表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
マリーゴールド編
227/343

想起の戦場 前編

 リリィ達がダンジョンに閉じ込められた頃。

 七美は、出撃の準備を終えていた。

 エーラ特性の武装類と、食料等の物資を詰め込んだアイテムボックスを携え、見晴らしのいいヘリポートに出る。

 変態の姿を横目に。


「よう、行ってらっしゃいだな」

「……」

「ちょ、無視は無いだろ!」


 なんとも清々しい笑みを浮かべ、手を振るジャックだったが、七美は完全にスルーして進んで行く。

 何時もの事とは言え、これからまたしばらく会えなくなるのだから、挨拶位してほしいジャックは、すぐに追いかけだす。

 半ベソをかきながら追いかけて来たので、七美は舌打ちをし、今回は特別だと、足を止めて振り返る。


「チッ」


 エーラを取り押さえるのに忙しかったせいで、大分予定が遅れてしまっているので、早くしてほしい所。

 その気持ちは表情にも現れ、ジャックの事を冷めた目で睨む。


「何だ?」

「まぁまぁ、落ち着けって、またしばらく会えないんだから」

「……そうだが、あたしは別に構わない」

「ふえ~、お姉ちゃん悲しいよぉ」

「うるさい、そもそも、お前は……いや、何でもない……選挙、頑張れよ」

「うん!お姉ちゃん頑張っちゃう!」

「切り替えの鬼だな」

「まぁ、そう言わずに……」

「ッ!」


 相変わらず冷たい態度をとって来る七美に、ジャックはウソ泣きをするが、次のセリフで、笑顔を取り戻した。

 それから間髪いれずに、ジャックは七美の事を抱きしめる。

 しかたがないので、七美はジャックの包容を受け入れ、姉の温もりを味わう。


「……お姉ちゃん、行っちまうが、頑張れよ」

「……わかってる、ジェニーに、よろしくな」

「ああ、アイツの骨も、埋めてやらんとな……それと、最近新作のケーキを練習中のようだが?」

「……ああ、まだ練習中だが、お前が帰って来る頃には、完成させとく」

「おう、楽しみしてる」


 七美の背を軽く叩いたジャックは、そのまま基地の中へと戻って行く。

 なんとも寂しそうで、重たい背中。

 あまり見たくない物だが、先を急ぐべく、七美はリリィ達の向かった方へ、狙いを定める。

 六人は、既に先行していると思われるので、急ぐために全身のエーテルを集中させる。


「……フンッ!!……ッ!」


 槍を全力で投げた七美は、その後を追って飛び上がる。

 そして、投げた槍に追い付いた七美は、槍に座り、槍に乗せられた慣性に従って、リリィ達の元へと向かった。


 ――――――


 その頃、キレンと別れたリリィ達は、一時の休憩を始めていた。

 なんとも広い空間で、何時どんな魔物が攻めて来るのか、分からない状況。

 とても疲れなんて取れた物ではないが、シルフィが人間である以上、腹は減る。

 持ってきた不味い携帯食料を、嫌な表情で食べながら、座り込んでいた。

 リリィ達も、特に必要はないが、シルフィに合わせて、床に座り込んでいる。

 そんな中で、まだデュラウスの機嫌は治っていなかった。


「あんのクソアマ、マジ気にくわねぇ」

「ああいう奴なんでしょうね」


 怒りの理由は、先ほどのキレンの態度。

 あの他人行儀な言動は、デュラウスの逆鱗に触れるような事だった。

 しかし、シルフィを除き、リリィ達はこれといって気にしていない。


「つか!何でお前らそんなに落ち着いてんだ!?ムカつかねぇのか!?」

「あの人に言う事も、一理あります」

「オメェにアイツの何がわかるってんだ!アアッ!?」

「ちょ、やめてよ、こんな所で」


 キレンの言動を肯定するかのような、リリィの発言に、デュラウスは食い掛る。

 シルフィに止められながらも、デュラウスはリリィの胸倉を掴み上げる。

 それでも、リリィは先ほどの発言を訂正することは無かった。

 それどころか、デュラウスに対し、軽蔑に近い眼を向ける。


「……やれやれ、これだから元戦闘用は……地獄も経験した事無いクセに」

「ッ……悪かったよ」


 頭に血が上っていた事で、デュラウスは忘れてしまっていた。

 デュラウス以外のアンドロイドは、人間達の理不尽のせいで捨てられた。

 勝手に作られては、人間達の手となり、足となり命令通りに働き、切り捨てられた。

 誰からも称賛されることも無く。

 その事を思い出したデュラウスは、リリィの事を手放す。


「……落ち着いた?」

「ああ」

「デュラウスちゃんの気持ちもわかるけど、一旦落ち着かないとね」

「……すまん、俺らしくなかったな」

「血の気が多いのは、貴女らしいとは言えますわね」

「んだとゴラ!?」

「イベリスさん!」


 折角落ち着いたのに、イベリスが焚きつけたせいで、また怒りが再燃してしまった。

 食料の包みを捨てたシルフィがストッパーとなり、何とかなだめる事に成功する。

 彼女達の茶番を見ながら、レッドクラウンから降りたカルミアは、キレンの事について、考えていた。

 なぜだか解らないが、カルミアは、彼女に親近感のような物を感じており、少し気になっている。

 気付いたヘリアンは、カルミアに話しかける。


「……カルミア、何か?あった?」

「……いや、ただ、アイツの気持ち、わからないでもないと思ってな」

「確かに、褒めは、しないけど、気持ちは、わかる」


 カルミアの言葉に、ヘリアンは賛同する。

 ヘリアンもカルミアも、というか、デュラウス以外の姉妹は、人間からの迫害を受けていた。

 断定はできないが、カルミアの予想では、キレンも過去に、人間から酷い扱いを受けていた可能性はある。

 人助けを続けている内に、性根が腐ったというのが、カルミアの推察だ。


「それに、おせっかいで人助けできる奴なんて、ジャックかシルフィ位お人よしじゃないとね」

「悪かったね、お人よしで」

「クク、こう言ったらあれだけど、事実でしょ?アタシ、アンタの事殺そうとしたのに、最終的に助けるなんて」

「ッ、でもさ、ジャックは私以上に、お人よし、というより、おせっかい焼きだからね」


 カルミアのお人よし発言で、話に参加したシルフィは、ジャックのおせっかいエピソードを思い出す。

 カルミアの言うように、殺そうと襲いかかって来た奴を助けるなんて、お人よしもいい所。

 その性格は、ジャックの遺伝だと、認めたくなる。

 なんとも、ありがた迷惑な遺伝であるが、ジャックの場合は、お人よしのニュアンスが、多少異なる。


「基地で過ごしてた時、掃除してやるって、無理矢理部屋に押しかけて来たりね」

「ああ、やりそう」

「お節介焼き、というよりは、母親やりたいだけですね」

「多分ね……でも、掃除終わった後で、部屋に戻ったら、私の机に身に覚えのない薄い本が置かれてた……しかも姉妹百合物」


 基地で過ごしていた時の、ジャックとの触れ合い。

 そのエピソードの一部を話し終えると、場の空気が固まった。

 確かに、それほど過激でないにせよ、ピンク色の本は売店で売っているので、シルフィでも手に入れる事は容易。

 しかし、リリィが発作を引き起こす事を懸念し、購入はしていない。

 ジャックの事なので、やりかねない話だけあって、シルフィには同情しか無かった。


「やりそう、というより」

「やりたかっただけですわね」

「息子の部屋を掃除したら、出て来た薄い本まで整理して机に置いておく、あるあるですね」

「てか、私としては姉妹百合置かれた事が嫌なんだけど……まぁ、全部ジャックごと燃やしたから関係ないけど」

「親に何してるんですか」

「大丈夫、少佐さんには許可とったから」

「そう言う問題じゃねぇだろ」


 リリィ達から同情の目を向けられる中で、シルフィは本当に嫌だった事を告げた。

 ジャックはともかくとして、シルフィとしては、妹と肉体関係を持つことは避けたい。

 なので、姉妹百合だけは、布教しないでほしかった。

 とは言え、ルシーラは大切な家族の一人。

 なぜかジャックやウルフスから、関わるなと言われているが、大切な妹、いかがわしい関係だけは築きたくない。


「……(そういえば、あのキレンって人、何か既視感があったんだよね)」


 ルシーラの事を考えていたシルフィの脳裏に、何故かキレンが映り込んできた。

 白髪の知り合いといえば、エーラ位なのだが、キレンの髪は、種族の象徴だとか、アルビノだとか、そう言う類には見えなかった。

 そして、おぼろげながらも、既視感を覚えた。

 モヤのかかる記憶から、既視感の正体を探っていると、出て来たのは、またルシーラの姿だった。


「(……あれ?……あの子って、確か金髪……)」


 金髪である筈の、ルシーラの姿。

 だが、白髪の彼女を、目にしたことが有るような気がするのだ。


「……何で、ルシーラ、ちゃんが?」

「……大丈夫ですか?」

「……ゴメン、何か、思い出せそう」

「む、無理しないでくださいよ」


 キレンに感じた既視感。

 それは、次第にルシーラに結びついてく。

 一緒にジェニーの訓練を受けて居た頃、ルシーラは、キレンに似通った外見をしていた。

 そして、初めて話した日の事も、同時に浮かび上がって来る。


「……確か、森で、倒れてる所を、お父さんが、つれて、来て……」

「ちょ、ちょっと、大丈夫ですか?」


 頭を両手で抑えるシルフィは、ルシーラの姿を始めて見た時の事を思い出した。


 ――――――


 三百年前。


 雨の酷い夜の事。

 夜の見回りから帰って来たジェニーが、申し訳なさそうな顔を浮かべながら、ルシーラの事を連れ帰って来た。

 その時の彼女は、どういう訳か大けがを負っており、大量に出血していた。

 放置すれば、確実に死んでしまう状態だったが、ジェニーの処置のおかげで、なんとか一命をとりとめた。


「ねぇ、この子、大丈夫なの?」

「熱が下がっていない、あんまり触っちゃダメだぞ」

「はーい」


 体中に薬草と一緒に包帯を巻き、ミイラ状態になっている当時のルシーラ。

 当時、シルフィは百歳と少しの年齢という、人間の感覚で言えば、まだ小学一年生位の年齢。

 目の前のルシーラを前に、無邪気ながら、少しムズムズしていた。

 そんな幼少のシルフィを他所に、ジェニーは買い置きの薬を見に、部屋を移っていく。


「それじゃ、お父さんは薬持ってくるから、イタズラしないで、その子を見てなさい」

「はーい」


 返事をしたシルフィは、眠るルシーラに興味を移す。

 ジェニーに言われた通り、下手にいじらない様にするが、ウズウズしてしかたがなかった。

 同性で年下のエルフは、当時居なかった事も有って、初めての年下に、シルフィは心を躍らせていた。


「……な、ナデナデなら、いいかな?」


 お姉さんぶりたい年ごろのシルフィは、ちょっとだけなら、と、ルシーラの頭をなでる。

 小声で、よしよしとつぶやき、ちょっとだけお姉さんを堪能する。

 そうしていると、ルシーラの瞳から、涙がこぼれ落ちる。


「お、かs……ん」

「……よ、よしよし、大丈夫、怖くない」

「……ん」

「あ」


 声をかけながら頭をなでていると、ルシーラの目が、薄っすらと開く。


 ――――――


「シルフィ!シルフィ!」

「ッ!……私」


 記憶に捕らわれていたシルフィは、リリィの呼び声によって、意識を取り戻す。

 そのせいで、記憶のビジョンは途切れてしまった。

 だが、最後に見えた記憶の後。

 ルシーラの目が開いた後、大急ぎでジェニーを呼びに行った事は覚えている。


「……ルシーラちゃん、何であんなに傷ついてたんだろ」

「傷?……そう言えば、准尉が森で拾って来たと、おっしゃっておりましたね」

「うん、でも、結構、というか、かなり傷付いてた、確か、剣の刺し傷とか、切り傷とか」

「お尋ね者、だったのでしょうか?」

「あ、いや、でも、私より何個か下位だから、拾った時はまだ子供だったよ……当時からイベリスさん位のスタイルだったけど」


 小声でグチをこぼしたシルフィだったが、少し引っ掛かりを覚えた。

 相変わらず、ルシーラの関連する事は、断片的にしか思い出せず、ようやく思い出したとしても、途中で終わってしまう。

 今回は、初めて会った日の事という、普通にしていても、思い出せそうにない事を、今回は思い出した。

 だが、何故傷付いていたのか、その後どうなったのか、詳細な事までは思い出せないでいる。


「……ルシーラちゃん」

「大丈夫ですよ、きっと、全部思い出せます、それに、妹さんを探すのは、貴女の本来の目的でしょう」

「そう言えばそうだったね」


 リリィとシルフィは、すっかり自分たちの世界に入ってしまい、心置きなくイチャつき出す。

 もちろん、まだ休憩の際中なので、姉妹達は目の前に居る。

 おかげで、また羨ましい所を見せつけられている。


「クソがクソがクソが」

「落ち着いて、どうどう」

「少しは状況考えろや、チクショウめ」

「お顔が歪んでいましてよ」


 相変わらず嫉妬深いカルミアとデュラウスであったが、ヘリアンは今回、なだめる側に回っていた。

 イベリスと一緒に、嫉妬で今にも暴れ出しそうな二人を止める。

 そうしていると、遠くの方から、爆発音が響き渡る。


「何だ!?」

「新手?」

「ッ」


 雷鳴のような音。

 恐らく、応援として駆けつける予定だった七美だと推察し、一行は、すぐに戦闘態勢をとる。

 カルミアも、早急にレッドクラウンに搭乗し、警戒を始める。

 そんな中で、シルフィは呆気に取られていた。


「え、な、なん、で?」

「シルフィ?どうしたのですか?」

「……何で、七美さんと、ルシーラちゃんが?」

「え!?」


 シルフィの衝撃的な発言に、リリィは爆発のした方を振り向く。

 確かに、七美の物と思われる電撃が走り回っており、そのすぐ近くには、別の強力な反応も有る。

 それがルシーラだと、断定はできないが、見る限り、七美を相手に圧倒しているようだ。

 かなり苦戦しており、再度起こった爆音と共に、七美はリリィ達の元へと吹き飛ばされてくる。


「ッ!」

「ガアアアア!!」

「七美さん!」


 飛ばされてきた七美は、イベリスとデュラウスによって受け止められ、丁重に降ろされる。

 傷だらけの彼女の元へと、リリィ達は駆け寄り、シルフィは、身体を震わせながら、七美が吹き飛ばされてきた方向を見つめる。


「曹長!一体何が!?」

「お、お前ら……に、逃げろ」


 下ろされた七美は、全身をきざまれており、傷も治っているようには見えない。

 動けない事は無いだろうが、ダメージが深刻すぎる。

 そんな七美の容態を、心配したいシルフィであったが、七美が飛ばされてきた方から、巻き上がる煙の中から出て来る影に、目を奪われていた。


「……あ、ああ」

「ッ、まさか、あれが」

「……ルシーラ、ちゃん」


 煙から現れたエルフの少女は、レイピアを片手に、リリィ達の元へと歩み寄って来る。

 そして、一行の中から、シルフィの姿を見つけるなり、殺気に染まっていた表情から、一気に艶やかな笑みを浮かべる。


「あ、居た、見つけたよ、シルフィ、お姉ちゃん」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ