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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
マリーゴールド編
214/343

最高の再会 後編

 七美が着任した翌日の正午。

 基地の外は大きく賑わっていた。

 何しろ、スレイヤーの一人、七美の戦いが見る事のできる、絶好の機会。

 彼女は裏方にてっする為、ドレイク位の古株か、偶然一緒の部隊になれた者しか、戦っている所を見た事が無い。

 しかも、相手はアリサシリーズ、いい勝負が見れるかもと、期待しているスタッフは多い。

 中には、かけ事まで行っているグループも有ったりする。

 そんなメンツがそろう中、シルフィはリリィと共に見物していた。


「始まるね」

「ええ、まぁ、彼らがここまで騒ぐレベルになるかは、怪しいですね」

「え?どういう事?」


 最前列で立ち見する二人であったが、リリィは周りのスタッフらとは違い、それほど期待していなかった。

 それは、七美の戦闘力を知る者達も同じ。

 見物はしていても、数十分単位の戦いが起こるとは、考えていない。


「ご存じの通り、七美さんの戦闘力は、大尉を超えています、数人がかりで、ようやく彼女と渡り合える程度では、難しいです」

「いや、だから何でそんな事言えるの?」

「……見ていればわかります、開始の合図が始まる前から、まばたきは厳禁です……くれぐれも、全力で見てください」

「わ、わかった」


 リリィの忠告を聞き入れたシルフィは、目の前に立つ二人に視線を移す。

 ウキウキとしながら、アブクマを着込み、ランスを構えるデュラウスと、冷静に佇む七美が映る。

 七美も、昨日渡されたばかりのエーテル・ギア、イキシアを装着している。

 例のブーツやグローブも、装着した事で、身体の節々等、急所を防御するプロテクターへと変形し、簡易的な鎧となっている。

 正反対のテンションを持つ二人は、合図がかかるのを待機していた。


「(あいつが七美、俺と同じ、雷属性の技を使うスレイヤーか)」


 ニヤリと笑みを浮かべたデュラウスは、審判のようなポジションに就くスタッフを、チラリと見る。

 彼がデュラウスと七美の様子を見ると、マイクを手にする。


『双方、構え!』


 彼のアナウンスで、デュラウスと七美は武器を構えた瞬間、ガヤガヤ騒がしかった観客たちの歓声も止まる。

 ルールは、先に一本入れた方が勝利という、単純明快な物。

 そして、二人の戦闘スタイルは、どちらもスピード型。

 まばたきすら許されない戦いが待っている事は、目に見えている。


「(さて、如何来るか)」


 審判の開始の合図を待ちながら、デュラウスは体に紫電をまとう。

 七美のデータは、ある程度インプットされているが、詳細な戦闘データは、あまり入っていない。

 これから始まる戦いにワクワクしながら、デュラウスは技の用意をする。


『始めッ!!』


 審判の力強い合図。

 勢いよく振り下ろされた右腕。

 それらが終了した直後、観客の目に映ったのは、何かが光ったという事だった。


「ば、かな」


 デュラウスの目にも、同じ物が映っていた。

 しかし、当事者である彼女は、宙を舞っている。


「う、そッ!!?」


 シルフィの情けない一言が終わった次の瞬間。

 鳴り響いた轟音に、思わず耳を塞ぎ、吹き荒れた突風や衝撃波から、身を守っていた。

 それらが落ち着いた時、恐る恐る視線を上げたシルフィの目に飛び込んできたのは、えぐれた地面と、仰向けに倒れるデュラウス。

 そして、帯電しながら、伸びきった槍を持つ、七美の姿だった。


「み、見えなかった、私の目にも、何も」


 目を見開き、身体を硬直させるシルフィは、自信の見た事を思い出す。

 リリィの忠告を聞き、シルフィは動体視力を限界まで強化し、七美の事を見ていた。

 審判の振り下ろす右手が、下に伸びきった時、事件は起こった。

 稲妻が発生した次の瞬間、七美は消え、いつの間にかデュラウスの間合いに入り込んでいた。

 しかも、その時既に、デュラウスは宙に浮いていた。


「これが七美さんの十八番、桜我流槍術・刺電雷突、デュラウスも太刀で使っていましたが、本来は槍で行う技です」

「ぜ、全然見えなかったよ」

「ええ、なんでも、敵を最低の手数で倒すために、技の速度を極限まで高めたそうです……あと、もう一つ言っておきましょう」


 模擬戦の終了と共に、再び沸き上がった歓声。

 その中で、リリィは更なる事実を、シルフィに告げる。


「彼女のスピードは、あれで七割と言った所です」

「……」


 リリィの言葉に、シルフィは言葉を失った。

 視力には絶対に自信を持っていたというのに、この一言で崩壊した。

 デュラウスの全力であっても、視界に収める事はできた。

 だが、七美の全力は、その数個上に居るという事だ。


「これが、スレイヤー」


 改めて、スレイヤーの恐ろしさを、シルフィは身に感じていた。

 そんな彼女はさておき、デュラウスは勢いよく立ち上がっていた。


「な、七美」

「ん?なんだ?」

「もう一回だ」

「え?」

「もう一回勝負しろ!次は絶対負けねぇ!」

「……良いぞ、あたしも、これで終わりだと、味気ない」


 なんともポジティブな発言に、七美は笑みを浮かべ、再戦を承認。

 したのは良かったが、この後、何度も挑み、その度に敗れたのだった。


 ――――――


 その後、デュラウスは一人、ガチで訓練に励んでいた。


「ヌヲォォォ!!ヂグジョォォメェェ!!」

「何してんの?」

「七美に、全敗したのが、余程、悔しかった、らしい」

「向上心の鬼ですわね」


 稲妻をまといながら、全力で訓練を行うデュラウスを、リリィ以外の姉妹は、冷えた目で見えていた。

 何しろ、彼女達はアンドロイド、人間のように、訓練すれば強くなる、という訳でもない。

 しかし、桜我流の技の場合は例外、エーテル制御能力を、高める事さえできれば、能力は向上する。


「てかヘリアン、何気にスルーしてたけど、何時の間に桜我流の技使えるようになったの?」


 デュラウスの訓練姿を見ていたカルミアは、不意に、リリィが暴走していた時の事を思い出していた。

 あの時は、リリィを止める事に夢中になっていたが、さりげなく風の技を使っていたのだ。


「……別に、使おうとおもえば、割と使える」

「お前、射撃専門じゃなかったっけ?何で剣の方にも才能あんの?」

「そもそも、私は皆より、射撃が、上手いだけ、ジャックと正面から、戦える位の、腕は有るし、風は、桜我流の基礎、適性と、ある程度の、剣術があれば、誰でも使える」


 ヘリアンの発言に、カルミアとイベリスは納得してしまう。

 以前の戦争のデータは、全員に共有されているので、ヘリアンがジャック相手に、ナイフで互角に張り合っていた事を思い出した。

 しかし、イベリスには納得できない部分があった。


「ところで、なぜ風が基礎の技なのですか?普通、火や水では?」

「私も知らない」

「おい……でも、アタシら知ってんの、やり方とコツ位だもんな」


 ――――――


 その頃、七美はエーラの元を訪れていた。

 模擬戦で使用した槍をメンテナンスしながら、エーラは七美に使い心地をたずねる。


「どうだった?」

「ああ、良いできだった」


 七美の評価に、エーラは口元を緩める。

 姉と違い、武器の扱い方は、ていねいな物。

 何度も同じ技を発生させたが、目立った損傷は一つも無い。

 スレイヤー用の武器なので、強度面は徹底的に高めてあるので、当然ではある。

 しかし、七美達の技の前では、生半可な武器が一回の使用で壊れる事は、珍しくない。


「ところで、仕事の方はどうだ?」

「覚えている所だ、ま、この分なら、今日中に戦力になれるな」

「相変わらず優秀だな……」


 七美の覚えの良さに、エーラは感心するが、一つだけ問題がある事を思い出した。


「(けど、マニュアル通りなのは良いんだが、予想外の事が起こるのに弱いんだよなぁ~)」


 付き合うまで、部署が違うので、気づかなかったが、発覚したのは、初デートの時。

 七美なりに、ある程度は妥協したというスケジュールで、行動する事になった。

 しかし、出発の電車で、いきなり人身事故が発生し、数十分の遅れが生じ、あたふたと半ベソをかく事になったのだ。

 その後も、エーラが色々と打開策をだし、行動したのだが、八割ほど裏目にでて、予定の半分もこなせなかった。


「(ま、そこが良いんだけどな)」

「どうした?」

「いや、何でもない」


 色々といい思い出を思い出し、ご満悦なエーラだった。


 ――――――


 それからしばらくして。

 今日の業務を終えた七美は、自室で手帳とにらめっこしていた。


「(明日のスケジュールは書いた、提出物の忘れは無し、明日の準備もこなした……後は寝るだけか)」


 相変わらずガチガチな事を考えながら、七美はスケジュールが、びっしりと書かれている手帳をとじ、ベッドへと潜り込む。

 今日もこれと言ってミスは無く、スケジュール通りに動けた。

 後は、今日の最後の予定通り、眠るだけだ。


「お~い七美!お姉ちゃんが来たぞぉ!」

「帰れ」

「ギャアアア!!」


 いきなり変態が乱入してきたが、魔力で生成した無数の槍を繰りだし、即行追い出した。

 しかし、そんな事では、変態は止まらなかった。

 重症を負いながらも、変態は部屋へと侵入し、七美のベッドに座り込んだ。


「いや~、相変わらず良い子だねぇ、お姉ちゃん感心しちゃうよ」

「帰れと言っている、ベッドが血で汚れる」

「もう止まったよ、しっかし、シーツこんなキッチリさせなくて良いだろ?寝相悪いんだし」

「寝る為の礼儀だ」

「はいはい、それじゃ、おねんね、しましょうね~」

「ッ」


 いろいろ文句を言いながらも、ジャックは七美の隣で添い寝する。

 姉離れが深刻な妹に、こんな事をしたらどうなるか、考えるまでも無い。


「フンッ!!」

「ウボァ!!」


 布団にまで入り込もうとした辺りで、七美はジャックを蹴り飛ばす。

 蹴りによって、毛布どころか、ベッドまで追い出されたジャックは、部屋の壁に激突。

 危うく意識が飛ぶ所であったが、何とか起き上がったジャックは、ベッドの隣に座り込む。


「やれやれ、ツンデレの妹ってのは、良い物だな」

「誰がツンデレだ、さっさと出て行け、本来なら三分十二秒前に寝てた」

「秒単位でスケジューリングすんなよ」

「うるさい、予定も立てられんような奴が、部隊を維持できると思うか?」

「それもそうだが、もうちょっとユトリ持てって、力の抜きどころを見つけて、仕事だらけるのも、コツの一つだぞ」

「お前は四六時中だらけてるだろ!!」

「まぁまぁ」

「ッ」


 話をしていると、ジャックは七美の頭をなで始める。

 何時もなら、手を振り払い、電撃の一つでもお見舞いしているだろうが、今回はそうしなかった。

 何となく、昔の事を思い出してしまった。

 初めて会い、そして、一緒に暮らす事になった日の事。


「……」

「どうした?いつになく素直だな」

「う、うるさい」


 初めてジャックの家で寝た日。

 環境の変化で、どうも寝つきが悪かった。

 そんな時、床で寝ていたジャックは、わざわざ起きて頭をなでてくれた。

 当時の事を想起した七美は、目元まで毛布をかぶる。


「……いい」

「どうした?」

「今日は、一緒に寝て、いい」

「……じゃ、お言葉に甘えて」


 珍しい言動を前に、ジャックは一週まわって冷静になりながら、一緒のベッドに入る。

 その瞬間、七美はジャックの胸に抱き着いてくる。


「ッ、どうした?今日は随分甘えん坊だな」

「……うるさい、頭、なでろ」

「はいはい」


 穏やかな笑みを浮かべながら、ジャックは七美の頭をそっとなでる。

 もう何年も、こうして甘えて来る事は無かった。

 久しぶりの幸福を、ジャックはしっかりと味わう。

 七美も、この状況を、顔を真っ赤にしながら堪能する。


「……ねぇ、あたし、絶対頑張るから」

「ん?」

「絶対、お姉ちゃんの代わり、務めてみせるから、安心、して」

「ああ、頑張りなさい、七美ちゃん」

「うん、ありがとう、大好き」

「……」


 そう言い、七美は眠りについた。

 そして、ジャックは隠し持っていたボイスレコーダーが、今の言質をとっていた事を確認し、しっかりと保存した。


 翌日。

 滅多裂きにされたジャックが、吊るされた状態で見つかったとか。

 彼女の下には、破壊されたボイスレコーダーが落ちていたという。




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