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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
マリーゴールド編
226/343

追憶の迷宮 後編

 リリィ達が部屋の奥に閉じ込められ、一時間が経過。

 ダンジョンに閉じ込められるという状況に、戸惑っていた彼女達だが、すぐにそんな事はどうでも良くなった。


「……何でこんな目に」

「こっちは軽い気持ちで来てんだから、心の準備位させろって話だな」


 リリィとデュラウスは、背中合わせになりながら、蒸発して行く魔物達を眺めていた。

 閉じ込められた、という事自体解決した訳ではないが、それ以前に、襲い掛かって来た大量の魔物達を前に、三周回って冷静になってしまった。

 何しろ、襲いかかって来たのは、ゴブリンやトロール等の上位個体だけでなく、ゲームなら、ボスキャラ扱いの化け物たちの上位種。

 おかげで、いつになく苦戦を強いられた。


「ダークネス・サイクロプスに、インフェルノ・ケルベロス、それに、ヘル・サラマンダー、葵さん達から頂いた情報によれば、一体や二体相手するだけでも、Bランク以上の冒険者数個小隊分は必要な個体ばかり」

「はぁ、こんな激戦になるとは、思ってもみませんでしたわ」


「(苦戦したとはいえ、そんな魔物をこの人数でやれるリリィ達って)」


 リリィの近くでは、血がベットリと付いたメイスを拭うイベリスが、ため息交じりに呟いた。

 ストレリチアのレールガンや、レッドクラウンのビーム砲さえ、耐えきるような連中だった。

 おかげで、全員がオーバー・ドライヴを使用する羽目になった。

 葵達も、討伐した事はあるようだが、その時は他のパーティと合同だったとの事だ。

 そんな魔物達を少人数で倒したことに、シルフィはちょっとした恐怖を覚えていた。


「でもまぁ、結果的に勝てたし、別に良いだろ」

「でも、結構、苦戦した、となると、ここは、かなり深い部分」

「そうなるな」

「連戦ともなりますと、わたくし達でもどれほど持つか……」


 ヘリアンの言う通り、先ほどまで戦っていた魔物達は、リリィ達でも苦戦をしいられたレベル。

 それも、大群で攻めて来た。

 質や量を考えても、以前リリィ達が迷い込んだポイントより、はるかに深い。

 だが、ダンジョンである以上は、必ずどこかに出入り口がある。


「さて、ここに居ても、しかたありません、移動して、出入り口を探しましょう」

「でも、アテも無く探すのは危険じゃない?」

「そうですが、扉が消失した以上、これ以外方法は有りません……ですが、冒険者にさえ出会えれば、出入り口に位置を聞き出せます、それに賭けましょう」


 シルフィの言う通り、今回は退いたが、次も簡単に行くとは限らない。

 リリィ達の強さであれば、それほど気にするような事も無いだろうが、ダンジョンには未知の強敵が居る事も有る。

 補給も限られているので、アテも無く動き回るのは危険だが、今はそれ以外に方法が無い。

 しかたがないので、リリィ達は行動を開始する。


「なぁカルミア、こんなとこ、見た事有るか?」

「いや、アース・ドラゴンを回収するために、それなりに深い場所まで潜ったけど、こんな所は初めて」


 道中、デュラウスがカルミアに、この場所の記憶があるか尋ねたが、カルミアも、こんな場所は初めてらしい。

 アース・ドラゴンが居たのは、当時この世界の冒険者達が到達していたポイント。

 おかげで、タイラントや、他のドラゴン系のような魔物も、使役できた。

 だが、現在地で遭遇した魔物達の質や、物量を考えても、かなり深い場所だ。


「……ん?」

「どうしました?」

「……誰かいる」

「え?早速ですか?」

「うん、でも、魔物の気配も有る」


 弓状態のストレリチアを構えたシルフィは、誰かの気配を察した。

 敵意こそ無いが、近くに魔物の気配も感じるので、警戒を強める。

 全員武器を構えながら、気配のする方へ移動して行くと、次第にテントが姿を現す。


「これって」

「キャンプの、跡」

「……火が消えて間もない、でも、こんな所に人何て」


 見つけたのは、誰かがキャンプをしていた跡。

 テントだけでなく、物資の入っている木箱や、焚火の跡もあるので、完全にこの辺りに住み着いている。

 リリィ達でも苦戦するような魔物が、大量にはびこるこのポイントに住む。

 そんなバカみたいな事をする人間は、リリィ達の知る限り、ジャックか七美位だろう。

 この世界で知り合った人間にも、そんな事をするような人間はいない。


「ワンッ!!」

「ッ!?」

「何だ!」


 調べていると、かなり声の太い犬に吠えられた。

 犬の声がした方へと、全員一斉に武器を向け、その姿を視界にとらえる。

 白銀の毛並みを持った、巨大な犬、というより、狼が威嚇しながらリリィ達の前に立ちはだかっていた。


「こ、こいつは」

「フェンリル、こんな個体まで……大きさ的に幼体だけど、油断すんなよ」


 体長三メートルはある、巨大な狼。

 カルミアは、いままで集めたデータを元に、解析を行った結果、一番近いのはフェンリルという事が判明した。

 狼系列の魔物の中では、最強クラスの個体だ。

 見たところ子供であるが、リリィ達でも、どうなるか解らない。

 緊張を漂わせていると、響いて来た少女の声によって、少しだけ和らぐ。


「ちょ、タイム!タイム!……もう!勝手に飛び出ちゃダメって、言ったでしょ!」

「ク~ン……」

「……だ、誰?」


 どこから出てきたのか解らないが、リリィ達の警戒を解いたのは、フェンリル同様、銀色の髪を持つ少女。

 エーラと同類かと思ったが、獣の耳や尻尾が見られず、エルフという訳でもない。

 比較的軽装の甲冑に、剣が一本と、ナイフが複数に、ヘルメットも着けていない。

 とてもこんな高難易度の場所で、生活できる恰好には思えない装備の少女は、フェンリルの頭を掴み、お説教を始める。


「もう、メ、だよマルコ、僕の言う事は、ちゃんと聞かないと」

「ク~ン……」

「うん、反省できてえらい、次は気を付けてね」

「ワン!」

「……あの、貴女は?」


 まるで、ペットの犬と、その飼い主のようなやり取りにリリィ達はすっかり硬直していた。

 リリィは、その硬直を破り、銀髪の少女に話しかけた。

 だが、少女はマルコと呼ばれた少女は、少し暗い顔をしながら、リリィ達の方を向く。

 手は剣に添えられており、敵意も薄っすらと感じる。


「……それより、先にそっちが名乗るのが、筋じゃない?」

「……失礼しました、私はリリィ、この子は、シルフィです」

「よ、よろしく(……この子、目が灰色?違う、私と同じ?……何だろう、なんか、既視感が……)」

「それと、その他大勢です」


 少女の発言に従ったリリィは、自分とシルフィの紹介はするが、カルミア達は適当に済ませた。

 その事に腹を立てたデュラウスは、鋭い蹴りをリリィの腰へとおみまいする。


「フンッ!」

「ゴフッ!」

「……今のはリリィが悪い」


 良い感じのものを貰ったリリィは、その場にしゃがみこんでしまうが、他の面々は、彼女を完全無視。

 シルフィも、完全にリリィが悪かったので、特に弁護することなく、話を続けさせる。


「ごめんね、この子達は、リリィの妹の……」

「カルミア」

「デュラウス」

「ヘリアントス、ヘリアンって呼んで」

「イベリスと申します」


 自己紹介を終えるが、それでも少女は警戒を緩めておらず、キツイ目つきは緩まない。

 だが、一応敵意が無い事は伝わったらしい。


「僕は、キレン、この子はマルコ」

「ま、マルコ?」


 キレンと名乗った少女だったが、隣に居る狼の名前に、シルフィは目を丸くした。

 何しろ、マルコ感が一切ないのだ。

 全く丸く無く、むしろギザギザに尖っているようにしか見ない。

 しかし、キレンは普通の犬のように、マルコをなで始める。


「そ、さっきはごめん、そこの黒いのに反応しちゃったみたいで」

「そ、そうなんだ……(丸!フェンリルが普通の犬みたいに可愛がられてる!てか、普通に可愛い!)」

「マルコ……もしかして、マルコシアスから、とってる?」

「まぁね」

「それ、魔物ってか悪魔じゃん」

「良いじゃん、似たような物だし」

「そう言う物?」


 フェンリルに、狼の悪魔の名前を付けた事で、少し話が弾んだが、復活したリリィは、キレンに、鋭い目つきを浮かべる。

 今リリィ達が居る場所は、先ほどの戦いがあった場所から、それほど離れていない。

 そうとう鈍くなければ、先ほどの戦闘に気付いてもおかしくはない。

 距離的にも、戦闘が終わるころには、移動はできる。


「あの、先ほど私達は戦っていたのですが、その戦闘はお気づきに?」

「……まぁね」

「ああ、だから隠れてたの」


 リリィの言い放った質問に、キレンがうなずくと、何故キレンが身を隠していたのか、シルフィは納得する。

 先ほどのような大群を前にすれば、普通は隠れるか逃げるかの二択だ。

 戦闘の規模から考えても、姿をくらました方が、けん命な判断といえる。

 しかし、キレンは、シルフィの言葉には、首を横に振る。


「そっちは残念、単純に君達が来たから隠れたの、人を斬る訳には行かないからね(ま、あのエルフ以外は、違うみたいだけど)」

「そうですか、ま、隠れた理由については言及いたしませんが、私達が戦闘をしている時、何処に居たのですか?」

「……君達には関係ないよ……もしかして、何で助けに来なかったのか、とでも言いたいの?」

「そうではありません、お騒がせしてすみませんと、申し上げたかったのです」

「そう……良いよ、この辺りだと、あの程度珍しくないから」


 今の程度が珍しくない。

 その発言で、キレンはこの辺りに長く活動している事が判明した。

 しかも、リリィ達でさえ、全滅させるのに一苦労させた大群を、あの程度、と称した辺り、かなりの実力者だ。


「そうでしたか……所で、出入り口が何処にあるか知りませんか?私達、迷ってしまって」

「……そうなんだ、ま、気を付けてね」

「……それだけですか?」

「え?それだけ、だけど?」

「ッ」


 キレンの態度に、リリィは少し頭に来た。

 完全に他人事感を出しているので、思わず殴りかけたが、社交辞令として我慢する。

 リリィは、自分にも悪い部分は有ったと言い聞かせ、先ほど採取できた魔石をいくつか差し出す。


「……すみません、出口を教えてください」

「……ッ」

「あ」

「テメ!」


 キレンは、差し出された魔石を、手で払いのけた。

 彼女の態度に、リリィ以上に頭に来たデュラウスは、手を出しかけるが、リリィに止められる。

 このような事をされる事位であれば、リリィは予想通りだった。


「おい、どういうつもりだ?」

「悪いけど、お金とかそう言う問題じゃない、そもそも、僕は人を助けない、なにが有ってもね」

「チ、クズ女が!」


 キレンの発言に、デュラウスは殴り掛かろうとするが、今度はシルフィも一緒に止めに入る。

 それに続き、イベリスも止めに入りだす。


「ちょっと、デュラウスちゃん、落ち着いて!」

「落ち着けるか!」

「初対面の方に危害を加えるおつもりですか!?」


 血相を変えて襲い掛かろうとするデュラウスは、二人に任せ、リリィはキレンの前にでる。

 正直、彼女の言う事も解らないでもない。

 彼女には、リリィ達を助ける理由は、今のところない。

 だが、先ほどの冷たいセリフを吐く理由にはならいが、ここは大人の対応を見せる。


「妹がすみません、訳は訊ねませんが、気持ちはわかります……大方、助けても、自分が得をするわけでは無いから、といった所でしょう」

「へぇ、納得できるなんてね……ま、あながち間違いじゃないよ、おせっかいの情けなんて、人の為にも、僕の為にもならない……助けたとしても、全てそいつの望み通りに運んでなければ、罵倒や叱責、助けられた恩なんて、感じないやつばかりだもの」


 キレンの言葉に、シルフィも少し怒りを感じ出すが、共感もしてしまう。

 デュラウスも、彼女の発言は少し解るが、認めたくないような事でもある。

 そんな中で、二人以外は、首を縦に振った。

 何しろ、心当たりしかなく、キレンの性根が腐った理由は、何となく察した。


「……では、どうやら、私達はここに居ては邪魔のようですね、これで」

「おい!リリィ!何納得してんだ!?」

「まぁまぁ、もう行こうよデュラウスちゃん」

「……チッ」


 舌打ちをしながらも、デュラウスはシルフィとイベリスをはねのけ、先に行ったリリィの後を追う。

 そして、イベリス、カルミア、ヘリアンも続くと、最後にシルフィが頭を下げて、彼女達の後を追いかける。

 マルコと一緒に残されたキレンは、彼女達の後ろ姿を見送りながら、過去の事を思い出す。


「……そうだ、誰かを救っても、救った本人は、救われない……誰も、救う人の痛みを知らないから」

「……ク~ン」

「……あ、ゴメンね、そろそろ、ご飯にしようか」

「ワン!」


 すり寄って来たマルコに、キレンはホホを緩ませる。

 そして、食事がまだだったことを思い出し、準備を始める。



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