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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
マリーゴールド編
238/343

勝者と敗者 後編

 戦闘開始から数分。

 突入した部隊は、ジャックの手で壊滅させられていた。

 彼らの素直すぎる銃の扱いで、射撃は容易に回避され。

 型にすっぽりとはまった剣は、意味を成さなかった。

 動きこそ機敏で士気も高かったが、練度の低さが目立っていた。


「やれやれ、どんな隠し玉が来るかと思ったが、こんな素人集団とはな……だが、お前だけは、他と違うみたいだな」

「はぁ、はぁ」


 唯一生き残ったのは、ハーフエルフの少女。

 彼女だけは、実戦を経験した事が有るのか、恐怖を克服している。

 ジャックを前にしても、動じる事のない肝の据わりよう。

 そして、チャンバラ感覚で振るジャックの剣に付いてくる技量。

 ストレンジャーズで言えば、中の上くらいには入る。


「どうした?こいよ」

「黙れ、お前のような反政府勢力が命令するな、軍の方々が私にもたらしたこの体で、お前を殺す!」

「やれやれ、もうテロリスト扱いか……その体になったのは、お前の選択か?それとも、強制か?」

「これは私の選択、人類の崇高なる世界の為に、私が選んだ事だ!」

「そんなフワっとした事で、よくもまぁ戦えるな」


 彼女を含め、口々に言う文句。

 彼らと戦っている内に、ジャックはその言葉の意味に気付いた。

 カルトの連中が、行き過ぎた信仰心を持たせるために洗脳する。

 そのやり方を応用した物なのだろう。

 大きな目的のために、口八丁で妄信させておけば、その身を捨てる位の覚悟はできる。

 所謂、一向一揆をさせられているような物だろう。


「(狂信、妄信、これを心の支えにしている奴は質が悪い、アル中、ギャンブル中の奴が、何としてでも、酒やかけ事をやろうとしている事と、そう変わらんからな)」


 ジャックからしてみれば、狂信者となった者は、何らかの中毒者と同じ。

 何かへの依存心と言うのは、強い意志を生む。

 いや、厳密には、意志を無くすほどに自我を消している状態。

 その事を自覚していない分、質が悪い。


「……お前は何のために戦う?その戦いの先に何がある?お前の考えを聞かせろ」

「うるさい!秩序無き物が、私を惑わすな!」

「惑わされてる奴が良く言う……(はぁ、何か最近、エルフ系が斬り辛い)」


 さっさと斬ってやりたいが、シルフィを娘と可愛がっている身。

 どうしても抵抗が産まれてしまう。

 だが、今は戦闘中、種族、性別、全て関係ない。

 しかし、実力的に引き抜きたい相手ではある。


「……どうだ?お前もこっちに来ないか?半年くらい前の戦いで、けっこう減っちまってな」

「うるさい!誰が悪の道に下るか!」

「……そうか?殺しやってる時点でどん底に落ちてると思うぞ?」


 勧誘を断られたジャックは、刀を少女へ向ける。

 彼女もブレードを構えているが、とても立ち向かえる状態ではない。

 身体は震え、心臓が激しく伸縮している。

 心身共に披露しきっている状態だ。

 だが、彼女の運はかなりの物だったようだ。

 もう一人増援として、この部屋へとやって来る音を、ジャックは拾う。


「……お、どうやら、お仲間が来てくれ、た」

「久しぶりだな、ジャック・スレイヤー」

「……」


 歩いて来たのは、戦斧を手にするダークエルフ、エレティコ。

 彼の姿を見た途端、ジャックは両目を見開いた。

 随分と前に殺した筈の男が、こうして現れたのだ。

 流石のジャックも、驚きを隠せなかった。


「……まさか、死人に会える日が来るとはな」

「ああ、たしかに俺はあの時死んだ、貴様らに俺達の傭兵部隊を壊滅させられ、ウィルにも裏切られた、そのツケを払ってもらう」

「裏切る?裏切ったのはお前らだろ、それに、お前ら傭兵団とか可愛い物じゃなくて、虐殺部隊だろ?非戦闘員も関係なく殺してりゃ、アイツも嫌気が刺す、それに、よくもまぁ生きてたな」


 もうハーフエルフの少女そっちのけで、エレティコと話していると、ジャックはウィルソンを引き入れた事を思い出す。

 ウィルソンとエレティコの二人、そして、メイルは元々、同じ傭兵団に所属していた。

 だが、内部分裂が原因となり、ウィルソン側とエレティコ側に分かれてしまった。

 結果的に、ジャックについたウィルソンが勝利。

 エレティコは、ジャックの手で殺された。


「ああ、お前らに刻まれたが、連邦共の施術のおかげで再生できた」

「……成程、あいつ等と同じ方法で蘇ったか」

「そうだ、お前たちを殺すためにな!」

「ッ(はやい!)」


 以前とはまるで違う、エレティコの動き。

 だが、彼のクセなどを覚えているジャックは、何とか反応し、斧を受け止める。

 とはいえ、この場所ではジャックは不利。

 その事を把握しているエレティコは、容赦しない。


「この場所にも、女子供は居る、そんな場所では全力はだせまい!」

「チ、覚えてやがったか」


 ジャックの技の大半は、周囲への範囲攻撃。

 しかも、炎が主体の攻撃であり、建物への影響は大きい。

 異世界のように木造が多くなくとも、燃える物は有る。

 雑兵ばかりだと、油断していたことが響いている。


「(しかもコイツ、色々どうしようもない奴だ、このモールが全壊しようが構わないだろうな)」


 エレティコの性格上、市民や建築物の被害は考えない。

 反対に、ジャックは被害を気にしてしまう。

 場合によっては容赦をしないジャックでも、民間人に対しては悪人になりきれない部分がある。

 冷酷に徹しきれているか、それが二人の優劣を決めていた。


「死ね!ジャック・スレイヤー!!」


 モールが全壊する事もいとわない程の力で振り下ろされた、エレティコの斧。

 もはや止める事も叶わない攻撃に、ジャックは身構えた。


「ッ!」


 イベリス以上の怪力で放たれたエレティコの一撃は、ジャックを押しつぶす。

 確かな手ごたえを感じたエレティコは、ハーフエルフの少女を見捨てて屋上へ退避。

 崩れ落ちるビルの上に立ち、周辺を見渡す。


「……仕留め損ねたか」


 聞こえて来たバイクのエンジン音に、エレティコはジャックの生存を認識。

 だが、彼としてはこれで良かった。

 連邦の上層が何を考えて居ようと、彼の目的は一つ。

 ウィルソンとジャックの抹殺。

 今はこうして、自分の体の戦闘力を知れただけで満足だ。


「まぁいい、続きは後日だ」


 ――――――


 その頃。

 命からがら逃げだしたジャックは、バイクを使って逃走していた。

 ノーヘルなので、職務質問されてもおかしくないが、そういう時は振り切る事にしている。


「ッ、あの野郎、前よりさらに強く成ってやがる……」


 エレティコの成長具合に驚きながら、ジャックはベース224へ向かう。

 傷は既に再生したが、後少し反応が遅れて居たら、身体が両断されていたところだ。

 もしも、彼が基地の制圧に加わるとしたら、七美の活躍が期待される。

 ウィルソン一人では、もしかしなくとも敗北してしまう。

 襲い掛かる不安に、ジャックはアクセルを握る手を更に強める。


「……頼んだぞ、七美」


 歯を食いしばり、ジャックは基地への足を速めた。


 ――――――


 しかし、ジャックと少佐の不安は的中。

 ジャックとエレティコの戦いがあった数日後。

 予測より早い襲撃に、基地は混乱。

 オマケに七美とドレイクは不在。

 それらが作用し、余計な犠牲が出てきてしまった。

 一部は作戦通り避難に成功したが、残りは捕縛。

 そして、基地は制圧され、この作戦の指揮官に、エレティコとイディオが呼ばれていた。

 別に褒めたたえる訳ではない。


「イディオ!何故あのアンドロイドを破壊した!?これでは残党どもが何処に逃げたのか解らないではないか!」

「フン!この世の穢れを一つ振り払ったのだ、有難く思え!」


 イディオが怒られる理由は、転移装置の部屋を爆破し、情報源のチナツを破壊した事。

 彼が身勝手に破壊したコンソールには、転移装置の座標などが入っていた。

 それに、チナツの記憶媒体は、逃げ場を正確に示している。

 それらを破壊したのだから、この罪は重い。

 だが、エーテル・ギアの装甲を全て金に塗装するなど、ある程度の無茶が許される身分。

 これも、彼が軍の幹部の子息だからだ。


「チ、中将の子息だからと言って……それに、エレティコ!あのダークエルフを殺すのは、貴様の悲願では無かったのか!?」

「俺が殺したいウィルソンは、あんなにも堕落した奴ではない、今の奴は、狩るに値しない、それだけだ」


 ウィルソンを殺すつもりで、この基地に来たというのに、みすみす見逃した。

 その事に怒られるエレティコだったが、彼なりの流儀でもある。

 以前の彼とは違い、堕落している部分を感じ取ってしまったのだ。

 それは、クレハへの恋心。

 そんな軟弱な感情を抱いたウィルソンを、エレティコは殺す気になれなかった。

 と言うよりは、獲物として狩る価値が無かったのだ。

 身勝手な二人の言葉に、司令官のクリュエルは胃を傷めてしまう。


「……まぁいい、大統領がお喜びになられている、多少の事は大目に見よう」

「フ、それがいい、もしも我に厳罰をくわえれば、貴様の首が飛んでいただろうな!」

「(このボンボンが)」


 高笑うイディオを殴らないように、必死に怒りを抑え込むクリュエルだった。


 ――――――


 一方その頃。

 マザーの有る部屋に、ザイームは降り立っていた。

 彼の知る一番の研究員たちを動員させ、掌握にあたっている。


「これがマザーか、ふふ、やはり、アイツらのような負け犬にはもったいない代物だ」

「現在の掌握率、七十パーセントを超えました」

「そうか、それはいい、続けたまえ」

「御意」


 不自然な位早く掌握が行われていく。

 その事に、多少の不安を覚えながらも、作業を続けさせる。

 八十パーセント、九十パーセントと、次々掌握して行く。

 そして、研究員たちの努力の末に、マザーの掌握に成功する。


「……よし、マザー掌握率、百パーセントです!」

「終わった~」

「やれやれ、ま、所詮は我々に敵う物では無かったな」

「よくやった、おい、働いた連中に報酬をくれてやれ」

「は」


 ザイームは取り巻きに、研究員たちへの報酬を要請すると、一人マザーの元へと歩いていく。

 研究員を退かし、コンソールへと手を置いて、自らの勝利に酔いしれる。

 彼の人生は、自らの手腕を用いて勝ち続ける日々だった。

 誰も信用せず、ただひたすらに勝ちの目を出す。

 敗北することは有っても、必ず這い上がり、負けた時以上の勝利を手に入れてきた。

 そして今回も、勝利した。


「これで約束されたな、私の夢見る、人類の崇高なる世界が」


 そんな中、研究員の一人が、有る事に気付く。

 彼が見ていたのは、ストレンジャーズ関係者全ての名簿。


「……ん?こ、これは!?」

「どうした?」

「す、ストレンジャーズ関係者のデータが、次々消えていきます!」

「何だと!?」

「それだけでありません、これは、このマザーは偽物です!ただのルーターの類でしかありません、しかも、すでにアクセスの為の回線が遮断されています!」

「……おのれ」


 部隊の面々が、故郷の世界に持つ住民票等。

 個人情報に関する、全てが削除されていた。

 つまり、元の世界に居る残党狩りの為に、彼らのID等を使う事はできない。

 今ここで捕えた面々以外は、完全に不明となってしまったのだ。

 この現状に、ザイームは拳を握り締める。


「負け犬の分際で……」

「ん?なんだ?」

「今度は何だ!?」

「こ、これをご覧ください」


 続いて、研究員たちが見つけたのは、ビデオレターのような物。

 どうやら、システムトラップの類のようだ。

 そして、流れて来たビデオを、ザイーム達は視聴し始める。


『イエーイ!悪人ども!見てるぅ~?今からお前たちに面白い物せてや』

『誰が寝取られビデオ作るって言いましたか!?』

『ブベラァァ!!』


 映像に出てきたのは、やたらとテンションが高いジャックと、彼女の事を蹴り飛ばしたラベルク。

 そして、はしたない姿を見せたと思い、服を直したラベルクは、カメラをヒューリーの方へ向ける。


『申し訳ありませんマスター、すぐに取り直しを』

『いや、いいアドリブだったよ、私も内心はそんな気持ちだった』

『……で、では、続けます』

『ああ、頼む』


 ジャックのアドリブのせいで、グダグダな映像であったが、ヒューリーは撮影を強行。

 微妙な空気にとまどうラベルクだったが、その辺はスルー。

 改めて神妙な面構えになったヒューリーは、着ているスーツを直し、予め考えていたセリフを発する。


『この映像を見ているという事は、どうやら、私の友人と娘たちは、してやられたようだ』

『ま、前が見えねぇ』

『……しかし、反撃のノロシとして、私は、私の友人達に、私の技術の全てを授ける、どうか、それで、生き抜いて欲しい、世界の祝福の為に』

「ッ」


 映像を見ていたザイームは、コンソールを叩き壊した。

 今回も完璧な勝利を収める筈が、こうして罠にはまった。

 その事が、どうも許せなかった。

 後、後ろでゴチャゴチャうるさいジャックが、シャクに障った。


「……おのれ、だが、ここまで来れば、我々の計画は王手、時間はかかるが、計画の完遂まで、後一歩だ……ベース224はどうなっている?」

「ッ、あ、えっと、現在、攻撃部隊が包囲したとの事です」

「そうか……ジャック・スレイヤーが前線にでたら、神の雷をくれてやれ」

「ッ、よ、よろしいのですか?」

「構わん!あの女に、目にもの見せてやれ」


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