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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
マリーゴールド編
211/343

うるさい姉妹 後編

 三十分にわたるトレーニングの末、エーラがぶっ倒れた後。

 ジャックは、医療班にエーラを預け、バーの時間になっているカフェへと足を運んだ。


「……ようやく来たか」


 かたむけていたグラスを置きながら、ジャックは待ち人が来た事を、音で認識し、後ろを向く。

 ジャックの視線に映り込んだのは、蒼髪の少女、リリィだった。


「……どういった風の吹き回しで?貴女が私を誘うなんて」


 何時も以上に死んだ目をするリリィは、適当に席へつくと、特に何も頼む事も無く、不機嫌そうにヒジを立てる。

 どう見ても嫌そうだ。


「どうした?そんな不機嫌そうに」

「これからシルフィと夜のデートだったんですよ、それが、何の気を利かせたのか知りませんが、折角だから行ってこいと」

「そうか、そいつはすまなかったな」

「本当ですよ、何でこんなロリコンと一杯やらなければならないんですかね」


 一応、今朝ほどに一緒に飲もうと誘っていたのだが、シルフィという先約がいた。

 それなのに、シルフィはジャックとの約束を、優先してほしいと言われた。

 と言うのも、最近のシルフィは、リリィが自分以外の人にも、興味を持ってほしいと考えている。

 元々人間嫌いな部分もあるので、克服は難しいかもしれないが、そんな事で諦めるシルフィでは無かった。


「……あのな、リリィ、一応俺、お前の姑的なポジなんだわ、そういう態度取られると、シルフィとの婚約はね~」

「さ、二杯目、お注ぎいたしますね、お義母様!」

「そこまであからさまなゴマすりも珍しいな」


 婚約と言う単語を出した途端、リリィの態度は急変。

 なんとも清々しい笑みを浮かべながら、お酌をする。

 明らかな作り笑いに、目を細めながらも、ジャックはグラスの中身を飲み干す。


「……所で、どのような風の吹き回しですか?私なんかを呼ぶなんて」

「なに、お前と、サシで飲みたかったのさ」

「そうですか」


 次の酒を注ぎながら、リリィは何故呼んだのかをたずねた。

 理由は単純な事、ジャックが一緒に飲みたかっただけである。

 たとえ、かつては敵対していた仲であったとしても、どんな経緯であれ、殺し合った仲であっても、とりあえず、盃を交わす。

 それが、ジャックなりの友好の印だった。


「つー訳だ、お前も何か飲んだらどうだ?」

「お酒には興味が無いので」

「おいおい、俺の酒が飲めねぇってか?それじゃ可愛がってもらえないぜ」

「前時代的です」

「それもそうだな」


 リリィの返しに、ほくそ笑みながら、ジャックは更に酒を飲む。

 それはそれとして、リリィは小耳にはさんだ話をジャックに告げる。


「そう言えば、七美さんが異動なさって来るとか」

「ああ、二か月くらい引き継ぎやって、俺のポジのほとんどは、七美がやる事になる」

「そうですか……ですが、少佐の代わりは……」

「あ~、そっちは、エーラとドレイクが補佐を務める、士官クラス、もうアイツらしかいねぇし」

「そう言えばそうでしたね」


 七美の異動。

 それにおける問題点を、リリィは指摘する。

 普通であれば、一個下のジャックが、少佐の役目を引き継ぐ物であるが、護衛に抜擢されたので、色々と問題がある。

 何しろ、少佐達を除くと、この部隊の士官は、エーラとドレイクしか居ない。

 七美の階級は曹長なので、まだ士官とは言えない。

 シルフィとリリィ達に至っては、存在しない事になっているので、階級なんて物は存在しない。


「妹さん、ですか」

「ああ、今でも会うのが楽しみだぜ」

「……」

「どうした?」


 妹、その単語を聞いただけで、リリィはなんとも言えない表情を浮かべる。

 何しろ、今のリリィの悩みの種は、その妹に有る。

 いつの間にかできていた、カルミア達と言う妹、そして、シルフィの義妹。

 心当たりはいくつも思い浮かぶ。


「いえ、妹の良さと言うのが、いまいち、良く解らなくて」

「馬鹿かお前、それでもお姉ちゃんか?」

「いや、そもそも私、途中までほとんど妹キャラでしたからね」

「いやいや、二女でも三女でも、下に妹が居れば、それはお姉ちゃんなの、しっかりしないといけないの」

「……はぁ、ま、頭では解って居るのですがね」


 リリィの脳裏を過ぎる、四人の妹達。

 以前、姉妹の盃を交わしたとはいえ、それはあくまでも、流れでそう言う感じにしただけ。

 しかし、流れとはいえ、五人の長女に選ばれてしまった事に、変わりは無い。

 ラベルクも、もう自分は姉を卒業した、等と言いっているうえに、最近はチハルと共に、少佐のサポートを行っている。

 おかげで、彼女に頼る事はできない。


「……そう言えば、シルフィからも聞いたのですが」

「何だ?」

「貴女にとって、自由に生きるとは、どのような事ですか?」

「また難しい質問を……」


 シルフィ曰く、自由とは、不自由の中の安息。

 それを聞いたリリィは、興味本位で、ジャックにとっての自由をたずねた。

 リリィから見て、ジャックは生き方や、精神性そのものが自由だ。

 とにかく、自由奔放で、欲に忠実。

 そんな彼女にとって、自由とは何か、純粋に気になったのだ。


「そうだな、自分を偽らず、子供のようにはしゃげる、それが自由って奴だろ」

「……ふふ」


 ジャックの返答を聞いたリリィは、一瞬硬直したが、すぐに笑みを浮かべた。


「何だよ」

「いえ、ふふ、貴女らしい答えだと思いまして……自分の好きなように、自分の思い浮かべる姉をできる、それが、貴女の自由なんですね」

「……ま、ちょっと違うかもだが、そうかもな」

「……ええ、それにしても、シルフィも、姉として、苦労なされていたのでしょうか?」

「……」


 ジャックとの話に花を咲かせたリリィは、不意にもう一人の妹について思い出し、口にした。

 シルフィの妹、つまり、ルシーラの姿を、ジャックは幻視する。

 二人と出あう前に、彼女とは酒場で偶然顔を合わせた。

 それ以来だが、あの時の恐怖は、今でも忘れられない。


「アイツは、ヤバい……こんりんざい関わらない方が身のためだ」

「え、会われた事が有るのですか?」

「ああ、サイクロプス共と戦う前に、ちょっとな」

「シルフィには?」

「もう伝えた」


 珍しく体を震わせながら、ジャックはグラスを置く。

 姿を思い浮かべただけで、想起されてしまう。

 あの時感じた、禍々しい音は、今でも耳にこべり付き、中々剥がれ落ちてくれない。

 そんなジャックの姿に、リリィは目を見開く。


「(あの大尉が、こんなにも怯えて……そう言えば、ウルフスさんも、族長とルシーラには、手を出すなと言っていたな)」


 異常な怯え方をするジャックを見ながら、リリィはウルフスに言われた事を思い出した。

 恐らく、今のリリィであれば、ウルフス以上の戦闘力を持っているだろうが、それでも、十分彼の実力は把握している。

 前の戦いで、彼がジャックの方に加わっていたら、彼女達はもっと楽に勝っていただろう。


「……それで、その、ルシーラと言う方の、第一印象は?」

「……化け物だ、ウチの師匠程じゃないが、俺より強ぇのは、明らかだ」

「そ、そうですか」


 自分より強い、ジャックがそう簡単に口にする事は無い。

 それは、彼女のカウンターウェポンとしての調整を受けたリリィは、重々承知している事だ。

 そんな彼女が、化け物だと、自分より強いと、断言している。


「……そういえば、シルフィの奴、ルシーラとかいう奴の事思い出そうとして、発狂したな」

「え?どういう事ですか?」

「お前も知っているだろうが、シルフィには、脳に何かをかけられている、恐らく、そいつが原因だろうが、ルシーラを思い出そうとした時に、苦しみだしたんだ」

「……そうですか」


 シルフィの脳は、特殊な術がかけられている。

 それは、リリィも知る事実だ。

 エーラが解析したが、外部からの解除は不可能。

 術を解くのであれば、シルフィ自身の力が必要なのだ。


「(そう言えば、彼女は不可思議な事が多すぎる……出生、生い立ち、成長の過程、それが、一切不明だ)」


 ジャックとの会話の中で、リリィはずっと目を背けていた部分を思い出した。

 初めて会った時は、任務に必要ないと、心の隅に留めておいたが、今はもう自由の身。

 彼女の事を、深く考える事は、十分可能だ。

 ここまでの仲に発展したのだから、もっとシルフィの事を知りたいと、リリィは考える。


「あの、折り入って、お願いがあるのですが」

「何だ?」


 頼みがあると、リリィは立ち上がった。

 そして、ジャックに真剣な眼差しを向けると、リリィは敬礼する。


「大尉、どうか私に、ジェニー・エルフィリア准尉の捜索を、ご命令ください」

「……」


 部外者であるシルフィの調査であれば、任務として通らないが、関係者であるジェニーであれば、任務として受領してくれるかもしれない。

 そんな期待を抱きながら、ジャックに頼み込んだ。

 シルフィにも、謎は多く残されているが、それと同じくらい、ジェニーにも謎は有る。

 それを踏まえると、彼女の任務は、許可した方が良いかもしれない。


「……そうだな、とりあえず、少佐に聞いてみよう、装備とか使うにも、アイツの許可が居る」

「感謝します……それと、もう一つ、お聞きしたい事が」

「……何だ?」

「……」


 遠まわしのOKを貰ったリリィは、もう一つの話を、ボリュームを最小にして口にする。

 本来なら、耳打ちでなければ聞こえない位の声だが、ジャックの耳であれば、十分聞こえる。

 そして、リリィの言葉を聞きいれたジャックは、小さくうなずく。


「ああ、お前の予想通りだと、俺達は睨んでいる」

「……では、ご提案がございます」

「提案?」

「はい、貴女方の不安要素を、ある程度は消せる筈です」

「聞こう」


 ――――――


 その後。

 リリィは、ジャックに作戦の提案をし、そのまま自室へと戻って行った。

 部屋着であるタンクトップ、短パンに着替え、ベッドに座ると、ニタニタと笑みを浮かべた。


「(うふふふ~、上手く行った、シルフィの事をもっと知りたい、大尉たちの不安を消したい、そう言うのは、確かにありますが、半分ほど建前なんだよな~)」


 先ほどの席で打ち明けたリリィの提案、それらは、彼女の計画の一つでしかない。

 勿論、建前の通りに、里の調査へ行く等、任務はしっかりこなす。

 だが、一番の目的は、その行動にある。


「(久しぶりに、シルフィとデート、それも二人っきり、何着て行こうかな~)」


 そう、シルフィとのデートが、一番の目的だった。

 何時になるかは分からないが、早めに準備を進めようと、リリィは色々と予定を組み立て始めたのだった。



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