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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
マリーゴールド編
218/343

思い出の花園 前編

 アンドロイドの姉妹達が、それぞれ触れ合い、しばらくして。

 リリィとシルフィは、二人で基地を離れ、とある町に訪れていた。


「いや~、懐かしいですねぇ、百合の園!レンズの町!」

「ほんと、もう一年くらい前?」


 二人が旅立ち、二番目に訪れた町、レンズ。

 この町は、二人にとって、様々なターニングポイントを生んだ、思い出の町。

 再び踏み入った事で、二人は様々な感慨を受けながら、笑みを浮かべた。


「さて、感傷に浸りたいのはやまやまですが、私達が来た目的、忘れないでくださいね」

「あ、そうだったね」


 しかし、二人がここを訪れたのは、観光の為では無い。

 れっきとした任務でここに来ている。

 故に、リリィに諭されたシルフィは、本来の目的を思い出す。


「……私の、お父さんの調査、少佐さんとジャックには、感謝だね」


 今から六年前、任務によって戦死を遂げた、シルフィのもう一人の母、ジェニー。

 彼女の調査、並びに、失踪の原因を探る為に、再びあの森に戻る。

 二人にとって、色々と因縁がある場所に、もう一度行くので、色々と準備が有るので、中継地点とする為に降り立ったのだ。

 そして、リリィはその準備の一つを終わらせるべく、シルフィの言葉にうなずき、行動に出ようとする。


「ええ、本当に……では、早速任務を遂行するべく……宿へ行きましょう!」

「待たんかい!」


 任務を遂行する。

 そう言ってリリィが駆け込もうとしたのは、明らかにピンク色の宿。

 見え見えの魂胆を阻止するべく、シルフィはリリィの事を引き留めた。


「何ですか?」

「何ですか、じゃねぇよ、今回そう言うの無いからね?そう言うつもりで来たわけじゃ無いんだよ?」

「え~、折角の新婚旅行何ですから、羽と鼻の下伸ばしましょうよ」

「上手くねぇよ、つか、任務!任務できてんだよ!私達!」


 的外れな発言を言い出したリリィにとって、任務遂行は、この状況を作り出すための建前。

 本来の目的は、シルフィと二人っきり、まったり過ごす事だった。

 ここ暫くは、基地で仲間達と一緒、プライベートなんてほとんど無かったため、丁度よかった。

 とはいえ、任務で来ている事に変わりは無いので、リリィは渋々諦める。


「しかたありません、では、任務終了後に、しっぽりやりましょうか」

「……そ、それなら……」

「い、良いんですね……」


 諦めたリリィだったが、任務後なら良いと、顔を赤く染めるシルフィを見て、リリィは少し微笑む。

 大通りで、そんな会話をする二人の耳に、懐かしい声が入り込んで来る。


「あれ?アンタ達」

「あ、ラズカさん!アラクネさん!」

「お久しぶりです」


 二人の振り向いた先に居たのは、アラクネとラズカの二名。

 彼女らの事を見つけたシルフィは、微笑みながら彼女達の方へと歩いていき、リリィも続く。


「偶然ね、戻っていたの?」

「うん……あ~……ちょっトヨウジ、ガあっテネ」

「貴女、ちょっと片言になって無い?」

「え、あ、少しね」


 再会した四名だったが、久しぶりにこの世界の言葉を使うシルフィは、少し片言になってしまった。

 半年以上、ジャック達の世界の言葉を使っていたので、仕方がない。

 少し気になったラズカであったが、そんな事よりも、再会した事に、テンションが上がっていた。


「ま、それはそうと、折角会えたんだし、どこかでお茶しない?私達、丁度お昼の予定だったし」

「そうね、良かったらどう?」

「え、えっと……どうする?」


 二人からの提案は、ぜひ受けたかったが、これから任務が有る事を考えると、行こうに行けない。

 少し迷ってしまったシルフィは、リリィにアイコンタクトを送り、助け舟を求める。


「構いませんよ、アラクネさんとは、色々お話もしたかったので」


 シルフィの目に気付いたリリィは、食事を許可する。

 それに、リリィがここに来た理由の一つに、アラクネとの再会も入っているので、丁度良かった。


「みたい」

「じゃ、あのお店にしましょう、あそこなら、ゆっくりできるわ」


 そうして、四人はアラクネの選んだ店へと足をはこんだ。


 ――――――


 一時間後。

 店に入った四人は、それぞれ適当に昼食を済ませると、早速談笑を始めた。

 その際、リリィの本名の話となり、ラズカとアラクネは、既にリリィがアンドロイドという事も含め、認知している事が明かされた。

 そして、ウルフスとも、多少の関りが有った事や、リリィ達が異世界から来た事も、アラクネの口から告げられた。


「え?ウルフスさんも、ここに来たの?」

「ええ、ちょっと色々有ってね」

「ほんと、色々有って……」

「何が有ったんですか?」


 ウルフスとの出会い、それを思い出しただけで、ラズカは顔を青くする。

 何しろ、化け物二人と、壮絶な殺し合いを演じる事になったのだ、一般人である彼女にとっては、嫌な思い出でしかない。

 そして、その事を話すためには、あの事実をシルフィに伝えなければならない。

 そう考えると、アラクネも気を病んでしまう。


「……ね、ねぇ、シルフィ、落ち着いて聞いて欲しいの」

「え?何?」

「じ、実は……貴女の故郷は、もう滅んでしまったの」

「……え?」


 シルフィは、自分の耳を疑った。

 しかし、アラクネは確かに言った。

 故郷が滅んだと。

 正直な所、シルフィにとって、滅びようが燃やされようが、正直どうでも良いような場所。

 しかし、いざ滅んだという報告を聞くと、少しショックを受けてしまう。


「アラクネさん、それはどういう……」

「……口で説明するのは難しいけれど、その、私達は、レリア殿下と一緒に、あの森に行く事になったのよ」

「姫様と?」


 アラクネは、全てを打ち明けた。

 リリィ達が訪れた、次の町で起きた乱闘。

 その件についての話をするべく、里を訪れたのだが、突如出現した化け物によって、里は壊滅。

 生きのこったのは、族長と、スノウという、一人の少女だけ、という事を。

 しかも、その里が滅ぶことは、族長の予定通りだったという事を。

 開示された情報に、リリィは何時になく真剣な表情を浮かべた。


「……そんな事が」

「ええ、それと、ウルフスって言う人は、どうやら国外追放を受けたそうよ」

「……ウルフスさん」

「化け物……あそこは、一体どんな謎が……」


 アラクネの話を聞いたシルフィは、顔に影を落とし、リリィは目を鋭くする。

 元々、何か有りそうな場所ではあった。

 しかし、自分の里を滅ぼす事が目的だったという、族長の腹の内が、よくわからなかった。


「……アラクネさん」

「ん?何かしら?」

「私達がここに来たのは、シルフィの里の調査です、彼女の両親は、元連邦軍所属の兵でして、それに、彼女の親の訃報と、失踪した時期に、妙な部分がありまして」

「……そう言えば、そうだったわね、それで、妙な部分って?」

「シルフィのお母様、ジェニー准尉なのですが、彼女が亡くなったのは、今から六年前、そして、連邦軍から見て、彼女が戦死したのは、四年前なんです」

「……確かに、妙ね」


 リリィの言葉に、アラクネとラズカも、難しい顔を浮かべる。

 四年前に戦死した人物が、六年前にシルフィの前で死んだ。

 これは、どう考えてもおかしい事だ。

 この謎の二年の調査、それが、二人の本来の任務だ。

 逆としか思えない証言に、ラズカもこんがらがってしまうが、その中で、気になる事が浮かんできた。


「……それにしてもリリィ、アラクネから聞いたけど、アンタ等戦争中でしょ?こんな所でブラブラしてて良いの?」

「え、あ~、それでしたら、数か月前に終わりまして、私とシルフィは、連邦所属となりました」

「え、もうそんなに進展してたの?」


 終戦を告げられたアラクネは、目を丸くした。

 何しろ、アラクネがこの世界に来る二十年以上前から、戦争は続いていたのだ。

 それが、もう数か月前に終わったのだから、驚きしかない。

 オマケに、二人そろって連邦に所属している、なんとも急な話だ。


「まぁ、連邦と言っても、ストレンジャーズの方々に、極秘で匿われている状態です、私は、存在が違法ですので」

「そうだったわね、でも、まさか噂の特殊部隊が、そんな温厚な場所だったなんてね、ちょっと意外だわ」


 リリィの言葉に、アラクネは少し意外そうな表情を浮かべた。

 一応、連邦の出身のうえ、元は軍の研究者とは言え、少し反感が有る。

 しかも、そのストレンジャーズには、アラクネを現在の姿にした張本人も居るのだ。

 ただの無法者の集まりだと、いままで思っていたが、リリィ達にとっては、楽園のような場所だった。


「ええ、彼らのおかげで、この子とも、良い関係を築けましたから」

「ッ、ちょっとリリィ」

「あら、そっちの進展も良好だったのね」

「(ま、いずれこうなるだろうとは、思ってたけど、おめでと)」


 リリィは、隣の椅子に座るシルフィの腕に抱き着き、付き合い出したという事の報告を行った。

 その時、何か変な音が聞こえたが、アラクネは気にする事無く、二人の様子に笑みを浮かべる。

 ラズカにとっては、予想通りであったが、上手く行った事を、心の中で祝福した。

 しかも、この惚気話で、気を良くしたリリィは、更に話を続ける。


「展開も何も、シルフィの体の事は、体毛の数から、ほくろの位置まで、しっかりと把握していますよ」

「リリィ……」

「貴女ねぇ、そう言うのはあんまり人前で言わない事よ」


 リリィの発言に、シルフィは顔を赤く染めた。

 何しろ、アラクネの言う通り、ここで言うような事ではない。

 せめて、もう少し人目のない所で言ってほしかったと、妙な騒ぎを聞きながらも、シルフィはリリィの事を引き離す。


「あ~ん、いけずぅ~」

「全く、あんまりベタベタしないでって」

「何ですか、夜はあんなにベタベタとするくせにぃ~」

「よく言うよ!こっちが攻めたら、全然来ないくせに!」

「おや?逆転した後で、されるのがお好みでしたか?」

「ッ」


 墓穴を掘ってしまった事で、返されたセリフに、シルフィは拳を握り締める。

 これ以上余計な事を言おうものなら、その力強く握られた拳が、リリィに向きそうだ。

 先ほどから、やたらと騒がしいのに、これ以上騒がれては、店側にも迷惑だ。

 しかし、その騒ぎに、嫌気が刺したのか、ラズカは立ち上がる。


「ちょっとそこ!いい加減にして!うるさくて仕方ないでしょ!」

「お気をつけて」


 立ち上がったラズカは、そのまま騒ぎの元凶となっている場所へと、足を進めていく。

 そんな彼女に、リリィは手を振り、健闘を祈る。

 彼女であれば、その辺のチンピラに負けるような事は無い。

 そう思いながら、リリィはシルフィへのセクハラを止めるが、アラクネは少し疑問符を浮かべていた。


「やれやれ、騒がしい方もいらっしゃいますね」

「でも変ね、このお店、そこまでうるさくするようなお客、あんまり入らないのだけど……」

「キャアアア!!」

「ッ!」


 アラクネの疑問が言い放たれた後で、ラズカの悲鳴が響き渡る。

 明らかに普通じゃない悲鳴に、三人は勢いよく立ち上がった。


「ちょっと、尋常じゃありませんね」

「こういう定番に巡り合う事になるなんてね」

「ちょ、あんまり派手にやらないでちょうだいよ」


 シルフィとリリィは、指を鳴らしながら立ち上がると、ラズカの移動した場所へと移動。

 その先で、ラズカは硬直し、顔を青ざめていた。

 彼女の視線の先に、視線を移した三人は、何故ラズカが悲鳴を上げたのか、すぐに理解する。


「ッ、これって」

「ちょ、なにこれ」

「に、肉片?」


 三人の目にしたのは、ズタズタにされた何か。

 明らかに、人だった物だが、地味に生きている事が見て取れる。

 だが、知らない人の物ではなく、良く知る人物の物というのが、シルフィの目にはわかった。


「あれ?これ、ジャックじゃね?」

「え?た、大尉?」

「あ、グ、プハ!まいったまいった……」

「あ、マジだ」


 シルフィの言う通り、肉片はすさまじい勢いで集まり、瞬時に人の形を形成、ジャックの姿へと戻った。

 その様子をみたシルフィは、青筋を浮かべながら、ジャックの胸倉を掴み上げる。


「ねぇ、ちょっと、どういう事?デートに親同伴とか、笑えないどころかムカつくんだけど」

「別にそんなんじゃねぇよ、てか、デートって認めんな、一応軍事作戦扱いなんだからよ」

「じゃぁ来ないでよ!アンタがここに来るとか、モンスターペアレント的な思考しか思い浮かばないの!」

「だから違うって、あいつ等だあいつ等」

「え?」


 ジャックが親指で刺した方向へ、目を向けたシルフィは、コソコソと店から出て行こうとする、四つの影を目にする。

 四人とも、明らかにこの世界の恰好ではなく、どう考えても、ジャック達の世界の恰好だ。

 ジャックが居るという事と、コソコソする四人。

 彼女達が誰なのか、答えは一つしか無かった。


「……ちょっと~、どこ行く気?カルミアちゃん!デュラウスちゃん!ヘリアンさん!イベリスさん!!」


 シルフィに名前を呼ばれた四人は、身体をビクつかせると、かけていたサングラスを外した。

 そんな彼女達を見たラズカは、目を見開く。


「え、り、リリィが、四人?」

「さて、何しに来たのかな?四人そろって」

「え、えっと……」


 シルフィの気迫に押されたカルミアは、話を始める。


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