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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
マリーゴールド編
225/343

追憶の迷宮 中編

 ジャックとヘリアンが、一時的に帰還した翌日。

 シルフィは、宿屋の一室にて、里で見つけた本に目を通していた。


「ルー、レグザ、コマーン……えっと、こっちは、るーふぃ?……じゃない、リーフオん?……何だったかな~」


 シルフィは、記憶を頼りに、本の解読を進めていたのだが、ほとんど頼りにならず、解読は進んでいなかった。

 文字自体は、地下で見つけたコンピューターのキーボードと同じ物。

 しかし、ジャックとリリィも、知らない文字であるうえに、記憶も曖昧、解読が難航していた。


「どうです?進行の方は」

「あ、リリィ……全然だよ、記憶も曖昧だし」


 頭を悩ませていると、リリィが部屋に入って来た。

 彼女の姿を見るなり、シルフィは、本を読んでいた疲労が晴れたかのように、笑みを浮かべる。

 そんなシルフィへと歩み寄ったリリィは、後ろから抱き着く。

 以前のシルフィであれば、かなり動揺したかもしれないが、慣れたのか、快くリリィを受け入れる。


「焦る事は有りません、世界が滅ぶわけでもないので」

「そうだけど……でも、この本がカギのような気がするの、私が、どうして色々忘れているのか」


 シルフィとしては、自分の記憶や、色々と浮かんできた謎を解くカギは、本の解読に有ると考えている。

 本の文字を見ていると、何かを思い出しそうになるので、間違いはない。

 なので、必死に解読に勤しむシルフィだったが、リリィにとっては不服でしか無く、不機嫌そうに眼を細める。


「それもいいですが、本ばっかではなく、もう少し私にもかまっても良いかと……」

「昨日さんざんかまったでしょ……てか、いい加減無機物とか機械に嫉妬するの、止めたら?こっちも気が休まらないから」

「そうですけど……」


 つい先日、さんざん交わったのだが、シルフィの意識がこうして本にばかり向いてしまっている。

 この事が、どうしても嫌だった。

 そんなリリィの気持ちを汲み取ったのか、シルフィは席を立つ。


「もう、相変わらずかまってちゃんだよね」

「良いじゃないですか、それに、私の胸でワンワン泣いてた貴女に、言われたくないですよ」

「そ、それは……で、どうするの?」

「そうですね、丁度、私達二人だけですし」


 立ち上がったシルフィは、リリィと抱き合いながら、話をした。

 そして、話を終えると同時に、リリィは背伸びをしながら、シルフィと唇を重ねる。

 身長差のせいで、立ってキスをするときは、どうしてもリリィが苦労する形になってしまう。


「ん……はぁ、歯がゆいですね、こんな風につま先で立たなければならないとは」

「でも、必死に背伸びするリリィ、とても可愛い」

「う、うるさいです」


 シルフィの言葉に、恥ずかしさを覚えながらも、リリィはもう一度唇を塞ぐ。

 いっその事、義体を新調して、身長をシルフィと同じにしてやろうかと思ってしまいながら、リリィは唇を離す。

 どうやら落ち着いたらしく、シルフィは昨日の事について訪ねだす。


「……ねぇ、そう言えば、昨日アラクネさんと何か話してたの?」

「ああ、いえ、ちょっと、お話とプレゼントを」

「プレゼント?」

「ええ、彼女用に調整したスーツと、無線機を予備含めて三つと、アイテムをいくつか」

「何でそんな」

「大尉と話し合って、許可は取りました」


 昨日、リリィは蜘蛛達の山にて、アラクネと二人で話をしていた。

 周りの人間にも聞かれたくない話だったので、第三者の介入しにくい山を選んだ。

 その理由は、ここに来たもう一つの目的。

 アラクネ達に、エーラが開発したアイテムを、いくつか横流を行う事。

 ジャックと少佐からは、許可をとっており、色々と足跡も消してある。

 その事を伝えたリリィは、シルフィともう一度キスをしようとする。


「ま、それはさておき、もう一度」

「また?」

「何度しても、減る物ではありませんから」

「もう」

「お楽しみのとこ失礼」

「チ(メスガキが)」

「あ、カルミアちゃん」


 だが、そう単純には運ばず、シルフィ達の部屋に、カルミアが入って来る。

 口元がピクついている辺り、結構ご立腹のようだ。

 お楽しみを邪魔され、嫌そうな顔を浮かべるリリィを無視するカルミアは、二人の元に歩み寄っていく。


「アンタねぇ、ヘリアンから通信が来たから、シルフィ呼んで来るだけでしょ」

「良いじゃないですか、姉たる私の特権です」

「何が特権だ、これならイベリスに行かせるんだったよ」

「まぁまぁ、それで、ヘリアンさん、戻って来るの?」

「そう、少佐から、引き続きあの部屋の事を調べてくれって、もう一度里に行って、調査を再開することになった」

「ちょ、重要な話じゃん」

「だからさっさと呼んできてほしかったの」

「ホントにゴメン!」


 カルミアから重大な事を伝えられたシルフィは、すぐに頭を下げ、本と装備を持って、宿を飛び出していく。

 勿論、目的地は故郷の里だ。


 ――――――


 暫くして。

 リリィ達は、大量の武器弾薬を持って戻ってきたヘリアンと合流を果たした。

 今回は、ヘリよりも大きな輸送機を使い、レッドクラウンと、その予備パーツも輸送してきた。


「お疲れ様です」

「うん、大変だった」

「お、エーテル・ギアまで持ってきたのか」

「うん、必要に、なるだろうから」


 リリィ達は、ヘリアンの持ってきた武器を下ろしていき、アイテムボックスへと詰め込んでいく。

 持ってきた武器の中には、リリィ達のエーテル・ギアも入っており、意気揚々と装着を始める。

 シルフィも、久しぶりにストレリチアに袖を通し、ウキウキとしている。


「懐かしいね、もう何か月ぶりかな?」

「そう言えば、シルフィは数か月ぶりでしたね」

「装備が終わったら、皆、聞いて欲しい、ことが有る、後で、いい?」


 感慨に浸っている間に、武器の積み下ろしは終了し、輸送機のサブパイロットとして来てくれたスタッフを見送る。

 その後で、ヘリアンは少佐からの伝言と、出発前に起きたトラブルについて、報告し始める。


「……それで、聞いて欲しい事って?」

「……まず、私達は、基本的に、身を隠す事が、優先、このダンジョンを、調べた後は、どこかに、身を隠す」

「それは承知しておりますわ、他に何か無くって?」

「えっと、曹長が、繰る筈だったけど、先に、行動する事に、なった」

「七美も来るのか?」


 そう、ヘリアンの言う通り、今回は七美もくる予定だったのだが、ちょっとしたトラブルで、足止めをくらっている。

 何しろ、目覚めたエーラが、再度研究にのめり込もうとしたのだ。

 ジャック達が持ち帰った情報に、余程興味をひかれたらしく、今度は一週間でも二週間でも、徹夜する気で居た。

 なので、今はジャックと七美によって、押さえつけられている最中である。


「その筈、だったけど、六徹した後なのに、また無理しようと、していたから、ジャック達に、足止めされてる」

「成程、それで遅れると」

「そう」

「無理も無いか、ただでさえ、新型の義体の研究にお熱だったし、そこにアタシらの見つけた情報に、テクノロジー、目にすれば、エーラなら食いつくか」

「流石カルミアちゃん、最近のエーラさんに詳しいね」

「まぁね、褒められても、あんまり嬉しくない事だけど」


 ヘリアン達の話を聞いていたカルミアは、レッドクラウンを起動させながら、エーラの現状について話した。

 嬉しくも無い事で、褒められながらレッドクラウンを立ち上がらせると、他のメンバーからの視線を集める。

 改めて、レッドクラウンの大きさを認識すると、一つ問題が浮上した。


「……あの、貴女も来るつもりですか?」

「え?そうだけど?悪い?」

「悪い、というより、入り口が、とてつもなく、狭い」


 そう、レッドクラウンでは、地下の入口を通る事すらできないのだ。

 それどころか、入り口のある部屋まで行く事も叶わない。

 報告で、そのような事を言っていたのを思い出したカルミアは、口内のビーム砲を起動させる。


「あ、そういや、そんな事言ってたな……よし、下がってろ、主砲で吹っ飛ばす」

「ちょ!やめてよ!あんなのここで撃ったら、大騒ぎだって!」

「え~、そうでもしないと、レッドクラウンが入れないし、それに、エルフの里なんて、吹っ飛ばしてナンボでしょ?」

「アンタもかい!?もう良いよそのネタ!一体何時の話!?」

「懐かしいですね、まぁ、昔の天丼に、いくら新しい物乗せても、無意味ですが」


 ビーム砲をチャージするカルミアであったが、シルフィによって止められ、カルミアは渋々砲門を引っ込める。

 それと同時に、色々懐かしい話題も上がって来たが、シルフィとしては、もう聞き飽きた話題だった。

 その横で、感慨に浸るリリィのセリフを聞いていたヘリアンは、変な事を口走りだす。


「でも、これから先、作者も書いてて、勝手に鬱に、なりかけた、展開になるから、今のうちに、ギャグを入れといたほうが、良い」

「え?」

「……ん?」


 ヘリアンの発言で、場の空気が変に氷付いたが、ヘリアン自身も、自分で何を言ったのか覚えてないのか、首を傾げてしまう。


「あれ?私、何か、言った?」

「……と、とりあえず、カルミアちゃん、どうしても来たい?」

「……できれば」

「……しゃぁねぇな、いっそバラして運ぶか」

「え、マジで言ってる?」

「しかたありませんわね、その大きさでは、アイテムボックスにも、入りませんわ」

「う」


 とりあえず、ヘリアンの発言は置いておき、デュラウスはレッドクラウンを運び入れる方法を提案する。

 カルミアとしては、整備以外でレッドクラウンをバラバラにすることは、できればしたくない所。

 しかし、イベリスの言う通り、レッドクラウンの大きさでは、アイテムボックスにさえ入らない。

 容量的に入らない事は無いが、今の状態で入れようとすれば、袋がはち切れる。

 なので、カルミアは仕方なく、レッドクラウンの解体を決めた。


 ――――――


 一時間後。

 一行は、レッドクラウンを解体し、地下へと移動。

 最下層へと辿り着き、レッドクラウンの組み立て作業も完了した。

 弾薬類も、先に詰め込んでいたので、既にアイテムボックスはパンパンの状態だったので、一部パーツは、素手で運ぶことに成った。


「はぁ、やっと終わりましたね」

「普段なら、クレーンとか使う作業だし、ま、エーテル・ギアがあるし、楽勝だろ……しっかし、本当に環境がダンジョンとはな」

「カルミアちゃん、ダンジョンに行った事あるの?」

「まぁね、基地の地下にも入り口有るし、あの島とかで使った魔物の回収とかしてたから」

「なるほど」


 リリィの愚痴を聞き流し、カルミアはレッドクラウンを起動させながら、シルフィの質問に答えた。

 カルミアにとって、ダンジョンはかなり慣れ親しんだ環境。

 魔物の回収や、レッドクラウンの試運転等で訪れたので、このメンバーの中では、経験は一番多い。

 話を終えると、駆動系や、武器に何の異常も無い事を確認し、レッドクラウンを立ち上がらせる。

 相変わらずの大きさであるが、この先の扉は、何とかくぐれそうだ。


「よし、先に進むとするか」

「そうですね、さて、行きますか」

「うん、それじゃ、早速、開ける」

「任せろ」


 レッドクラウンの起動を確認するなり、リリィ達は部屋の有る方を振り向く。

 何故だか、以前と比べて、禍々しい雰囲気をおびており、入る事をためらってしまう。

 しかし、こんな所で止まっていられないので、早速、デュラウスとヘリアンが、部屋へと通じる扉に手を置く。

 この先に何が有るのか、わかりきっているが、警戒する事に越したことは無いので、気を緩めずに扉を開ける。


「……あれ?」

「……どういう、事?」


 扉の先には、何も無かった。

 厳密には、部屋は有るのだが、先日見た物とは違う。

 まるで、どこかの神殿のように、柱が等間隔に置いてある、真っ白な空間。

 雰囲気のまるで違う場所を、目にしたリリィ達は、思わず硬直してしまった。


「おい、どういう事だ?これは、昨日まで、確かにコンピューターの有った部屋だったよな?」

「ええ、間違いありません、写真も有りますし」

「途中で道を間違えたのではありませんか?」


 実際にあの部屋を目にしたメンバーは、状況が全く分からなかった。

 証拠となる写真は勿論、ヘリアンは実際に、コンピューターにアクセスした。

 物が無くなっている、というのであれば、まだ納得はできたが、環境そのものが変わっている。

 イベリスの言う通り、道を間違えたのかと、一瞬思ったが、ここまで一本道、間違える筈がない。


「ここまで一本道だっただろ?そいつはあり得ねぇよ」

「そ、そうでしたわね」

「ですが、調べてみましょう、何か解るかもしれません……イベリス、先頭を任せます」

「了解しましたわ」

「じゃ、アタシは最後尾になる」

「お願いします、シルフィは、私から離れないでください」

「わかった」


 怖い物見たさで、リリィ達は順番に部屋へと入って行く。

 周辺を警戒しつつ、メイスと盾を構えるイベリスから順に、部屋へ侵入する。

 入ってみると、その空間はとても広い。

 身長五メートルのレッドクラウンが、思う存分暴れられる位だ。

 部屋というには、あまりにも広い環境だ。


「レッドクラウンが入っても、余裕が有りやがる」

「……ここがダンジョンだとすれば、それだけ大きな魔物が生息している可能性がありますね」

「だったら、戦いがいが有るぜ」

「調子に乗らないでくださいませ」


 デュラウスの発言に、イベリスが注意していると、彼女達の後方から、重々しい音が聞こえて来る。

 まるで、扉を閉じたかのようなその音に、六人は顔を青ざめる。


「おい、何だ?今の音」

「ま、まさか」


 恐る恐る振り向いた先には、壁しかなかった。

 出入り口の類は無く、それどころか、最初から扉なんてそこに無かったように、消えてしまっている。

 それを見たカルミアは、壁へと駆け寄る。


「ど、どう言う事だ!?扉が消えやがった!」

「そんな!?」


 壁にたどり着くなり、カルミアは乱暴に叩き出す。

 だが、叩けど、蹴れど、もはやそこは、ただの頑丈な壁。

 レッドクラウンの打撃をくらっても、まるでびくともせず、扉として開く事は無かった。

 それどころか、レッドクラウンのセンサーでも、そこに扉が有ったという事は、立証できない。


「……う、ウソだろ、扉が、完全に消えやがった」

「と、言う事は」

「私達、閉じ込められちゃったの?」

「というより、ダンジョンに締め出された、といった所でしょうか」

「マジかよ」

「そんな……」


 ――――――


 リリィ達が困惑している頃。

 一人の少女の元へと、白銀の毛並みを持つ一匹の狼が駆け寄っていた。


「……ん?如何したの?マルコ」

「ワン!」


 マルコと呼ばれた狼は、主である少女に、頭をわしゃわしゃと撫でられながら、感じ取った気配を報告した。

 たった一吠えだったが、少女は目を丸めてしまう程、なんとも珍しい事を告げられた。


「……え、珍しいね、こんな所に人が来るなんて……ま、僕には関係ないけど」



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