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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
マリーゴールド編
230/343

絶望の花 前編

 作戦の決まったデュラウスとヘリアンは、オーバー・ドライヴを使用しながら、ルシーラへと急接近。

 とにかく、ルシーラの気を逸らし、七美のチャージが完了する時間を稼ぐ。

 やり方は特攻に近いが、これ以外に手が無い。


「チクショウが、これもう特攻だろ!」

「でも、これ以外、方法はない!」

「……いのち知らず、てゆーやつ?」


 槍とレイピアを構えるルシーラは、正面から向かってくる二人を警戒。

 デュラウスはランスを、ヘリアンはナイフを構え、一緒にルシーラへと攻撃を行う。

 同時に繰り出されるランスとナイフを認識しつつ、ルシーラは舌を鳴らし、両方向からの攻撃を受け止める。


「チ」


 レイピアでナイフを、槍でランスを防ぎ止め、一気に攻勢へとでる。

 向けられたグングニルとレイピアは、禍々しいオーラをまとい、二人に襲い掛かる。

 槍は、利き手で使用しているせいか、速度はレイピアと同等。

 命中する寸前で回避するが、天をまとっている事で、攻撃範囲は増大しており、かすっただけで、アーマーを切り裂く程。


「チクショウ、何だよこの攻撃!」

「手を、緩めるな!」

「ほらほら!この程度で終わり!?」


 二人がかりで戦っているというのに、攻撃する隙が無く、ひたすらルシーラの攻撃を受け続ける。

 しかも、放たれてくるのは、一撃一撃が、イベリスやカルミアに放ったような、強烈な一撃にも匹敵する威力。

 当たったら終わりとも言える攻撃の数々に、デュラウスは必死に食らい付き、攻撃を受け流す。

 マトモに受ければ、大破は必須の猛攻を前に、お互いに庇い合いながら防ぐが、長く続くような状況ではない。


「どうしたの!?私、まだほんきのはんぶんも出してないよ!」

「だったら、コイツで!」


 何としてでも、ルシーラの猛攻を止めようと、デュラウスは、背中にマウントしていた太刀を引き抜き、力任せに振り下ろす。

 ランスと太刀を使い、ルシーラの持つ槍とレイピアを絡まらせ、ほんの一瞬だけ、動きを止める。

 本当に一瞬のできごとであったが、その瞬間を、ヘリアンは見逃さず、ナイフを振る。

 緑色の風をまとうヘリアンのナイフは、ルシーラの首に差し掛かっていく。

 だが、この程度で首を取れる程、ルシーラは甘くなかった。


「ッ、厄介」


 襲ってきた事に、今気づいたかのような表情を浮かべるルシーラだが、ヘリアンはそれどころでなかった。

 振り抜いたヘリアンの手に握られているナイフは、完全にへし折れていた。

 天を身体にまとうルシーラの体は、ヘリアンのナイフの魔法をかき消し、強化されている肉体を前に、ただのナイフでは、太刀打ちできなかった。


「……うるさい、なぁ!」

「ッ!」


 ナイフを捨てたヘリアンは、デュラウスを蹴り飛ばしたルシーラからの槍を、バックステップで回避。

 瞬時にバックパックから、ライフルを二丁取りだし、射撃を開始。

 バトルライフルと呼ばれる、大型の弾丸を撃ちだせるライフルによる、実弾射撃。

 エーテル式ではないので、かき消される事も、吸収される事も無いが、やはり通常の弾丸は、ルシーラに通用しない。


「こんなこどもだまし」

「その障壁、反則」


 弾丸は全て障壁に阻まれ、力なく床へパラパラと落ちて行ってしまう。

 遠くへ行ったヘリアンが、再び奇襲をしかけられないように、ルシーラはレイピアを振り上げ、魔法により、炎の槍を作り出す。


「そんな物、まほーの前じゃ、いみないよ!」

「ッ!」

「イフリート・スピア!」


 大量に降り注ぐ炎の槍を、ヘリアンは気休め程度に狙撃する。

 だが、炎と接触した弾丸は、瞬時に融解し、意味をなさなく成ってしまう。

 まるで爆撃の中にでもいるかのような爆発の中、ヘリアンは逃げ回りつつ、射撃を続ける。

 容赦なく魔法を繰りだし続けるルシーラは、槍とレイピアを構え直しながら、デュラウスの方を向く。

 視線の先では、凄い形相になりながら、デュラウスがランスと太刀を持ちながら、接近してきている。


「こんチクショウがぁぁ!!」

「ほんとうに、うるさい!」


 ぶつかり合ったデュラウスとルシーラは、激しく切り結ぶ。

 お互いの使う武器が、周りの人間には視認できない程、勢いよく衝突する。

 デュラウスは、自分の叩き出せる最高の技と力で、何とかルシーラに攻撃するが、足止めにしかならない。

 何しろ、ルシーラはこうして斬り合っている最中であっても、ヘリアンに向けて、魔法を放ち続けている。

 しかも、飛んできているライフル弾を、障壁で防ぎながらである。


「(どんな脳ミソしてんだコイツ!?俺とヘリアンの同時攻撃に、平気で対処してやがる!!)」


 二方向から攻撃を受けているというのに、少し機嫌を悪くするだけのルシーラに、デュラウスは苦い顔をする。

 だが、そんなデュラウスを前に、ルシーラはどんどん機嫌を悪くしていく。


「うるさい……」


 放っている炎魔法、使用している武器。

 この両者の赤黒さは、どんどん禍々しくなっていき、二人への攻撃は、より激しさを増す。


「うるさい、うるさい!」

「ッ!?(ちくしょう、攻撃がどんどん重く、そのうえ早えぇ!)」

「やば、もう、避けきれ……」

「うるさい、うるさい、うるさい、うるさいうるさい……」


 ルシーラのパワーとスピードは、徐々に上がっていき、デュラウスでも対処しきれなくなる。

 完全に対処が不可能になるレベルの連撃を繰り出したルシーラは、目を見開き、デュラウスを打ち上げる。


「うるさいんだよぉぉぉ!!」

「ガハッ!!」


 デュラウスの義体とアブクマは、無残にも切り裂かれ、武器も全て破壊される。

 それだけでは終わらず、ルシーラはグングニルを構え、穂先から赤黒い球を連射。

 赤黒い球は、容赦なくデュラウスへと撃ち込まれ、なすすべも無く被弾。

 もはや、悲鳴を上げるようなヒマも無く、爆炎に包まれていく。


「……やっと、しずかになった」


 破損した天井の破片が、パラパラと降り注ぐ中で、爆炎からデュラウスが落ちて来る。

 顔の人工皮膚は半分近く剥がれ落ち、全身は焼け焦げ、右腕も消失するという重症を負ってしまっている。

 その横でも、威力を増した炎の槍の爆発に巻き込まれていたヘリアンも、既に倒れていた。

 だが、機能を停止したデュラウスと違い、ヘリアンはまだ立ち上がろうとしているのを、ルシーラは見逃さない。


「……まだいきてたの?」

「ッ……(足を、損傷した……七美は……まだ?)」


 何とか立ち上がろうとするヘリアンに、ルシーラは歩いていく。

 迫りくる恐怖前に、ヘリアンはこっそり七美の方を向くが、まだチャージが終わっていない。

 爆発の衝撃で、片足を損傷してしまい、自由に動けないヘリアンへと、ルシーラは槍を構える。


「これで……ッ!?」

「……気付かれ、た」


 騒ぎが沈静化したせいで、ルシーラはチャージ中の七美を認識してしまった。

 ヘリアンは一秒でも時間を稼ぐべく、予備のナイフを持ち、ヤケクソ気味に襲い掛かる。


「この!」

「ッ!」


 だが、赤黒い光をまとうレイピアで、ヘリアンの体は上下に両断されてしまう。

 機能の停止は起きなかったが、ルシーラが七美の元へ向かうだけの隙を与えてしまう。


「何をしたとこで、いまさら!」


 ルシーラは、未だにチャージを続ける七美に向かって、グングニルを構える。

 レイピアは鞘へ納め、両手で保持しながら、七美へと接近。

 赤黒い紫電をまといながら、ルシーラは七美に向かって槍を繰りだす。


「桜我流槍術・刺電雷突!!」

「……ありがとう、お前ら、後で何かおごる……いや、それ以上の事は保証する」


 七美は、桜我流の技を繰りだしてくるルシーラへ向けて、チャージしていた技を繰り出す。


「桜我流槍術・四の奥義『雷之神!!(いかづちのかみ)』」

「ッ!!?」


 七美が繰り出した、雷属性の奥義は、ルシーラの槍と激突。

 放たれたのは、ルシーラの物より、遥かに鋭く、強烈な勢いの突き技。

 刺電雷突との差異は、使用される魔力の量と、防御や回避する事を全て捨て、攻撃にのみ一点集中させる技。

 それ故に、外れれば二撃目を撃ちこむ事も、相手からの攻撃を、防御も回避もする事もできない、デメリットを持つ。

 だが、その分威力は絶大。

 それを表すかのように、七美の槍はグングニルを弾き飛ばし、天の防御を突き破り、反射的につき出されたルシーラの右腕に、ダメージを与える。


「ああああ!!」

「どうだ!?」


 吹き飛んでいくルシーラを前に、七美は姿勢を崩し、床に転んでしまうが、すぐに立ち上がり、警戒する。

 シルフィには悪い事を下かもしれないが、今は罪悪感を覚えているひまは無い。

 槍を構え直し、ルシーラのほうへと視線を移す。


「……なんだ?」

「……痛いぃ、い、たああいぃ!!」

「……」


 七美は、ルシーラの様子に首をかしげた。

 確かに、ルシーラの右腕は、七美の雷によって、酷い火傷を負い、手もグチャグチャになっている。

 七美の奥義は、単体に対しては、ジャックの奥義よりも、破壊力は高い。

 そんな攻撃を受けて、全身が吹き飛んで無いのも驚きだが、天を使えるのであれば、片腕程度の傷は、すぐに治せてもおかしくない。

 だというのに、ルシーラは怪我をした子供のように、床に倒れながら泣き叫んでいる。

 怪我や痛みに、耐性が無いとしか思えない。


「(罠か?見たところ、かなりの古傷が有るってのに、あの程度で根を上げるようには……)」


 とても不自然な様子に、七美は警戒するが、好機と捉えた七美は、槍を展開する。

 ほぼ全ての魔力を使用してしまったため、千鳥足になってしまっているが、それでも何とか、ルシーラの元へたどり着く。


「なんだか知らんが、拘束させてもらうぞ」

「う、ううぅぅ~ッ!」


 うずくまり、痛みをこらえようとするルシーラに、七美はサスマタ状にした槍で抑え込む。

 そして、七美は六つの筒を再び展開させ、足や腕を、稲妻でできた拘束具で、縛り上げる。

 シルフィに気を使い、生け捕りを選んだが、このままでは、再び暴れ出してもおかしくはない。

 そう考えた七美は、再度説得を試みる。


「……いいか、ルシーラ、もう一度言うが、あたしらは、お前らの敵じゃない、お前の、家族だ」

「……」

「もう暴れない、そう言って、皆に謝れば、必要以上に怒らん、このくだらない喧騒も、それで手打ちにする」


 謝った程度で許されるような状況でないのは、七美も承知の上であるが、義理であっても、ルシーラは自身の姪。

 双方に何らかの誤解があったかもしれないので、落ち着いた後で、しっかりと謝罪してもらえれば、七美はそれでよかった。

 だが、そんな甘い事を考える七美とは裏腹に、ルシーラの殺気はおさまらない。


「……おい、聞いてんのか?暴れないと」

「いやだ」

「は?」

「いやだ、いやだ、もういやだ、失いたくない、お姉ちゃんも、お姉ちゃんとすごす温かさも、みんな、私のもの」

「だから、謝ればシルフィとは、いくらでも居ていいと言っている」


 とても、七美の言葉がルシーラの耳に入っているのかさえ怪しい言動。

 オマケに、ルシーラは再び、独り言をつぶやき出す。

 相変わらず、何を言っているのか解らないが、パターン的に良くない事を察する七美だった。


「……おい、どうした?」

「ッ」

「な!?」


 ルシーラの流していた涙は、ぴったりと止まり、さらに、七美の作り出した拘束具を、全て引きちぎった。

 それだけにとどまらず、右腕の傷を瞬時に治し、槍の穂先を掴み、押し返しだす。


「おい、まだやる気か!」

「……ふふ、当然でしょ?だって、まだ終わってないもの」

「何だと(なんだ?さっきと別人みたいだ)」


 不気味な笑みを浮かべたルシーラは、先ほど以上に、どす黒い殺意をぶつけながら起き上がる。

 七美の魔力が枯渇している事を差し引いても、全く抑え込めず、なすすべなく押し返されてしまう。


「フンッ!」

「しまッ!」

「ほら、返すよ!!」


 押しのけられた七美は、槍を手放しながら宙へ上がり、ルシーラはそこへ、容赦なく槍を投げつける。

 弾丸以上の速さで迫る槍に、七美は反応する事が出来ず、串刺しにされてしまう。

 貫かれた七美は、柱に激突。

 貫通した槍は、柱に刺さり、七美の動きを止める。

 魔力がほとんど底をついている七美に、槍を引き抜く力はなく、そのままぐったりとしてしまう。


「さて、アンタは一番厄介そうだし、これで、終わらせる」


 左手をつき出したルシーラは、手のひらに赤黒い魔力を生成。

 先ほどまで使用していた物より、遥かに高い出力の魔力は、辺りの空間を歪めてしまう程。

 確実に七美を消すつもりでいる。

 だが、これ以上の事を止めるべく、行動する少女がいた。


「止めて!もうやめて!!」

「……」


 シルフィだった。

 ルシーラが痛みに叫んでいる時、ルシーラの制作した結界が緩み、何とか脱出してきたのだ。

 ルシーラの前に両手を広げながら立ちはだかるシルフィは、もう一度説得を始める。


「お願い、あの子達は、私の家族なの、だからこれ以上は、もう止めて、貴女も、あの子達も、もう傷つく所なんて、見たくない」

「……あの子達は、ね……私は違うの?」

「ッ!そ、それは、ち、違うよ、ルシーラちゃんも、ちゃんとした家族だよ!」

「……」


 シルフィの言葉に、ルシーラは何を思ったのか、準備していた魔法を消し、シルフィの前へと歩み寄る。

 だが、シルフィへと向かう足は、どこか怒りのような物を孕んでいる。

 先ほどまでのルシーラの事を見ていたシルフィは、今の彼女には、恐怖しか感じていない。

 身震いさせるシルフィの首を、ルシーラは鷲掴みにする。


「ッ!」

「ねぇ、さっきから気になってたけどさ、何でアイツらの味方ばかりするの?私は、姉さんを助けようと必死なのに、何で、あいつ等の心配ばかりするの?ねぇ、教えて、ねぇ、ねぇ、ねぇねぇ!」


 首を掴みながらシルフィを持ち上げるルシーラは、先ほどまでとうって変わり、流ちょうに喋りだす。

 しかも、鋭い眼光は、シルフィにも向けられており、あの艶やかな笑みは、どこにも無い。


「あ、グ、は、放して」

「……放したら、ちゃんと答えてくれる?私よりも、あいつ等を優先する理由、私の事愛してるなら、家族だと思ってるなら、ちゃんと答えてくれるよね?そうだよね?私は、姉さんの事、こんなに愛してるんだから、姉さんも私の事、愛してくれないと嫌だよ」

「わ、わかった、わかったから」

「……」


 シルフィの願いを聞き入れたルシーラは、手を離し、シルフィの事を床に下ろす。

 せき込みながら、息を整えていくシルフィは、身体を恐怖におぼれさせながら、ルシーラを見上げる。

 目の前には、彼女の知る妹の姿は無く、もっと別の何かを見ているような気分に成ってしまう。

 そんなシルフィの気持ちとは裏腹に、ルシーラはまたシルフィのホホに触れる。


「ヒッ」

「さ、放してあげたよ、だから、話して、アイツらを庇う理由」


 シルフィをのぞき込む、ルシーラの目。

 ハイライトすらなく、奈落の底どころか、地獄の底でも映しているかのような、禍々しさを放っている。

 彼女の気に障るような事を言おうものなら、このまま、顔を卵のように潰してしまうかもしれない。

 そんな恐怖で、シルフィはすっかり怖気づいてしまう。


「え、えっと、その」

「答え、られないの?」

「ち、違う、の、その」


 恐怖で言葉が出ないシルフィに、ルシーラは手の力を強め、本当に頭を握りつぶしそうな所まで持ってきた時。

 ルシーラの背後から、足音と共に、待ったを入れる者が現れる。


「そんなの、答える必要ありませんよ」

「り、リリィ!」

「……」


 体中をボロボロにしながらも、歩いてくるリリィを見て、シルフィの顔に笑みが戻った。

 そんなシルフィを見て、ルシーラは更に機嫌を損ねた表情を浮かべ、リリィの方を向く。


「まだ邪魔する気?アンタの仲間は全滅、残ってんのは、アンタだけ、勝ち目無いでしょ」

「ええ、ですが、私は貴女に負けられない、愛に見返りを求める貴女だけには、絶対に負けられないんですよ!」

「ッ」


 ガーベラを構えたリリィを前に、ルシーラは歯を食いしばる。

 身体から、赤黒いオーラを沸き上がらせながら。


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