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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
マリーゴールド編
221/343

記憶の森林 前編

 シルフィの里にたどり着き、しばらくして。

 ヘリアンとデュラウスは、辺りの民家の調査を開始。

 シルフィは、里の惨状目の前に、気分を悪くしたらしく、リリィと共に休んでいた。

 ジャックは、報告を待ちながら、掘り返された穴を、アラクネと共に調査を始めている。


「この穴……やっぱり、報告は本当だったのね」

「報告?」

「ええ、あの一件の後で、ここの調査を命じられた部隊が有ったのだけど、彼らの話よれば、私達が倒した化け物、確か、クラブって奴の遺体が、掘り返されていたそうなのよ」

「……成程ねぇ……(クラブ、確か、シルフィに滅多切りにされてたやつか)」


 アラクネは、穴の正体が、十中八九クラブの物だと考えていた。

 何しろ、ウルフスがせめてもの弔いと称し、彼女を埋めた場所と、同じ位置なのだ。

 理由は不明だが、誰かが掘り返し、遺体を持ち去ったのだと、彼女は考えている。


「それにしても、一体誰が……」

「ま、そいつは追々確かめるとして、こっちでその化け物の正体を探るとしますか」


 そう言うと、ジャックはバックパックから取り出した道具を使い、土に付着している血液や、粘液を採取する。

 アラクネの話では、結構な時間が経っているので、調査に使えるかは分からないが、取らないよりはましだ。

 検体の採取を行っていると、デュラウスとヘリアンが、調査を終えて、ジャックの元へ戻って来る。


「終わった」

「おう、こっちもだ、それで?どうだった?」


 戻って来た二人は、ジャックの前で敬礼し、報告を開始する。

 とは言え、音を聞いていた辺り、有用な情報は得られそうに無さそうだ。


「もぬけの殻だ、アラクネの言う通り、完全に食い散らかされてやがる、食い残した腕やら何やらが、散乱してやがった」

「ちょ、怖い事言わないでよ」

「あ、わりぃ」


 思わず口にした惨状に、怯えてしまったラズカにデュラウスは頭を下げる。

 デュラウス達の感想としては、この状況で、生存者が一人でも出ていたのが、不思議なくらいだった。

 クローゼットや、倉庫のような物の中に隠れていた所を、破壊され、見つかり、捕食された形跡も有った。

 余程運が良かったか、本当に認知されなかったのか、そのどちらかと言った具合だ。


「それで、その化け物って、どこから来たの?」

「あら、もう大丈夫なの?」

「うん、何とかね」

「あまり、無理をなさらないでくださいね」

「大丈夫だって」


 ヘリアン達からの報告の後で、復活したシルフィと共に、リリィが戻って来る。

 まだ顔色が少し悪く、無理をしているのは明白。

 リリィに心配される所を見ながらも、アラクネはシルフィからの質問に答える。


「……アイツが来たのは、地下ね、床を突き破って、突然」

「その地下、だけど、調べたら、牢屋が有った」

「地下牢……リリィみたいに、壁や天井を突き破って来たんだね」

「ですが、地下に閉じ込められただけで、触手まみれの化け物になるでしょうか?」


 リリィの発言に、ジャックは昔の記憶が、脳裏を過ぎった。

 何らかの方法で、人間を化け物に変える。

 そんな実験をしていた人間を、ジャックはイヤという程知っている。


「……薬、あるいは、人体改造……って所か、となると……」

「どこかに、研究所に該当する場所が存在しますね」

「ああ、秘密主義な奴が隠すとなると」

「自分の目だけに届く場所、ですね……シルフィ、ここの族長の部屋は、ご存じですか?」

「え?うん、確か……こっちの方だったかな?」


 ジャックとリリィは、二人で考えをまとめると、シルフィに質問をする。

 アラクネの話から考えて、クラブは、族長のルドベキアに、何らかの細工を施された可能性が高い。

 そして、彼女が細工を行う為の場所が、どこかにある。

 それは、自分の目だけが、認識できる場所。


「よし、デュラウス達は、ここを確保していてくれ、ヘリアンとリリィは、俺とシルフィと一緒に、族長の部屋へ向かう」

「了解」

「ああ、気を付けろよ」

「ありがと、さ、行こうか」


 シルフィは、ジャック達を連れて、族長の部屋へと赴く。

 シルフィのように、下端の存在では、場所を知っている程度と言われる、ルドベキアの部屋。

 しかも、一部の臣下を除いて、立ち入りすら禁止されている場所だ。


 ――――――


 記憶を頼りに、シルフィは族長の部屋を見つけた。

 部屋の前につくなり、四人は銃を構える。


「よし、開けるぞ」

「了解」


 ジャックとヘリアンは、一緒に扉をけ破り、中をクリアリングする。

 ジャックはマグナムを、ヘリアンはショットガンを構えて、部屋中を見渡し、敵が居ない事を確認する。


「クリア」

「クリア」

「大丈夫そうですね」

「うん」


 中に入ると、四人は徹底的に捜索を開始する。

 聞く限り、ルドベキアはそうとう謎の多い存在らしい。

 相当な秘密主義者と考えれば、自室に何らかのヒントがあっても、不思議ではない。

 だが、その考えは空振りになりそうだった。


「クソ、何か持ち出された後っぽいな」

「はい、クローゼットも、タンスも、全部空です」

「ピアノとか弾いたり、本を並べ直すと出て来る扉とか、無いのかな?」

「そんなホラーゲームみたいなのが有ったら、苦労しませんよ」


 そんな軽口を叩きながら、何か情報になりそうな物を探し続ける。

 だが、見る物全てが空であり、資料の類すら見当たらない。

 机やタンス等を調べる中で、ヘリアンは壁やカーテンの裏何かを、重点的に調べていた。

 その事に気付いたリリィは、ヘリアンに成果をたずねる。


「何か、有りそうですか?」

「……解らない、けど、長々と、里を空ける奴が、見つかりやすい所に、何か隠すとは、考えられない」

「成程、カーペットの下とか、ですかね?」

「……スキャン、してみる」


 リリィの発言に、ヘリアンは隠している右目をさらけ出し、地面をスキャンしてみる。

 すると、分かり辛くは有るが、何か有る事がわかった。


「そこ」

「え、マジで?」


 勘が当たった事に驚きながらも、リリィはヘリアンと共にカーペットを退かす。

 そこには、石造りの床が広がっており、その一部だけ、色が違う部分がある。


「ジャック、あれって」

「ああ、コンクリートを流した後だ、しかも最近」

「壊そう」


 ヘリアンの提案を聞き入れた四人は、素手でコンクリート部分を破壊し始める。

 殴って壊していくと、コンクリートの底から、金属製のフタが出て来る。

 しかも、ごく最近取り付けた物だ。

 破片を退かしていくと、徐々にその全体があらわにすると、ジャックはそのフタを引きはがす。


「人一人がやっと、て大きさ、だなッ!!」


 物凄い音を立てながら、フタを引きはがした結果、奥に通じる階段が出てくる。

 フタやコンクリートとは違い、階段にはホコリが溜まっている。

 何度か使われているが、それほど高いひん度ではないようだ。


「さて、行きますか」

「ええ、そうですね……一旦、外の方々に連絡を入れましょう」

「それじゃ、私が、先導する」

「気を付けてね」


 広さは、人一人がやっと通れるくらいの通路を、四人は降りていく。

 幸い、一本道だった事も有って、迷う事は無いが、明かりの一つも無い薄暗い通路は、不気味さしか感じない。

 現在の光源は、四人の持つライトだけ。

 加えて、入り込む隙間風が、いっそう気味が悪い。


「ホコリっぽいですね」

「うん、結構前からある感じだね」


 ヒビが入り、黒ずんでいる壁や階段を見るに、相当昔からある。

 しかも、階段に至っては、崩れている部分もある。

 そんな場所を十五分ほど歩いていくと、今度は不気味で広い場所に出る。

 地下へと通じる、大きな石造りのラセン階段が出て来る。

 穴の奥は結構深く、ライトの光が届かないので、余計に怖い。


「今度は、随分と広い所に出たな」

「それに、この深さ……」


 内蔵されている高度計で、現在の位置を確認したヘリアンは、石を投げ入れた。

 ライトの光さえ、地下に届かない事から、察してはいたが、一向に石が着地した音が聞こえてこない。

 相当深い階段だ。


「エーテル・ギア持ってくるんだったな」

「はい、まさか、こんな物が有るとは」

「ウチの里、一体なんなの?」

「仕方ない、自由落下で、いこう」

「そうですね、時間も短縮できますし」


 ヘリアンの提案で、一行は自由落下で進む事にした。

 とは言え、話をしている間、ジャックの耳でも、石が落ちきった音を捉えられていない。

 そんな深さを落下していられないので、階段から階段へと、飛び移って行く。


「ん?」

「どうかしましたか?」

「いや、何かを通り過ぎたような……」

「ああ、今違和感があったな、ま、降りればわかるだろ」


 まるで、星の中心まで通じていると思える位、深い穴を降りていく事、数分。

 一度、何かを通りすぎるような感覚を覚えながらも、四人は降りていった。

 いい加減、自由落下にも飽きて来た頃、ようやく最深部へと到着する。


「……やっと着きましたね」

「ああ、スカイダイビングできる高さだったぜ」

「ねぇ見て、扉がある」

「……」


 ちょっと疲れを感じながらも、ジャックとリリィは、シルフィが指さした方を見る。

 確かに扉があり、最近まで使われていたような形跡がある。

 早速、扉の奥を見てみようと、扉に手をかけようとするが、彼女達の後ろで、ヘリアンは難しい顔をしていた。


「待って」

「どうした?」

「何処か故障でもしましたか?」

「……それなら、良いんだけど、一応、報告しておく」


 何やら、神妙な顔つきを浮かべながら、ヘリアンは自分の取っていたデータを、リリィ達に転送する。

 ヘリアンが取っていたのは、高度や気圧といった物。

 ジャックとシルフィは、端末を見て、データを確認する。

 リリィも、送られてきたデータと、自分のデータを見比べ、故障が無いかを調べる。


「おい、これマジか?」

「え?何か変?」

「はい、これは……」


 温度計は、地上での平均を指し、高度計に至っては、エラーと表示されている。

 もちろん、リリィの計器の方も、同じデータが表示されている。

 それだけでなく、無線も通じなくなっている事に気付く。

 無線の方は、地下に入った事で、使えなくなるというのは、まだわかるが、至近距離に居る四人でも、通信できない。


「落下の、距離を考えても、気圧と気温は、もっと高い筈、それに、無線も、通じない」

「ああ、てっきり、地下に入ったからかと思ったが、このエーテル濃度じゃ、当然だな、これじゃ、外の連中でもこっちを認識できねぇな」

「こちらも、同じですね……これは」

「何か心当たりがあるの?」


 リリィは最近、一度だけ似たような事を経験していた。

 その事を思い出したリリィは、どこで経験したのかを口にする。


「ダンジョンで見られた状況に、酷似しています」

「だ、ダンジョン?」

「ええ、あそこは、私の五感センサ以外、全てのレーダーや、センサが使用不能になりますから」

「成程、機械的な観測は、ほぼ全て不可能という事か(有るって話は聞いたが、まさかこんな形で入る事になるとはな)」


 酷似しているのは、以前迷い込んだダンジョンである。

 あそこでも、リリィの観測能力は、ほとんど意味を成していなかった。

 それほど、エーテルの濃度が高い環境であり、魔物達にとっては、この上なくいい環境との事だった。

 だが、だからと言って、高度計等の不具合の答えにはなっていないが、これはクレハの発言が答えになってくれた。


「それだと、気圧とかの問題はどうだ?ここがダンジョンでも、高度の変化位あるだろ」

「いえ、クレハさん曰く、ダンジョンは異空間に近いようです、そのせいで、計器に異常が出ているのかと」

「そう言えば、そんな事言ってたね」

「成程な……とは言え、ここでじっとしていても、仕方がないな……よし、進むぞ」

「はい」


 一先ず、納得したジャックは、謎の解明を行うべく、扉の先を目指そうとする。

 シルフィとヘリアンを下げさせ、援護を行わせる。

 リリィとジャックは、既に抜刀しており、完全に本気モードだ。


「行くぞ」

「はい」


 リリィとジャックは、扉を蹴破り、中へ突入する。



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