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風邪ひいた時、変な夢見がち 中編

「愛してますよ、シルフィ」

「え!?」


 突然言い放たれたアリサからの爆弾発言に、シルフィは後ずさりをしてしまうが、アリサはシルフィを追うようにして、距離を詰めてくる。


「どうしたんですか?私達、付き合っているというのに」

「いや、え!?何?状況飲み込めないんだけど!」


 じりじりと迫ってくるアリサは、この状況を呑み込めていないシルフィへと迫る。

 後ろに下がり続けていると、シルフィの背中に、壁が当たり、もう逃げ場が無くなってしまう。

 横側から逃げようとしても、アリサが壁ドンを行い、逃げ場を無くされ、アリサの顔が一気に接近してくる。

 アリサは、シルフィのアゴをクイ、と上げると、人形のように整った唇を、シルフィに向ける。


「え?ちょっと、何?」

「付き合っているのですから、こうしてキスする事位、当たり前でしょう」

「ええええ!待って、何時私達付き合ったの!?」

「やれやれ、また飲みすぎたのですか?まぁいいでしょう、キスの一つでもすれば、思い出すでしょうし」


 アリサの潤っている唇は、シルフィの唇へと接近し、とうとう重ね合う。


――――――


「ウワアァァァ!!」


 その前に、シルフィは飛び起き、全ては夢であることを自覚する。

 完全に夢落ちではあるが、あまりに生々しいある夢であった為、シルフィの顔は、耳まで赤くなり、息も荒くなってしまっている。

 呼吸が整うと、自らの顔を両手で覆い、何故あんな夢を見てしまったのかと、考えを巡りだす。


 というよりも、考える以前からその答えははっきりしている。

 アラクネとラズカのキスシーンを、見てしまったからだ。

 あれからアリサに宿へ送られ、筋肉痛の体を休めていたが、瞼を閉じるなり、二人のキスシーンが頭から離れず、悶々と過ごしていた。

 ようやく寝られたと思ったら、見た夢があんな感じだった。


「なんか現実感が有るのはさておき、考えてみると、あのアリサ、結構美化されてた気がする」


 今思えば、夢のアリサは身長がシルフィより少し高く、胸もちょっと大きい気がしたし、表情も現実よりも豊かだった。

 一応シルフィから見ても、アリサはなかなかの美少女。

 しかし、夢のアリサは美少女と言うよりは、美女と言った方が良い位、大人びていた。

 個人的な好みが反映されているのか、それとも、アラクネのようなお姉さんと関わったせいなのか、それは不明だった。

 もう頭がこんがらがってきたので、寝る事にした。


「ああもう、寝よう、可及的速やかに寝よう、疲れてるんだよ、あんな風邪ひいた時みたいな夢」


 再び眠りにつき、意識が夢の中へと放り込まれた。


――――――


 次に見た夢は、アリサが馬乗りに成っていて、シルフィが抵抗している夢。

 二人とも全裸だ。


「逃がしませんよ、大人しく私と一つに成ってください」

「ちょっと待って!状況についていけないパート2なんだけど!」

「シルフィが悪いんですよ、いっつもピッチリスーツで、そのいやらしい体をちらつかせて、私を誘惑していたのでしょう?イヤラシエルフめ」

「いやあんた誰!?アリサそんな事言うようなキャラじゃないんだけど!つーかあんたも同じ格好でしょ!!」

「良いんですよ、私は、貴女が求めるアリサ、貴女がこうされたいから、私が現れたんですよ」


――――――


 アリサの唇が、シルフィの唇と重ね合わせられる寸前で、再びシルフィは飛び起きる。

 もう顔から火が出そうな程に、顔を赤らめ、悶絶した。

 明らかに段階をすっ飛ばし、どう考えてもアリサに襲われている、としか思う事の出来ない夢に、シルフィは自分自身の性癖を疑い始める。


「なんなのあの夢!何!?私アリサに襲われたい願望でもあるの!?」


 別に付き合っている訳でもなく、そういう関係でもないというのに、何故あのような夢を見たのかと考えると、そういう願望が有るとしか、思う事ができない。

 自分が解らなくなってくる。

 はっきり言って、万年ボッチのシルフィに男女交際の経験なんて一切無い。


 しかもここは異世界、現代のように、誰もが何時でも、そう言ったアダルトな物を見る機会があるわけでは無い。

 だから他人のキスシーンを見る機会と言うのは、実際に見るしかなく、シルフィ自身、何度か里で見たことは有る。

 その時は、別になんとも思わなかった。

 男女がキスをしても、そんな感じか、という淡白な感想しか、出てくることは無かった。

 自分が男と同じ事をしている所を想像しても、今のように成ることは無かった。


「……落ち着こう、別に私はそういう趣味は無いから、至ってノーマルだから」


 蒸し風呂にでも入っているように、全身の火照りを解消させていき、今度こそ眠ろうと、落ち着きを取り戻していった。

 大分痛みも和らいできたので、後は徹夜明けの眠気を解消するだけなのだ。

 後一時間近く眠れば、眠気を解消できると思い、もう一度ベッドに横たわったシルフィは、瞼を閉じる。


――――――


 次に見た夢は、見たことも無いような空間。

 草を編んで作ったような床に、やたらと低いテーブルが置かれている。

 何と形容すればいいのか解らない一室に居た。


「(何?この夢、まぁアリサとキスするよりはマシか)」


 等と考えていると、横に有る扉が勢いよく開き、一人の少女が入ってくる。

 蒼髪に、黄色い瞳を持った子供。

 どことなくアリサに似ている容姿をしており、手には一枚の紙きれが握られている。


「ママァ~ねんがじょう、とどいたよぉ」

「……」


 いきなりの核弾頭発言は、シルフィが絶句するのには十分すぎる威力だった。

 放心状態と成りながらも、少女が渡してきた手紙を見ると、そこには赤ん坊を抱えている、仲睦まじい夫婦の写真が載っていた。(ただし、二人に見覚えは無い)

 しかも添え書きに

『明けまして、結婚もおめでとう、子供が一緒の学校に行けると良いな!(^^)!』

 と、書かれていた。


――――――


 現実味のなさすぎる夢に、シルフィはたたき起こされ、勢いよく上半身を起こす。


「イヤ誰えぇぇぇ!!?つか何段すっ飛ばしてんだよ夢の私!」

『おい!さっきからうるっせぇぞ!!』

「あ、すみません」


 隣の部屋の客から、怒鳴られ、一度冷静に成りながら、夢で見たことを整理する。

 先ず夢に出てきた少女は、手紙の内容から考えても、十中八九自分とアリサの子供としか思えない。

 何で同性同士でもできているのか、というのは深く考えないでいる。

 一つだけ言えるとしたら、成人するまで、キスで子供が生まれると、本気で信じていたので、夢に反映されても、不思議ではないかもしれない。


 もう眠れる気配なんて微塵も無いので、一旦外の空気を吸うべく、シルフィは窓を開けると、顔を窓から少しだし、外の空気を思いっきり吸い込む。

 肺に満たされた新鮮な空気を吐き出すと、今度は煙管を取り出して、一服を開始する。

 火種は町に着いてから、新しい物を購入したので、今はアリサの手助け無しで、喫煙を行える。


「はぁ、何であんな夢見たのかな?」


 紫煙を吹かせながら、夢を見てしまった理由を考え出す。

 今まで仲良くできたのは、家族以外ではアリサだけ、だからと言って肉体関係を持つような夢を見る程、関係は進行していない筈だ。

 なのに、何故アリサとそう言った関係となる夢を見てしまったのか解らなかった。

 彼女とは友人に成りたいと、シルフィ自身思っているが、それ以上の関係性は望んでおらず、ただの友人として、接してくれていれば、それで良かった。


「(……考えてみると、私、アリサの事、何も知らない)」


 改めてアリサの事を考えたシルフィは、自身がアリサの事を何も知らないという事を自覚する。

 出会ってまだ間も無く、自分の事を語るような人物ではないので、知らなくても仕方がないのかもしれないが、それでも知らない事が多すぎる。

 始めて会った時から感じていたアリサへの印象、あえて言うのであれば、仮面をつけた少女。

 今まで見てきたアリサは、仮面のような物をつけ、着けた仮面の通りの自分を演じているようにみえていた。


「(一部を除いて、だけど……)」


 一貫して無表情でいる彼女の奥にある、本当のアリサと呼べるような言動は、いくらか見受けられても、すぐに仮面を被り直してしまう。

 他に知っている事と言えば、父親と同じ所から来たという事と、人を何人か殺したことが有ることは、本人の口から語られてはいる。

 それ以外の事は、本人の口からは、一切聞かされては居なかった。


「(……あの子、何者なんだろう、アラクネさんなら、何か知っているかな?)」


 これからも活動するのなら、できればアリサの事をもっと知りたい。

 そんな事を思いながら、空を見上げ、その先に広がる夜空を眺めた。

 ただの夜空ではなく、満天の星空、目の眩む位に、眩しく、美しい夜空。

 木々に遮られることも無く、ただ目の前に広がる星空は、何時もより綺麗に見えた。

 普通であれば、綺麗だとうっとりするかもしれないが、シルフィは違った。


「……前より、見えやすくなってる?」


 森を出てから、何度も見てきた夜空ではあるが、いつも以上に綺麗に見えて仕方がない。

 目を凝らせば、更に遠くの物まで見えたりする。

 向かいの店にある看板のすぐ側を這う虫、夜空の雲に隠れる鳥、普通は見えない物さえも見えてしまう。

 しばらく夜空を眺めていると、何か変な物が、シルフィの目に映りだす。


「……なんだろう、あれ」


 黒が基準のカラーリングをしている、人型の何か。

 何かは解らない、表面は金属感のあるツヤを持ち、人の形をしている事位しか解らない存在。

 ドラゴンのようにも見えるが、あんなドラゴンは聞いたことは無い。

 それは、まるで何かを監視しているような動きをすると、何処かへと飛び去ってしまった。

 もう何が何だか、良く解らなくなってきたので、シルフィは乾いてきた目を閉じると、目と目の間を摘まみ、軽く揉みほぐす。


「……はぁ、よし、普通に戻った(そう言えば、あんな感じの乗り物があるって、お父さん言ってたっけ)」


 ほぐし終えると、視界は普通に成る。

 そろそろアリサが帰ってくる頃合いである事に気が付き、煙草の始末をすると、部屋のドアがノックされる。


「はーい」

『私です』


 扉の奥から、アリサの声が聞こえたシルフィは、扉を開けて、アリサの事を招きいれる。

 何も持っていないところを見ると、アラクネの協力を得ても、成果無しというのが判明する。


「今日もダメだったの?」

「ええ、範囲は絞りこんだのですが、思いのほか捜索の面倒な場所でして」

「へ~……」


 アリサを見つめていると、シルフィの視線は徐々に彼女の唇へと移動し、夢の事を思い出す。

 まるで人形のように、綺麗に整っているアリサの唇は、程よく潤っており、どこかエロティックな感じに見えてしまう。


「(やばい、あんな夢見たせいで、変に意識しちゃう)」

「あの、大丈夫ですか?」

「え!?あ、うん、大丈夫」

「なら良いのですが、モンドさんの屋敷に招待されているのですから、早いところ準備してください」

「わ、わかった」


 アリサの事を視界に入れると、夢を思い出し、変な事を考えてしまうので、できる限り目をそらしつつ、身支度を整え、件のパーティへと、アリサと共に出発した。


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