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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
モミジガサ編
263/343

安息の終わり 前編

 レリアとリリィ達が話した日の翌日の夜。

 カルミアとレリアは、今日の分の仕事が片付き、身体を伸ばしていた。

 何時も通りの仕事終わりに、力を抜いたカルミアは、レリアと話を始める。


「……昨日、リリィと何を話した?」

「あら?ご友人と話しちゃいけないかしら?」

「別に、ただ、アイツが余計な事言っていないどうか、心配になっただけ」

「そうね……シルフィが、貴女の身体は以前の小さい方がいい、みたいな事言っていたわ」

「ッ」


 リリィが妙な事を言っていないか、それを聞きたいだけだった。

 しかし、シルフィの言ったという言葉に、カルミアは硬直する。

 別にそう言っていた訳でもないが、それらしい事は言っていた。

 戦闘艦ライラックの動力として使うべく、以前の義体は艦内に置いてきている。

 彼女の為に、そっちを使っても良いが、何となくショックだった。


「……し、シルフィ……あのロリコンの血が表に出てきやがったか」

「……落ち込む所なのね……でも、親子は嫌な部分ばかり似るわよね」

「ああ、ジャックは根っからのロリコンだ、一緒に生活していたアタシは、何度かアイツの被害に遭ってる」

「……何となく察するわ」


 カルミアにとって、ジャックのロリコン度合いはトラウマ物。

 ヤサグレ時代も今も、彼女のロリコン気質には頭を抱えてしまう。

 ジャックの一面をある程度知っているレリアも、彼女には同情してしまう。

 シルフィが同じ事をするとは思えないが、その血が表面に出ているのは嫌だった。


「……でも、あの人、ロリコンの部分が無ければ、結構いい人よね」

「……ああ、アタシも、その辺は認めてる、リリィの奴もシルフィも、アイツの事はひとつの目標のように思っているようだ」


 それでも、二人共ジャックを認めている。

 その証拠とも言えるように、リリィとシルフィの剣術は、ジャックの物をベースにしている。

 二人共、技術面だけであれば、まだ彼女に及ばない。


「……目標、ね……ロゼと真面にやり合う人を目標にするとなると、かなり遠いわね」

「そう言えばアタシ、アンタにジャックとシルフィが血縁って事、話したか?」

「いえ、昨日の話でちょっと出て来たわ」

「……そうか……ま、アタシも初めて知った時は驚いたよ……年齢の部分が不可思議だが」

「そうよね、娘が年上って……」

「……成程、余の違和感はそれか」

「え?」


 ジャックとシルフィの事を話す二人は、急に響いて来た声に辺りを見渡す。

 彼女達の記憶が正しければ、今の声はマリーの物。

 だが、執務室にはマリーの姿はない。

 空耳でないのは、カルミアの聴覚センサーが保証できる。


「……えっと、マリーさん?何処?」

「すまん、ここだ」

「ウヲ!」

「ッ」

「(ウヲとか言っちゃった)」


 突然机の影から現れたマリーに、レリアは思わず変な声を出してしまった。

 いきなり出て来たマリーに、カルミアは目を細める。

 今のマリーは、三年前に対峙した時に酷似している。

 かつて一撃で沈められただけに、彼女の今の表情は忘れようがない。


「……そうか、アンタがルシーラか……リリィからのカルテを見た」

「え?ルシーラ?」

「そうだ、三年前の非礼を詫びよう、カルミア殿」

「……いや、いい、ところで、急に何のようだ?」

「……お前たちの言う、敵とやらを、もっと知りたくなった……迷惑でなければ、教えて欲しい」

「……」


 急に現れたルシーラの言葉に、カルミアは眉をひそめる。

 敵に関するデータは、既にリリィに送ってある。

 わざわざここに来なくても、彼女に聞けばいい。

 一緒に住んでいるのだから、それ位思いつくだろう。


「……リリィに聞かないのか?」

「……フ」


 カルミアの問いただしに、ルシーラは遠くを見つめた。

 何故彼女がカルミアの元へ来たのか、その訳を話す。


「実は昨日、二人がお楽しんでいる時に今のようにして出てしまってな……おかげで、今日一日気まずくてな……」

「(うわ)」

「(大惨事じゃねぇか)」

「マリーの奴も、すっかりイジケてしまって、一日ふさぎ込んでしまっておる」


 この報告には、レリアとカルミアもひいてしまう。

 昨日の夜の事、野暮用を済ませたルシーラは、先ほどの方法を使って帰宅した。

 深夜を回っていたので、二人共眠っている前提だった。

 そのおかげで、うっかり二人が愛し合っている現場に立ち会ってしまった。

 しかも相当いい所だったので、その夜は三人の悲鳴が木霊していた。

 おかげで、今日は三人とも目を合わせる事もままならずにいた。

 そんな状態で質問できる訳もなく、こうして訪れたのだ。


「……わ、解った、教えてやる……それで、敵の何を知りたい?」

「……お前たちのいう【でーた】とやらで見た、ヴァルキリー隊と言う者達について、そして、お主たちの言っていたジャックだ」

「スレイヤーは敵じゃねぇ……てか、お前どうやってデータを見た?」

「……お主らの機械が、脳と接続できる仕組みのおかげで、ある程度見れたのだ」

「チ、無駄にIQの高い奴だ……どこで見たかは置いておくが」

「(ルシーラ……)」


 ルシーラの言葉に、カルミアはセキュリティ面の見直しを検討してしまう。

 彼女の言う通り、一部の機械は脳波で接続できる。

 だが、一朝一夕でできる事ではない。

 いくら相性のいいエルフでも、彼女のようには行かない。

 とはいえ、今の彼女は頼りになる味方。

 この際なので、詳しく教えておく事にした。


「先ず、ヴァルキリー隊だ、こいつ等は、いわゆる強化人間部隊だ」

「……強化人間……体の筋肉と骨格組織を金属化させる技術で合っているか」

「……そこまで知ってんのかよ、まぁ、他にも技術は有るが……これ知ってんなら聞く必要ないだろ」

「余が知っているのはここまでだ、訓練のおりに聞いた程度だからな」

「そうか……で、お前が知りたいのはなんだ?」

「強化の方法、あるいは施術と言った所か?それが知りたい」


 敵の情報に関しては、訓練の際に、兵士達へ通達されている。

 なので、ある程度の事は、ルシーラやシルフィにも教えられている。

 そんなルシーラが聞きたかったのは、その作り方だ。

 身体の組織が金属のようになっている部分に、ルシーラは興味をもったのだ。

 しかし、その質問にカルミアは頭を抱える。


「……詳しい施術は解らん、だが、ナノテクノロジーが使われているのは間違いない」

「ナノテクノロジー……お主たちの鎧のように、うごめく金属か」

「……よく見てんな……まぁそうだ、細胞レベルで小さい金属と同化させ、身体機能の強化と、反射神経と情報把握能力を上げている」

「どういう原理だ?」

「その金属一つ一つが、小さな思考回路にもなっている、だから、脳の処理能力を向上させてんだ……アダマント製だから、エーテル……魔力による強化も容易になる」


 カルミアからの講義を聞きながら、ルシーラは何度か頷く。

 まるで、今まで散らばっていたパズルが、どんどん形を成していくよう。

 彼女の記憶にあった疑問は、徐々に解消されていく。


「……そうか……(となると、余とあの者の鎧も……では、肉体の方は……)」

「……どうした?」

「……ジャックとやらは、如何なる方法で生まれた?」

「はぐらかすなよ……ジャックね……アイツには妹も居るのは知っているだろう?」

「……あの時の者か」

「だが、アタシらもアイツらの事については解らない……それどころか、ジャックも七美も、自分の出生については解らないらしい」

「……そうか」


 七美の姿も思い出しながら、ルシーラはカルミアの回答にうつむく。

 両者共に出生不明なうえに、特異体質を持っている。

 そんな二人の事を思い出すルシーラは、親近感を覚えていた。


「(アヤツらも、出生の解らない者か……余と同じ存在であれば、話を聞きたかったが)」

「ちょっと良いかしら?」


 少しショックを受けながら、ルシーラは部屋から立ち去ろうとする。

 だが、彼女が出て行く行動を起こす前に、レリアは呼び止めた。


「何だ?」

「……ルシーラ、もしかして、三百年前に暴れた、魔王ルシーファから取ってる?」

「……そうか、お主には、話していなかったな」

「え?」

「コイツ、話が本当なら、本物の魔王らしい……三百年前に暴れたって言うな」

「え」

「暴れた、と言うのは少しあれであるがな」

「えええええ!!?」


 ルシーラの正体を聞いたレリアは、おののきながら椅子から転げ落ちた。

 冗談を言っているようには見えないので、信じるしかない。

 痛めた腰をさすりながら、レリアは座り直す。


「……え、えっと、本当に?」

「本当だ……イリスの子孫よ」

「……私のご先祖様も知っているのね」

「ああ、余の宝物庫より、お主の側近の鎧を盗んで行った者だ、忘れたくとも、忘れられん」

「ッ、あれ、ダンジョンの中で見つけたと聞いたのだけど……貴女から奪った物だったのね」

「ああ、クイーンオブザナイト、またの名を狂姫の甲冑、危険すぎる故、封じておいたのだがな」

「……」


 鎧の名を口にした事で、レリアは黙ってしまう。

 彼女を先祖の姿と重ねていたルシーラは、その理由を察する。

 ロゼの着るドレスのような甲冑は、非常に危険な物だ。

 通常時であれば、多少の身体強化と痛覚遮断の効果が有る。

 だが、力を開放すれば、理性を無くした狂戦士へと変貌させてしまう。

 そうなれば、骨が砕けようが、筋肉が千切れようが、魔力が尽きるまで戦ってしまう。


「……そんな危険な物を、私はあの子に」

「……しかし、まだ一度か二度で何よりだ、三度目の使用で、使用者はほとんど動けなくなる……だが、安心するといい、此度の戦い、あの者に鎧の力を使わせんよう心がける」


 ロゼに鎧を渡した事を後悔するレリアに、僅かながらのなぐさめを入れた。

 鎧の力を使った場合、打撲痕のような紫色の痣が出現する。

 露出の少ない鎧なので、ロゼの身体がどうなっているか、良く解らない。

 それでも、首筋等には、痛々しい痣が見え隠れしていたのを、ルシーラは見逃していなかった。


「……お気遣い、感謝するわ……でも、あの子はもう三度使ってる……その時の毒は、ルドベキアが消してくれたおかげで、今あの子は生きているのだけど」

「そうか……まて、今何といった?」

「え?」


 慰めの言葉に頭を下げたレリアの言葉に、ルシーラは反応した。

 その食い掛りようは、先ほどのカルミアの質問の時より凄い。

 レリアの使う机に手を置きながら、身を乗り出す程だ。


「え……と、ルドベキアが、その、毒を消した?」

「……あり得ない」

「そ、そうよね、私も、あの毒を消せないか、色々な魔法使いや聖職者を当たったけど、あの人以外、治す事はできなかったわ」

「そうでは無い……」


 頭に手を置くルシーラは、思いがけない情報に目を丸めていた。

 ロゼの鎧の副作用は、とてつもない曲者。

 この事を知ったレリアは、珍しく権力に物を言わせ、治療法を探っていた。

 どんな毒消しの薬も魔法も、何も効果が無かった。

 だが、会合に行ったシルフィの里を納めるルドベキアは、その症状を治療してみせたのだ。

 その事を話そうとしたレリアの言葉を、ルシーラは遮る。

 ただ事ではないという事が、ひしひしと伝わって来る。


「……あの鎧の呪いを解除する方法を知る者は、余の他には、作った本人のみの筈だ、それなのに、何故あの者が知っている?」

「何故も何も、作ったのはその人なのだけど……」

「……」


 レリアの発言に、ルシーラは幽霊でも見たような表情になる。

 それと同時に、彼女の内側から怒りが沸き上がる。

 拳を強く握りしめるルシーラの抱いていた疑問は、確信へと変わりつつあった。

 一度深呼吸し、怒りを抑え込むルシーラは、冷や汗を垂らしながら、カルミアの机に両手をつく。


「ッ、な、なんだ?」

「……カルミア……キレンと言う奴が来る確証は、有るか?」

「え、ああ、アイツなら、七美からの連絡で、一緒に向かってるって話だ」

「……そうか、では、二つ程忠告しておく」

「二つもか?」

「ああ、一つ、この戦いも状況も、全て仕組まれた物だ、二つ、奴は必ず、勇者と魔王の存在を望む」

「……どういうことだ?」

「全て余の想像であるが……キレンが来たら、話すとしよう、では、夜分遅くに失礼した」


 ルシーラの言った事に首を傾げるカルミアの前で、ルシーラは下へと下がって行く。

 と言うよりも、影へと潜り込んでいる。

 その姿を見て、レリアは止めに入る。


「度々ごめんなさい、ちょっといい?」

「ッ、何だ?」

「……それ、影移動よね?普通、肉眼で捉えられる影までしか、移動できない筈なのだけど……」

「何だ、そんな事か……それはあくまでも、素人共の話だ、余のように極めれば、一度認識した影に、何時でも出られるのだよ」

「……そ、そう、ありがとう」


 レリアのお礼に対し、会釈したルシーラは、影移動でワープする。

 本来であれば、肉眼で見る事の出来る影へ移動する魔法。

 ルシーラの言葉が本当であれば、このまま自宅に戻ったのだろう。

 彼女の魔法の異常さに、レリアは確信した物があった。


「……魔王って言うのは、本当のようね、ほとんどズルじゃない」

「魔王ってそう言うもんだろ?」

「そうだけど……あれと真面にやり合ったリリィ、どんだけ強くなったのよ」

「そうだな……ま、こっちとしては嬉しい限りだ」


 まだルシーラの正体に、半信半疑だったレリアだったが、これではっきりした。

 伝承によれば、魔王ルシーファは全ての魔法を極めたという。

 彼女のように、常識はずれな魔法の使い方ができるのであれば、魔王と呼ばれても不思議ではない。


「でも、なんであんな人が世界征服何て……」

「ま、それ言ったら、魔王ともあろう者が、内面子供のエルフと同居ってのもね」

「そこも気に成るわよね」


 ――――――


 影と影の間にある異空間を進むルシーラは、帰宅しながら頭を抱えていた。

 個人的な疑問は解消できたが、まだ別の一件が戻っている。


「(……ええい、いい加減に機嫌を治さぬか!心の中とは言え、何時までもどんよりされていると、気分が悪いわ!)」

「(……だって、お姉ちゃんあんな奴とイチャイチャして……)」

「(お主も頼めばよかろう!アヤツでも、頼めばハグ位してくれる筈だ!)」


 マリーの方が、未だにご機嫌ナナメなのである。

 多重人格となったせいか、精神面の成長が不十分な部分が有る。

 シルフィの何個か下と言う年齢でも、まだ精神面は小学生程度。

 そんな彼女が、最愛の姉を別人に取られればどうなるか、想像に容易い。

 嫉妬ですぐにふさぎ込んでしまうのだ。


「(……家についたら、お主と替わる、シルフィとじっくり話し合うといい)」

「(……ルシーラ、最近厳しい)」

「(お主を思っての事だ、シルフィの内面に触れ、気が変わった……余は、少々人の心と言うのが解っておらんかった)」

「(あっそ)」


 言い合いじみたやり取りをした後、ルシーラは自宅に到着する。

 彼女達が出た影は、リビングのソファの影。

 以前のようにベッドルームに出たら、また気まずく成ってしまうかもしれない。

 多少警戒しながら、ルシーラは影から出て来る


「……おっと、今日はお楽しんでおらんかったか」

「あ、マリーちゃん、ルシーラさん、お帰り」

「……夜遊びとは、感心しませんね」


 リビングのソファに座る、シルフィとリリィの二人。

 シルフィは割と普通の寝間着だが、リリィは下着を付けずに、タンクトップと短パン。

 二人の髪が微妙に湿っている辺り、湯上りなのだろう。

 彼女達を確認するなり、ルシーラはシルフィに話しかける。


「シルフィ、これより、マリーと替わる、今朝より悪い機嫌を、治してやってくれ」

「ッ、はは、やっぱり機嫌悪かったんだ」

「ああ……ッ」


 頭を押さえたルシーラは、目つきが若干緩やかになる。

 二人が変わっているかどうかの違いは、目つきで判別できる。

 こうして暮らしているおかげで、二人はその違いを判断できるようになっていた。


「……お姉ちゃん」

「……マリーちゃん、どうすれば、機嫌治してくれる?」

「……」


 顔を赤くするマリーは、口をすぼめながら要求を考える。

 昨日の夜、全裸で密着していた二人。

 彼女達を許すには、どうすれば良いのか。

 色々と思う所は有るが、これ以上変に嫉妬しては、シルフィにも迷惑だ。


「お姉ちゃんの、手作りプリン」

「……はいはい、この時間に食べるのは、本当は良くないけど、折角作ったし」

「え?」


 ソファから立ち上がったシルフィは、キッチンの冷蔵庫へと歩いていく。

 その後ろ姿を見るマリーは、キョトンとしてしまう。

 何故既にプリンが有るのか、その理由を知るリリィは、ソファにふんぞり返りながら説明する。


「貴女の機嫌を治したいと、先程しこんでいたんですよ」

「な、何で?」

「……あの島で過ごしてる時、貴女が一番喜んでくれたのが、プリンだったと言っていたので、きっと、貴女が要求すると思っていたのでしょうね」

「……」

「はい、どうぞ」


 シルフィは、お皿に盛りつけた手作りプリンを、マリーに手渡す。

 ジャック達と生活している時に、色々と教えて貰ったのだ。

 プルプルと不規則に揺らめくプリンを、ルシーラは黙って眺める。


「……ねぇ、三人で食べよ」

「え……いいの?」

「……珍しい、明日は銃弾の雨ですかね?」

「……そんな事言うなら、貴女には上げないよ」

「ッ……悪かったですよ」


 マリーの提案を飲んだシルフィとリリィは、一つのプリンを三人で分け合う。

 仲良くプリンを分け合うその姿を、ルシーラはマリーの中で見つめる。

 魂に間借りしているだけに、マリーの感情がよく伝わって来る。

 ホカホカと温かく、楽しいという感情。

 彼女の求めていた物を感じながら、過去を思い出す。


「(……目覚めた時、両親などと言う者は無かった、それこそ、家族がいたかさえも解らない、そんな余の中に有ったのは、人類を滅ぼす事だった……まるで、蜘蛛が本能的に糸で巣を張るように、余はそれを本能で行った)」


 物心がついた時の回想の後、マリーとの出会いを思い出す。

 汚され続けた事で、砕けてしまったマリーの心と魂。

 勇者に敗れた後、気づけばこうして彼女の心と魂を補強する存在になった。


「(親にでもなったつもりだったのだろうな、余は……いや、内心寂しかったのだろう……だから、つい彼女を甘やかしてしまった……)」


 不本意ながらも、数百年間マリーと一緒にいた。

 そのせいなのか、マリーに対して様々な感情を抱いた。

 そして、今こうして、家族と一緒に楽しそうに夜食をするマリーが、とても微笑ましく思える。


「(だが、かつての余と違う、今は、この笑顔を守れれば、それでよい)」




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