スターゲイザー 中編
カルミアとの話の後。
医療施設を占拠していたロゼ達を何とか説得。
レリアのおかげで、何とか早急に沈静化。
だが、騎士団の面々は余計な傷を負ってしまったので、再度診断を受けている。
そして、レリアは当面の借家へ向かうついでに、疑問をヘリアンに訊ねだす。
「一ついい?」
「何?」
「あいつ等も貴女達も、何で私達の居場所を特定できたの?それに、あのカルミアって言う人、城の事も把握していたみたいだし」
ずっと気になっていた事だ。
森を抜けている時、怪しい気配はなかった。
一体どうやって、連邦兵たちはレリア達の場所を突き止めたのか。
その質問に対し、ヘリアンは快く答えてくれる。
「貴女達、確か、連邦達に、何かを打たれた筈」
「何か……あ」
「そう、アイツらが打ったのは、ナノマシン、予防の効果も、有るけど、本当の目的は、貴方達の監視」
ヘリアンの言葉で、レリアはハッとなった。
予防接種という言い訳の元に、レリアとロゼ達は注射を刺されたのだ。
それを思い出した時、レリアは拳を強く握りしめる。
恐らくは予防接種の言い訳ついでに、何か妙な物を身体に入れられたのだろう。
そう思うと、悔しさが湧き出て来る。
「あいつ等……あ、でも、そうなると私達がここにいるのって、大丈夫なの?」
「安心して、もう、抑制するための、ナノマシンを、打ってある」
「そ、そう、良かったわ(でも人の体に、勝手にブスブスいろんな物入れないで欲しいのだけど)」
もちろん、ヘリアン達はそんな事予想済み。
ベースとなっているのは、リリィが予めアラクネとラズカに渡していた物。
気休め程度の未完成品ではあるが、完成品を作るには良い材料だった。
彼女をこの町に匿った時に、ナノマシンの構造を解析してすぐに特効薬を生成。
レリアを含め、町民全員に投与してある。
この町が未だに連邦の襲撃を受けていないのも、それが要因だ。
「それと、城の情勢は、アラクネの、子分の蜘蛛を、城中に配備させてた、から、おかげで、貴女達が、逃げだした時に、こっちも行動できた」
「何してくれてんのよアンタら」
ヘリアンの返答で、レリアはロゼが感じていた異臭の正体がわかった。
アラクネの子分だという蜘蛛達が、何らかの方法でここと連絡を取っていたのだろう。
何らかの思惑が有れば、ロゼの鼻は感知してしまうので納得だ。
「それに、この町は、カモフラージュも、効いてる、簡単には、見つからないけど……多分、近々、戦争が有っても、おかしくない」
「そう、なら、それまでに体を休めて、色々と話を聞かないと」
「そうして、私達も、この世界を、戦場にしたくない、私達は、私達の戦いをする、貴女は貴女の戦いを」
「ええ、そうさせてもらうわ」
レリアとしては、出来る限り戦争の回避を望んでいる。
何しろ、彼女は戦士ではなく、政治家なのだ。
剣ではなく、ペンで戦おうという信念がある。
連邦に一矢報いたい気持ちは有っても、ヘリアンとカルミアも平和を望んでいる。
そんな話しをしながら、ヘリアンはレリアを当面の住み家へ案内して行く。
すると、激しい足音と共に、少女の叫び声が近寄って来る。
「見つけた!ヘリアン!」
「……」
「(何か露骨嫌そうな顔)」
近づいて来たのは草色の髪を括った、エルフの少女。
年齢はシルフィと同じくらいだろうが、それなりにスタイルがいい。
まとっている軍服には、左胸に准尉のバッチと、カラスのデカールが左肩についている。
彼女が怒りながら近づいてくると、ヘリアンはあからさまに嫌そうな表情を浮かべた。
「……何の用?イビア」
「以前の戦いの報告書、アンタに渡そうと思ったのに、居なかったから探してたのよ!たく、あんまり手間かけさせないでよね!」
「……なら、デスクに置いておけば、こっちで処理した」
「ッ……べ、別に良いでしょ、私は直接渡さないと気が済まないの!さっさと受け取る!」
「はいはい」
「(あら?この子)」
イビアと呼ばれたエルフは、持っていた書類をヘリアンに押し付け、そのまま歩き去った。
絡まれていたヘリアンは、仕事帰りのサラリーマンのように、疲れた表情を浮かべる。
その横でレリアは、少しホホを好色に染めていた。
「ね、ねぇ、さっきの子は誰?」
「……イビア・モンスーン、この町を、興した時に、仲間にした、現地のBランク冒険者、パーティの、リーダー」
「ふぅ~ん、それで?」
「……何か、知んないけど、事有る事に、私につっかかって、くる……はぁ、めんどい」
「……そ、そう」
ヘリアンの反応を見て、レリアは複雑な感じになった。
もう少しワクワクするような話を聞けるかと思ったが、期待外れだった。
先ほどのイビアの表情は、リリィとシルフィの関係を彷彿とさせた。
つまり、レリアの中の乙女の勘が働いたのだ。
「……朴念仁」
「ん?」
因みに、走り去ったイビアはと言うと。
町角の影で、冒険者時代のパーティと合流していた。
先ほどまでの怒りは嘘のように晴れ、随分とオドオドした感じになっている。
「ね、ねぇ、私ちゃんとできたよね!?」
「できてないですよ隊長、またメンドイとか言ってましたよ」
「そ、そんなぁ~」
猫耳を生やす獣人の少女は、先ほどヘリアンの呟いた言葉をリピート。
その結果、イビアは半べそをかいてしまった。
――――――
その日の夜。
カルミアは合間に目をこすりながら、執務室でまだ仕事を進めていた。
「これがこうでっと……騎士団共の仕事とかは一先ず……」
他の騎士団も無事目覚め、レリアと同じアパートに二人一部屋で住まわせた。
目覚めてすぐに、その辺の器具を使って施設を占領した時は、かなり焦った。
レリアとアラクネの説得で、事態は沈静し、何とかここに住み着いてもらう事に成功
一先ずの生活必需品と、当面の生活費を支給しておいた。
後は、彼女達がこの町になじみ、仕事をしてくれると嬉しい。
その手の書類を片付けていると、部屋のドアが叩かれる。
「……はいよ」
「入る」
「……またか」
また執務室に入って来たヘリアンを見て、カルミアは目をこすりながら作業を続行する。
そんな彼女を見て、ヘリアンは目を細める。
「……メンテの期間は、月一と、言ったはず」
「そう言えば半年前にメンテしたきりだったな、ま、後でやるから」
「……」
目をこすりながら、執務を続けるカルミアへとヘリアンは近寄る。
後でやるからと、この半年言い続け、ずっとメンテをしていない。
いい加減にしてほしいので、ヘリアンはカルミアの顔をがっちりつかむ。
「ッ、後でやるって」
「……ダメ、目の駆動が、おかしくなってる、視覚センサーにも、ブレが有る筈、たぶん、書類の字も、見えづらい筈」
「……やれやれ、アンタには敵わないな」
カルミアの不調は、目をこする仕草で見抜けた。
降参したカルミアは、椅子のリクライニングで体を倒す。
それを見たヘリアンは、持って来た工具箱をデスクに置く。
箱からメスを取りだし、人工皮膚をそいでいく。
「……この三年、全然休んでない」
「……好きに仕事させてくれ、今ならエーラの気持ちがわかる」
「でも、メンテ位は、して(折角だし、両方取り換えよ)」
人工皮膚を剥がし、ドライバーで目の周りのパーツを取り外す。
問題があると思われる眼球パーツを取り外し、新品を用意する。
この三年、カルミアはほとんど休んでいない。
アンドロイドとは言え、感覚的ではなく、物理的な疲労は出て来る。
取り出したパーツがいい証拠だ。
「……やっぱり、ピントを合わせるパーツが、老朽してる」
「はぁ、やっぱ働きすぎかね?」
「その通りすぎ……てか、これ、ジャンクから、作ってる……ドケチ」
「予算削減だ」
新しいパーツをはめ込み、顔のパーツを戻していく。
とりつかれたように仕事をする彼女は、もはや何かの呪いにかかっているようだった。
いや、彼女にとっては、一種の責任感なのだろう。
そう思いながら、ヘリアンはカルミアの義体を簡易的にスキャン。
目立った問題が無い事を確認し、人工皮膚も縫い合わせる。
「……一応聞くけど、何でそんなに、身を粉にする?」
「……シルフィの為だよ」
「……だろうね」
「アイツは、故郷の森だけじゃなくて、あの基地も失った、だから、アイツの帰れる場所を、もう一つ作りたかった、軍隊何かじゃない、普通に住める町を」
ヘリアンのメンテを終えたカルミアは、何故ここまで働くのかを打ち明けた。
こうして働いているのは、シルフィの住める場所をもう一つ作るためだ。
その気持ちは、ヘリアンも解るが、無理はしないでほしい。
無理をして壊れてしまえば、元も子もない。
「でも、貴女が、壊れた時の事も、考えて欲しい」
「……あんな苦しい思い、アイツにしてほしくない、けど、アタシはアイツに、返しきれない恩があるんだ、だから」
「……なら、なおさら、無理はしないで、貴女が壊れたら、その恩を、アダで返す事に、なる」
「わかったって」
目の調子を確認しながら、カルミアは椅子から降りる。
そして、デスクの後ろの窓から、夜空を見上げる。
彼女の視線の先の更に先、そこには、シルフィの事をもっと喜ばせられる物が有る。
その事を思うと、なんともはがゆい。
「なぁ、アイツは目を覚ますかな?」
「向こうには、エーラも居るし、大丈夫……でも、もう開戦の火ぶたは、切られた、ヴァーベナの捜索に、あいつ等も、本腰を入れる」
「……そうだな」
レリア達を助けるためとは言え、連邦の機体と隊員を撃破した事に変わりない。
ストレンジャーズは、まだ終わっていない事は、連邦連中も気付いている頃だろう。
そうなれば、リング周辺に待機している艦隊が動き出す。
ヴァーベナは、その辺の艦船よりはるかに大きい。
どこかに居るという事を前提として捜索すれば、数日程度でみつかるだろう。
――――――
その頃。
マクスウェルは、本星のザイーム達に通信を行っていた。
報告内容は、予定通りアルセアを抱き込めた事と、レリアの捕縛に失敗した事を告げる。
『そうか、一人逃したか』
「はい、このマクスウェル、一生の不覚でございます、しかも、追跡に失敗するなんて」
ザイームの映るパソコンを前に、マクスウェルは頭を深々と下げた。
レリアを追跡させていた部隊が全滅した事は、既に伝えられている。
しかも、逃亡を手引きしたと思われる部隊さえ、見失っている。
この事から、マクスウェル達はストレンジャーズ復活を危惧しだしていた。
今の連邦軍を相手に、そんな事が出来るのは、彼らだけだ。
『フム、まぁいい、奴らが再び動き出したのは、間違いないようだな』
「はい、しぶとい奴らです」
『どれだけ叩こうとも、ネズミのように這い出て来る……負けを認めない、愚かな集団だ……』
画面の奥で、座り直したザイームは、真剣な目でマクスウェルを睨む。
その眼光に臆しながらも、マクスウェルは姿勢を正す。
『マクスウェル、増援を送ってやる、彼らが到着次第、小娘の捜索を強めろ』
「はい、ですが、敵が地上にだけ居るとは限りません、以前から進めている、宇宙の捜索の方は……」
『安心しろ、そっちは既にめどが立ち、二個艦隊が制圧に向かっている、貴様は気にせずに地上の敵を掃討しろ』
「は、人類の崇高なる世界の為に!」
マクスウェルが敬礼をすると同時に、通信は終了する。
そして、静かになった空間で、マクスウェルはその拳を握り締める。
「必ず捕まえてやるぞ、小娘が」
――――――
三日後、宇宙空間にて。
宇宙空母ヴァーベナは、光学迷彩で宇宙に溶け込んでいた。
こうでもしなければ、全長一キロにわたる巨体を隠す事が出来ない。
その艦内の研究所で、エーラはキーボードを叩き続けていた。
「……よし、良いぞ……フヒヒヒ」
エーラの見つめる画面の先には、新型の義体に換装したリリィが映る。
この三年間、エーラの持てる全ての技術を彼女につぎ込んだ。
ヒューリーから送られた研究データも使い、今のリリィは異常なまでにパワーアップしている。
そんな彼女の労を労うように、ラベルクは紅茶を入れ出す。
「エーラ様、進捗の方はいかがでしょうか?」
「もうじきだ、後はドライヴ同士を同調させれば、彼女は目覚める」
「……そうですか、私のドライヴを提供しただけはございます」
差し入れの紅茶を持って来たラベルクは、リリィの完成が間近である事にほほ笑む。
何しろ足りなくなったドライヴを、わざわざ提供したのだ。
成功してもらわなければ困る。
それに、愛妹がもうじき目覚めるのだ、嬉しくないわけがない。
そんな彼女の横で、エーラは大量に砂糖を入れた紅茶を含む。
「さて、三年見つからずに済んだが、後どれだけかかるか(できれば五分位休みたい)」
「はい、あわよくば、見つかる前に調整が済めばいいのですが」
義体とエーテル・ギアの調整は完了したが、問題はドライヴだ。
今のリリィの義体には、二つのドライヴが搭載されている。
しかし、出力を同調させなければ、安定した稼働が出来ないのだ。
片方のドライヴは、シルフィの持っていた石を使い、最初から制作した。
なので、ラベルクの物と極力同調できるように調整はされている。
できる事であれば、リリィが完成するまでは、見つからないで欲しい。
「……ところで、本星との連絡はどうなっているんだ?」
「申し訳ございません、最近は通信網の警戒も厳しく、作業がより難しくなっております」
「そうか……」
ラベルクの方では、地上の部隊や本星との連絡を試みていた。
地上の方は少しだけできていたが、やはり本星とは難しい。
しかも最近は通信網の監視が強化され、地上ともやり取りができずにいる。
現状不安要素しかない事に、頭を抱えていると、警戒アラートが響き渡る。
「ッ!?緊急警報!」
「まさか、ここが見つかったというの?」
急な警報に驚いた二人は、攻撃によって発生した振動に身をさらす。
――――――
同時刻、ヴァーベナのブリッジにて。
アラートを発したクルー達は、せわしく動いていた。
そのブリッジに、初老のドワーフ、ネロが帽子と軍服に身を包みながら入室する。
「状況は?」
「連邦軍の二個艦隊を確認!こちらを挟み込むように向かっています!」
「フィールドを展開していますが、これ以上接近されれば、エーテル・アームズ隊の攻撃を受けます」
「そうか」
状況を確認したネロは、艦長の席に着く。
この艦は、ちょっとやそっとの攻撃墜ちる程ヤワではない。
それでも二個艦隊からの波状攻撃は、痛手を被る事になる。
だが、艦載されている部隊で、艦隊を壊滅させられる機体は限られている。
「……チフユ、イベリスとリリィの整備はどうだ?」
「イベリスであれば、第一波攻撃が始まった時点で、準備を終えていますが、リリィはまだ起動していません」
「わかった、イベリスは右舷の艦隊に攻撃を行わせろ!もう片方の艦隊は、アキレア達と共に迎え撃つ!リリィの覚醒まで、時間を稼げ!」
「了解!」
「ヴァーベナ!光学迷彩解除!使用可能な砲門を開き、イベリスの発艦と共に取舵!砲撃をくらわせろ!アキレア隊はバスター装備に換装、ルプス隊と協力し、対空攻撃!敵を近寄せるな!」
ネロの指示に従い、ヴァーベナは光学迷彩を解除しつつ砲門を開放。
待機していたアキレア達は、装備の着用が終わり次第、甲板へと降り立つ。
彼女達に続き、ルプス隊も配置に着いた。
――――――
同時刻、イベリスは新装備を見にまといながら、アキレア達の出撃を見守っていた。
装備の点検を終え、出撃用のカタパルトへと移動。
チフユからの連絡を受ける。
『イベリス、射出準備完了』
「ありがとうございます……チフユ」
『何?』
「貴女のお姉さまの仇、必ずお取りいたしますわ」
『……お願い……射出タイミングをイベリスに譲渡する』
武器を強く握りしめ、イベリスは過去の記憶を思い出す。
自分に力が無かったせいで、多くの仲間が傷つき、倒れて行った。
だが、今は違う。
更に強力な義体と、力を手に入れた。
「AS-105-05・イベリス・センペルビレンス、出撃を致しますわ!!」




