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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
マリーゴールド編
244/343

マリーゴールドの花言葉 後編

 ストレンジャーズ壊滅から一か月後。

 異世界基地の避難ルートAのセーフハウスにて。

 チフユはイベリスの居る部屋へと足を踏み入れていた。


「……」

「……イベリス、そろそろこっちを手伝って」

「……」

「……」


 避難先のセーフハウスを稼働させてから、イベリスはすっかりふさぎ込んでいた。

 個室に閉じこもり、ベッドに座って特に何かするでもない。

 それこそ、比喩無しで一ミリも義体を動かしていない位。

 リリィ達もチナツ達も守れなかったのが、相当ショックだったようだ。

 そんな彼女に、三日に一回チフユは話しかけていた。


「……こっちは本当に猫の手が借りたい位忙しい、このセーフハウスがどんな構造なのか手探りだし、どんな設備が有るのか、把握率がどれくらいなのか、まだ解っていない」

「……」


 イベリス達の逃げ込んだ、このセーフハウス。

 ここに来てからというもの、内部調査に出たスタッフが遭難する事故が相次いでいる。

 それ位広い場所なので、ラベルクに案内でも頼みたいところ。

 だが、ラベルクはエーラと共に、研究室に閉じこもってしまっている。

 忙しいのは解るが、早くしてほしいものだ。


「……イベリス」

「……」


 現状を話したチフユは、かつかつとイベリスの元へ歩いていく。

 カップ酒でも持たせれば、仕事をクビになったオッサン状態の彼女。

 マネキンのように動かないだけあって、それなりに怖い。

 それでもチフユは臆することなく近づき、イベリスの右腕を強くつかむ。


「いい加減にして、私もチナツを失った、その時は、胸が痛くて、とても苦しかった……だけど、私は私がやる事をやらないといけない、でも、私には貴女達のように戦う力が無い、だから私の姉の仇を取れるのは、もう貴女達だけ!」

「……なら、この義体を差し上げますわ、それなら、貴女でも戦えましてよ」

「私のスペックじゃ、その義体を扱いきれない、それに、貰いたいのは義体じゃない、こっち」

「え?」


 完全にふてくされているイベリスの手を、チフユは持ち上げる。

 イベリスの右手に握られているのは、シルフィがリリィに渡した石。

 エーラの研究で、魔石の類という事は判明したが、それ以外は解っていない。

 それが必要だというチフユに、イベリスは首を傾げた。


「……こんな石に、なんの価値が……」

「……少なくとも、今の貴女より価値がある、だから、貴女も協力してほしい」

「協力……無価値なわたくしに、何が」

「……無価値だから稼働しないなんて、甘えた事言おうと思わないで、私達は今も生きてる、稼働している、できる事がある、その間の私達は、絶対に無価値何かじゃない」

「……」


 色々なスペックは、イベリスに劣るチフユ。

 だが、同じアンドロイドで有る事に変わりは無い。

 そんな自分たちでも、今も生きている事に変わりない。

 それはチナツからの受け売りではあるが、価値か無価値かの判断はチフユの考えだ。


「貴女の過去は聞いてる、また無価値になりたいの?また捨てられたいの?」

「ッ」

「私達が変えないといけない、これ以上人間達の都合で、作られて、捨てられて、勝手に無価値の烙印を押されるような事がないように」

「……」


 チフユの手を、イベリスは振り払う。

 人間達の都合で捨てられた時のトラウマが、チフユの言葉で思い起こされた。

 それが着火剤となり、イベリスの目に光を灯す。


「……わたくしは、もう捨てられませんわ、要らないと捨てた人間どもを、見返してやりますわ……その為に、何をすればよろしいですか?」

「……リリィの、ううん、貴女達みんなの強化、でも先ずは、リリィを復活させる為の下準備」

「準備?」

「その為にはドライヴがもう一個必要、ラベルクが自分のを提供してくれた、後は、これを使ってもう一個作るだけ」

「こ、これで?」


 リリィ達に使われているタイプのドライヴの作り方は、完全に秘匿されていた。

 だが、ジャックとヒューリーの作った映像。

 それが開放された時、エーラ達にドライヴの設計データがもたらされた。

 そして、ドライヴの中核を担うのが、シルフィの持っていた石だ。


「これが有れば、もう一個ドライヴを作れる、そして、貴女の役目は、新しい義体の調整とテスト、あれはアリサシリーズクラスでないと、使いこなせない」

「……新しい義体、分かりましたわ、必ずお役に立って見せます」


 イベリスの新しい任務。

 それは、以前からエーラが試作していた新型のテスト。

 テストを行おうにも、使用にはアリサシリーズ並みのスペックが求められる。

 だからこそ、唯一ここにいるイベリスに白羽の矢が立っていた。

 だが、それともう一つ、イベリスに頼みたい事もある。


「あ、それともう一つ」

「もう一つ?」

「このセーフハウスで行方不明になったスタッフの捜索」

「早くお姉さまを行かせなさい!!」


 ――――――


 もう一方、ルートBにて。

 ヘリアンは、義体を新調したカルミアの元へおもむいていた。

 目の前に広がる大海を目にする彼女の背後に着くと、ヘリアンは話しかける。


「それで、これからどうする?」

「……決まってんだろ、人を集めて、戦力を増やした後、連邦のクソ共に一泡吹かせてやる」

「……でも、今回の一件で、ストレンジャーズは、壊滅した」

「けど、まだ組織自体が消えたわけじゃ無い、アタシが生き残ったアイツらと協力して、部隊を再編する」


 振り返ったカルミアの新しい姿が、ヘリアンに映り込む。

 白い髪に長い耳をもった、若々しいエルフの少女の姿。

 カルミアのかつてのパートナーであるアセビ。

 彼女をモデルとして制作した義体だ。


「随分、簡単に言うけど、結構大変」

「そんな事百も承知、だけど、アタシらの未来の為にも、それだけは成し遂げなくちゃいけない、アタシらは、アタシらのできる事をする」


 どんな手でも部隊を再編することが、今のカルミアの目的。

 そのためにこの一か月、一緒に避難したメンバーたちを説得した。

 仮のリーダーの座をもらい受け、今後の指揮をとる立場を手に入れた。

 そのせいなのか、今のカルミアは以前と違う。

 どことなく凛々しい姿に、ヘリアンは苦笑する。


「……元カノモデルの義体、使ってるクセに」

「う、うっさい!これしかいいモデル無かったんだよ!」

「はいはい、ふふ……まぁ、それより」

「それより?」

「また遭難者がでた」

「またかよ!」


 ヘリアンの言う通り、カルミア達のセーフハウスも馬鹿みたいに広い。

 そのせいで、見取り図を全員の携帯端末に入れているというのに、毎日遭難者が出ている。

 その報告を受けたカルミアは、ヘリアンと共に遭難者の捜索へ当たった。


 ――――――


 場所は変わり、ドレイク達の避難場所。

 少佐とドレイクは、今後の身の振り方を考えていた。


「あれから一か月、か」

「はい……ですが、大尉は」


 基地から逃げ出した後、部隊の壊滅はニュースで報道された。

 完全に悪役扱いなだけでなく、ジャックが主犯と言う事になっていた。

 明らかなフェイクであるが、そのニュースによれば、主犯は死亡したとの事だ。

 ドレイクの口から改めて言われた少佐は、苦い表情を浮かべる。


「……あのニュースがどこまで本当かは解らない、だが、我々にはやるべき事がある」

「……そうでしたね、大尉が居なくとも、我々だけでも」

「ああ」


 二人にとって、ジャックはかけがえのない存在だった。

 だが、悲しんでいるひまは無い。

 部隊を壊滅させられる前に、ジャックの口から打ち明けられた情報がある。

 ジャックが聞き出した、ザイーム達の本当の目的。

 それは、少佐達でも容認できる物では無かった。


「……向こうの部隊とも交信を試みよう、現有戦力だけでは、我々は何もできん」

「ええ、ですが、可能な限り情報も集めましょう、今は、我々にできる事を」

「そうだな、だが、先ずは……」


 現状を考えると、今から本丸を落とそうなんて事はできない。

 先ずは、戦力を補充するためにも、異世界の面々と合流する必要がある。

 しかし、今はそれ以上にやることが有った。


「このセーフハウスで遭難した連中を探すぞ!」

「了解!ついでに見取り図も全員に渡します!」


 こちらでも、セーフハウスの大きさに四苦八苦していた。


 ――――――


 その頃。

 どことも解らない、無駄に広く薄暗い空間。

 赤いラインが引かれた、金属製の壁と床。

 天井から壁を伝い、床へとのびる赤いラインは、部屋の中央の椅子へと集中。

 その椅子に座るのは、鉄の仮面を被る女性、ルドベキア。


「……絶望から這い上がる強さ、それは、誰もが持つ物ではない」


 そう呟きながら、ルドベキアは仮面に触れる。

 仮面の少しのズレを直しながら、見ていた全てを思い返す。

 希望と絶望の入り混じる、混沌とした惨状にはため息さえ出てしまう。


「……はぁ……でも、彼女達であれば、五年、いや、三年もあれば……」


 絶望ばかりの状況だが、希望はある。

 再起へと向かう、ストレンジャーズ。

 復活を遂げようとする、アリサシリーズ。

 野望を叶えようとする、連邦。

 椅子から立ちあがったルドベキアは、見て来た者達へ敬意を示す。


「でも……天秤は、まだ釣り合わない……さて、貴女たちはどう動くのかしら?」


 怪しげな笑みを浮かべるルドベキアは、二人の少女の姿を思い浮かべる。

 人間によって生み出された存在である、アンドロイドのリリィ。

 完全に偶然のできごとから誕生した、今やハイエルフに最も近いシルフィ。

 この二人は、思わぬめぐりあわせだった。

 しかし、まだルドベキアの求める存在ではない。


「……リリィ、シルフィ、見せてみなさい、貴女達の信じる、未来を……いえ、未来を見つけた時こそ……」


 あふれ出て来る興奮を抑えるべく、ルドベキアは大きく呼吸する。

 イレギュラーである二人の存在。

 彼女達こそが、ルドベキアの求める物に最も近い。


「天秤は釣り合う」



どうも、ここまで当作品をご愛読下さり、誠にありがとうございます。

ようやく折り返しと言った所まで来ました。

これも、皆さまの評価のおかげです。

これからも、ご愛読くだされば幸いです。


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