記憶の森林 前編
シルフィの里にたどり着き、しばらくして。
ヘリアンとデュラウスは、辺りの民家の調査を開始。
シルフィは、里の惨状目の前に、気分を悪くしたらしく、リリィと共に休んでいた。
ジャックは、報告を待ちながら、掘り返された穴を、アラクネと共に調査を始めている。
「この穴……やっぱり、報告は本当だったのね」
「報告?」
「ええ、あの一件の後で、ここの調査を命じられた部隊が有ったのだけど、彼らの話よれば、私達が倒した化け物、確か、クラブって奴の遺体が、掘り返されていたそうなのよ」
「……成程ねぇ……(クラブ、確か、シルフィに滅多切りにされてたやつか)」
アラクネは、穴の正体が、十中八九クラブの物だと考えていた。
何しろ、ウルフスがせめてもの弔いと称し、彼女を埋めた場所と、同じ位置なのだ。
理由は不明だが、誰かが掘り返し、遺体を持ち去ったのだと、彼女は考えている。
「それにしても、一体誰が……」
「ま、そいつは追々確かめるとして、こっちでその化け物の正体を探るとしますか」
そう言うと、ジャックはバックパックから取り出した道具を使い、土に付着している血液や、粘液を採取する。
アラクネの話では、結構な時間が経っているので、調査に使えるかは分からないが、取らないよりはましだ。
検体の採取を行っていると、デュラウスとヘリアンが、調査を終えて、ジャックの元へ戻って来る。
「終わった」
「おう、こっちもだ、それで?どうだった?」
戻って来た二人は、ジャックの前で敬礼し、報告を開始する。
とは言え、音を聞いていた辺り、有用な情報は得られそうに無さそうだ。
「もぬけの殻だ、アラクネの言う通り、完全に食い散らかされてやがる、食い残した腕やら何やらが、散乱してやがった」
「ちょ、怖い事言わないでよ」
「あ、わりぃ」
思わず口にした惨状に、怯えてしまったラズカにデュラウスは頭を下げる。
デュラウス達の感想としては、この状況で、生存者が一人でも出ていたのが、不思議なくらいだった。
クローゼットや、倉庫のような物の中に隠れていた所を、破壊され、見つかり、捕食された形跡も有った。
余程運が良かったか、本当に認知されなかったのか、そのどちらかと言った具合だ。
「それで、その化け物って、どこから来たの?」
「あら、もう大丈夫なの?」
「うん、何とかね」
「あまり、無理をなさらないでくださいね」
「大丈夫だって」
ヘリアン達からの報告の後で、復活したシルフィと共に、リリィが戻って来る。
まだ顔色が少し悪く、無理をしているのは明白。
リリィに心配される所を見ながらも、アラクネはシルフィからの質問に答える。
「……アイツが来たのは、地下ね、床を突き破って、突然」
「その地下、だけど、調べたら、牢屋が有った」
「地下牢……リリィみたいに、壁や天井を突き破って来たんだね」
「ですが、地下に閉じ込められただけで、触手まみれの化け物になるでしょうか?」
リリィの発言に、ジャックは昔の記憶が、脳裏を過ぎった。
何らかの方法で、人間を化け物に変える。
そんな実験をしていた人間を、ジャックはイヤという程知っている。
「……薬、あるいは、人体改造……って所か、となると……」
「どこかに、研究所に該当する場所が存在しますね」
「ああ、秘密主義な奴が隠すとなると」
「自分の目だけに届く場所、ですね……シルフィ、ここの族長の部屋は、ご存じですか?」
「え?うん、確か……こっちの方だったかな?」
ジャックとリリィは、二人で考えをまとめると、シルフィに質問をする。
アラクネの話から考えて、クラブは、族長のルドベキアに、何らかの細工を施された可能性が高い。
そして、彼女が細工を行う為の場所が、どこかにある。
それは、自分の目だけが、認識できる場所。
「よし、デュラウス達は、ここを確保していてくれ、ヘリアンとリリィは、俺とシルフィと一緒に、族長の部屋へ向かう」
「了解」
「ああ、気を付けろよ」
「ありがと、さ、行こうか」
シルフィは、ジャック達を連れて、族長の部屋へと赴く。
シルフィのように、下端の存在では、場所を知っている程度と言われる、ルドベキアの部屋。
しかも、一部の臣下を除いて、立ち入りすら禁止されている場所だ。
――――――
記憶を頼りに、シルフィは族長の部屋を見つけた。
部屋の前につくなり、四人は銃を構える。
「よし、開けるぞ」
「了解」
ジャックとヘリアンは、一緒に扉をけ破り、中をクリアリングする。
ジャックはマグナムを、ヘリアンはショットガンを構えて、部屋中を見渡し、敵が居ない事を確認する。
「クリア」
「クリア」
「大丈夫そうですね」
「うん」
中に入ると、四人は徹底的に捜索を開始する。
聞く限り、ルドベキアはそうとう謎の多い存在らしい。
相当な秘密主義者と考えれば、自室に何らかのヒントがあっても、不思議ではない。
だが、その考えは空振りになりそうだった。
「クソ、何か持ち出された後っぽいな」
「はい、クローゼットも、タンスも、全部空です」
「ピアノとか弾いたり、本を並べ直すと出て来る扉とか、無いのかな?」
「そんなホラーゲームみたいなのが有ったら、苦労しませんよ」
そんな軽口を叩きながら、何か情報になりそうな物を探し続ける。
だが、見る物全てが空であり、資料の類すら見当たらない。
机やタンス等を調べる中で、ヘリアンは壁やカーテンの裏何かを、重点的に調べていた。
その事に気付いたリリィは、ヘリアンに成果をたずねる。
「何か、有りそうですか?」
「……解らない、けど、長々と、里を空ける奴が、見つかりやすい所に、何か隠すとは、考えられない」
「成程、カーペットの下とか、ですかね?」
「……スキャン、してみる」
リリィの発言に、ヘリアンは隠している右目をさらけ出し、地面をスキャンしてみる。
すると、分かり辛くは有るが、何か有る事がわかった。
「そこ」
「え、マジで?」
勘が当たった事に驚きながらも、リリィはヘリアンと共にカーペットを退かす。
そこには、石造りの床が広がっており、その一部だけ、色が違う部分がある。
「ジャック、あれって」
「ああ、コンクリートを流した後だ、しかも最近」
「壊そう」
ヘリアンの提案を聞き入れた四人は、素手でコンクリート部分を破壊し始める。
殴って壊していくと、コンクリートの底から、金属製のフタが出て来る。
しかも、ごく最近取り付けた物だ。
破片を退かしていくと、徐々にその全体があらわにすると、ジャックはそのフタを引きはがす。
「人一人がやっと、て大きさ、だなッ!!」
物凄い音を立てながら、フタを引きはがした結果、奥に通じる階段が出てくる。
フタやコンクリートとは違い、階段にはホコリが溜まっている。
何度か使われているが、それほど高いひん度ではないようだ。
「さて、行きますか」
「ええ、そうですね……一旦、外の方々に連絡を入れましょう」
「それじゃ、私が、先導する」
「気を付けてね」
広さは、人一人がやっと通れるくらいの通路を、四人は降りていく。
幸い、一本道だった事も有って、迷う事は無いが、明かりの一つも無い薄暗い通路は、不気味さしか感じない。
現在の光源は、四人の持つライトだけ。
加えて、入り込む隙間風が、いっそう気味が悪い。
「ホコリっぽいですね」
「うん、結構前からある感じだね」
ヒビが入り、黒ずんでいる壁や階段を見るに、相当昔からある。
しかも、階段に至っては、崩れている部分もある。
そんな場所を十五分ほど歩いていくと、今度は不気味で広い場所に出る。
地下へと通じる、大きな石造りのラセン階段が出て来る。
穴の奥は結構深く、ライトの光が届かないので、余計に怖い。
「今度は、随分と広い所に出たな」
「それに、この深さ……」
内蔵されている高度計で、現在の位置を確認したヘリアンは、石を投げ入れた。
ライトの光さえ、地下に届かない事から、察してはいたが、一向に石が着地した音が聞こえてこない。
相当深い階段だ。
「エーテル・ギア持ってくるんだったな」
「はい、まさか、こんな物が有るとは」
「ウチの里、一体なんなの?」
「仕方ない、自由落下で、いこう」
「そうですね、時間も短縮できますし」
ヘリアンの提案で、一行は自由落下で進む事にした。
とは言え、話をしている間、ジャックの耳でも、石が落ちきった音を捉えられていない。
そんな深さを落下していられないので、階段から階段へと、飛び移って行く。
「ん?」
「どうかしましたか?」
「いや、何かを通り過ぎたような……」
「ああ、今違和感があったな、ま、降りればわかるだろ」
まるで、星の中心まで通じていると思える位、深い穴を降りていく事、数分。
一度、何かを通りすぎるような感覚を覚えながらも、四人は降りていった。
いい加減、自由落下にも飽きて来た頃、ようやく最深部へと到着する。
「……やっと着きましたね」
「ああ、スカイダイビングできる高さだったぜ」
「ねぇ見て、扉がある」
「……」
ちょっと疲れを感じながらも、ジャックとリリィは、シルフィが指さした方を見る。
確かに扉があり、最近まで使われていたような形跡がある。
早速、扉の奥を見てみようと、扉に手をかけようとするが、彼女達の後ろで、ヘリアンは難しい顔をしていた。
「待って」
「どうした?」
「何処か故障でもしましたか?」
「……それなら、良いんだけど、一応、報告しておく」
何やら、神妙な顔つきを浮かべながら、ヘリアンは自分の取っていたデータを、リリィ達に転送する。
ヘリアンが取っていたのは、高度や気圧といった物。
ジャックとシルフィは、端末を見て、データを確認する。
リリィも、送られてきたデータと、自分のデータを見比べ、故障が無いかを調べる。
「おい、これマジか?」
「え?何か変?」
「はい、これは……」
温度計は、地上での平均を指し、高度計に至っては、エラーと表示されている。
もちろん、リリィの計器の方も、同じデータが表示されている。
それだけでなく、無線も通じなくなっている事に気付く。
無線の方は、地下に入った事で、使えなくなるというのは、まだわかるが、至近距離に居る四人でも、通信できない。
「落下の、距離を考えても、気圧と気温は、もっと高い筈、それに、無線も、通じない」
「ああ、てっきり、地下に入ったからかと思ったが、このエーテル濃度じゃ、当然だな、これじゃ、外の連中でもこっちを認識できねぇな」
「こちらも、同じですね……これは」
「何か心当たりがあるの?」
リリィは最近、一度だけ似たような事を経験していた。
その事を思い出したリリィは、どこで経験したのかを口にする。
「ダンジョンで見られた状況に、酷似しています」
「だ、ダンジョン?」
「ええ、あそこは、私の五感センサ以外、全てのレーダーや、センサが使用不能になりますから」
「成程、機械的な観測は、ほぼ全て不可能という事か(有るって話は聞いたが、まさかこんな形で入る事になるとはな)」
酷似しているのは、以前迷い込んだダンジョンである。
あそこでも、リリィの観測能力は、ほとんど意味を成していなかった。
それほど、エーテルの濃度が高い環境であり、魔物達にとっては、この上なくいい環境との事だった。
だが、だからと言って、高度計等の不具合の答えにはなっていないが、これはクレハの発言が答えになってくれた。
「それだと、気圧とかの問題はどうだ?ここがダンジョンでも、高度の変化位あるだろ」
「いえ、クレハさん曰く、ダンジョンは異空間に近いようです、そのせいで、計器に異常が出ているのかと」
「そう言えば、そんな事言ってたね」
「成程な……とは言え、ここでじっとしていても、仕方がないな……よし、進むぞ」
「はい」
一先ず、納得したジャックは、謎の解明を行うべく、扉の先を目指そうとする。
シルフィとヘリアンを下げさせ、援護を行わせる。
リリィとジャックは、既に抜刀しており、完全に本気モードだ。
「行くぞ」
「はい」
リリィとジャックは、扉を蹴破り、中へ突入する。




