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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
マリーゴールド編
231/343

絶望の花 中編

後半、自分で書いておきながら結構きつかったです。

 数十分前。

 ルシーラは、リリィ達がダンジョンに入った直後に、里に足を踏み入れていた。


「……なにこれ?」


 故郷の惨状を前に、ルシーラは目をキョトンとさせた。

 数百年前、家を飛び出してから、初めて帰ったこの里。

 辺りを見渡しながら、ルシーラは嫌な予感になりながら、シルフィ達と過ごした家へと、足を踏み入れる。


「お姉ちゃん!?」


 家に帰ったルシーラは、必死になってシルフィの事を探す。

 だが、辺りを見渡しても、有るのは壊れた家具や、ホコリまみれの物ばかり。

 シルフィどころか、この里の何処にも、人の気配は無い。

 この事実に気付いたルシーラは、額の傷を抑えながら、しゃがみ込む。


「……お、姉、ちゃん……うっ」


 激しい動悸、荒くなる呼吸と共に、ルシーラは強い吐き気を覚え、今度は口を抑え込む。

 汗を大量に流し、徐々に強くなる吐き気に抗えず、ルシーラは口から内容物を戻してしまう。


「はぁ、はぁ、また、なくしちゃう?なくしちゃうは、やだ……う」


 うずくまりながら、ルシーラはトラウマを想起した。

 これからもずっと続く筈だった幸せ、その全てを奪われ、人間達の欲望をぶつけられ、癒えぬ傷を、いくつも負った。

 そして今、再び同じような事が、目の前で起きている。

 だが、今回は、全てが異なる。


「……そうだね……え?わかった、行ってみる」


 立ち直ったルシーラは、その足をルドベキアの部屋へと運ぶ。

 わずかながらの希望であったが、今はそれに賭けるだけだった。

 最愛のシルフィに会えるのであれば、なんだって良い。

 そう思いながら、ルシーラはルドベキアの部屋にたどり着き、地下への階段を発見する。


「……ここだね?」


 階段を見つけるなり、ルシーラはすぐに階段を降り、その先の縦穴も、ちゅうちょ無く落下していく。

 その先で、ルシーラは後に続いて来た七美と出くわした。

 彼女の口から、シルフィの名前が出た途端、ルシーラはトラウマを回避するために、戦闘を開始。

 もう二度と、同じ絶望を味わう事無いように、邪魔者は全て排除しようとする。


 ――――――


 現在。

 ルシーラは、底知れない喜びと共に、うっとうしい思いに駆られていた。

 ようやくシルフィと再開したと思えば、リリィ達まで、邪魔者として加わった。

 そのおかげで、余計な手間をとる事になっている。

 そして何より、許せなかった事が、いくつも有った。


「(お姉ちゃん、どーして?どーして、アイツらをかばうの?どーして、私を、見てくれないの?)」


 傷つき、圧倒的な力の差を見せつけても、目の前で刀を構えるリリィ。

 ルシーラは、彼女へ強い嫉妬を覚えていた。

 先ほどから、シルフィの心は、リリィの方へ向いている事位、ルシーラにも解る。

 ずっと向けられたかったシルフィからの愛、その全ては、リリィの方へ向けられている。

 そう考えただけで、ルシーラの妬みは、爆発的に膨れ上がった。

 それだけでも許せないのに、更に許せない事が、先ほど起こった。


「(見た事ない、私でも、あんなにうれしそーな、幸せそーな……お姉ちゃんの、表情)」


 何百年も一緒に居て、ルシーラは見た事が無かった。

 あれだけ、シルフィが心の底から喜び、幸福を覚えている所を。

 当時のシルフィが、浮かべていたのは、心で泣きながら、無理矢理不幸を誤魔化している笑み。

 そして何より、家出をするきっかけを作った、あの時の事。

 シルフィは、その時の事さえ、すっかり忘れてしまっているようにしか見えない。


「……ッ」

「キャッ!」

「シルフィ!」

「お前に、姉さんは渡さない」


 ルシーラは、シルフィの事を雑に放り投げ、転んだ所に、再びドーム状の結界を展開し、動きを止める。

 そして、リリィを前にし、次元収納の応用で、自らの手に入り口を、弾かれた槍の元に出口を作り、グングニルを手元に戻す。


「……私だって、お前にシルフィを渡さない、お前は、ただ、酔っているだけだ」

「……何に?」

「愛している自分に、だ……いや、シルフィを愛している、自分に酔っている、以前の私のように」

「だから何?アンタには関係ない、私と姉さんの、本物の愛は、誰にも否定できない」

「いや、私が否定する!お前の歪んだ愛を!私がシルフィ学び、姉妹達から教えられた、本当の愛で、お前を否定する!」


 リリィは、ルシーラの言葉に憤慨し、蒼白い炎をたぎらせる。

 それを見たルシーラは、レイピアを引き抜き、再び二刀流の構えを取り、リリィを見下しながらセリフを発する。


「なら来な、生きてすらいない、人形ふぜいが」

「チ、私からすれば、人間ふぜいだ!」


 オーバー・ドライヴを発動したリリィは、小細工無しで、正面から突撃。

 だが、リリィが本気を出す中で、ルシーラは彼女の姿に目を細める。

 遅い。

 七美を除き、リリィ達の動きというのは、とても遅い。

 ルシーラから見て、オーバー・ドライヴで加速したリリィ達でも、まだまだ遅すぎる。


「炎落とし!!」

「ッ」


 一般人からすれば、まばたきの間に、距離を詰めたリリィであったが、ルシーラからしてみれば、時間がかかりすぎている。

 当然、リリィの放つ一撃も、ハエが止まりそうな程、遅く見え、レイピアによって簡単に弾かれた。


「チ、炎討ち!」

「遅い!」


 振り下ろした刃を簡単に弾かれたリリィは、すぐに巻き返し、ルシーラの首へ、刀を横へ振り抜いた。

 首に刃がさしかかる寸前で、ルシーラは槍を振り抜き、リリィの事を吹き飛ばす。


「ッ!?早い!」


 先に攻撃した筈が、大振りな槍のルシーラの攻撃が、先にリリィの体を切り裂いた。

 赤黒い魔力をまとう、グングニルの一撃は、鎧ごとリリィの体を傷つける。

 傷口から、ボタボタと人工血液を溢れさせながら、立ち上がったリリィは、恐れる事なく、ルシーラへと向かう。

 対するルシーラも、槍とレイピアで、リリィを迎え撃つ。


「これだけ力の差を見せつけても来るなんて、恐れる心さえないのか!?」

「怖くても、力量が圧倒的でも、私は、お前を絶対に倒す!それだけだ!」


 わずかにだが、全体的なスピードの上がったリリィに、ルシーラは涼しい顔で切り結ぶ。

 デュラウス程の手数は持ち合わせていないが、一撃が比較的重い。

 必死な表情でガーベラを振るリリィだが、その必死さと裏腹に、ルシーラは余裕を感じている。

 外部からの妨害も無く、対象が巨大な訳でもない。

 これといった特徴が無い、ただ誰かの戦い方を真似ているかのような動きに、ルシーラは退屈さえ覚える。


「この程度?もう少しちゃんとやって欲しいんだけど」

「ッ、この!」

「(……フ、フフフ、でも、何だ?この感じは)」


 まるで、子供相手にチャンバラをする剣道経験者のように、ルシーラはリリィの攻撃を寄せ付けない。

 そんな中で、ルシーラは笑みを浮かべていた。

 リリィからしてみれば、余裕の笑み。

 だが、ルシーラの中では、別の感情が渦巻いている。


「(フフフ、そうだ、懐かしい!この感じ!そうだ、来い!無謀と分かりながらも、敵わぬと解っていても向かってくる、無謀でしかない勇士!)」

「(コイツ、笑う余裕が有るのか!)」


 斬撃を放つ力を、スピードを、更に上乗せして行くリリィであるが、それでもルシーラには、紙一重も届かない。

 どれだけ切っても、分厚い壁に阻まれるように、リリィの剣は、全く届かない。


「(あの槍使いとコイツは違う!ほかの連中とは、明らかに!)」

「ハアアア!!」

「(フフフフ!まさか、こんな奴が居た何てね!ここで壊すのが惜しい位だ!)」


 デュラウスとヘリアンが戦っていた時よりも、ルシーラは苦戦を始める。

 だが、その中で、快感を得ていた。

 ただ機嫌を悪くしていた時とは違う、純粋悪に染まる笑みは、先ほどまでの彼女とは、まるで別人に思える。

 その事に、薄々気付きながらも、ルシーラから距離を取ったリリィは、最後の手段に出る。


「……こうなったら、これで!」

「ッ、あの構えは」

「ほう、それがお前のとっておきか」


 リリィが取った構えに、ルシーラは備え、シルフィは目を丸くした。

 おぼろげであるが、シルフィの脳裏に浮かんだのは、かつてジャックが使用し、自らの刀と、肉体を犠牲に、大量の魔物を葬り去った技。


「桜我流剣術・壱の奥義!火之迦具土ひのかぐづち!!」

「来い!」


 蒼い炎をまとい、突撃するリリィを相手に、ルシーラも一直線に突き進む。

 赤黒い炎と、蒼い炎は激突し、辺りにある全てを巻き込むように爆発。

 その威力は、結界に守られたシルフィの周辺が、綺麗さっぱり無くなってしまう程だった。


「リリィ!ルシーラちゃん!」


 涙を流しながら、爆炎に飲まれた二人の名を、シルフィは呼ぶ。

 そして、それから数秒後、目の前に落ちて来た刃を見て、シルフィは目を見開く。


「……ルシーラ、ちゃん」


 シルフィの目の前に落ちて来たのは、ルシーラの使用していたレイピアの刃。

 断面を見る限りでは、溶断されており、リリィの技が、ルシーラの武器を破壊した事を暗示している。

 徐々に煙は晴れていき、改めて二人の状態を見ようと、シルフィは意を決し、視線を上げる。


「……あ、ああ」


 見えて来た光景に、シルフィの表情は、絶望に染まった。

 ルシーラのレイピアは、確かに折れており、彼女自身も負傷している。

 だが、それ以上に、リリィは深手を負っていた。

 ガーベラを握っていた筈の右腕は、肩から先が無く、腹部はルシーラの右腕が貫通している。


「り、リリィ!!」


 シルフィの叫びと共に、ルシーラの右腕は、リリィから引き抜かれた。

 腹部から大量に出血するリリィは、膝から崩れ落ち、レイピアの柄を捨てたルシーラの右腕がかざされる。


「久しぶりに楽しめた」

「ダメ!」


 シルフィの静止も虚しく、ルシーラの手から、赤黒い炎が射出された。

 強烈な爆発と共に、吹き飛ばされたリリィは、仰向けに倒れてしまう。

 それを見たルシーラは、悪意に満ちた笑みを浮かべだす。


「フ、フフフ……フハハ、ハハハハ!」


 高笑うルシーラは、シルフィの元へ歩み寄り、結界を解く。

 泣きじゃくるシルフィを見下ろし、右手を差し出す。


「フフ……これで、邪魔者はいなくなった、さ、行こう、姉さん、二人だけの箱庭に」

「ッ!」


 だが、シルフィはその手を払いのける。

 予想外の行動に、ルシーラは目を見開く彼女へと、シルフィはストレリチアを連射重視の形態に変化。

 銃口を向けられたルシーラから、笑みが消える。


「……何のマネ?」

「許さない、たとえ、ルシーラちゃんでも、あの子を、私の、大切な人に、あんな事をした貴女を、私は、許さない」


 大粒の涙を流しながら、ルシーラに銃口を向けるシルフィだが、その引き金は、決して引けなかった。

 たとえ、リリィをいたぶった相手であっても、目の前に居るのは、紛れもない妹。

 殺意を一切感じないルシーラは、ただのお遊びと感じてしまう。


「姉さん、こんなオモチャ、振り回す歳じゃないでしょ?」

「ッ!」


 ストレリチアを掴んだルシーラは、その握力で握りつぶし、その辺に投げ捨てた。

 武器を失ったシルフィは、再び座り込みそうになるが、ルシーラは彼女の事を支える。

 完全に意気消沈のシルフィを見ても、ルシーラは何も見えていないかのように、笑みを浮かべだす。


「これで、これでようやく、あの子の……フフ」

「ま、て」

「……しつこい」


 再び笑みを無くしたルシーラは、声のした方へと視線を移す。

 そこには、もはや立っているだけで精いっぱいと、いった具合のリリィが、ナイフを構えながら立ちはだかる。

 各所の傷は、未だに癒えておらず、それどころか、無理して動かしているせいで、自壊しかかっている。


「まだやる気?」

「とう、ぜんだ……お前の、アアア、ア愛を、ひテテって、い、するママまで、わt、しはワワワ、た、たかう」


 むき出しになったセンサーアイを光らせ、機能を失いかけている喉を強引に動かしながら、ルシーラへと迫って行く。

 その足取りも、健全とは言えず、普通に歩くより遅い。


「声もろくに出せない人形が……そうだ、姉さん、見せてやろうよ」

「……何、を?」

「私達の、真実の愛って奴を……」

「ムグ!!」

「ッ!!?」


 ルシーラは、おもむろにシルフィと唇を重ねた。

 しかも、かなり深く、濃厚なキスを、リリィに見せつける様にして行っている。

 そんな光景を見て、リリィは黙っていなかった。


「ッ……き、貴様ッ!」

「や、りり、みな、ング!」

「ル」


 容赦なくキスを続けるルシーラを前に、何かが切れたリリィは、正面からルシーラに接近する。

 今まで感じた事が無い位、深く、暗い、嫉妬と悲しみ、そして、絶望。

 それだけを動力源に、リリィは足を動かし、ナイフの刃をルシーラへ向ける。


「ルシーラアアアアア!!」

「フン、安い挑発にのっちゃって」

「ッ!?」


 悪意の笑みを浮かべたルシーラは、シルフィから唇を離す。

 シルフィの事を、右腕でしっかりとつかみながら、ただ正面から向かってくるリリィに、グングニルを突き刺す。

 しかも、その穂先は、リリィのドライヴを正確に貫いており、シルフィに、更なる絶望をもたらす。


「リリィ!!」

「解ってた、そこが、貴女の弱点だって事位はね」

「……」


 声すら出ないシルフィに対し、リリィは優しい笑みを浮かべた。

 死期を悟ったリリィは、お構いなしに進み、ルシーラへと抱き着き、一気に走りだす。


「ッ!お前!」


 突然の事で、シルフィを手放してしまったルシーラは、これ以上シルフィから離れまいと、足に力を込める。

 だが、その程度でリリィは止まらず、むしろ、更に足を速める。

 そんな彼女を見て、シルフィは全てを察する。


「せめて、一矢報いてやる!!」

「まさか、ダメ!リリィ!!」

「伏せてくださいませ!」

「イ、イベリスさッ!」


 リリィの行動の真意を察したのは、もう一人の存在、イベリスは、再起動して早々に、残った盾を使い、シルフィの事を守る。

 イベリス自身も、シルフィに覆いかぶさる形を取る。

 その数秒後、とてつもない爆発が周囲を襲う。

 ダンジョンその物を破壊しかねないその爆発は、再起動したばかりのイベリスを焼く。

 他の姉妹や、七美さえも巻き込む大爆発は、激しい閃光と共に、轟音を辺りにまき散らした。

 まるで、そこに太陽が有るかのような、熱と光だった。



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