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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
マリーゴールド編
237/343

勝者と敗者 中編

 爆破された地下の通路にて。

 ザイーム達は部屋のエレベーターで逃げたが、ジャック達は爆破に巻き込まれてしまった。

 だが、二人は生き延びていた。


「はぁ、アンタの予測通りだったな」

「ああ、だが、私の予測とやり方を、しっかりとやり遂げる君も、相変わらず凄い物だ」


 爆破の前。

 爆破される事を読んでいた少佐は、部屋を出た瞬間にジャックにしがみついた。

 そして、ジャックは言われた通りに、エレベーターへ直行。

 爆破される前に、エレベーターシャフトの中へ逃げ込み、難を逃れたのだ。


「しっかし、よくもまぁこうなるって予想できたな」

「あの部屋には、エレベーター機構のような物が有った、あいつ等はあの部屋ごとここに来ている、なら、このエレベーターと、無駄に長い通路は何のために有るのか、そう考えると、あいつ等がやる事は一つ」

「気に入らない奴を、生き埋めか」

「ああ、修復の方は、地盤沈下の工事だのと言ってしまえば、表に気付かれにくい」

「成程な」


 少佐の予測に感服しながら、ジャックはシャフトを登って行く。

 先ほどの爆破の衝撃でできた、周辺のコンクリートのヒビに指をかけ、少しずつ上へ進む。

 少佐を担いでいるせいで、指の負担が大きいのがネックだ。


「……やっぱり、あのオペレーションを実行するか?」

「当然だ、我々が彼らの要求を断ったいじょう、もう我々は用無しだろうな」

「そうか、七美が、守ってやれるといいが」

「……」

「どうした?」

「いや、私の取り越し苦労だと願う」


 シャフトを上がりながら、少佐はオペレーションの発動を決めた。

 だが、彼の腹の内では、心配事が巡っている。

 七美は、リリィ達と一緒に調査へと赴いた。

 もしも、その調査の最中に何かトラブルがあったら。

 そんな不安を、取り越し苦労である事を、少佐は願う。


「(だが、そうでなかったら、基地で必要以上の犠牲がでる危険がある)」

「……奴らの狙いは、リリィなのか?それとも、マザーか?」

「……恐らく、マザーだけだろうな、彼らは特異点を超えたアンドロイドは、忌むべき対象としている」

「だが、量子コンピューターは欲しい、か」


 難しい顔をする少佐に、話題を変える名目で、ジャックは話を振った。

 量子コンピューター・マザーの存在自体は、一般市民を除いて、随分前から知れ渡っている。

 政府関係者としては、喉から手が出る程欲しい物だろう。

 だが、リリィ達アンドロイドは、真っ先に切り捨ててもおかしくない。

 そんな話しをしている内に、エレベーターへ到着する。


「ついたか」

「ああ、今、床を壊す」

「わかった……」


 ジャックは、エレベーターの床を引きはがし、内部へ侵入。

 すぐさまエレベーターから出ると、周囲を気にしながら議事堂の外へと出る。

 その間に、少佐は思い出したジャックの言葉の意味をたずねる。


「……ジャック、お前は、自分の事を負け犬だと思っているのか?」

「いきなりなんだ?」

「さっき自分で言っていただろ」

「まぁな、だが事実だ」

「事実?」

「そうだ」


 こっそり議事堂の外へと出ると、ジャックはオペレーション開始の合図を行おうとする。

 体内に隠しておいた信号弾を、無理矢理引き出す。

 巻いていたビニールを取り、信号弾を上に構え、引き金を引く。

 それと同時に、少佐からの質問に答える。


「一部では百戦錬磨の精鋭部隊なんて呼ばれているが、実際俺は、戦争に勝った事が無い」

「……君にとっての勝利は、随分と複雑なんだな」


 撃ちだされた信号弾は、黄色の煙幕を撒きながら、上へと昇って行く。

 これで、オペレーションの開始が、同士達に伝わる。

 それが終わると、ジャックは信号弾を捨てて、二人で議事堂の敷地内から出る。

 警備が有るには有るが、これでも二人は隠密部隊の出。

 少佐も、多少の鈍りがあるが、まだまだ現役と言える動きを見せてくれている。


「流石だ少佐、ブランクがあるとは思えねぇ」

「誰が君に潜入のイロハを教えたと思っている」

「そうだったな、けど無茶すんなよ、もう歳なんだから」

「まだまだ若いのには負けん」


 そんな軽口を叩きながら、二人は敷地から脱出。

 近くに停まっていた車を見て、笑みを浮かべながら手を振る。

 すると、車の運転席の窓が開き、サングラスをかけるダークエルフの少女が顔を出す。


「よう、予定通りだなメイル」

「……はい、では急いで乗ってください、信号弾は見ました」

「そうか、では、さっそくベース224へ向かってくれ、そこから本格的に始める」

「了解」


 彼女はメイル伍長。

 ダークエルフでありながら、標準語で話す珍しい人物だ。

 それと、基本的に任務中はあまりはっちゃけてくれない。

 内面は良い奴なので、単純にクソ真面目なだけである。

 彼女の乗る車に乗り込んだ二人は、そのまま彼らの基地へと移動を開始。

 正に未来都市と呼べるような往来を、交通規則を守りながら走る。


「ご無事でなによりです」

「ああ……まだ助かったとは言えないがな……俺の武器は?」

「そちらに」

「あんがとよ」


 移動中、怪しい音を聞いたジャックは、メイルに預けていた武器を回収。

 新しい刀と、何時もの454マグナム。

 この二つを受け取ると、襲撃に備える。


「追跡は?」

「確認できるだけでも五台」

「……よし、メイル、できるだけ距離を稼ぎながら、エリアD-57へ」

「了解!」


 少佐からの命令を受けたメイルは、素晴らしいドライビングテクニックを駆使して移動を開始。

 路地裏を通ったり思いっきり逆走したりしていき、もう追跡者だけでなく、警察からも狙われそうなルートで進む。

 おかげで、車内は震災みたいな状態。

 助手席にシートベルトを使って座る少佐と違い、ジャックは後部座席。

 しかも、装備を整えるために、ベルトをしていなかったせいで、車内のあちらこちらに激突している。


「ちょ!逃げるのも良いけど!もうちょっとデリケートな運転できねぇのか!?」

「安心してください、これでもワイスピ全部視聴しているので!」

「映画見ただけでこのテク!?てか、全然信用できねぇ!」

「何かと聞かれると、三代目の大泥棒みたいな無茶ぶりだな」

「確かに、ですが安心してください、これは四駆です!」

「そう言う問題じゃねぇ!(マジメでもやっぱダーエルか!)」


 そんな軽口を叩きながらも、メイルはその運転技術をフル活用して逃走する。

 彼女の才能もあるのだろうが、非常事態でなかったら、免停どころではない。

 とはいえ、この車は、メイルがエーラに頼んで作って貰った特別製。

 車全体の防弾加工は勿論、色々なギミックも搭載されてある。

 警察の妨害程度であれば、容易く振り切れる性能を持っている。

 ぜっさん逆走しながら、メイルは信号無視上等でアクセルを吹かせる。

 そんな彼女達の車へと、前方から追跡してきたワゴン車が突っ込んでくる。


「ちょ!前!前!」

「大丈夫です!」


 ジャックの心配を他所に、メイルは当たり場所を微調整。

 体当たりしてくる車を正面から受け止める。

 それによって、とてつもない衝撃と慣性が発生。


「え?」


 ジャックのマヌケな声も仕方がない。

 明らかに質量は向こうの方が上。

 しかし正面から突っ込んできた車は、後方から跳ね上がりだす。

 ジャック達の乗る車の上を回転しながら飛んでいき、後ろの道路へと落ちていく。

 しかも、見る限りではメイルの車は、少しへこんだ程度。


「ふぅ、私の愛車を正面から止めようなんて、無謀な事しますね」

「お、おう……(この後、俺が敵を引きつけるプランなんだが、コイツで轢き飛ばすだけで十分な気がしてきた)」


 ――――――


 敵の追撃を退け続ける事数十分。

 何度も襲ってきた追跡者たちの車を弾き飛ばしながら、目的地のスラム街にたどり着く。

 半ばスラムのような場所で、周辺には宿無しの人間が屯する場所。

 追跡を振り切りながら、その内の一角の廃墟へ入り込む。


「つきました」

「よし、ジャックここで別れよう……ジャック?」

「オロロロ……」


 作戦通り、ここで別れて、ジャックが敵の一部を足止めする。

 その手順を踏もうとしていたが、ジャックはすっかりリバースしてしまっていた。

 一応、ちゃんと窓から顔を出している。

 とはいえ、色々ツッコミどころもある。


「……バルチャーでビュンビュン飛び回ってる奴が、車酔いとは」

「う、うるせぇ、それとこれとは全然違うんだよ、ウエッ」

「まぁいい、メイル、ジャックの足は?」

「ここに記してあります」


 三人の逃げ込んだ廃墟の商業施設。

 その入り口近くの大広間には、メイルの乗る車の模倣品が置いてある。

 それを囮に、ステルス機能を発動させた車を使って、メイル達は別の場所に隠れる。

 ジャックは残り、敵の無力化を始めた瞬間に逃走を再開。

 後を追う為の足は、メイルが予めいくつか隠しておいた物を使用する。

 その隠し場所を記した紙を受け取ったジャックは、車から降りる。


「よし、俺は後から行く、見つかるなよ」

「解っています、大尉、ご武運を」

「そっちも、幸運を祈る」

「気を付けろよ、奴らがここまで追ってきているという事は、それだけの自信が有るって事だ」

「わかった」


 少佐達はステルス機能を発動し、息を潜める。

 外に出たジャックは、迎撃のために身を隠す。


 ――――――


 ジャックが身を隠した数分後。

 三人を追跡していた全ての車が到着。

 エーテル・カービンと、高周波ブレードを持つ彼らは車から降り、廃墟を包囲。

 三個分隊の規模が廃墟へと突入していく。


「よぅし、ヴァルキリー隊の初陣だ、そろそろ古い連中には、ご退場願おう、人類の崇高なる世界の為に」


 到着したのは、ヴァルキリー隊の面々。

 取り回しが良く、室内戦では効果的な威力を持つカービンを構えながら、クリアリングを始める。

 数人ずつ分かれていき、洗練された動きで行動する。


「こちらデルタ1、二階に到着、これより行動を開始する」


 元はショッピングモールだったこの廃墟。

 隠れる所も逃げる所も多い。

 出入り口になるような場所は、罠や見張りをたてているので、何かあればすぐに連絡が来る。


「しっかし、俺達精鋭の俺達の初任務が、テロリストの始末とはな」

「ああ、しかも、たった二人にこの人数とは」

「上の連中は何を怯えてんだろうな」


 光の射さない部屋の中を、暗視装置を使って捜索を開始。

 その中で、隊員達は無駄口を叩き出す。

 司令部から伝えられているのは、軍から脱走した元司令官と、その護衛。

 この二人を抹殺しろとの事だったが、随分前から訓練を続けて来た彼らには、少々刺激が少ない。

 動きだけは身体に染み付いているので、見かけは良い。

 だが、内面はまだまだ新兵。

 そんな彼らへ、上から大量の銃弾が降り注ぐ。


「ッ!何だ!?」

「上からだ!」


 天井を突き破り、降り注ぐ454マグナムをものともせず、上の階へと発砲。

 崩れる瓦礫と共に、ジャックも一緒に降りて来る。

 煙に紛れながら彼女が部隊の中央に降りたのを見た部隊達は、正常な判断を欠く。

 一気に吹き出たアドナリンの影響だ。

 現場に慣れていない事が災いし、ジャックの方へと発砲する。


「ウヲオオオ!」

「死ね!死ね!」

「バカ!そっちには味方が!どわ!」」


 組まれていた円陣の中央にいたジャックへの発砲。

 それは、味方に向けて撃つ事も同じ。

 使用しているエーテル・カービンは、戦闘スーツを貫通。

 着弾した部分の身体を削る様にして、ダメージを与える。


「ッ、しまった」

「おい!あいつは何処だッ」


 フレンドリーファイアに気づき、すぐに発砲を中止。

 そのすぐに、ジャックを探そうとする兵士は、肘鉄を頭部に受けてしまう。

 割れたヘルメットに向けて容赦なく発砲し、間髪入れずに隣にいた兵に回し蹴りを放つ。


「フン!」

「ゴっ」

「ッ、蹴り一発で……この化け物が!」


 ジャックの蹴りで、首を飛ばされた姿を見た生き残りの一人。

 彼は転がっていた仲間の武器も取り、ジャックに向けて発砲。

 スーツのおかげで、反動を気にせずに連射を行えるが、無意味だ。

 ジャックは、まだ生きている隊員二人を、念力で持ち上げ、盾代わりに前に出す。


「ッ!?卑怯者が!」

「女一人相手に、大人数でくる奴に言われたくない」

「い、いつのま」


 前方に集中しすぎたせいで、ジャックの接近に気付かず、蹴りで首をはねられてしまう。

 そして、ジャックは倒れ込む隊員達の中に、生き残りを探しだす。

 同士討ちの時点で、半数近くが倒れたが、全員致命傷という訳ではない。

 彼らの使っていたカービンを拾い上げ、生存者に向けて発砲する。


「グ!」

「ガ!」

「ダ!」

「あとは……クリア……ん?」


 生き残っていた三人の頭部に発砲。

 その後、倒れている面々の心臓にも一発ずつ撃ちこみ、銃は捨てた。

 そのまま去ろうとするが、兵士の首の断面に違和感を覚える。

 銃をしまい、刀を引き抜いたジャックは、腕を斬り落とし、その断面を観察する。


「……金属製の人工皮膚と筋線維……こいつはまるで、アリサシリーズだな」


 見た限りでは、リリィ達の義体に構造は似ている。

 ドレイクのように、全身をサイボーグ化させているようだが、少し違う。

 と言っても、大雑把な部分は同じだ。

 違うのは使用されている素材。

 リリィ達の物は、エーテル制御等の為に、一部に有機繊維を用いている。

 だが、彼らの物は全てが金属でできている。


「……コイツは、基地に持ち帰るか」


 サンプル様に、斬り落とした多くの手足を、バックパックに入れる。

 しかし、こうしている間に、少々後悔があった。

 せめてサンプルとして、頭部や心臓も持ち帰れるとよかった。


「ま、他にもいるし、サンプルとしては十分だな」

「こっちだ!」

「居たぞ!攻撃しろ!」

「……素人共が、ま、良い研究材料が来てくれたな」


 ――――――


 その頃。

 外で待機していた車内にて。


「……デルタ1はロスト、そして、次はデルタ2がロストするか……流石だ、ジャック」


 全ての車両では、運転手を除いて全て廃墟の制圧に取り掛かっている。

 だが、彼だけは一人残って待機していた。

 命令違反であるが、彼のやり方の一つでもある。


「これだけ派手にやるという事は、もうじきあの男は逃げるか」


 何とも渋い声で独り言をつぶやきながら、男はヘルメットを取って素顔をさらす。

 褐色の肌に、白い髪をもつ初老のダークエルフ。

 エレティコは、戦斧を手に、車から降りていく。

 それと同時に、どこからかエンジン音が鳴り響く。

 彼の予想通り、少佐達の乗る車は逃走を開始したのだ。


「……お前たちは見逃してやる、だが、俺の部隊を壊滅させたツケを払って貰うぞ、ジャック・スレイヤー!」




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