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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
モミジガサ編
246/343

接触 中編

 レリア達姉弟が言い争った日から三日後。

 ルアンダはレリアの部屋を訪れていた。

 用意された円卓を挟み、椅子に腰かける二人はにらみを利かせる。


「それで、話とは?」

「単刀直入に言います、姉上、どうか今宵の晩餐会で、融和の路線を推し進めてください」

「……またその話ですか、以前も申し上げましたが……」

「それは百も承知、ですが、私の考えを認めずとも、せめて兄君にだけは御用心ください」

「ッ、そうね……」


 深々と頭を下げながら、ルアンダは注意喚起を行った。

 彼の反応をみて、レリアも考え込む。

 彼女の様子に、ルアンダはアルセアの悪癖について思い出す。


「(やはり、厄介なのは兄君だ、あの人は自分を優秀だと勘違いしているし、持ち上げたらすぐに有頂天になる悪癖もある、もしも奴らにその事を知れたら……)」


 レリアは奇行に走る心配は無いが、ルアンダにとっての問題はアルセアだった。

 弟として一緒に学問や武術を学んだだけあって、ある程度のクセは把握している。

 それ故に、すぐにその気になられては、連邦達に利用される可能性が高い。

 レリアもアルセアの悪癖も承知しているので、恐らくこの提案には頷いてくれるだろう。


「……彼ら異世界人が、この世界に訪れてから、世界は未だに混乱しております、噂によれば、最近妙な組織が確認されているとも」

「……そう、市民の中にもそんな動きが」

「はい、晩餐会では、私の考えを推し進めなくとも、兄君が懐柔されぬように、ご用心頂ければ」

「……そうですね、妥協と助言をありがとうございます、姉として、貴方の成長は誇りに思います」

「ありがとうございます、姉上」


 ――――――


 しばらくして。

 ルアンダとの話を終えたレリアは、訓練を終えたロゼを呼びつけた。

 自室に招かれたロゼは、レリアにベッドの上へと押し倒されてしまう。


「ロゼぇ~、信用できるのはもう貴女だけよぉ~」

「(ぷしゅ~)」


 ロゼの顔を自身の胸に押しあて、その頭をなでながら褒めたたえる。

 しかも転がっているのはレリアのベッド、何時も以上にレリアの匂いがロゼの鼻を襲っている。

 そんなご褒美の欲張りセットのせいで、ロゼはすっかりオーバーヒート。

 頭のウサ耳も、すっかり真っ赤になっている。


「……それに、最近、色々雲がかかっているし」

 ※約・アラクネからの連絡が無い。

「ッ……そ、そうですね、ただ、綺麗な雲です」

 ※約・アラクネからの情報は、しっかりと記憶しています。

「ええ、そうね」


 お互いに隠語を使いながら近況を報告すると、二人は上体を起こす。

 手を握り合い、レリアは疲れた表情でロゼに笑みを浮かべる。


「……ところで、最近手紙は書いているの?」

 ※約・向こうの世界の言葉は、しっかり覚えてる?

「ッ……え、ええ、はい、そこそこ」

「そう、それは良かったわ」


 ロゼからの話を聞いたレリアは、ベッドから立ち上がる。

 今日は連邦から派遣された使節団と会食がある。

 イリス王国元老院の重鎮も来ており、会食の後で会議も行われる予定だ。


「さて、私はこれから晩餐会だから、ロゼ、周辺の警備をお願い」

「……はい、お任せください」

「あ、それから」

「はい?」


 ロゼに今日の会食の警備を頼んだレリアは、ベッドから立ち上がったロゼの顔を抑える。

 一瞬動揺したロゼの隙をつき、レリアは自分の唇をロゼへと押し当てる。


「ッ!」

「……ん……プハ、それじゃ」

「ひ、ひめ、ひゃま」

「ん?何?」

「きょ、これは?」

「ん~、行ってきますのキスだって、向こうの人たちがヒソヒソと」

「ッ(あの蜘蛛女……グッジョブ!)」


 アラクネから聞かされた謎文化に、ロゼは心から感謝した。


 ――――――


 会食が行われている頃。

 ロゼは上機嫌に頭のウサ耳をピクピク動かしながら、会場の外の警備を続けていた。

 会場となっているのは、城の中にある広間。

 ロゼは周辺の通路の警備に当たっている。


「フフ、姫様からの接吻……それに、えへへ~」


 ニヤニヤと緩むホホを両手で抑えているが、これでもちゃんと警戒している。

 と言っても、最近は怪しい臭いがそこかしこから臭う。

 おかげで、不審者かどうかなのか少しわかり辛い。

 それに、この会食の警備には連邦の兵士も配備されている。

 ロゼとしては、彼らの事も警戒しなければならない。


「……ふぅ、お遊びはここまで、いっそう警戒するか」


 目を閉じたロゼは、嗅覚をさらに研ぎ澄ませる。

 香って来る会場内部と周辺の人間の匂い、その数は今の所問題は無い。

 だが、異世界の香辛料や料理の香りのせいで、少し認識が困難になっている。


「……美味そう……い、いやいや!集中しろ、集中」


 匂いだけで美味しいと解るような料理に、気を緩めかけながらもすぐに引き締める。

 騎士として粗食に慣れるため、最近は未調理の食材ばかり食べていた。

 おかげで、食欲が刺激されてしまう。

 しかし、そんな事をこらえられないようでは、旅の時に何度レリアを襲ったか解らない。


「あ、隊長」

「ん、何だ、アンクルか」

「何だって何ですか……」


 匂いで警戒を続けていると、ロゼの部下が一人話しかけて来た。

 紫色にペイントされた鎧をまとう女騎士だ。

 アラクネからのアドバイスで、新たに編成された騎士団のメンバーである。

 ロゼを筆頭に、騎士や冒険者から選抜した精鋭だ。

 と言っても、志願制だったので、大半は貴族の出身だ。


「それよりも、私を含め薔薇騎士団四名、配置につきました」

「そうか、何か有った時は、すぐにでも姫様の元に駆けつけられるようにしておけ」

「了解、では、持ち場へ戻ります」

「ああ……だが、くれぐれも気を付けろ、奴らが何かをするつもりなら、今日をおいて他は無い」

「は、このアンクル・ウォルター、家の名に恥じぬ働きをします」


 敬礼をしたアンクルは、持ち場へと戻って行く。

 薔薇騎士団は総勢五名と、とても騎士団と呼べる数ではない。

 その分ロゼとレリアが、目利きを利かせた実力者たちを集めた。

 アンクルも、ロゼと互角に打ち合える程の実力を持っている。


「(さて、私も警備に戻るか)」


 アンクルを見送ったロゼは、警戒を再開。

 意識を嗅覚に集中させ、夜風の運んでくる匂いをかぎ取って行く。


「(ん、食事が終わったか、おかげで匂いが拾いやすい)」


 どうやら、食事の関係が終わったらしく、先ほどまでの香りが弱まっている。

 色々好都合だったので、外と内部の両者に警戒心を向けていく。

 嗅覚が鋭いので、スパイスやハーブの香りが有ると、どうも鈍ってしまう。


「……ん?……悪意の臭い」


 僅かであるが、確かに悪意を感じ取った。

 会場内ではない、外部から漂っている。

 風に乗って来るわずかな臭いを頼りに、臭いの元を探し始める。


「(どこだ?この悪意は、一体どこから……ッ)」


 探し回っていると、二人分の話し声を認識。

 同時に臭いの元とも言える位、悪意の臭いが強まる。

 通路の角に隠れながら、その話に耳を立てる。


「(……この言葉、異世界の連中か)」

「《ああ、外交官殿が、無事だき込めたようだ》」

「《それは良かった、人類の崇高な世界の為だ、あの傲慢な殿下殿を利用させてもらおう》」

「(傲慢な殿下……まさか、アルセア殿下が)」


 向こうの世界の言葉であれば、聞かれても大丈夫。

 そんな油断でもあったのだろうか、ベラベラ情報をはいてくれた。

 だが、ロゼもレリアと共に異世界の言語を学んでいた。

 そのおかげで、所々解らない単語は有っても、何を言っていたのかはわかる。

 ロゼは、内からあふれる怒りを抑えながら、二人の連邦兵の前に立つ。


「《まて》おや、これはこれは、ロゼ殿」

「今夜は我々の関係を決める、大事な場です、お互いに頑張りましょう」

「……」

「ロゼ殿?」


 何とも流ちょうに言葉を発する連邦兵を前に、ロゼは静かに睨む。

 彼女の様子に、首を傾げる連邦兵。

 この数秒だけで解る、彼らが遠距離武器に頼り切りの新兵という事が。

 何しろ、至近距離で殺気を当てているというのに、何の反応も見せないのだから。


「……《それ、良い銃だな》」

「は?」

「ッ」


 無効の世界の言葉で話したロゼは、背中の剣を引き抜く。

 目にも止まらぬ速さで、連邦兵の両手を切断。

 痛みの反応を示す前に、切っ先の斧の部分を兵士の股に引っ掻け、持ち上げる。


「《ギャアアア!》」

「《この、クソアマ、何しやがる!?》」

「《手が無ければそのオモチャもただの鉄の塊だ……いや、それよりも、殿下を抱き込んだとはどういう事だ?》」

「《な、何で俺達の言葉を!》

「《質問する権限はこっちにある》」

「《ギャアア!》


 両手の出血は、スーツの止血作用で止まっている。

 だが、ロゼの剣でひっかけられている股間部は、そうはいかない。

 刃が深々と食い込んでおり、スーツの方も傷を塞げずにいる。

 ちょっと動かせば体重で更に食い込み、かなりの激痛が襲う。


「《答えろ、お前たちは何をしようとしている?》」

「《お、お前何かに、言ってたまるか》」

「《そうだ、人類の崇高なる世界の為にも、拷問ごときで屈するものか……》」

「《……そうか……確かその服、血は止まっても、痛みは有るのだろ?》」

「《な、何を》」

「《それに、お前たちにとって、手足なんぞ有って無きような物だ》」


 恐怖におびえる連邦兵へ、ロゼは更に強烈な眼光をぶつけた。


 ――――――


 ロゼが拷問を始めた頃。

 会食を終えたレリア達は、会議へと移行。

 始まった瞬間、アルセアの発言に場が氷付いてしまっていた。


「……あ、アルセア、貴方、今何と」

「姉上、耳が遠くなりましたか?彼らと共謀し、この世界を統合するのですよ」

「……貴方、一体何を吹込まれたのですか?」


 以前までアルセアは、連邦達を追い返してやろうと言っていた。

 それなのに、攻めようとしている対象が自分たちの世界へ変わっている。

 しかも、あんなに嫌っていた連邦と、手を結ぼうなどとも言っている。

 その変わりように、ルアンダは席を立ちながらマクスウェルへ声を上げだす。

 何しろ、アルセアの言葉を聞いた時、マクスウェルは妙な笑みを浮かべていたのだから。


「マクスウェル外交官!兄君に何を吹き込んだのですか!?」

「吹き込む……はて、なんの事やら……誠に勝手ながら、非公式に会合は行いましたが、その時にお話をしたのみですよ」

「そうだぞルアンダ、俺はこちらの外交官と話をしたのだ……姉上もお父上も、よくおききください」


 立ち上がったアルセアは、会議のホストであるオレアの元へと移動し、隣に立つ。

 すると、何かを崇拝するかのように、演説を始める。


「この世界は、人類の崇高なる世界の為に、改革・革命・革新が必要なのだ!魔物の脅威があるとはいえ、未だに統一されていない、しかし、彼らは違う、かつては我々同様に、国同士はバラバラだった、だが、世界を一つにする事で、こうして異世界へと自力で渡り歩く程にまで進化した、なんとも素晴らしいと思わないか!?」

「流石はアルセア殿下、ご理解が早い」


 外交官のマクスウェルは、アルセアの演説に拍手を送る。

 他の外交官たちも彼に続く。

 異様な拍手が響く中で、レリア含めた異世界の面々は呆気にとられる。

 このアルセアの変わりようには、同席していた穏健派と過激派の有力者も同じ意見を持つ。


「き、貴様ら!殿下に何を!?」

「この変わりよう、明らかに異常です!」

「……フ」


 二人の発言に、マクスウェルは拍手を止める。

 他の外交官もピタリと拍手を止めると、マクスウェルは話を始める。

 その話に、レリア達は疑心の心で耳を傾けだす。


「先ほどから言いがかりを……私の話に彼が酷く共感してくれたのですよ、故に、我々は口だけで、彼を説得したのです」

「ッ……確かに、貴方方が私の弟に何をしたのか、証拠が有りません、ですが、我々の世界を侵略しようなどと」

「侵略ではありません、統治するのです……それに、この世界の実質的な指導者も、自治権も、貴方方に有る事に変わりは有りません、我々はただ、お貸しした戦力の見返りを貰えれば、それでよいのです」

「ッ」


 レリアは、マクスウェルの言い分に言葉を詰まらせる。

 何しろ彼らの行う事は、ただの軍事支援。

 貸した戦力の見返りとして、例の鉱物資源開発を進める。

 しかも、アルセアが何かをされた証拠はない。

 筋は通ってしまっている。

 マクスウェルの方へと移動したアルセアは、彼の片に手を置き、言葉を肯定する。


「その通り、世界は統合されなければならない、そして、統合された二つの世界が協力しあう事で実現するのだ、人類の崇高なる世界が」

「そう、人類の崇高なる世界の為に、どうぞ、ご協力を」

「……マクスウェル外交官、証拠が無いとは言え、そのような事はお受けいたしかねる」

「……そうですか、残念です、できれば、検討だけでも」

「その必要はございません!」


 話をしていると、会場の扉が勢いよく開く。

 すると、ロゼを含めた騎士五人が連邦兵を捕縛して、部屋へと入って来る。

 彼女達が捕まえた連邦兵たちは、拷問の結果、全員四肢が斬り落とされている。

 彼らをその辺に捨てると、騎士団たちは手持ちの武器を構えだす。


「ロゼ、それはどういう意味だ?」

「ご無礼をお許しください、ですがアルセア殿下は洗脳の類がなされていると、こいつ等が白状いたしました」

「グ」

「……という事ですが?これは、いかがな事でしょうか?マクスウェル外交官」

「……はぁ」


 兵士を踏みつけたロゼの言葉で、オレアはマクスウェルを睨む。

 だが、マクスウェルはため息をつくと、呆れた表情でロゼやオレアを見下す。


「やれやれ、一介の兵士如きの言葉に踊らされるのですか?それに、これは明らかな先制攻撃と取りますよ」

「申し訳ないが、彼女は優秀だ、ウソの報告は決してしない」

「(すいません、姫様の関係に関しては滅茶苦茶ウソの報告してます)」


 オレアに対しに、マクスウェルはまるで、ウソの報告を真に受けたかのような発言をした。

 だが、オレアは自らの愛娘を命がけで守り続けるロゼが、そんな事をするとは思っていない。

 それだけ信頼を寄せている発言を前に、ロゼは罪悪感に襲われた。

 レリアとの逢引だの、ジャックの事だの、そう言った事は嘘で固めてあるのだから。

 しかし、今はそんな事を言っている場合ではない。

 状況的に見ても、これはロゼによる攻撃と取れる。

 その大義名分を手に入れたマクスウェルは、隠し持っていたボタンを押す。


「ッ!」

「何だ!?」

「申し訳ございませんが、こちらも武力をもって、わが身を守らせていただきます」


 ボタンを押した瞬間、城中にサイレンが響き渡った。

 ロゼ達は瞬時にレリア達王族と、元老院の近くに寄る。

 外交官たちもテーブルから距離を置くと、会場の扉が更に破壊される。

 土埃から出てきたのは、巨大な金属の人形。

 そして、数十名のヴァルキリー隊だ。


「チ、見るからに厄介な連中を」

「……あれが、エーテル・アームズ、ロゼ、行ける?」

「やってみせます」

「どうでしょう、我々の主力機、ルプスクリーガ、怪我をしたくなければ、すぐに武器を」

「暇様たちを守れぇ!!」

『オオオオ!!』

「な!?」


 ロゼの叫びで、薔薇騎士団はそれぞれの武器を手に連邦兵たちへ襲い掛かる。

 巨大なメイスに、斧、ハルバード、トゲの付いた鉄球。

 いずれも、彼女達の身体能力と合わせれば、エーテル兵器には有効な武器だ。

 ルプスクリーガは、ロゼが大剣で両断。

 残りの歩兵たちは、部下のアンクルたちが蹴散らした。

 その様子を見たアルセアは、声を上げる。


「チ、何をしている!?貴様の部下はそんな物か!?」

「ッ(うるさい駄犬め)いえ……《こちら、マクスウェル外交官!一部騎士団が謀反!オレア陛下と、レリア殿下、ルアンダ殿下、並びに元老院数名が人質に取られた!部隊の応援を要請する!》」


 マクスウェルの誤情報は、城中に響き渡った。

 いうなれば、この場に駐屯する連邦の部隊全員を敵に回したという事。

 この事態を前に、ロゼ達は逃げる以外の選択肢が無かった。


「クソ、ざれ言を……お前ら!姫様と陛下たちを連れて脱出する!進路は私が斬り開く!」


 次々と部屋へ侵入してくる部隊を、ロゼは次々切り伏せて行く。



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