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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
マリーゴールド編
222/343

記憶の森林 中編

 リリィ達が自由落下を始めた辺り。

 カルミアとイベリスは、ヘリを下ろし、リリィ達の観測を行っていた。

 なにやら、地下へ通じる通路を見つけたとの事だったので、専用の機器を使い、様子を見ている。

 そして、シルフィとジャックが、違和感を覚えた頃、異常が発覚した。


「ッ、シルフィ達がロストした」

「は!?」

「ど、どう言う事ですの?」

「待ってろ、今調べてる」


 カルミアは、デュラウスとイベリスの反応に答えるべく、機器のチェックを始める。

 特に異常は無く、これと言って故障は無い。

 考えられるのは、リリィ達が死亡したか、何らかの方法で転移したか、である。

 もしくは、余程エーテルの濃い場所に出たかだ。


「おかしい、どこも異常が無い、どういう事だ?」

「おいおい、ジャックとヘリアンまで居るってのに、死んだわけじゃ無いよな?」

「不謹慎ですわよ、ですが、転移したというのも、あまり考えにくいですわね」

「どうかしたの?」

「シルフィ達がロストした、クソが、どうなってやがんだ?この里は」


 わちゃわちゃと話をする三人に気付いたアラクネは、ヘリに乗りこんで来た。

 そして、カルミアの発言を聞いて、アラクネは息を飲んだ。

 機器を叩きながら、慌てふためくカルミアを見る限り、本当というのが、ひしひしと伝わって来る。

 そして、イベリスも何処からか機材を取りだし、モールス信号を送りだし、デュラウスも、ダメ元で無線を繋げだす。


「こちらイベリス、皆さん、応答してくださいませ!」

「シルフィ!ジャック!誰でもいい、出てくれ!」

「ダメだ、無線の反応も、識別信号も拾えない、デュラウス!様子見に行ってくれ!」

「解った、確かあっちの方だったな!」


 カルミアの命令を受け、無線を放り投げたデュラウスは、ランスと太刀を手に取り、リリィ達の後を追う。

 彼女達の様子に、アラクネは心配そうに祈りをささげた。


「お願い、無事に帰って来て」


 ――――――


 その頃。

 リリィ一行は、見つけた扉の中へ突入し、開いた口を塞げずにいた。


「……おい、これって」

「私の見立てが間違っていなければ……コンピューターです」

「ウソ、何でここに、そんな物が」


 彼女達の前に現れたのは、マザーに酷似した形状を持ったコンピューター。

 この異世界の水準では、逆立ちしたって作る事は出来ない代物だ。

 オーパーツ、というにも無理がある。

 剣や細工物ならともかく、ガチガチの最先端技術が使われており、オーバーテクノロジーもいい所だ。

 その正体を調べるべく、ヘリアンが前へ出て行く。


「……調べてみる」

「おいヘリアン、気を付けろよ」


 ショットガンをしまったヘリアンは、コンピューターらしき物体を回り、コンソールを見つけると、そこに手を置く。

 意識を集中させ、アクセスを開始する。


「アクセス、開始……ガァッ!!」

「ヘリアンさん!?」


 アクセスを行った瞬間、ヘリアンは雷を受けたような反応をする。

 実際、ヘリアンの周辺から、紫電のような物が見えたシルフィは、すぐに駆け寄る。

 倒れ込んだヘリアンを介抱するシルフィとリリィを横に、ジャックはコンソールを目にする。


「……これは」

「ヘリアン!しっかりしてください!」

「ちょっと!大丈夫!?」

「……ッ……う、あ」


 ジャックがコンソールに驚く中で、ヘリアンは目を覚ます。

 だが、まだ意識がはっきりしないらしく、リリィはヘリアンとのリンクを試みる。


「待ってください、いま演算を共有します」

「う……」


 リリィは、ヘリアンの体に手を置き、アクセスを開始。

 それによって、現在のヘリアンの状態を診察する。

 どうやら、先のコンピューターにアクセスした事で、機能にいくらか不備が発生していた。

 ヘリアン個人でも、修復を始めているが、一人では時間がかかりそうだ。

 せめて、会話を行える位にはと、リリィは修復を行っていく。


「ここを……こうしてっと……どうです?話す事位は、できますでしょ?」

『……うん、何とか』

「ど、どうしたの?何か、ウイルスって奴でも、あったの?」


 リリィのおかげで、機械的な部分の修復が完了し、ラジオから流れるような声が、ヘリアンから出て来る。

 口は動いておらず、スピーカーから、無理矢理声を出している状態だ。

 リリィに、内面の修復を手伝ってもらいながら、ヘリアンは、シルフィからの質問に答える。


『防壁が、張られてた、幸い、ウイルスには、感染、していない、でも、身体機能が、コントロール、できない』

「防壁?ねぇリリィ、そう言う事あるの?」

「恐らく、アクセス権のない個体が、アクセスした場合、プログラムに異常を来たすように、設定されているのでしょう……ですが、ヘリアン程の個体に損傷を、しかもこれは、アンドロイドを想定した罠としか……」


 ヘリアンの修復中に、リリィはいくらか状況を把握した。

 今のヘリアンは、歩く事すらできない位、プログラムがボロボロになっている。

 だが、損傷したのは、基本動作の部分だけ、恐らく、戦闘能力や自我等には、影響がない。

 その事に安堵しながら、ヘリアンと手分けして、プログラムの修復をおこなっていると、ジャックがコンソールを叩きだす。


「ダメだ、言葉が古すぎる、俺じゃ解読できない」

「そっちも、何か有ったの?」

「ああ、これ見な」

「う、うん、ゴメン、ちょっとあっち行ってみる」

「どうぞ、彼女は、私が看ています」


 シルフィは、ヘリアンをリリィに預け、ジャックの方へと移動する。

 かなり難しい顔を浮かべながら、コンソールをいじっていたので、ちょっと興味があった。

 そして、ジャックのいじっていたコンソールを前に、シルフィは首を傾げる。


「なにこれ?キーボード、に見えるけど、何かの模様?」

「いや、コイツは文字だ、しかも、シュメール文字ってかなり古い奴だ、俺の世界にも有った」

「へ~……(何だろう、これ、見た事有る気が)」


 シルフィが目にしたのは、最近使い始めた、キーボードという物だった。

 しかし、並んでいたのは、自分たちの世界の文字でも、基地で使っていた文字でもない。

 ジャックの世界の、古代文明が使っていた文字との事。

 その事を聞いたシルフィは、ひっかかりをいくつか覚える。


「あれ?……ちょっとまって、何で、ジャックの世界の文字が、ここにあるの?」

「……さぁな、それに、俺も以前同じ事を思った」

「え?前に?」

「……ああ、元居た世界から、今の世界に渡った時に、同じ物を見た」

「ぐ、偶然?」

「いや、三度目ともなれば、もう偶然とは言えないな」

「とりあえず、持ちだせた、情報も有る、マザーに、接続すれば、解析、できるかも、知れない」

「あ、良かった、起きたんだね」


 ジャックとシルフィの話に反応したのは、何とか立ち上がったヘリアン。

 まだリリィの肩を借りている状態だが、一応の復活はできたようだ。

 しかも、情報を一部持ち出せたらしい。

 あの一瞬で、よく持ち出せたと感心してしまう。


「さて、どうします?進めど進めど、謎が深まる一方ですよ」

「……そうだな、一度撤収しよう、上の連中が心配しているだろうからな、無線も使えないし」

「そうだね、いい加減にしないと、デュラウスちゃん辺りが、フル装備で乗り込んできそうだよ」

「シルフィィィ!!無事かアアア!!?」

「マジで来た」


 シルフィの予言ともとれる発言から、間髪入れることなく、デュラウスが乗り込んできた。

 しかも、太刀とランスを両方構えており、完全に戦闘態勢をとっている。

 とりあえず、興奮状態のデュラウスをなだめた後、一行は地上へ戻って行った。

 もちろん、地下で見た物は、全て写真に収めた後で。


 ――――――


 地上へ戻ったリリィ一行は、アラクネ達に事のてんまつを報告した。

 一応、写真等が証拠品にはなったが、居残り組からすれば、現実味がない話だった。

 何しろ、この世界に有る筈のないコンピューターの存在や、里の地下で見つけたダンジョン。

 しかも、ジャックとリリィ、それぞれの世界の古代文字の発見。

 そんな事を信じろと言われても、信じられる話ではない。


「……ねぇ、アンタの里、一体何なの?」

「私が知りたい」

「そうよね」


 報告を受けたアラクネは、頭を抱えながら、シルフィに訊ねてみるが、納得のいく一言しか帰ってこなかった。

 シルフィ自身も、知らないような事が、こうしてドカドカと出てきたのだから、仕方のない事でもある。

 ジャック側の世界の事で、さんざんビックリしていたと言うのに、それを上回る事が多くあった。

 そのおかげで、シルフィもヘリに腰をかけ、気を休めている。

 そして、そのヘリの中で、ジャックは何度も頭を下げながら、通信を行っていた。


「だから、申し訳ないって……あ、いや、そうなんだけど……で、でも、結構いい収穫が……ちょ!頼む、これ以上給料カットしないでくれ、来月新刊が……う……」

「……あっちも、大変みたいだね」

「話からして、四人が抜け出した事がバレたみたいね」

「うん、そうだろうね……あれ?ラズカさん、言葉がわかるの?」

「まぁね、アンタ等だけ話すのがシャクだったし」


 いつの間にか、ラズカがリリィ達の世界の言葉を話せるようになっていた事に、驚いていると、ヘリの奥で話していたジャックが、白くなりながら戻って来る。

 聞かなくても解るが、良くない処分が下った事には、変わりないのだろう。

 というか、普通の軍であれば、本来は脱走兵として、相応の処分は下ってもおかしくない状況である。


「あの、処分の方は……」

「新刊が、百合物の新刊が……」

「成程」


 リリィの質問を前に、意気消沈となるジャックを見て、すぐに理解した。

 もしかしなくても、給料をカットされたのだろう。

 このままでは、ジャックまで、アンドロイド嫌いの一員になってしまいそうだった。

 因みに、この処分はジャックだけでなく、ちゃんと届け出をだしたリリィとシルフィ以外、全員に適応されている。


「とりあえず、ジャックが落ち込んでる所悪いけど、お父さんのお墓参りに行ってもいい?」

「あ、そうでしたね、そろそろ行きましょう」


 シルフィの言葉で、本来の目的に近い事を思い出したリリィは、死にかけているジャックを担ぎ出す。

 他のメンバーも準備を行い、全員ジェニーの墓へと移動する。

 のだが、スコップやら何やらと、とても墓参りの恰好ではない。


「……ねぇ、本当に掘り起こすの?」

「折角ですし、故郷の土に埋めてあげましょうよ」

「そうね、それが良いわよ、こんな訳の分からない場所に埋めておくよりもね」

「訳が分からなくて悪かったね」


 デュラウス達の装備は、ジェニーの遺体を掘り起こすための物。

 罰当たりかもしれないが、折角ここまで来たのだから、故郷に埋めてあげようという事になったのだ。

 アラクネのこんな所発言は、この際置いておき、シルフィ達は墓にたどり着く。


「……ジェニー、久しぶりだな」

「復活はやっ」

「新刊よりも部下を思っている、という事でしょうね」


 墓前に着いた途端、復活したジャックは、墓標の前で膝をついた。

 リリィに運ばれ、墓に近づいた途端、耳が物凄い勢いで反り立ち、まばたきをした時には、既に墓の前に居た。


「掘り起こす前に、お祈りだね……」

「はい」


 ジャックに続き、シルフィも膝をつき、リリィも、胸元から石を取りだし、祈りをささげる。

 彼女達に続き、他のメンバーたちも、ジェニーへと黙祷を捧げる。

 祈る事数分、掘り起こしの作業へと入る。


「慎重に掘れよ」

「解ってるよ」

「一応、遺骨をツボの中に入れる感じの奴だから、割らないようにね」

「解りました」


 ジャックとリリィ、そして、デュラウスの手によって、ジェニーの墓は掘られていく。

 多少の罪悪感もあるが、こんな人気のない場所で埋まっているよりは、故郷に埋めた方がマシだろう。

 そう思いながら掘り進めると、ジャックの持つスコップに、何か固い物が当たる。


「お、これか?」

「随分深い場所に有りましたね」

「うし、ここからは手作業だな」


 デュラウスの発言と共に、三人は手作業で、ジェニーの骨壺を掘り当てる。

 だが、取りだした途端、三人は目を丸める。


「……なぁ、ジェニーって、こんなデカいのか?」

「いや、シルフィより、ちょっと有る位の筈だが」

「これ、二人分くらい入りますよ」


 何しろ、掘り出したツボは、とても大きな物だったのだ。

 この里でも、骨は砕いて入れるようなのだが、見つけたのは、二人分入りそうな位、大きなもの。

 シルフィ以外の面々も、その大きさに驚いている。

 そんな中で、ジャックは異音を感じていた。


「……何か、音がするな」

「いや、骨入ってんだからするだろ」

「そうじゃなくて、何かこう、本みたいな……」

「本?」

「……ちょっと、失礼するぜ」


 そう言い、ジャックはツボのフタを開ける。

 申し訳ないと思っていたが、最近の彼女の周りは、謎が多いので、一つでも疑問があれば、何か解き明かしたかった。

 そう思い、開けたツボの中には、ジャックの予想通り、聖書位は有る大きな本だった。


「ほ、本当に本が入ってましたね」

「でも、何でこんな物が?」

「さぁな……シルフィ、何か知らんか?」

「え、えっと……」


 渡された本を、シルフィはまじまじと見つめる。

 だが、彼女も見覚えの無い物である為、首を傾げてしまうが、試しにその本をめくってみる。

 ページをパラパラとめくるシルフィは、とあるページにたどり着くと、硬直してしまう。


「(あれ?もしかして私、これ、見た事有る?)……う」

「シルフィ?」

「どうした?」

「う……ああああ!!」

「おい!」

「シルフィ!!?」


 そのページに書かれていた物を見た途端、シルフィは頭を抱えながら発狂してしまう。

 同時に、シルフィの意識は、今まで隠されていた記憶で埋め尽くされる。

 それこそ、リリィ達の声が聞こえなくなるほど。


「(何?これは、私の記憶なの?)」


 苦しむ中で、シルフィは徐々に意識を失い始める。

 だが、沈む意識の中で、はっきりとしたビジョンが、脳裏を過ぎった。


 ――――――


 ジェニーが死んだ翌日。

 ルドベキア族長は、シルフィの頭に触れ、彼女へと言葉をつづった。


『いつか、弱い貴女を、正しく強くする人が現れる、その人達の為に、貴女と、その記憶を……』


 そう言った彼女は、シルフィの記憶にロックをかけ、更に言葉を繋げる。


『貴女は生きなければならない、私の目的のために……大丈夫、貴女なら、きっとなれるわ、本物の、ハイエルフに……』


 仮面に隠れていない彼女の口元は、笑みを作った。

 その後の事を、シルフィはよく覚えておらず、気づいた頃には、ベッドで寝ていた


 ――――――


「……私の記憶を、奪ったのは、あの人、なの?」

「シルフィ!!」


 シルフィは、リリィの胸の中で意識を手放した。


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