるチハルは、携行していた手りゅう弾のピンを抜き、部屋に放り込むと、自分だけ外に出て、聴覚センサーをオフにする。

 その瞬間、彼女の背後で爆発が起き、爆炎が扉をぶっ飛ばした。

 センサーをオフにしていたチハルには聞こえなかったが、二人の断末魔的な何かも、もちろん一緒に響き渡っていた。


「あの二人の喧嘩癖にも、いい加減辟易しますね」


 何十年も前から、二人の喧嘩するそぶりを見てきたチハルにとって、見慣れた光景ではある。

 と言っても、いい加減見飽きてきたので、もうこうして手りゅう弾を放り込んで、無理矢理黙らせることにしていた。

 ちらりと、黒煙漂う部屋の中を見ると、ススで汚れ、家財道具も崩壊している部屋に、少佐とジャックが横たわっていた。


「お二人ともギャグ補正で生きているでしょうし、これくらいであれば次回には復活しますね」


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