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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
モミジガサ編
247/343

接触 後編

 会食から二時間後。

 ロゼ達は何とか追跡を振り切り、近くの森林へと身を隠していた。


「あいつ等、滅茶苦茶しやがって」

「ああ、陛下も、ルアンダ殿下も、元老院の方々も捕まってしまった、薔薇騎士団として不甲斐ない」


 騎士団たちは、傷の手当を行いながら現状に嘆いていた。

 何しろ、せめてレリアだけでも助けろと、オレアとルアンダが囮を申し出たのだ。

 二人だけでなく、会食に出席していた元老院たちも、その身を呈してくれた。

 とはいえ、民家の近くだというのに、ミサイルだのバルカンだのをかましてきていた。

 五人だけで、自分たちと同人数の人を連れて行くのは難しい。


「仕方ないわよ、だって、アイツらが相手なんだもの」

「ッ、殿下」

「もうし訳ございません、弟君とお父上を救えず……罰を受ける覚悟は、ございます」


 話しかけてきたレリアに、騎士団メンバーは頭を垂れた。

 とはいえ、やむを得ない決断でもあった。

 敵は駐屯している部隊だけとはいえ、火力が違いすぎる。

 薔薇騎士団の人数は五人。

 むしろ近代兵器を相手に、よく逃げ切れたと言える。

 と言うか、ほとんど痛み分けのような結果でもあった。


「良いのよ、それより、今貴女達に罰を与えたら、誰が私の事を守るの?」

「ッ、もったいなき、お言葉……このウルメール、ミュンスター家再興のため、必ずやお役に立って見せます」

「このアンリ・マルタンも、誠心誠意姫様をお守りいたします」


 戦斧使いのウルメール、ハルバード使いのアンリは、レリアに改めて忠誠を誓った。

 二人共、身分的には底辺の貴族。

 採用の為の試験時にロゼとレリアに戦いの才能を見込まれ、スカウトした経緯がある。

 そのため、自分たちを拾ってくれたレリアの為であれば、死ぬ覚悟だ。

 とはいうものの、レリアとしては命大事に、が望ましい。


「その意気だけど、命は大事にね」

『はい!』

「良い返事だが、もうちょっと声押さえろ」

「まぁまぁ……あ、誰かナイフ持ってない?」

「え……あ、こちらに」

「ありがとう」


 アンリからナイフを借りたレリアは、ドレスの丈を詰め始める。

 その様子を見た騎士団たちは、驚きの声を上げてしまう。

 何しろ、レリアの着ているドレスは、貴族でも手が出ないような代物。

 それを無造作に切り裂いているのだから、もっともな反応だ。


「で、殿下!」

「そんなお高いドレスに何てことを!!?」

「まぁまぁ、こんな状況じゃ、ドレスなんて、ただの布よ」

「そ、そうかもしれませんが」


 丁度いい丈に詰めると、今度は切った時にでた布切れを足に巻き付けていく。

 元々ハイヒールをはいていたのだが、逃げる時に脱ぎ捨てていた。

 ここまで無理矢理走って来たが、そろそろ足が限界だった。

 強度のある素材なので、十分靴代わりになる。


「ところで暇様、どこかアテは有るのですか?このまま逃げていても、いずれ」

「そうね……一先ず、レンズに向かいましょう、歩きで三週間はかかるだろうけど」

「な、なぜそのような所に?かなり辺境の地ですが」

「そこなら頼りになる人が居るのよ、事情さえ話せば、匿ってくれるわ」


 ウルメールの疑問に答えたレリアは、即席の靴で立ち上がる。

 足元の小石やら虫やら枝やらが気になるが、今は歩ければ問題は無い。

 当面の目的は、レンズ町に居るアラクネと合流する事。

 彼女であれば、蜘蛛達の森にでも隠れさせてくれるかもしれない。


「さ、行きましょう、徹夜で歩けば、アイツらの捜索にはひっかかり辛い筈よ」

「りょ、了解!」

「無理をなさらないでくださいよ」

「ええ、でも、向こうはこっちの十倍速く行動ができると思いなさい、休むのは、次の町に着いてからになりそうよ」

『御意!』


 五人の返事と共に、レリア達は行動を開始。

 深夜の森を歩く何て、言語道断と言えるだろう。

 だが、連邦側がどれだけ早く動けるか、今の所は想像しかできない。

 それ故に、今は最寄りの町へ急ぐ。


「……」

「どうかしたのか?アンクル」

「あ、アンリ……ごめん、ちょっと気になる事が有って」

「気になる事?」

「ええ……」


 アンクルは、眠気覚ましを兼ねたおしゃべりをする、レリアとロゼを視界に入れる。

 二人が話に夢中になっている事を確認し、アンリと話を始める。


「その、殿下と隊長って、敵の事詳しすぎだと思って」

「……確かに、アンタのメイスも、アタシのハルバード、それに……」


 話の腰を折る様に、アンリは最前列の団員に視線を送る。

 危険なので、交代で立つ事に成っている位置を歩くのは、トゲ付き鉄球を持つ少女。

 大きさはバスケットボールより大きい鉄球を、鎖でつないだ凶悪な武器だ。

 だが、武器の話をしているのだが、どうしでも使い手の方に目が行く。


「フヒ、フヒヒヒ、来てみなさい、ヒヒ、異世界人、ヒヒ、今度も、ウヒ、また、これで滅殺してやる、イ、ヒヒヒ……」

「(選ぶとき、もうちょと人格に目をやるべきだったわね)」

「(まぁ、根は良いなんだけど、せめて笑い方どうにかしてくれ)」


 クセの強い話し方をする彼女は、ミシェル・メイアン。

 この中で唯一、冒険者から志願してきたメンバーだ。

 笑い方や喋り方に問題があるだけで、根は良い奴と言うのがロゼの評価。

 事実、ロゼの鼻でも、レリアへの忠義は感じ取れている。


「……うん、まぁ、とりあえず、私達の武器は、身体強化を使えばあいつ等に有効、それは今までの戦で証明された」

「そ、そうだな、うん……その事知ってるんなら、こんな上位の魔物討伐する時みたいな装備、騎士に必要ないもんな」


 ミシェルの不気味さに押されながら、レリア達が何故自分たちを集めたか考察した。

 二人の立てた仮説では、レリア達は異世界からの来訪者が来る事を知っていた事になる。

 そして、彼らが駆る兵器に対抗するべく、薔薇騎士団を結成した。

 そう考えると、今まで大型の敵や、人間の兵士と戦う訓練をしてきた理由も頷ける。

 一番疑問なのは、レリアがどうやってその情報を得たか、である。


「……でも、そうなると、殿下はどうやって敵の情報を……」

「さぁな、けど、それもレンズって町に行けばわかんだろ、多分そこに協力者がいる」

「そうね……罠でないと良いけど」

「ッ!敵襲ぅぅ!」


 アンクルの心配が命中するかのように、ロゼの叫び声が森中に木霊した。

 会話で少しだけ気が緩んでいた二人だったが、ロゼのおかげで我に返る。

 騎士団たちは上空からの攻撃を回避、先ほどまで彼女達の居た場所は爆散する。

 回避に成功した五人は、レリアの事を囲い込み、円陣を形成する。


「バカな、何故ここが」

「いくら何でも早すぎる」


 辺りから感じる気配を警戒しつつ、五人は武器を構える。

 レリアは、思っていた以上のスピードに驚きながらも、最初の攻撃が行われた方を見上げる。


「(信じられない、敵は私達の予想以上ね)……さっきの爆発は、あれね」

「そのようですね」


 レリアの視線の先に映るのは、一機のエーテル・アームズ。

 一門のランチャーと、巨体を覆う程の盾を持つ機体は、ゆっくりと彼女達の前へ下り立つ。

 その機体に続き、ランチャーの代わりに手斧を持つ個体と、歩兵部隊が次々と降下。

 完全に取り囲まれながらも、ロゼ達は戦闘態勢をとる。


『レリア殿下、お迎えに上がりましたよ』

「お迎え、それって天からの?それとも、アルセアからの?」

『当然アルセア陛下からのお達しです、反逆者に捕らえられた姫様の救出を頼まれまして』

「……そう(こいつ等、あくまでもロゼ達を悪人に仕立て上げるつもりね)」


 展開する連邦兵たちを睨みながら、レリアは姑息なやり方に腹を立てた。

 状況的に見ても、ロゼ達に誘拐されたといわれれば、そう見えるかもしれない。

 だが、そんな事は承知なのか、ルプスクリーガに乗る兵士はためらい無く声を発する。


『テロリストに告げる、ただちにレリア殿下を解放しろ、要求に応じない場合、命の保証はできない』

「(よく言う、姫様を渡しても、どうせ私達ごと殺すつもりだというのに)」


 開放してもしなくても、結局待っているのは死。

 ロゼはルプスクリーガのパイロットから漂う臭いから、明らかな殺意を感じた。

 最後まで抵抗する意思を見せる様に、ロゼは武器を構える。

 彼女に続き、薔薇騎士団の面々も武器を向ける。


『……交渉決裂、か』

「ああ……姫様を守れ!!」

『了解!』


 ロゼの叫びと共に、騎士団たちは行動を開始。

 振り上げられた斧やメイスと共に、敵へと接近。

 だが、目の前に居る彼らからは、恐怖を感じない。

 どちらかと言えば、余裕ともとれる怪しい気配だ。


「(なんだ?こいつ等、今までの連中と違う)」


 敵へ向かうロゼは、目の前に居る連邦兵たちの異質さに気付く。

 追撃をしてきた連中は、みんな接近するだけで怖気づいていた。

 だが、目の前の兵士達は、怖気づくどころか、不敵に笑っているように思える。

 フルフェイスのヘルメットで、表情は見えなくとも匂いは正直だ。

 その正体を知る前に、ルプスクリーガの持つ盾が展開する。


『威勢のいいウサギだ』

「ッ!?なんだ?」


 見下すような発言をされた瞬間、全ての盾から衝撃波のような物が発生。

 ロゼ達とレリアは、身体になにかが通ったかのような感覚を覚えた。

 痛みも何も無く、何かが通り過ぎた。

 妙な感覚を覚えていると、ロゼはその場に転んでしまう。


「ッ、なん、だ……」

「体が、言う事を、聞かないっ」

「いった、い、何を、した……」


 ロゼだけでなく、他のメンバーやレリアまで倒れだした。

 全員武器を持つ事はおろか、ろくに喋る事もできずにいる。

 それだけでなく、全身の魔力の流れに不調が出てきている。

 状況が一切解らない彼女を見下すように、最初のルプスクリーガがロゼの前に立つ。


『何をした、か、強いて言うのであれば、これは天罰だ』

「てん、ばつ……」


 何をバカな事を。

 そう思うロゼへと、ランチャーが向けられる。


『そうだ、我々の目指す、人類の崇高なる世界を邪魔しようという輩に与える、天罰だ』

「(成程、八千もの軍勢を無傷で相手にできた理由はこれね)」


 話を聞いていたレリアは、去年のできごとを思い出した。

 少ない手勢で、八千もの軍を相手にして完全勝利する。

 撃つ相手が一切抵抗できないのであれば、ただ張りぼてを壊すように簡単だ。


「(でも、今はそんな情報、意味が無い!)」


 だが、今のレリアにそんな情報や真実はいらない。

 ロゼに向けられている砲は、今にも放たれそうなのだ。

 この状態では、ロゼの鎧も機能しないだろうし、単純な防御を落ちている。

 何とかして助けに行きたいが、もう呂律すら回らなくなってきた。


「(ロゼ、ロゼ……)」

『では、排除します』


 パイロットの一言と同時に、彼女達の周囲から落雷のような音が響いた。

 その音は、一度だけでなく何度も響き渡り、同時に金属音をとどろかせた。

 先ほど地面を撃った時のような爆発音は、一度も鳴っていない。

 そんな事態に、レリアは恐る恐る顔を上げる。


『な、何者だ!?ッ、クソ、メインカメラが!』

「な、何が起きて……」


 先ほどまでロゼにランチャーを向けていた機体は、まるで針山のようになっていた。

 上半身の至る所に、金属でできた矢が複数本突き刺さっている。

 そのおかげで、砲撃は止められたらしい。

 だが、周りのルプスクリーガも、同じ場所が同じ武器で潰されている。

 その認識ができた頃、更に別の音がレリアの耳に入り込む。

 男女の声が入り混じる雄叫びと共に、その声の主たちは現れる。


「突撃しろぉ!!」

「レイヴン隊に後れを取るな!我々オセロット隊が手柄を上げる!!」


 空中からは、弩や剣を装備し、機械の羽を持つ部隊。

 地上からは、馬のように大きな狼の魔物に搭乗し、戦斧や弩を装備する部隊。

 同数の歩兵部隊達が駆けつけてくる。

 敵の増援かと思ったが、全くの取り越し苦労。

 現れた部隊は、レリア達を包囲していた連邦兵を次々と葬って行く。


「クソ!何だ!?こいつ等は!!」

「増援部隊じゃない!こいつ等敵だ!」

「何でエーテル兵器を持ってる奴と戦う事になるんだ!?」

「(あれは、エーテル・ギア、それに、あいつ等の乗っている魔物は、ダークネス・ウルフ!)」


 完全に奇襲を受けた連邦兵は、状況について行けていない。

 その隙をつくかのように、駆け付けてきた部隊は獅子奮迅の活躍を見せる。

 あの天罰とやらも、彼らには無意味なようだ。

 天罰だけをアテにしていた彼らにとっては、対処の出来る相手ではない。


『チクショウ!ブレイン・ジャマーが効かない!』

『目を潰したからって、いい気になるな!』


 ルプスクリーガ達も、襲撃者たちを相手にし始める。

 だが、目や腕を潰された彼らは、もはやただのカカシ。

 通り過ぎ様に振るわれる斧で、四肢は簡単に切断。

 そこへトドメと言わんばかりに、弩やダークネス・ウルフの魔法が繰り出される。

 地上の部隊に、なす術もなく始末された。


「ひけ、引けぇ!」

「こんなの聞いて無いぞ!」

「逃がすものか!」

「一人たりとも生きて返すな!」

「せめてその首を置いて行け!!」


 すっかり逃げ腰な連邦兵でも、彼らは容赦しない。

 逃げようとする者にも、容赦なく弩を繰りだしている。

 アダマント合金の装甲を貫く矢は、エーテル・ギア程度は簡単に貫徹。

 身体の一部が吹き飛び、上半身と下半身がお別れするような威力がぶつけられた。


「よし、要救助者を確認しろ!すぐに保護するんだ!」

「他の者は周辺を警戒!敗残兵を確認しろ!」


 あっという間に連邦の部隊を蹴散らした彼らは、急いで周辺を警戒しだす。

 一部のメンバーは、倒れるロゼ達の手当てに回る。

 そして、手当てに回った部隊の内、数名がレリアの元へとかけよって来る。


「ッ、あ、貴方たちは?」

「安心してください、我々は貴女の味方です」

「無事で、よかった、二個分隊しか、連れてこれなかった、けど、十分すぎた」


 衛生兵に面倒を見てもらいながら、レリアは一人だけ異質な存在を見つけた。

 彼女だけは、何故だか生気を感じない。

 まるで、リリィの時のように。

 リリィに似た少女は、レリアの前に立つと、フルフェイスのヘルメットを脱ぎだす。


「ッ、り、リリィ?じゃ、ない、のね」

「うん、初めまして、私は、AS‐103-04ヘリアントス、ヘリアンと呼んでください、レリア殿下」


 レリアの前でひざまづいたヘリアンは、挨拶を済ませると、衛生兵と一緒に彼女を担ぐ。

 そして、降下してきたヘリへと、レリアを乗せる。


「どこへ?」

「私達の町、そして、反撃の為の、拠点」

「反撃の、拠点」


 疲れ果て、意識を飛ばしたレリアを乗せ、ヘリは飛び立つ。

 日の出を背にして。



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