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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
モミジガサ編
255/343

暖かい日々 中編

 リリィの嫉妬で、戦場だった島が消滅した後。

 シルフィ達に事の顛末を教え、三人は方針の話し合いを始めた。

 マリーには、これからはストレンジャーズとして、一緒に戦う事に決まる。

 必然的に、マリー達の島は手放す事に成ってしまう。

 苦労して作った島を捨てるのは、気が引けていたマリーだったが、渋々了承してくれた。

 シルフィ達が生活していた島は、ゴーレムたちに現状維持を頼んでおいた。

 準備が整ってすぐに、三人は島からそれなりに離れた海域へと移動を開始。


「……この辺り?」

「ええ……経緯度はこれでっと……あ、ここですね」

「……なんも無いけど?」


 エーラから渡されたデータを元に、リリィは海上で静止する。

 この近辺に基地でもあるのかと、シルフィは見渡す。

 だが、周辺は海しかなく、辺りには海面が広がっている

 ここからが問題なので、マリーの方を向く。


「これから潜りますが、水中での行動はできますか?」

「できるよ」

「良かった、シルフィにはヘルメットを被ってもらいます、腕は修復されていますので、安心してください」

「解った」


 リリィからの頼みで、シルフィはヘルメットを着用。

 マリーも水中行動が可能になる魔法を、自身にかける。

 二人とも準備が出来た事を確認し、リリィは水中へともぐる。


「では、行きましょう!」


 リリィに続いて、マリーとシルフィも潜行する。

 海へ潜った三人の視界に映り込むのは、異世界の綺麗な海中の景色。

 廃棄物等による穢れの無い、なんとも美麗な風景だ。

 なんだかんだ海に潜るのは初めてのシルフィは、思わず見とれてしまう。


「(凄い……そう言えば、海の中見るのって、初めてだっけ)」

「(あの鎧、水中でも活動できるんだ)」


 シルフィの着込むストレリチアは、宇宙でも活動できる程の気密性を持つ。

 そのうえ、防水機能も完備しており、エーテルを酸素に変換する機能もある。

 戦闘を想定していない分、戦闘力は下がるが、ある程度の水中活動はできる。

 その性能にマリーが驚いていると、どんどん深海へと潜って行く。


「暗く成って来た」

「そろそろエーテル・ギア無しでは、生存が難しいです、くれぐれも気を付けてくださいね」

「はーい」


 そろそろ太陽の光も届かなくなり、周囲の景色は暗くなる。

 ここまで来ると、水圧も水温も厳しくなり、海上まで息が続かない。

 リリィは大丈夫だが、シルフィやマリーにとっては最悪な環境だ。

 無線でその事を伝えたリリィだったが、二人共これと言って弊害も無く深海を進んでいる。


「……あの、シルフィ、見えているんですか?」

「え?うん……なんかね、見える様になったっぽい」

「暗視魔法で見てる」

「そ、そうですか(シルフィ、まさか、また進化したのか?)」


 マリーとの騒動で、カルミアお手製のメガネは損傷。

 その後でも、シルフィの目は問題なく機能していた。

 以前は、能力を制御しきれずに、視力が無いも同然になっていたが、それも克服したようだ。

 そんな事を考えていると、三人は金属製の何かに足をつく。


「ッ、魔物?違う……」

「り、リリィ、これって?」

「戦闘母艦ライラック、この世界に潜伏している、二隻の戦闘艦の内の一つです……今、中に入れてもらうように交信します」

「え、あ、うん(以前、ジャックに宇宙船に乗せてもらったけど、これはその時以上じゃん)」


 リリィが交信を開始する姿を見ながら、シルフィは四年前を思い出す。

 ジャック達がこの世界に来た際に使用した宇宙船、それもかなり大きかった。

 だが、この海に沈んでいるのは、倍以上に大きい。

 その事に驚いていると、マリーが話しかけて来る。


「お姉ちゃん」

「ん、どうしたの?」

「……こいつ等、一体何者なの?前から思ってたけど」


 マリーの質問に、シルフィは首を傾げる。

 考えてもみれば、マリーにはリリィ達の事を話していない。

 と言うか、話すと何時も機嫌を悪くしてしまうので、詳しくは話さないようにしていた。

 現状の説明は受けたが、彼女達の正体までは聞かされていない。

 今すぐに一言で話すとすれば、一つしか無かった。


「……うーん、異世界人、って言えばわかる?」

「ッ……ほう、異世界人とな」

「ッ、えっと……ルシーラさん?」

「いかにも……ふむ」


 リリィ達の事を一言で話すと、今度はルシーラの方が出て来た。

 外観ではかなり解り辛いが、雰囲気と口調で何とか見分けを付ける。

 異世界人と言う言葉に反応したルシーラは、考える素振りを見せる。


「……えっと、ルシーラさん?」

「シルフィよ、恐らくだが、余たちのめぐり逢いは、偶然でhブヘ!」

「ルシーラさん!?何で自分にストレート決めてんの!?」


 話している途中で、突然ルシーラが自分の右ホホに拳を入れた。

 結構ホホにめり込んだせいで、殴った部分が赤く染まってしまう。

 そこを抑えながら座り込むルシーラは、独り言……厳密には二人言を始めだす。


「ッ……何をするマリー!?」

『今私がお姉ちゃんと話してたの!邪魔しないで!』

「これからは大人の話だ!子供はすっこんどれ!」

『邪魔しないでって言ってるの!そう言うの後で良いじゃん!』


 ルシーラに話を遮られたのがシャクに障ったのか、マリーは自分の顔をひたすらに殴る。

 当然、ルシーラも殴り返し始め、一人で喧嘩を始めてしまう。

 今までこんな事無かっただけに、シルフィも口を引きつらせてしまう。

 こんな所でヒートアップして、船が傷つけられでもしたら大事なので、シルフィは止めに入る。


「もう!一人で、じゃなくて、二人で?ああもう、ややこしい……とにかく、喧嘩はやめなさい!」

「あの、着艦許可が下りたので、そろそろ……」

「あ、ちょっと待ってて!この二人、と言うか一人止めるから!」


 とりあえず、喧嘩する二人をなだめ、ライラックへと乗艦する。


 ――――――


 着艦の直後で、更に問題が発生してしまう。

 三人が艦内に入り、スタッフが装備を与かろうとした時だ。

 一人の男性スタッフが、マリーの槍を与かろうと、うっかり指同士がぶつかってしまった。


「ッ!」

「あ、もうしわけn」

「ウワアアア!!」

「ギャアア!!?」

「ああああ!!」

「ッ!?」


 まるで幽霊でも見たような表情を浮かべながら、マリーはスタッフを投げ飛ばした。

 いきなりの事であったが、グレードアップしたリリィの性能のおかげで、大事には至らなかった。

 説教の一つでも加えようと、リリィは鬼の形相でマリーを睨む。


「コラ!マリー!これは一体、どういう、りょうけん……?」

「う、ウグ、グス」


 スタッフの安全を確認したリリィは、マリーを睨んだが、すぐに怒りが収まってしまう。

 何しろ、犯人のマリーは、シルフィのお腹に顔をうずめて泣きじゃくっているのだ。

 この反応には、シルフィも困惑してしまい、目を丸めながらマリーの頭をなでている。

 数秒程泣いているマリーを慰めていると、ハッとしたように口を開ける。


「ご、ゴメンなさい!マリーちゃん、昔の事が原因で、男の人に触れられると脊髄反射で投げ飛ばしちゃうんだった!!」

「それを先に言ってくださいよ!!」

「ゴメン、すっかり忘れてた……よしよし、怖かったね……でも、ちゃんとあの人に謝ってね」

「うん……ごめんなさい」

「あ、いや、俺も怪我は無かったし……とりあえず、女性スタッフに声かけておく」


 シルフィから離れたマリーは、投げ飛ばしてしまったスタッフに頭を下げる。

 被害者の彼は、無線を取りだし、マリーの為に女性スタッフへ声をかけていく。

 そんな彼に、リリィも頭を下げる。


「すみません、ご苦労を」

「いやいや、俺もこう言う役職なもんでね……男にトラウマを持っちまう奴なんて、少なくない」

「……そうですね」

「(……そっか、ジャックは無駄にメンタル強いから平気だけど、普通の人はそうもいかないよね)」


 リリィ達と話していると、シルフィは以前ジャックから聞かされた話を思い出す。

 戦場で女性が虜囚となればどうなるか、断片的ながら聞かされた。

 女性が尋問以外でされる事、シルフィでは想像もできないような乱暴が働かれるだろう。

 そうなれば、マリーのようとは行かなくとも、精神に異常が出てもおかしくない。


「……さて、お二人は診断を受けてください、私も、少し野暮用をしてきます」

「了解、さ、マリーちゃん、ちょっとだけ、我慢してね」

「え……うん」


 ――――――


 二時間後。

 用事を終えたリリィは、部屋へと足を運んだ。

 個室に三段ベッドが二つと、大きなモニターの設けられた簡素な物。

 寝て起きて、指令を受けるだけの部屋だ。

 そこで資料を片付けていると、シルフィ達も戻って来たが、マリーはお疲れだった。


「……お疲れですね」

「うん……はぁ、腕痛い」


 注射でも打たれたのか、マリーは腕を抑えながらベッドに転がり込む。

 急な環境の変化に、慣れない健康診断、疲れてもおかしくはない。

 マリーを寝かしつけたシルフィは、資料を片付けるリリィの隣に座る。

 リリィは、シルフィの方へ、少し口角を上げながら話しかける。


「ふふ、どうでした?」

「リリィ……監視カメラか何かで見てたでしょ……大変だったよ、注射でワンワン泣いちゃって……それに、検疫の方も疲れちゃうみたいで」

「でしょうね、ククク」

「カルミアちゃんみたいな笑い方になってるよ」


 マリーとシルフィは、この異世界の住民であるだけあり、感染症の検査に抜かりはない。

 徹底された検査が行われていた。

 おかげで、慣れていないマリーは、すっかり疲れてしまっている。

 それに、注射もお気に召さなかったようだ。

 彼女の嫌がる姿を確認したリリィは、真剣な表情を浮かべる。


「……ま、気晴らしはこの程度に……先ほど、カウンセラーからカルテが届きました……やはり多重人格、専門的には解離性同一症のようです……医学的には」

「医学的には?」

「はい、この症状の主な原因は、幼少期の過酷な体験です、聞くところによると、人間で言えば、小学一年生程度の年齢での性的虐待、両親の死亡、キャパオーバーは必至ですね」


 送られてきたカルテのデータを読み取るリリィは、シルフィに分かりやすく説明した。

 だが、それはあくまでも医学的な見解。

 マリーの過去を考えれば、診断通りの結果になってもおかしくはない。

 考察するリリィの横で、シルフィは息を飲む。


「……その、多重人格って、治るの?」

「明確な治療法は有りませんが、主な方法としてあげられるのは、ストレスの原因から、距離を置く事です……が、治療すれば、ルシーラという人格を消してしまう事に成ります」

「ッ、そんな」

「それは本来であれば、本人にとって良い事です……しかし……」

「しかし?」


 シルフィに話していると、リリィはより難しい表情になる。

 彼女の脳裏を過ぎるのは、精神世界で出会ったルシーラ。

 その時の彼女は、とても人格の解離から生まれた存在には思えなかった。

 本人の人格から生まれたとは思えない、全くの別人。


「精神世界で出会った彼女は、とても多重人格の一人とは思えませんでした」

「……確かに」

「それに、鬼人拳法を使用するには、確固たる人格が必要になります、それに、あの時のマリーは、更に別の人格でした」

「そう言えば……でも、それってもう一人の人格ってだけじゃ?」

「なら、ルシーラさんと一緒に居た筈です……考えられるのは、百鬼夜行の応用、ルシーラさんとマリーさん、その両者の人格と能力を完全に一つにしていた、と言った所でしょうかね……あくまで仮説ですが」

「……つまり、ルシーラさんは、マリーちゃんと全くの別人って事?」

「そうなりますね」


 自分の考える答えと一致したリリィは、深々と頷く。

 できれば専門家からの意見も聞きたかったが、この艦の場所を知られる訳にも行かない。

 何より、彼が何処に居るかよくわかっていない。

 リリィの力で解析できる事でできる証明は、この程度だ。

 まだ推測の域もでていないかもしれない。

 話を自分なりにまとめるシルフィの横で、リリィは真剣な顔で見つめる。


「(成程……となると、何でルシーラさんは、マリーちゃんの中に……)」

「(なんて、シリアス全開で話してたけど……やばい、シルフィって、めっちゃいい匂いする)」

「ふむふむ……」

「(しかも、考える横顔メッチャ可愛い)」


 真剣に考えるシルフィの横顔を見るリリィの内心は、邪でしかなかった。

 と言うか、マジメな事言っておいて、シルフィが隣に座ってからずっとこれである。

 モデル105の人間に近い義体のせいで、よりダイレクトにシルフィを感じられる。

 だが、話しを終えたせいなのか、タガが外れてしまう。

 おかげで、無意識にシルフィの方へと顔が飛び出ていく。

 その事にシルフィが気付かない訳なく、身体を震わせ出す。


「……リリィ」

「ッ、な、何でしょう?」

「……そう言うの、もうちょっと落ち着いてからね……三年間我慢してたんだから、そう言う気にさせないで」

「え?」

「……」


 耳まで顔を真っ赤にしながら答えたシルフィに、リリィはキョトンとする。

 何しろ、想像していた反応と、全く違うのだ。

 てっきり、マリーとひと時を過ごしていたと考えていたのだ。


「え、えっと、それって……」

「だから、マリーちゃんなりに、そのストレスから離れようとしてたの、だから、思い出すような事は、自分からもしないの……だから、その、私も……」

「……何でそんな事に、てっきり体の方も寝取られたものとばかり」

「あの子はキス位しかしないの……そもそも、ウチの作者にそんなシチュエーション書く度胸無いから」

「そうでしたね……ほ」


 妙に納得したように、リリィは胸をなでおろした。

 何にせよ、一休みしたらまた別の場所に行かなければならない。

 そこであれば、この艦のように気を使う必要はない。

 そう思いながら、リリィはシルフィの肩に頭をのせる。


「安心しました……」

「うん……」

「……ジー」

「あ」

「チ」


 イチャイチャしていたら、マリーが目を覚ましてしまっていた事に気付く。

 毛布を抱きながら上体を起こし、なんとも妬ましそうに睨んでいる。

 しかも、睨んでいる事をアピールするように、擬音を口にしていた。

 口を少し膨らませながら、マリーは立ち上がる。


「ねぇ、私に内緒で何してるの?」

「見ての通り、イチャイチャしてるんですよ」

「……じゃぁ……もう片方貰い!」

「あ!」

「ちょ」


 リリィに言われたマリーは、開いているもう片方を占領。

 何とも純粋なにこやかさで、シルフィの片腕に抱き着く。

 その様子を見たリリィも、対抗するように抱き着く力を強める。


「貴女はこの三年一緒に居たんですから、少しくらい私に譲りなさい!」

「イヤ!お姉ちゃんずっと暗かったんだもん!明るいお姉ちゃんに抱き着きたいの!」

「誰のせいだ!」

「その前に二人が喧嘩したら、私が引きちぎれるかミンチになるよ」

「ッ」

「あ」


 シルフィの言葉で我に返った二人は、すぐにシルフィから手を離す。

 やはり痛かったのか、二人から開放されたシルフィは、身体を簡単にほぐしだす。

 確かに二人が喧嘩すれば、シルフィの身体は簡単に壊れてしまう。


「ごめんなさい、ついムキに成ってしまって」

「私もゴメン、でもお姉ちゃん、最近本当に明るいし」

「……そうだね、マリーちゃんと仲直りもできたし……強いて言うなら、リリィに恥ずかしい所知られちゃったのが、ちょっとね」

「良いですよ、劣等感から嫉妬なんて、人間らしいところ見られて新鮮でした」

「もう……」

「(でも、一番の理由がコイツなのが、何かイヤだ)」


 シルフィに頭を下げた二人だったが、その直後にマリーは口を少し膨らませた。

 ずっと求めていたシルフィの笑顔、その起因となったのはリリィの存在。

 彼女が居たからこそ、今の笑みが有る。

 そう考えると、嫉妬ばかりがわいてくる。


「……さて、明日も早いし、そろそろ寝ようか」

「そうですね」

「うん」

「では、一緒に寝ましょうか」

「じゃぁ、一緒にねよ!」

「……」


 二人の同じ発言に、シルフィは硬直してしまう。

 彼女の予想通り、リリィとマリーはまた睨み合いを始める。

 この部屋のベッドは、お世辞にも広いとは言えない。

 とても三人で寝る事は不可能だ。

 喧嘩が始まる一手前に、シルフィが割って入る。


「はい、待った待った、喧嘩するくらいなら、私の言う通りにして」

「ッ、良いでしょう」

「うん、でも、お姉ちゃんだから、私を選ぶよね?」

「いいえ、私です」

「……」


 二人の間で、シルフィは顔をムスっとさせながら、その案を実行する。

 先ず、リリィとマリーを、同じベッドに押し込む。

 そしたら、シルフィは向かいのベッドにもぐりこんだ。


「じゃ、仲良く寝てね~」

「……」

「……」


 あまりにも手早いシルフィの行動に、二人は何が起きたのか理解できなかった

 向かい合わせになりながら硬直しており、目もパチパチとさせる。

 そしてこの晩、二人の考えは初めて一致した。


「(どうしてこうなった!?)」

「(どうしてこうなった!?)」


 流石にこれ以上騒ぐわけにもいかなかったので、心に留める程度に収まった。


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