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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
モミジガサ編
249/343

スターゲイザー 中編

 

 カルミアとの話の後。

 医療施設を占拠していたロゼ達を何とか説得。

 レリアのおかげで、何とか早急に沈静化。

 だが、騎士団の面々は余計な傷を負ってしまったので、再度診断を受けている。

 そして、レリアは当面の借家へ向かうついでに、疑問をヘリアンに訊ねだす。


「一ついい?」

「何?」

「あいつ等も貴女達も、何で私達の居場所を特定できたの?それに、あのカルミアって言う人、城の事も把握していたみたいだし」


 ずっと気になっていた事だ。

 森を抜けている時、怪しい気配はなかった。

 一体どうやって、連邦兵たちはレリア達の場所を突き止めたのか。

 その質問に対し、ヘリアンは快く答えてくれる。


「貴女達、確か、連邦達に、何かを打たれた筈」

「何か……あ」

「そう、アイツらが打ったのは、ナノマシン、予防の効果も、有るけど、本当の目的は、貴方達の監視」


 ヘリアンの言葉で、レリアはハッとなった。

 予防接種という言い訳の元に、レリアとロゼ達は注射を刺されたのだ。

 それを思い出した時、レリアは拳を強く握りしめる。

 恐らくは予防接種の言い訳ついでに、何か妙な物を身体に入れられたのだろう。

 そう思うと、悔しさが湧き出て来る。


「あいつ等……あ、でも、そうなると私達がここにいるのって、大丈夫なの?」

「安心して、もう、抑制するための、ナノマシンを、打ってある」

「そ、そう、良かったわ(でも人の体に、勝手にブスブスいろんな物入れないで欲しいのだけど)」


 もちろん、ヘリアン達はそんな事予想済み。

 ベースとなっているのは、リリィが予めアラクネとラズカに渡していた物。

 気休め程度の未完成品ではあるが、完成品を作るには良い材料だった。

 彼女をこの町に匿った時に、ナノマシンの構造を解析してすぐに特効薬を生成。

 レリアを含め、町民全員に投与してある。

 この町が未だに連邦の襲撃を受けていないのも、それが要因だ。


「それと、城の情勢は、アラクネの、子分の蜘蛛を、城中に配備させてた、から、おかげで、貴女達が、逃げだした時に、こっちも行動できた」

「何してくれてんのよアンタら」


 ヘリアンの返答で、レリアはロゼが感じていた異臭の正体がわかった。

 アラクネの子分だという蜘蛛達が、何らかの方法でここと連絡を取っていたのだろう。

 何らかの思惑が有れば、ロゼの鼻は感知してしまうので納得だ。


「それに、この町は、カモフラージュも、効いてる、簡単には、見つからないけど……多分、近々、戦争が有っても、おかしくない」

「そう、なら、それまでに体を休めて、色々と話を聞かないと」

「そうして、私達も、この世界を、戦場にしたくない、私達は、私達の戦いをする、貴女は貴女の戦いを」

「ええ、そうさせてもらうわ」


 レリアとしては、出来る限り戦争の回避を望んでいる。

 何しろ、彼女は戦士ではなく、政治家なのだ。

 剣ではなく、ペンで戦おうという信念がある。

 連邦に一矢報いたい気持ちは有っても、ヘリアンとカルミアも平和を望んでいる。

 そんな話しをしながら、ヘリアンはレリアを当面の住み家へ案内して行く。

 すると、激しい足音と共に、少女の叫び声が近寄って来る。


「見つけた!ヘリアン!」

「……」

「(何か露骨嫌そうな顔)」


 近づいて来たのは草色の髪を括った、エルフの少女。

 年齢はシルフィと同じくらいだろうが、それなりにスタイルがいい。

 まとっている軍服には、左胸に准尉のバッチと、カラスのデカールが左肩についている。

 彼女が怒りながら近づいてくると、ヘリアンはあからさまに嫌そうな表情を浮かべた。


「……何の用?イビア」

「以前の戦いの報告書、アンタに渡そうと思ったのに、居なかったから探してたのよ!たく、あんまり手間かけさせないでよね!」

「……なら、デスクに置いておけば、こっちで処理した」

「ッ……べ、別に良いでしょ、私は直接渡さないと気が済まないの!さっさと受け取る!」

「はいはい」

「(あら?この子)」


 イビアと呼ばれたエルフは、持っていた書類をヘリアンに押し付け、そのまま歩き去った。

 絡まれていたヘリアンは、仕事帰りのサラリーマンのように、疲れた表情を浮かべる。

 その横でレリアは、少しホホを好色に染めていた。


「ね、ねぇ、さっきの子は誰?」

「……イビア・モンスーン、この町を、興した時に、仲間にした、現地のBランク冒険者、パーティの、リーダー」

「ふぅ~ん、それで?」

「……何か、知んないけど、事有る事に、私につっかかって、くる……はぁ、めんどい」

「……そ、そう」


 ヘリアンの反応を見て、レリアは複雑な感じになった。

 もう少しワクワクするような話を聞けるかと思ったが、期待外れだった。

 先ほどのイビアの表情は、リリィとシルフィの関係を彷彿とさせた。

 つまり、レリアの中の乙女の勘が働いたのだ。


「……朴念仁」

「ん?」


 因みに、走り去ったイビアはと言うと。

 町角の影で、冒険者時代のパーティと合流していた。

 先ほどまでの怒りは嘘のように晴れ、随分とオドオドした感じになっている。


「ね、ねぇ、私ちゃんとできたよね!?」

「できてないですよ隊長、またメンドイとか言ってましたよ」

「そ、そんなぁ~」


 猫耳を生やす獣人の少女は、先ほどヘリアンの呟いた言葉をリピート。

 その結果、イビアは半べそをかいてしまった。


 ――――――


 その日の夜。

 カルミアは合間に目をこすりながら、執務室でまだ仕事を進めていた。


「これがこうでっと……騎士団共の仕事とかは一先ず……」


 他の騎士団も無事目覚め、レリアと同じアパートに二人一部屋で住まわせた。

 目覚めてすぐに、その辺の器具を使って施設を占領した時は、かなり焦った。

 レリアとアラクネの説得で、事態は沈静し、何とかここに住み着いてもらう事に成功

 一先ずの生活必需品と、当面の生活費を支給しておいた。

 後は、彼女達がこの町になじみ、仕事をしてくれると嬉しい。

 その手の書類を片付けていると、部屋のドアが叩かれる。


「……はいよ」

「入る」

「……またか」


 また執務室に入って来たヘリアンを見て、カルミアは目をこすりながら作業を続行する。

 そんな彼女を見て、ヘリアンは目を細める。


「……メンテの期間は、月一と、言ったはず」

「そう言えば半年前にメンテしたきりだったな、ま、後でやるから」

「……」


 目をこすりながら、執務を続けるカルミアへとヘリアンは近寄る。

 後でやるからと、この半年言い続け、ずっとメンテをしていない。

 いい加減にしてほしいので、ヘリアンはカルミアの顔をがっちりつかむ。


「ッ、後でやるって」

「……ダメ、目の駆動が、おかしくなってる、視覚センサーにも、ブレが有る筈、たぶん、書類の字も、見えづらい筈」

「……やれやれ、アンタには敵わないな」


 カルミアの不調は、目をこする仕草で見抜けた。

 降参したカルミアは、椅子のリクライニングで体を倒す。

 それを見たヘリアンは、持って来た工具箱をデスクに置く。

 箱からメスを取りだし、人工皮膚をそいでいく。


「……この三年、全然休んでない」

「……好きに仕事させてくれ、今ならエーラの気持ちがわかる」

「でも、メンテ位は、して(折角だし、両方取り換えよ)」


 人工皮膚を剥がし、ドライバーで目の周りのパーツを取り外す。

 問題があると思われる眼球パーツを取り外し、新品を用意する。

 この三年、カルミアはほとんど休んでいない。

 アンドロイドとは言え、感覚的ではなく、物理的な疲労は出て来る。

 取り出したパーツがいい証拠だ。


「……やっぱり、ピントを合わせるパーツが、老朽してる」

「はぁ、やっぱ働きすぎかね?」

「その通りすぎ……てか、これ、ジャンクから、作ってる……ドケチ」

「予算削減だ」


 新しいパーツをはめ込み、顔のパーツを戻していく。

 とりつかれたように仕事をする彼女は、もはや何かの呪いにかかっているようだった。

 いや、彼女にとっては、一種の責任感なのだろう。

 そう思いながら、ヘリアンはカルミアの義体を簡易的にスキャン。

 目立った問題が無い事を確認し、人工皮膚も縫い合わせる。


「……一応聞くけど、何でそんなに、身を粉にする?」

「……シルフィの為だよ」

「……だろうね」

「アイツは、故郷の森だけじゃなくて、あの基地も失った、だから、アイツの帰れる場所を、もう一つ作りたかった、軍隊何かじゃない、普通に住める町を」


 ヘリアンのメンテを終えたカルミアは、何故ここまで働くのかを打ち明けた。

 こうして働いているのは、シルフィの住める場所をもう一つ作るためだ。

 その気持ちは、ヘリアンも解るが、無理はしないでほしい。

 無理をして壊れてしまえば、元も子もない。


「でも、貴女が、壊れた時の事も、考えて欲しい」

「……あんな苦しい思い、アイツにしてほしくない、けど、アタシはアイツに、返しきれない恩があるんだ、だから」

「……なら、なおさら、無理はしないで、貴女が壊れたら、その恩を、アダで返す事に、なる」

「わかったって」


 目の調子を確認しながら、カルミアは椅子から降りる。

 そして、デスクの後ろの窓から、夜空を見上げる。

 彼女の視線の先の更に先、そこには、シルフィの事をもっと喜ばせられる物が有る。

 その事を思うと、なんともはがゆい。


「なぁ、アイツは目を覚ますかな?」

「向こうには、エーラも居るし、大丈夫……でも、もう開戦の火ぶたは、切られた、ヴァーベナの捜索に、あいつ等も、本腰を入れる」

「……そうだな」


 レリア達を助けるためとは言え、連邦の機体と隊員を撃破した事に変わりない。

 ストレンジャーズは、まだ終わっていない事は、連邦連中も気付いている頃だろう。

 そうなれば、リング周辺に待機している艦隊が動き出す。

 ヴァーベナは、その辺の艦船よりはるかに大きい。

 どこかに居るという事を前提として捜索すれば、数日程度でみつかるだろう。


 ――――――


 その頃。

 マクスウェルは、本星のザイーム達に通信を行っていた。

 報告内容は、予定通りアルセアを抱き込めた事と、レリアの捕縛に失敗した事を告げる。


『そうか、一人逃したか』

「はい、このマクスウェル、一生の不覚でございます、しかも、追跡に失敗するなんて」


 ザイームの映るパソコンを前に、マクスウェルは頭を深々と下げた。

 レリアを追跡させていた部隊が全滅した事は、既に伝えられている。

 しかも、逃亡を手引きしたと思われる部隊さえ、見失っている。

 この事から、マクスウェル達はストレンジャーズ復活を危惧しだしていた。

 今の連邦軍を相手に、そんな事が出来るのは、彼らだけだ。


『フム、まぁいい、奴らが再び動き出したのは、間違いないようだな』

「はい、しぶとい奴らです」

『どれだけ叩こうとも、ネズミのように這い出て来る……負けを認めない、愚かな集団だ……』


 画面の奥で、座り直したザイームは、真剣な目でマクスウェルを睨む。

 その眼光に臆しながらも、マクスウェルは姿勢を正す。


『マクスウェル、増援を送ってやる、彼らが到着次第、小娘の捜索を強めろ』

「はい、ですが、敵が地上にだけ居るとは限りません、以前から進めている、宇宙の捜索の方は……」

『安心しろ、そっちは既にめどが立ち、二個艦隊が制圧に向かっている、貴様は気にせずに地上の敵を掃討しろ』

「は、人類の崇高なる世界の為に!」


 マクスウェルが敬礼をすると同時に、通信は終了する。

 そして、静かになった空間で、マクスウェルはその拳を握り締める。


「必ず捕まえてやるぞ、小娘が」


 ――――――


 三日後、宇宙空間にて。

 宇宙空母ヴァーベナは、光学迷彩で宇宙に溶け込んでいた。

 こうでもしなければ、全長一キロにわたる巨体を隠す事が出来ない。

 その艦内の研究所で、エーラはキーボードを叩き続けていた。


「……よし、良いぞ……フヒヒヒ」


 エーラの見つめる画面の先には、新型の義体に換装したリリィが映る。

 この三年間、エーラの持てる全ての技術を彼女につぎ込んだ。

 ヒューリーから送られた研究データも使い、今のリリィは異常なまでにパワーアップしている。

 そんな彼女の労を労うように、ラベルクは紅茶を入れ出す。


「エーラ様、進捗の方はいかがでしょうか?」

「もうじきだ、後はドライヴ同士を同調させれば、彼女は目覚める」

「……そうですか、私のドライヴを提供しただけはございます」


 差し入れの紅茶を持って来たラベルクは、リリィの完成が間近である事にほほ笑む。

 何しろ足りなくなったドライヴを、わざわざ提供したのだ。

 成功してもらわなければ困る。

 それに、愛妹がもうじき目覚めるのだ、嬉しくないわけがない。

 そんな彼女の横で、エーラは大量に砂糖を入れた紅茶を含む。


「さて、三年見つからずに済んだが、後どれだけかかるか(できれば五分位休みたい)」

「はい、あわよくば、見つかる前に調整が済めばいいのですが」


 義体とエーテル・ギアの調整は完了したが、問題はドライヴだ。

 今のリリィの義体には、二つのドライヴが搭載されている。

 しかし、出力を同調させなければ、安定した稼働が出来ないのだ。

 片方のドライヴは、シルフィの持っていた石を使い、最初から制作した。

 なので、ラベルクの物と極力同調できるように調整はされている。

 できる事であれば、リリィが完成するまでは、見つからないで欲しい。


「……ところで、本星との連絡はどうなっているんだ?」

「申し訳ございません、最近は通信網の警戒も厳しく、作業がより難しくなっております」

「そうか……」


 ラベルクの方では、地上の部隊や本星との連絡を試みていた。

 地上の方は少しだけできていたが、やはり本星とは難しい。

 しかも最近は通信網の監視が強化され、地上ともやり取りができずにいる。

 現状不安要素しかない事に、頭を抱えていると、警戒アラートが響き渡る。


「ッ!?緊急警報!」

「まさか、ここが見つかったというの?」


 急な警報に驚いた二人は、攻撃によって発生した振動に身をさらす。


 ――――――


 同時刻、ヴァーベナのブリッジにて。

 アラートを発したクルー達は、せわしく動いていた。

 そのブリッジに、初老のドワーフ、ネロが帽子と軍服に身を包みながら入室する。


「状況は?」

「連邦軍の二個艦隊を確認!こちらを挟み込むように向かっています!」

「フィールドを展開していますが、これ以上接近されれば、エーテル・アームズ隊の攻撃を受けます」

「そうか」


 状況を確認したネロは、艦長の席に着く。

 この艦は、ちょっとやそっとの攻撃墜ちる程ヤワではない。

 それでも二個艦隊からの波状攻撃は、痛手を被る事になる。

 だが、艦載されている部隊で、艦隊を壊滅させられる機体は限られている。


「……チフユ、イベリスとリリィの整備はどうだ?」

「イベリスであれば、第一波攻撃が始まった時点で、準備を終えていますが、リリィはまだ起動していません」

「わかった、イベリスは右舷の艦隊に攻撃を行わせろ!もう片方の艦隊は、アキレア達と共に迎え撃つ!リリィの覚醒まで、時間を稼げ!」

「了解!」

「ヴァーベナ!光学迷彩解除!使用可能な砲門を開き、イベリスの発艦と共に取舵!砲撃をくらわせろ!アキレア隊はバスター装備に換装、ルプス隊と協力し、対空攻撃!敵を近寄せるな!」


 ネロの指示に従い、ヴァーベナは光学迷彩を解除しつつ砲門を開放。

 待機していたアキレア達は、装備の着用が終わり次第、甲板へと降り立つ。

 彼女達に続き、ルプス隊も配置に着いた。


 ――――――


 同時刻、イベリスは新装備を見にまといながら、アキレア達の出撃を見守っていた。

 装備の点検を終え、出撃用のカタパルトへと移動。

 チフユからの連絡を受ける。


『イベリス、射出準備完了』

「ありがとうございます……チフユ」

『何?』

「貴女のお姉さまの仇、必ずお取りいたしますわ」

『……お願い……射出タイミングをイベリスに譲渡する』


 武器を強く握りしめ、イベリスは過去の記憶を思い出す。

 自分に力が無かったせいで、多くの仲間が傷つき、倒れて行った。

 だが、今は違う。

 更に強力な義体と、力を手に入れた。


「AS-105-05・イベリス・センペルビレンス、出撃を致しますわ!!」



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