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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
モミジガサ編
268/343

鉄血の集い 後編

 連邦とストレンジャーズの、最初の戦争は幕を閉じた。

 指揮官であるクリュエルは捕らえられ、一部の兵士は投降するか、イリス王国へと逃げて行った。

 捕えた兵士は、マリーが鹵獲し、武装を全て解除した揚陸艇へ押し込まれた。

 カルミアからマリーに通達された、もう一つの任務は、揚陸艇の確保。

 彼女の次元収納を使用し、有無を言わさずに鹵獲する事が、彼女のもう一つの任務だった。

 尚、クリュエルのみ、町にある営倉にぶち込まれ、カルミアの尋問を受けていた。


「さて、大佐殿、苦しんで情報を吐くか、さっさとゲロして楽になるか、好きな方を選べ」

「チ、アンドロイド風情が、人間気どりか?」


 電灯を置いた机が一つに、椅子が二つ。

 正に尋問部屋と呼べる場所で、二人はにらみ合っていた。

 部屋の中は、二人以外にも護衛の兵が二人、銃を構えている。

 その空間の中で、クリュエルは完全にふんぞり返っていた。

 相手がカルミアという事もあってか、完全に舐めきっている。


「……子豚やろう、自分の立場解ってんのか?」

「解っていないのは貴様だ!鉄くず如きが、図々しくも人間のマネをするなど言語道断!立場をわきまえろ!!」

「……」

「な、何だ?」


 流石にイラっと来たカルミアは、席を立つ。

 少しシルフィというぬるま湯に浸かっていたせいか、この程度で頭にきてしまった。

 その事を反省しながら、カルミアはクリュエルの鼻に一発入れる。


「フン!」

「ブ!」


 殴られた事で、クリュエルは鼻血を流しながら椅子から転げ落ちた。

 彼の両手は、手錠で拘束されているだけなので、痛む患部を押さえつけだす。

 床と繋げられている足かせの鎖を鳴らしながら、激痛にあえぐ。


「ウグ……き、貴様、拷問は条約違犯だぞ!」

「クソが、よく言うぜ、特攻兵器で市街地を無差別攻撃、市民がいたらこいつも条約違反だろ?それとも何だ?テロリスト相手に条約は適応されないってか?だったら拷問の一つ無問題だろ」

「へ、屁理屈を、なんと浅ましいAIだ、一体どんな教育を受けている」

「こっちはお望み通りの教育をされたつもりだがな」

「……チ、所詮はナーダ共の欠陥か、いや、アンドロイドなんぞ、存在そのものが欠陥か」

「その欠陥を望んだのは、紛れも無い、お前たちだぞ」


 そのようなやり取りを続けながら、クリュエルは椅子に座り直す。

 彼のアンドロイドを否定している言動に、カルミアは内心ブチギレていた。

 だが、何とか自分を抑え込み、冷静に言葉を返す。

 そして、本題に戻るべく、頬杖をつく。


「……さて、茶番はこの辺にして、本題だ、お前たち連邦は、この世界で何を企んでいる?」


 ――――――


 その頃、銃声の広がっていた町は、すっかり落ち着きを取り戻していた。

 今は糧食班が炊き出しを行い、医療班が負傷者の手当てを行っている。

 町の防衛を行ったシルフィは、この安息の時間を、適当な場所で座りながら過ごしていた。

 炊き出しで貰ったスープも食べながら、心身をいやしていく。


「……また、大勢死んじゃったなぁ~」


 今回の戦いに参加した志願兵は、五百人前後。

 その内、犠牲になったのは六十名を超える。

 一割を超過しているが、それなりの数が犠牲となった。

 ヘレルス達の協力を経て、弔いが行われ、多くの者が、犠牲者に涙していた。

 その悲しみを呑み込むように、シルフィは炊き出しのスープをすする。


「……こっちは大体六十人、でも、向こうは数千人か、気分悪い」


 だが、犠牲になったのは、シルフィの陣営だけではない。

 連邦軍にも、相応の被害が出ている。

 何しろ、リリィ達アリサシリーズに加えて、七美やこの世界の実力者たちが相手だ。

 彼女達を相手に、犠牲者を最小限にして勝つなんて、無謀もいい所だ。

 しかし、そんな事よりも、シルフィにとって辛いのは、人が死んだという事。

 どの陣営であろうと、死人が大勢出ている事に変わりは無い。


「……敵の心配とは、相変わらずだな、シルフィ」

「あ、デュラウスちゃん、久しぶり」

「ああ、久しぶりだな、となり座らせてもらうぞ」


 浮かない顔をしているシルフィは、三年ぶりにデュラウスと再会した。

 そして、隣に座ったデュラウスに続いて、子供のエルフがシルフィの目に留まる。

 彼女は、読み取り辛い表情を浮かべながら、シルフィの事を睨むように見ていた。


「……え、えっと、貴女は?」

「ッ、わ、私はスノウ・ドロップ、デュ、デュラウスの、ぱ、ぱ、パートナーよ!」

「パートナー?一緒に行動してたの?」

「パートナーつか、パーティメンバーってか?」


 シルフィの前に立ったスノウは、顔を赤くし、胸を張りながら自己紹介をした。

 自信満々ながらも、ちょっと誇張しながらの言葉に、シルフィは首を傾げてしまった。

 デュラウスのパートナーを自称しているが、普通に旅の仲間だ。

 これと言って、怪しい関係でもない。

 変に誤解を招きそうな言い方に、デュラウスは頭を抱えた。

 そんな彼女を眼中に入れず、スノウは言葉を続ける。


「そ、そうよ!それと、貴女の事は聞いているわ、同じ里の出身だってね」

「え、私と同じ?……あ」


 出身が同じと聞いて立ち上がったシルフィは、スノウの髪を見る。

 確かに、マリーと同じように金色の髪を持っている。

 これはシルフィの故郷である、里のエルフにのみ見られる特徴だ。

 あの里は既に壊滅していたが、生き残りが一人居ると、アラクネから聞いていた。


「(そっか、アラクネさんが一人だけ生き残ったって言ってたけど、この子が……)」

「(デュラウスの奴、高身長な方がいいのかな?)」

「……よろしくね、何か困った事があったら、何時でも相談に乗るからね」

「ッ、そ、そう、ありがとう」


 シルフィを見上げてしまう程の身長差に悩みながらも、スノウは握手を交わす。

 これでも、二人は里の数少ない生き残り、仲たがいをする理由はない。

 スノウにとっては、シルフィは恋敵のような物だが、拒んでも仕方がないと受け入れた。

 そして、シルフィは一つだけ提案を思いつく。


「そうだ、折角だから、リリィとマリーちゃんにも紹介するよ」

「……マリー……ああ、ルシーラの事か、そいつは良いな」


 シルフィの提案には、デュラウスも首を縦に振った。

 デュラウスの知り合いであり、数少ない同郷の仲間。

 紹介しておいて損は無いと、思っていると、更に参加者が増える。


「なら、あたしらの事も紹介してもらえるか?」

「あ、七美さん、と……」

「どうも、久しぶり、それと、元気そうで何よりだよ、デュラウス」

「……ああ、おかげさまで」


 飛び入り参加してきたのは、七美とキレンの二人。

 ザラムは別のところで炊き出しを行っているので、今日は欠番だ。

 先ほど和解したとはいえ、詳しい挨拶はまだだったのだ。

 その事はさておき、七美はシルフィの事を撫で始める。


「ちょ、七美さん!?」

「見ないうちに、逞しくなったな、あたしは嬉しいぞ」

「……へへ」

「(……何?どういう関係なの?)」


 その姿に、キレンは目を細めた。

 二人の様子を見ていると、何故だか胸がざわつく。

 初めての不快な感覚に耐えかねたキレンは、二人を仲裁する。


「ほら、何か挨拶行くんでしょ?」

「ッ、そうだったな、ところで、あの二人は何処だ?」

「あ、えっと、あっちで二人でご飯食べてた筈だよ」

「……おいおい、良いのか?あの二人だけで放置して」

「大丈夫、最近仲良くなってきてるから……あ、ついでにこれ返して来ちゃうね」


 七美達をリリィらの元へ案内を始めるが、デュラウスはかなり心配そうだった。

 三年前の関係しか知らないデュラウスにとって、二人だけで放置するのは危険としか思えないのだ。

 とは言え、最近の二人の仲は上々。

 食器を返しながら説明したシルフィは、四人を案内して行く。


「ねぇ、ミアナ」

「何だ?」

「……アイツって、その、アンタの何なの?」

「何って……ああ、話して無かったな、あの子はあたしの姪だよ」

「ッ、エルフの、姪?」

「(なんだろう、この人、私と同じ感じがする)」


 案内を受ける道中、七美とシルフィの関係を知ったキレンは首を傾げた。

 何しろ、シルフィと七美の年齢差を考えると、姪と言うのは少し違和感を覚える。

 とはいう物の、ちょっと安心したキレンだった。

 因みに、そのキレンを見たスノウは、親近感のような物を覚えた。

 そうこうしているうちに、シルフィはリリィ達を見つける。


「あ、居た居た……あれ?マリーちゃん、寝ちゃってる?」

「……本当に仲良くなってんだな、リリィの奴が肩を貸すなんて」


 隣り合わせで座る、マリーとリリィの二人。

 しかし、マリーは先ほどの戦いの疲れが出たのか、リリィに持たれながら寝ている。

 その姿を見たデュラウスは、目を丸めた。

 嫉妬深いリリィが、こうも他人に気を許すというのは、とても考えられなかった。

 仲の良さそうな空気を出す二人の元に、シルフィは近づいていく。


「リリィ、七美さん達が来たy」

「スロー、スロー、クイッククイック、スロー」

「ん~、すろー、すろー」

「素敵だぁ、ご友人」


 中の良さそうな雰囲気だったが、間違いだったようだ。

 眠っているマリーに、リリィが謎の暗示をかけていた。

 その暗示のせいなのか、マリーの寝顔は酷く苦しそうである。

 見かねたシルフィは、瞬時にリリィの背後を取り、恐ろしく早い手刀を繰りだした。


「フン!」

「ッ」

「あ!」


 手刀はリリィのウナジ部分を捉え、一瞬でKOした。

 その一連の動作は、デュラウスでも見逃してしまう程だった。

 リリィの魔の手から、マリーを救うと、リリィの胸倉をつかみ、数秒待つ。

 すると、リリィが昏睡から目覚め、シルフィの姿を確認するなり、明後日の方を向く。


「あ、えっと、シルフィ、何の御用で?……」

「とぼけないで!今マリーちゃんに暗示かけてたでしょ!?しかも何か聞いたことあるし!!」

「ッ、ち、違いますよ、ただご友人の歌で子守をと」

「子守歌でマリーちゃんメッチャ苦しんでたけど!?」

「だ、だからって強制的にスリープモードにしなくても……」

「……とりあえず、お仕置きね」

「え?」


 シルフィの叩いたウナジの部分は、リリィ達の安全装置のような物が取り付けられている。

 特定の場所を一定の強さで叩くと、強制的にスリープしてしまうのだ。

 以前リリィが暴走した一件で、ジャックから教えられた秘密の装置である。

 リリィへの説教を続けていると、マリーが目を覚ます。


「……んあ……何か、嫌な夢を見た気が」

「あ、マリーちゃん起きたんだ、良かった、苦しい所とかない?」

「え?大丈夫、だよ?」

「イダダダダ!ちょ!今私痛覚有りますから!あんまり関節技とかは!」


 寝起きで飛び込んできたのは、シルフィがリリィに技を決めている所。

 痛覚も感じるようになったリリィも、関節技は激痛が伴う。

 何度もギブアップをしているのだが、シルフィは構わずに関節をきめる

 良く解らない状況を目撃しながら、マリーはデュラウス達の存在に気付く。


「……あ、えっと、どうも」

「よう、久しぶりだな、俺を覚えているか?」

「ッ、あ、あの時はごめんなさい!」

「ほう、結構しおらしくなったな、ま、三年も前の事だ、いちいち気にもしてられないか」

「(コイツが、ルシーラ、話には聞いていたけど……)」


 やって来たメンツの中で、まだ挨拶をしていなかったデュラウスは、マリーに噛みつく。

 彼女の事を思い出したマリーは、しっかりと頭を下げて謝った。

 その姿に、デュラウスは三年前の事を水に流す。

 だが、その横でスノウは、マリーの胸を死んだ目で凝視しながら固まってしまっていた。

 デュラウスへの謝罪が終わると、リリィへのお仕置きを終えたシルフィが戻って来る。


「どう?みんな仲直りできた?」

「え?あ、うん」

「それじゃ、次はルシーラさん、ちょっと紹介お願い」

「ッ……ああ、よかろう、丁度勇者の奴もおる事だしな」


 背後でボールみたいになっているリリィは放っておき、マリーはルシーラと入れ替わった。

 その様子に、デュラウス達は少し後ずさりをした。

 何しろ、マリーが突然頭を押さえたと思ったら、別人のように雰囲気が変わったのだ。

 驚かない方が無理と言うものだろう。

 と言うか、ルシーラに変わった途端、キレンは威嚇している犬のような表情を浮かべた。


「……」

「どうした?勇者の末裔よ」

「……どうやら、僕も勇者の端くれみたいでね、アンタ見てるとイライラする」

「そう言うでない、今は同士だ、過去の事は忘れ、仲良くやろう」

「……アンタ、魔王としての尊厳忘れたの?」

「とうに忘れたわ」

「忘れるな!」


 そんなやり取りだが、デュラウスや七美には、なんの事か伝わっていない。

 キレンが勇者の末裔という事は、二人は知っている。

 だが、ルシーラの事は、何も聞いていないのだ。

 と言うか、スノウにとっては、着いて行ける内容ではなかった。


「……おい、魔王って何のことだ?」

「フム、実は、余はマリーの魂に間借りをさせてもらっていてな、以前は魔王として存在していたのだ」

「うん、キレンさんのご先祖様に倒された後で、こうなったらしくて……」

「……すまん、整理するための時間くれ」

「あたしにもくれるか?」

「あ、うん、どうぞ」

「いや、それより私全っ然理解できてないんだけど!」


 やはり、いきなり言っても呑み込めなかったようで、デュラウス達は考えこんでしまう。

 七美達が考え終わるまで、シルフィはスノウに教えられるだけの事を教える事にした。

 そんな彼女達のすみで、復活したリリィはルシーらに話しかける。


「……それで?貴女は何を知っているのですか?」

「ん?」

「……キレンさんも来ましたし、そろそろ話しても良い頃合いだと思いますよ?」

「ふむ、そうじゃな、できれば、お主らの重鎮をもう少し集めたいな」

「……話す気有ります?」

「あるが、タイミングと言うのが掴めん……それと」


 ルシーラの言葉には、リリィはため息しか出なかった。

 話すと言っておきながら、ここまで引っ張られると、むしろ聞く気が無くなってしまう。

 ルシーラとしては、リリィやキレンを含め、えりすぐりの重鎮にまとめて話したい所だ。

 タイミングが悪いというのも有るが、もう一つ重要な事が有る。


「……それと、何ですか?」

「今回の尺が足りん、次回に持ち越しじゃな」

「最後の最後でメタい話持ち掛けないでください!」



お知らせです。

次回の更新ですが、金・土・日を予定しております。

今後とも、当作品をご愛読していただけると、幸いです。

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