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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
マリーゴールド編
213/343

最高の再会 中編

 七美が色々と破壊した後。

 事務室は、ジャックとリリィらの手によって、修復されている。

 とりあえず七美の方は、シルフィが一人で案内の続きをする事になった。


「す、すまない、あんな事になって」

「い、良いって、あれ、絶対にジャックがわざとやった事だから」

「だろうけど……」


 どうやら、部屋を滅茶苦茶にしたことを、未だに気にしているようで、目元に影が落ちている。

 この後は、エーラの居る研究所。

 聞くところによると、七美とエーラは、ジャックの知らないうちに、付き合っていたらしいので、そこで元気をだしてもらいたい。

 そんな期待を抱きながら、シルフィは研究所へと七美を案内する。


「あ、七美さん、ここがエーラさんの研究所だよ」

「ッ、そ、そうか……ちょ、ちょっとだけ待ってくれ」

「……」


 エーラの研究室の前に到着すると、七美はポケットからコンパクトケースを取りだし、髪を整えだす。

 そして、先ほど資料の下敷きになった事で、崩れてしまった軍服を直しだす。


「さ、さて、行くとするか」

「は、はい」


 七美の準備が整うと、シルフィは研究室の扉を開ける。

 ソワソワとしながら、部屋へと入って行った七美は、エーラ特性の機材の並ぶ光景の中から、エーラを探しだそうとする。


「わ……エーラ?何処だ?」

「カルミアちゃ~ん、あれ?この時間二人共いる筈なんだけど」

「あ、シルフィ、こっちだ、こっち」

「(ち、ちっこいリリィ?いや、噂に聞くカルミアって奴か)」


 二人がエーラ達の事を探していると、カルミアがひょっこりと出てきて、手招きをする。

 初めて見るカルミアの姿に、七美は一瞬だけ驚きながらも、シルフィの後に続く。

 一つ気になったのが、シルフィを見たカルミアが、妙に嬉しそうな表情を浮かべた事だったが、とりあえず彼女の方に移動する。


「あ、エーラさん、七美さん来たよ」

「ッ、そ、そうか」

「ひ、久しぶりだな、えー、ら」


 カルミアの案内した先にいたエーラを目にした七美は、瞬時に硬直する。

 何しろ、今のエーラは、床にうつ伏せになりながら、ふくらはぎに塗れタオルをかけられている状態。

 しかも、妙に顔色が悪い。


「い、一体なにが有ったぁぁ!!?」

「いやぁ、お前が来るって聞いて、張り切って運動を続けてたら、このざまで」


 一応、一日おきに、ジャックの協力の元、運動は続けていた。

 しかし、気力は有っても、体力が付いていかず、肉離れを起こしてしまったのだ。

 おかげで、研究まで休む羽目となっていた。

 そんな彼女の状態には、流石の七美も取り乱してしまう。


「い、一体どうすれば、117か!?990か!?あれ?救急車って何番だったっけ!?」

「落ち着け、ただの肉離れだ」

「え、あ、そ、そうか、肉離れか、そいつはよか、アアアアア!!」


 七美はあたふたとしながら、スマホで救急車を呼ぼうとするが、番号は似たり寄ったりの物になっていた。

 流石に見かねたカルミアが落ち着かせたが、乱暴にいじったせいで、スマホはスクラップになってしまう。


「(とりみだしてもポンコツになるんかい)」


 その横では、意外とポンコツキャラである事に、シルフィは目を細めていた。

 バキバキになり、煙まで吹き出すスマホをカルミアが預かり、【修理希望】と書かれた箱に入れられる。

 治してほしい家電の類を入れておけば、開発班が無料で治してくれるという、ありがたいサービス。

 なのだが、開発班はクセの強いスタッフが多いので、入れる人は滅多にいない。


「ふ、ふぅ、とりあえず、久しぶりだな、エーラ」

「あ、ああ、半年ぶりだな」


 落ち着きを取り戻した七美は、まんざらでもない表情を浮かべながら、手を振る。

 ちょっと気まずい空気が流れたが、エーラは何かを思い出したかのように、カルミアに指示を出す。


「そ、そうだ、カルミア、昨日のうちに仕上げた、あれ、持ってきてくれるか?」

「え、ああ、あれか、待ってろ、持ってくる」

「(カルミアちゃん、本当に丸くなったな~)」


 エーラの頼みを聞き入れ、ギミックという物を取りに行くカルミアを見て、シルフィは呆気にとられた。

 以前のカルミアであれば、こういった指図をされたら、舌打ちの一つでもしていたかもしれない。

 それが、今やエーラの指図を普通に聞き入れ、物を取りに行っている。

 あれからかなり丸くなった事に、微笑ましさを覚えていると、カルミアは二段になっているカートを押しながら戻って来る。


「七美さんの武器?」

「ああ、随分前から注文されてたんだがな、最近忙しすぎて、手が回らなかったんだが、最近ようやくできたんだ」

「いいさ、あたしの専門は、魔法だからな、武器は補助でしかない」

「ほら、持ってきたぞ」

「あ、ありがとうな」


 カルミアにお礼を述べた七美は、目の前に止められたカートの一番上にのった、銀色のケースに手をかける。

 ロックを外し、おもむろにフタをあけた七美は、中身の武器に笑みを浮かべる。

 その隣で、シルフィも箱の中身をのぞき込み、収められている武器を目にする。


「槍?」

「ああ、そうだ」


 中身は、大きな穂先を持った槍。

 穂先は矢印のように大きく尖っており、まるで捕鯨用のモリのように見える。

 柄と穂先の両者を合わせると、ジャックの身長を少し超える位の長さを持つそれを、七美は箱から取り出すと、エーラが解説を始める。


「ストレリチア型エーテル・ギア『イキシア』従来型のような、鎧としての性能より、武器としての性能を高めた物だ」

「え、ストレリチア?」

「ああ、七美は軽装が好きだから、エーテル・ギアは合わないって、最低限のプロテクターと、武器を求めたんだと」

「へ~」


 カルミアの言う通り、七美は、ジャックのようにエーテル・ギアを好んでいない。

 理由は色々とあるが、その要望に応えるためにも、ストレリチアをベースに、制作する事にした。

 割と前から、構想自体は有ったのだが、強度問題が解決できずにいたため、先にストレリチアが完成してしまった。

 その際は、割と悔しさを覚えたエーラだが、カルミアが加わり、技術提供をしてくれたおかげで、ようやく完成したのだ。


「……」

「持って見るか?」

「え?良いの?」

「ああ、振り回さなければ、安全だからな」


 興味津々と見つめるシルフィに気付いた七美は、シルフィにイキシアを手渡す。


「重いからな」

「え?ッ!」


 七美の忠告通り、イキシアはとても重かった。

 リハビリのために、バーベルを持ったりしてきたが、その感覚で持たなければ、落としていたかもしれない。

 穂先もかなりの面積があるが、その重さだけでなく、柄の部分はストレリチアの弾頭以上の重量がある。

 それも、スーツを着ている筈のシルフィが、重いと感じる程だ。


「ね、ねぇ、軽装が好きって、聞いたばかりなんだけど」

「ま、早いだけで、重さが無ければ、威力は半減だからな、せめて武器だけでも、十分な重量をと思ってな」

「そうなんだ、あ、ありがとう(スーツ着てるのに、あんなに重く感じるなんて)」


 槍を返したシルフィは、重量に疲れた両腕を揉みほぐす。

 そんな重さの槍を、七美は生身で、しかも片手で軽々と保持するのだから、驚きである。

 槍を返してもらった七美は、再度エーラの方を向くと、話を続ける。


「それで、下の奴が」

「ご注文のプロテクターだ」

「そうか」


 次に手を伸ばしたのは、下の段に置いてあるケース。

 拾い上げたケースを、その辺の机に置き、中を検める。


「……こっちも良さそうだな」

「もちろんだ、私とこいつが仕上げたんだからな」

「そうか」

「……」


 入っていたのは、金属製のグローブとブーツ、そして、筒状の物体が数個入っている。

 筒状の物は、シルフィでも解らないものだが、グローブとブーツは解る。

 ストレリチアと同様に、武器と鎧、それらが有って初めて成り立つ物だ。

 その事を理解した七美は、満足そうにフタを閉じる。


「ありがとうな、それに、この槍も、あたしの希望通りのギミックを付けてくれた事、感謝する」

「なに、それが私の仕事だ、気にするな」

「槍のギミック?」

「ああ、こういう奴だ」


 シルフィの疑問に答えるべく、七美は槍の穂先をもう一度付け直し、ギミックを発動させる。


「ッ!」

「サスマタって言ってな、コイツで敵を捕縛したりするんだ」


 槍の穂先は、縦に割れ、相手を挟めるような形をとる。

 七美の言う通り、サスマタという道具として使用すれば、敵を捕らえられるかもしれない。

 その筈なのだが、シルフィには、どうしても違う用途が、脳裏に浮かんでしまう。


「……ほ、本当に?」

「え?」

「本当に、捕縛だけ?捕まえるというより、別の事もできそうだけど……」


 顔を真っ青に染めながら、七美の持つ槍の先を指さす。

 何しろ、展開した穂先は、カニのハサミのように、開閉しており、よくみれば、間にも刃が有る。

 その事を指摘された七美は、なんとも不気味な笑みを浮かべる。


「君のように勘のいい子、あたしは大好きだぞ」

「(こ、ここは嫌いって言われた方が良かった気がする)」


 なんとも背筋が凍るセリフに、シルフィはすっかり怯えてしまう。

 しかも、穂先の開閉機構を利用して、拍手じみた真似をしているので、余計に怖く見える。


「(やっぱり、ジャックの妹だな、はは)」

「ところで、来て早々悪いが、模擬戦はできないのか?」

「ああ、それなら、もう少佐に申請を出している、お前の事だから、武器の性能を試していって言うだろうからな」

「感謝する、所で、相手はだれだ?」

「アンタも聞いた事有るだろうけど、アタシの妹の、デュラウスって奴、模擬戦するって聞いたら、快く引き受けてくれた」

「デュラウス、か……」


 カルミアから、模擬戦の相手を聞かされた七美は、送られてきていたレポートの内容を、一部思い出す。

 デュラウスは、桜我流の技を扱える数少ないアンドロイドの一人。

 しかも、七美と同じ雷属性である。

 その事を思い出した七美は、心地の良さそうな笑みを浮かべた。


「模擬戦の日は明日だが、こいつのテストにはもってこいの相手だぜ」

「それは楽しみだ」

「(もう見れるんだ、七美さんの戦う姿)」


 七美の実力は、ジャックをしのぐ物であると、シルフィは前から聞かされていた。

 戦闘スタイルまでは、詳しく教えてくれなかったが、ジャック以上の戦闘力を持っている、という部分に、とても惹かれていた。

 何しろ、シルフィにとって、ジャックは仇敵でもあった。

 かつては、リリィと共闘して、限界まで消耗してようやく勝てた。

 そんな彼女よりも、七美は強い、純粋に興味がわいていた。


 ――――――


 その日の夜。

 エーラの研究室にて、七美とエーラは、再開を祝して、簡易的ながらお茶会を開いていた。


「良い子だろ?お前の姪っ子」

「ああ、クソ姉の娘って聞いて、不安だったが、養子と思える位、良い子だった」


 紅茶をすすりながら、七美はシルフィの事を思い出す。

 とても素直で、物腰も柔らかい。

 人間に滅多に心を許さなかったリリィが、好意を持っても、おかしくは無かった。


「……リリィも、幸せ者だな、あんな良い子と付き合えて」


 リリィの開発に手を貸した身としては、今の状況はとても喜ばしい物だった。

 幸せそうな彼女を思い出した七美は、機嫌よさそうに、紅茶を飲み干す。

 しかし、その目の前では、エーラは少し暗い顔を浮かべる。


「……ああ、けど、アンタは良かったのか?私みたいな、婆さんと付き合うなんざ」

「いいさ、あたしは、年上が好きなんだよ」


 外観は若いが、エーラはジャックより年上。

 もう自分の事を年増と、言ってしまうくらいには生きている。

 そんな彼女が、七美という少女と付き合っている事に、少しへんな気分になっていた。

 しかし、七美から帰って来た、それでもかまわないという返答に、エーラは顔を赤くする。


「……たく、誰に似たんだか!」


 誤魔化すように、エーラは紅茶を一気に流し込んだ。


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