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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
マリーゴールド編
220/343

思い出の花園 後編

 

 ラズカのゲンコツが、五人の脳天をかち割った後。

 危うく衛兵を呼ばれかけたが、ラズカとアラクネが顔を立ててくれたので、何とか回避できた。

 そして、ジャックは、頭に大きなタンコブを作りながらも、アラクネとあいさつを交わしていた。


「どうも、私はジャック、ジャック・スレイヤーと申します、シルフィの母です、娘共々お世話になりました、こちら、つまらない物ですが、どうぞ」

「あ、ありがとうございます……あの、もう大丈夫なんですか?」

「はい、この通り、すっかり治って……ブフォアッ!」

「どの通り!?血ィ吐いたよ!!」


 挨拶の為に、お土産を渡したのは良いのだが、先ほどのダメージが酷く、ジャックは吐血してしまう。

 ジャック自身も、ゲンコツ一発で、ここまでダメージを受けるのは初めてなので、再生に時間がかかっていた。

 そんな彼女の事を気にかけるアラクネの横では、カルミア達四人が、シルフィの前で正座をしていた。


「まったく、私だって怒る時は怒るからね?」

「ごめんなさい」

「すまなかった」

「ごめん」

「申し訳ございませんでした」


 珍しく、シルフィの怒りに触れてしまい、ラズカのゲンコツを四人仲良く受ける事となった。

 シルフィとしても、彼女達の問題行動には、頭を抱えていたので、今回は良い薬だったかもしれない。

 そして、今回おしおきを受けなかったリリィも、ここぞとばかりに、マウントを取りだす。


「やれやれ、姉として恥ずかしいですよ、私のように節度をもって行動してください」

「(誰のせいだこの野郎)」

「(クソが)」

「リリィも過ぎた事したら、怒るからね」

「う、気を付けます」

「とりあえず、これ以上は他の人に迷惑だから、移ろうか」

「そうだね」


 ラズカの提案で、これ以上店に迷惑をかけない為にも、別の店へ移動する事にした。

 というより、込み入った話になりそうなので、町の外にあるヘリへと、足を運ぶことにした。

 本来、ラズカのような存在には、見せる事さえ御法度かもしれないが、今回ばかりは、特例として、ジャックが許可した。


 ――――――


 ヘリにて。

 外部は、マニュアルに乗っ取る形で、上空から認識されにくいように、カモフラージュをほどこし、テントとしも使えるようにしている。

 そして、案内されたラズカとアラクネは、それぞれ別の方向で、ヘリに釘付けだった。


「……わぁ、これがアラクネの言っていた……ヘルってやつ?」

「ヘリです、まぁ、ローターが無いので、定義的にヘリと言っていいかは別ですが」

「訳すと、回転翼航空機だからな、まずヘリじゃないが、用途的にそう言っても良いだろ」


 ラズカは、初めて見る航空機に、心を躍らせていた。

 目の前の金属の塊が、本当に飛ぶとは考えられなかったが、それでも、本当に異世界の物、という事実が、興味を惹かれている。

 リリィとジャックの話を、全て理解できているわけでは無いが、更にとなりの人が、余計に解り辛い事をブツブツ呟いている。


「リリィが飛べるから、もしからしたらと思っていたけど、正式採用の、しかも量産された航空機にも、この飛行技術が使われているだなんて、これなら、航続距離だけじゃなく、ステルス性にも優れている、オマケに、速さも確保できるわね、しかも、素材がアダマント系の合金だから、強度面も……」

「……とりあえず、中に入ろうか」

「ですね」


 相変わらず、兵器が好きな様子で、アラクネはブツブツと、そのうえ早口で分析していた。

 お楽しみの所悪かったが、ヘリの中に入って、今後の話をする事にする。

 勿論、この後は予定通り、シルフィの里へ移動するつもりだ。

 そこで、同行するのかどうか、という話に移行しようとしたかったが、先ずは挨拶を改めてする事になった。


「という訳で、改めまして、俺はジャック・スレイヤー、シルフィの母だ」

「さりげなくスルーしてたけど、シルフィって、そんなややこしい家庭だったの?というか、スレイヤーって、マズイ奴じゃなかったっけ?」

「あ、うん、やっぱそうなるよね」

「色々とややこしいですが、いちから説明しましょうか」


 状況が呑み込めないアラクネとラズカに、シルフィとリリィは、事情を説明する。

 先ず、ジャックが母親というのは、ジェニーと一夜の過ちを犯してしまい、その結果、なんとも魔法的な方法で、シルフィは生まれた。

 そして、こんな変態でトラブルメーカーだが、アラクネ達が噂でしか認識していない、スレイヤーである。

 これらを、簡潔に説明した。

 とはいえ、今すぐ飲み込んでくれというには、あまりにも現実離れしすぎているので、アラクネは、余計に頭を抱えた。


「……と、とりあえず、貴女達が血縁関係なのはわかったわ、それで、そっちはリリィの姉妹機かしら?」

「そ、アタシはAS-103-02カルミア、こっちが、03のデュラウス、04のヘリアン、05のイベリスね」

「しくよろ」

「よろしく」

「よろしくお願いしますわ」

「よ、よろしく……」

「さて、挨拶も終了しましたし、私達はこれから、シルフィの里に調査へ行きます、皆さんはどうしますか?」


 折角の二人の時間を壊され、リリィは少々不機嫌気味に、質問をした。

 できれば、皆帰ってくれる事が理想ではあるが、現状以外にも、イレギュラーが起きている事に変わりは無い。

 中には、そのイレギュラーに、興味を持っている者さえいる。

 故に、帰ったり、残ったり、という事は考えなかった。


「俺は行くぜ、前々から、あのエルフ共には興味が有った」

「アタシも行くよ、レッドクラウンが無いから、戦闘では役立たずだけど」

「俺も行くぞ、何があるかわからんからな」

「私も、行く」

「わたくしも同行いたしますわ、乗り掛かった舟ですし」

「……」


 結局二人きりになれそうにない。

 その現実を突きつけられ、あからさまに落ち込むリリィを、シルフィはなだめる。

 何しろ、今後一切二人きりになれない訳ではない。

 とは言え、目的地がどのようになっているのか、一切不明なので、安全のためにも、人数は有った方が良いかもしれない。


「……さて、不本意ですが、皆さんで行きましょうか」

「あ、折角だし、私達も行っていいかしら?」

「え?」


 ――――――


 出発が決まったので、ヘリを起動させ、移動を開始。

 武器の用意をしながら、目的地へと向かっていた。

 そんな中、リリィは目の前で、愛用のマグナムを整備するジャックに、疑問をぶつける

 何しろ、ラズカとアラクネの同行を、ジャックはこころよく受け入れたのだ。


「良いんですか?アラクネさんは、軍の人間でしたが、ラズカさんは民間人ですよ?」

「固い事言うな、行きたいって言ってんだし」


 弾丸を装填し終えた銃をしまいながら、ジャックはリリィの質問に答えた。

 因みに、ラズカの方は、ヘリの中で黒い戦闘スーツに着替えている。


「ね、ねぇ、アンタ等恥ずかしくないの?これ、身体のライン、くっきりしちゃうんだけど」

「な、慣れれば、そんなに……ね?」


 シルフィの補助を受けながら、黒いスーツに着替えたラズカだが、お気に召していなかった。

 何しろ、シルフィもすっかり忘れていたが、身体のラインがはっきりとしてしまうこのスーツは、女性陣から人気が悪い。

 事実、シルフィも、着始めた当初は、結構恥ずかしかった。

 だが、この先何が有るか解らない以上、少しでも生存率を上げる為に、着ていた方が良い。


「もうすぐでつくな、準備は良い?」

「おう、問題無いぜ」


 操縦席の方から、カルミアは到着を知らせる。

 レッドクラウンを基地に置いてきてしまったので、今日は機長として活躍するようだ。

 因みに、操縦桿には手が届かないので、彼女の四肢に、ヘリの操縦系を直結させて、操縦している。

 そんな彼女の報告を受けたジャックは、指揮を開始する。


「よし、カルミアはこのままヘリを旋回させてろ、イベリスはヘリで待機、何時でも航空支援を行えるようにしておけ、他の連中は降下だ」

「了解」

「承知しましたわ」


 指示を出すと同時に、ヘリは目的地に到着。

 不測の事態に備えて、カルミアとイベリスをヘリに残し、他のメンバーはヘリから降下を始める。

 しかし、命綱無しで飛び降りるというのは、ラズカは想像していなかったらしく、ヘリの中で腰を抜かしてしまう。

 何しろ、その辺の木よりも高い場所でホバリングしているのだから。


「え、ちょっと!このまま飛び降りるの!?」

「大丈夫だ、スーツを着てれば、この程度の高さは平気だ」

「いや、平気とかそう言うのじゃなくて、普通に怖い!」

「じゃ、私と一緒に行きましょうか」

「え?ちょ、アラクネぇぇぇ!!」


 怖がるラズカを抱え上げたアラクネは、糸をヘリの一部につなげて飛び降りた。

 それに続き、ジャックとリリィ達も、ヘリから降下し、カルミアは上空での警戒を行うべく、高度を上げていく。

 地面に降り立ったメンバーたちは、即座に武器を構え、辺りを見渡す。

 敵と言えば、この森に住む魔物位なので、これと言って問題ではないが、警戒する事にこしたことはない。


「……クリア」

「クリア」

「クリア」

「クリア……って、ここ、人里じゃねぇじゃんか」


 降り立ったデュラウスは、ランスを構えながら辺りを見渡すが、大木しか見当たらなかった。

 明らかに民家は無く、生活していたような痕跡は無い。

 代わりに有ったのは、弾痕や爆発の跡と言った、戦闘の跡だけ。

 それらを見て、シルフィは、思い出した。


「あれ?ここって」

「そうです、貴女と初めて会った場所ですよ、まずはここを訪れたくて」

「……そっか」


 彼女達が降り立ったのは、シルフィとリリィが初めて出会ったポイント。

 リリィの言葉を聞き、確信したシルフィは、落ちている丸太に手を置く。


「……懐かしいなぁ、これでリリィに潰されかけたっけ」

「何が有ったんだよ」


 なんとも感傷に浸った顔で、とんでもないことを言い出したシルフィに、ジャックは思わず突っ込んでしまう。

 思い出してみれば、かなり最悪な出会いだった。

 連邦製のアンドロイド達から、機銃掃射を受け、グレネードを撃たれ、挙句、リリィに潰されかける。

 会って数秒で口論になった。


「はぁ、懐かしいですね、あの時のシルフィの鋭いツッコミ、耳舐めをした時の喘ぎ声、需要しかない触手プレイ、思い出しただけでよだれが……」

「本当にどんな出逢いだったんだよお前ら」


 冷や汗を垂らすジャックだったが、その横で、シルフィはご立腹だった。

 過去を思い出し、感傷に浸って、口からヨダレを垂らすリリィだが、シルフィとしては、幾らか思い出したくも無い記憶も有る。

 特に、リリィのセリフの一つが、鼻についた。


「ねぇリリィ、あの時私の触手とか需要無いとか言ってなかった?」

「あれ?そうでしたっけ?」

「そうだよ!忘れて無いからね!」

「ま、そう言うのは置いておき、あれからずい分じょう舌になりましたよね、前はいきなりGがどうとか言っていたのに」

「あ、あの時は話し方とかよくわかんなかったの!しかも、あの時のリリィって何考えてんのか解んなかったし!」

『そう言うの良いから早く行け!』


 思い出話を続ける二人だったが、カルミアからの無線で我に返る。

 一先ず、ジャックからの指示を仰ぐべく、彼女の方を向く。


「はぁ、さて、ヘリアン、予定ポイントに先行、木の上から偵察してくれ」

「了解」

「デュラウスはポイント、リリィとシルフィは、アラクネ達を守れ、俺はケツから追いかける」


 自作のスナイパーライフルを担ぎ、予定のポイントへと先行したヘリアンを追うように、目的地へと向かう。

 デュラウスを先頭に、アラクネ達を守る様、リリィとシルフィが中央に立つ。

 その後ろを、ジャックがカバーするように立ち回る。

 移動する最中、アラクネは、シルフィがかけているメガネについて、訪ねだす。


「そう言えば、今更だけど、貴女メガネかけ始めたのね、リリィの趣味?」

「あ、そうじゃなくて、ちょっと色々あって、視力がね」

「そ、そう、悪い事聞いたわね」

「というより、真っ先に浮かんだのが私の趣味とはどういう事ですか?」

「いや、さっきまでの変態発言がちょっと」


 シルフィがメガネをかける事になったのは、以前の戦いで、能力を酷使した結果、異常をきたしてしまったからだ。

 厳密には、視力が落ちたわけでは無く、見え過ぎて見えない状態。

 メガネは、その見え過ぎている物を抑制するための物なのだが、先ほどまで性癖全開だったリリィの様子が災いし、リリィの趣味として受け取られてしまったらしい。


「変態発言なら、私達の後ろに居る奴の方が、負けてませんよ」

「え?」

「ホント、戦ってる時は普通にカッコいいのに、私生活は趣味全開だもんね」

「……あの、スレイヤーって、どんな性格なの?」

「ロリコン」

「クソレズ」

「……そう(なんだったかしら、伝説に直面すると幻滅する、みたいな事、誰か言ってたわね……てか、娘からロリコンとか言われてるの?あの人)」


 リリィとシルフィが即答した、ジャックの真実に、アラクネは幻滅した。

 ひと昔前のアクション映画の主人公のような、カッコいい存在をイメージしていた身としては、二人の発言は、あまりにも衝撃だった。

 そんな事はさておき、皆の持つ無線に、ヘリアンからの報告が入る。


『……こちらへリアン』

「おう、どうした?」

『里に、特に脅威は、無いけど、少し調査を、して見る』

「……そうか、わかった、気を付けろよ」

『了解、オーバー』


 ヘリアンからの通信を終え、更に歩くと、明らかに人工物としか思えない物が、リリィ一行の目に留まる。

 シルフィの里を守る柵。

 そこを越えた先に、シルフィの里がある


「いよいよ、だね(旅に出た時、もうここには来る事が無いと思ってたけど……まさかこんな形で戻るなんて)」


 色々と、思うところがありながらも、シルフィは、柵を越え、懐かしい故郷へと足を踏み入れる。

 そして、その目に映り込んだ光景に、息を飲んだ。


「何?これ」


 シルフィの目に映り込んだのは、壊滅した里。

 人の気配は無く、破壊された民家や、大きく掘り返された穴。

 完全に、ただの廃墟でしかなかった。


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