風邪ひいた時、変な夢見がち 後編
ちょっと長いです
モンド邸でのパーティは、かなり小規模ではあったものの、冒険者たちが普段飲めないような、高級な酒を提供され、滅多に食べられないような食材を用いた料理の数々でもてなされた。
そんな中で、どうしてもアラクネとラズカの関係に落ちつかなかったシルフィは、すぐに酔い、絡み酒を発揮、終盤辺りにはへべれけに成って、アリサが背負って帰る羽目になった。
明日より山の蜘蛛達との共存政策に関する会議の為に、アラクネはモンド邸に泊り、冒険者たちは各自現地解散した。
――その翌日、シルフィはアリサと共に、装備の捜索へと出かけようと、街中を歩いていると、シルフィはあることに気が付く。
「ねぇ、アリサ」
「何でしょう」
「なんか、今日、多くない?女の人」
「そうですね」
見渡す限り、女性の姿しか見られないのだ、しかもほとんど例外なく、カップルのような振る舞いや、そういった会話をしている。
男性の姿なんて、露店を開いている商人か、クエストで町を出ようとしている冒険者位しか、見受ける事ができなかった。
ただでさえ、アラクネとラズカのカップリングで、悶々としているシルフィの目に、そう言う関係としか思えない女性たちの姿を見せられる現状。
まるで、初めてアダルトコーナーに侵入した中学生みたいな心境に成ってしまっている。
「何で、何でこんなに女の人のカップルが増えてるの?」
「おそらく、昨日にモンドさんが同性同士の付き合いを許可したからでしょうか?」
「いや、昨日今日でこんなに浸透するものなの?」
「おそらく、陰ながら付き合っている方々でも居たのでしょう、昨日もこんな感じでしたし」
昨日、現町長であるモンドの口から、同性同士の付き合いが公認され、今まで隠れて付き合っていた女性同士のカップルは、まるで革命でも成功したように、歓声を上げた。
その結果、視界には必ず一カップルは目に入る位、多くの女性たちが、白昼堂々デートをするようになったのだ。
しかもどういう訳か、いま宿泊している宿屋に加え、周りの飲食店や道具屋に至るまで、カップル歓迎(特に百合カップル)と言う文字が見受けられる。
大体の店は、百合カップルであれば九十パーセントオフなんて、バカみたいな商売をしている店も有る。
どんな思考を持っていたら、このような商売を使用なんて考える商人が居るのか、シルフィには理解できなかった。
「……私、あのおっさんの意見に賛成かも」
「おや、男女差別ですか?」
「そうじゃなくて、これ明らかに出生率に響くでしょ、この町今の世代で終わるよ?」
「そうかもしれませんね~」
「何でアリサはそんな受け入れてるの?」
「私は何かと割り切れるので」
「どうも、お嬢さん方、休憩していかない?」
目的地に向かう道中、一人の中年が看板を掲げながら話しかけてくる。
其処には、百合カップル無料という字が書かれており、中年男性に至っては、まるで初めてアダルトな物を目にした中学生のように、息を荒くしている。
「アンタ、マジで破産するよ」
「何を言う、君達百合カップルは、我々男性陣にとって生きる糧!それ以外何も要らん!」
「頭わいてんの!?第一私達そういう関係じゃないから!」
「いやいや、お似合いだと思いますよ、どうです?私の店で、愛を深め合っては」
「良いご提案ですが、私がこのようなまな板娘を愛でる姿なんて、誰も興味出ないと思いますよ」
「てめぇは殺されたいのか!?」
ツッコミでアッパーカットを繰り出すと、アリサは空中へと飛び上がり、地面に倒れ伏す。
倒れこんだアリサを連れて、さっさと山へと向かう途中で、いかがわしい店の勧誘に引っ掛かったりしながらも、ガン無視を決めて、山へと急いだ。
――――――
山に到着したアリサたちは、先日確認した落下予測ポイントへと足を運んだ。
今回も、アラクネはモンドの元で話し合いを行ってはいるが、昼頃にはアラクネとラズカだけであれば、手伝いに来れるとのことだった。
とはいっても、もう昨日の段階で、ポイントは完全に発覚しているので、其処へ向かうだけ、手伝いはいらないだろう。
装備の落ちているというポイントまで移動する途中で、シルフィは、チラチラとアリサの姿を確認していた。
「(落ち着かない)」
先日と同様の夢を、今朝も見てしまい、実は町を歩いている時も、アリサを引きずっている時も、その時の事を思い返してしまっていた。
もしかしたら、自分もそんな趣味があるのではないか?という疑問が浮かぶが、その度に、そんなことは無いと、自分に言い聞かせる。
「私はノーマル、私はノーマル」
気を落ち着かせると、ここに住む蜘蛛のうめき声が、二人の耳に入る。
木々が邪魔で少し見えづらいが、崖の付近にて、一体の蜘蛛が二人に向けて前足を振っていた。
蜘蛛の元へ向かうと、近くにある崖を除くように促され、言う通りにして崖をのぞき込む。
除くだけで恐怖を覚えてしまう谷底は、視界が悪く、アリサは視覚カメラのズーム機能を用いて、谷を除き、シルフィは、何故か鋭くなった視覚を用いて、底をのぞき込む。
「あ、あれです」
「あれが、アリサの装備(本当に箱だ)」
蜘蛛達の手伝いで、谷底からアリサの装備を引き上げる事に成功する。
見つけた蜘蛛は、グランやナイトとは異なる種類であり、ヴェノム・スパイダーと呼ばれる、中型の毒蜘蛛で、他の二種よりも少し小さい種だ。
アリサは見つけてくれたヴェノムに、感謝の言葉を述べ、装備品を受け取った。
「ありがとうございます、お礼はいずれ」
「ギギギ」
「……」
「ギ、ギギ」
「あ、あはは(なんて言ってるか解らん)」
流石のアリサも、愛想笑いをするしかなく、せめてアラクネと言う通訳が居ればと、思っていたら、アラクネとラズカが到着する。
出遅れてしまった事に、二人は頭を下げるが、見つかったのだから、アリサは別に攻めはしなかった。
因みに、ヴェノムが何を言ったのか、アラクネに聞いてみたところ。
『別に、私はマスターからの指令を守っただけです、私のような一介の魔物には、お礼なんて必要ありません、それより、一路平安で頑張ってください』
とのことだった。
「いや、長すぎますよね、たった六文字でそんな長文言ったんですか?滅多に聞かない四字熟語使ってるし」
「まぁ、一吠えで腹黒い事言う巨大犬よりはマシでしょう」
そんな事よりも、アリサは昼食をすっぽかして、装備の点検に入った。
長らく自然の中で放っておいたのだから、どこか異常が出ていてもおかしくはないのだ。
そんなアリサの姿を眺めながら、シルフィ達はアラクネの持ってきたサンドイッチを頬張っていた。
「……あんなに調べるなんて、そんなに大事なのに、何で失くしちゃったんだろう?」
「そうね、確かに不思議だわ」
「まぁ、誰にでもそういうミスはあるでしょ」
「そうだけど、あの子があんなに大事な物を紛失するなんて、考えられないわ」
「あんた、随分あの子の事解ってる感じだよね」
アラクネからすれば、アリサクラスのアンドロイドに支給される装備ともなると、核の発射コード並みに大事な物の筈。
なのに、山に紛失してしまうなんて、先ずあり得ない話だ。
三人が無くした理由を考えていると、点検を終えたアリサは、三人の元に戻ってくる。
異常は特になく、コンデンサやバッテリが空になっていた程度の事であった。
「ところで、貴女たちは、これから如何するの?」
「これを使って、軍に連絡し、合流いたします」
「え?それただの連絡する道具なの?」
「いえ、他にもいろいろとできます、空飛んだり、重砲撃を行ったり」
アリサの荒唐無稽な言葉に、シルフィもラズカも疑いの目を叩きつけるが、アラクネだけは、どんなものなのか、大体の見当がつき、驚きの表情を浮かべる。
アリサの身の丈程有る箱で、空を飛んだり、砲撃を行えるなんて、異世界人である二人には、理解しかねる事だ。
シルフィも、アリサの世界の物を見慣れているとはいえ、流石にそんなことは無理だろうと、信じては居なかった。
そんな二人の疑いを晴らすことと、今回の騒動お礼をするべく、アリサは証拠を見せるべく、装備を起動させる。
重量感のある音を響かせて、地面に置かれた薄い灰色の箱は、蒼く発光すると、アリサはその前に立つ。
発光しながら展開した箱は、アリサを包み込み、彼女の全身を覆いだす。
アリサの体を覆いつくした箱は、鎧やライフル類へと姿を変えた。
「こんな感じです」
「「……」」
ただの何の変哲もない箱が、アリサの体にまとわりついたと思えば、今度は箱が鎧へと姿を変える。
そんな夢物語はおろか、おとぎ話でも聞いたことの無いような現象を目の当たりにして、シルフィとラズカは口を開けたまま固まってしまった。
そんな中でアラクネは、二十年程度で今の技術まで進歩していたことに、驚きを隠せずにいた。
「エーテル・ギアに、ナノテクノロジー、噂には聞いていたけど、まさかそんなに技術が進歩していたなんて、恐れ入ったわ」
「ええ、本来であれば、こうして見せるのは、特別ですよ」
生物の専攻とはいえ、アラクネ自身科学者。
ここまでのテクノロジーを見せつけられては、興味を抱かない訳にはいかず、アリサの周囲をグルグルと周り出す。
近くに寄って観察したり、指先で装甲をコンコン突いたりして、アリサの纏う鎧を観察する。
「装甲材は、やっぱりアダマント合金?」
「厳密には、ネオ・アダマント合金です、従来の物より、生産性や実用性を徹底的に伸ばした代物です、ナノテクとも相性がいいのも、大きな特徴ですね」
「成程……〈それに、アダマントは、エーテルの影響も受けやすい、硬質させたり、属性を纏わせたり、汎用性も非常に高い代物よね、〉」
「〈比重の軽い金属と複合させれば、装甲材にも使えますし、重い物であれば、刃物や徹甲弾の弾芯素材にも使えます〉」
「〈それに、装甲その物にエーテルを浸透させれば、コンデンサ代わりになるから、専用のバッテリやコンデンサをつけなくても良いから、更に軽量化できるわね、物質的にも強度も高いし、ナノテクでサイズは自由、ユニバーサル化も簡単ね〉」
「〈ええ、それと、母語に戻ってますよ〉」
「〈あら〉……ごめんなさい、興奮しちゃって」
「それより置いてきぼりの私達にも何か説明して」
完全に二人の世界に入ってしまい、おいて行かれてしまっているシルフィ達は、説明を求め出す。
アリサたちの世界の言語は、一切解らないラズカからすれば、アラクネが母語を使いだした瞬間から、完全に置いていかれた状態である。
というか、アリサと楽しそうに話している所を見て、少し嫉妬もしていた。
一先ず、シルフィ達には、アリサの鎧に使っている合金は、軽くて頑丈な凄い金属と、フワフワとしていて、分かりやすい説明で納得させた。
説明をし終わると、ラズカはアラクネの元により、ちょっと機嫌が悪そうに耳打ちをする。
「ねぇ、アラクネ」
「何かしら?」
「今度、私にもあんた等の言葉教えて」
「わ、分かったわ」
そんな二人の姿を横目に、アリサは鎧をぬぎ、何時ものスーツ姿になると、とある重大な事に気が付き、シルフィに相談を持ち掛ける。
「マズイです、シルフィ」
「え?何が?」
「尺がもう有りません」
「え」
「なので、気の利いたオチをお願いします!」
「は!?何で私!?」
いきなり吹っ掛けられた無茶ぶりに、シルフィは戸惑ってしまう。
「良いですから、早く!」
「いや、いきなりそんな事言われても、何でシメればいいの!?」
アリサの無茶ぶりに応えようにも、いきなりの事で何も思い浮かばず、頭を抱えている所に、アラクネが話かけてくる。
曰く、部下の蜘蛛がまた何か見つけたらしく、アリサに見せたいとのことだ。
また別の個体の蜘蛛が、テクテクと、歩いてくると、見つけた物を、アリサたちに差し出す。
「え?」
「これって」
「ああ、そう言うオチですか」
漫画等でよくある、黒い鉄球のような見た目に、ロープのような導火線の付いた、一目で爆弾と分かる代物。
しかも、人一人分の大きさで、既に火が付き、爆発数秒前という状態だ。
「よりによってこんな最低なオチィィ!!」
シルフィの絶叫ともとれるツッコミと共に、爆弾も炸裂、爆風はその場に居る全員を巻き込んだ。
「ねぇアリサ、何で今回こんなに雑なの?」←爆発でアフロに成ったシルフィ
「まぁ、特に何の伏線も無い捜索回なんてグダグダやられても、話は一向に進みませんし、仕方ないでしょう、ただでさえ更新遅いのに」←同じくアフロに成ったアリサ




