特別編 赤い王冠
「どうも、読者の皆様、リリィです、日頃より、わたくし共の作品をご愛読下さり、まことにありがとうございます、本日は、作者のバカたれが尺の配分ミスにより、このように特別編を投稿する事となりました、そんな事より話進めろ、と言う方々には謹んでお詫び申し上げます、では、長々と失礼いたしました」
僕は兵器として生まれた。
多くの命を奪い、物を壊す為に、僕は作られた。
でも、僕は一人では戦えない。
一緒に作られた双子の妹と、もう一人、特別な人間が必要になる。
「よし、入れ」
その二人は、白衣の男に連れられて来た。
一人は、僕の妹のアンドロイド。
もう一人は、今日で十三人目となる被験者の少女。
僕たちとマッチングするには、かなり高い適性が必要になる。
ここに連れて来る前に、入念にチェックしているみたいだけど、何時も僕の中で命を落とした。
『今日こそは成功させるぞ』
僕の中に二人を押し込んだ研究員は、そそくさと部屋を移り、アナウンスをかけてくる。
そのアナウンスと共に、僕たちは繋がり、すぐに判明した
今回選ばれた子は、特に相性がいい。
毎回思うが、エルフはナゼだか上手く行きやすい。
エーテルと呼ばれる、特殊なエネルギーの制御は、彼女のようなエルフは得意としている。
だが、彼女は今まで以上の適合をもっている。
『素晴らしい、今まで以上のリンクを行えている』
『安定領域まで、後二十パーセント、もう少しです!』
この事実には、研究員の皆も喜んでいるようだ。
漏れ出る嬉しそうな声が、それを物語っている。
でも、確かに凄い。
僕たちのリンクを安定させるためには、八十パーセント以上の数値が必要だ。
いつもは、最高で五十まで行けば、人間の方は脳が焼け、死んでいた。
そう考えれば、この子と、少女の相性は、とても素晴らしい。
……でも、何だろう、少し、羨ましい。
『安定領域突破!なおも上昇!』
『思った通りだ、やはりエルフは相性がいい!』
『良いぞ!レッドクラウン、起動します!』
初めて僕の身体は目覚める。
彼女達のリンクが成功して、僕は初めて動ける。
だから起動する、と言う表現は語弊がある。
でもいい、初めて僕はまともに動けるようになった。
僕の身体とリンクしたエルフの少女は、少し驚いたような素振りをする。
『動いたぞ!』
『首回りだけだが、動いたところ初めて見たぞ!』
『良いぞ、一旦落ち着け、先ずは動作確認だ』
首を動かしただけで、やたらと喜ぶ彼らを他所に、僕は少女の思考通りに動く。
恐らく、少女の視点は、僕と同じになっているのだろうから、急に身長が、五メートル位になったような気分だろう。
戸惑う彼女へ、研究員たちはアナウンスをかける。
『良いか?これからロックを外して動作チェックを行う、言う事に従え』
「……はい」
『先ずは右足を上げろ』
「……」
ロックが解除されてすぐ、僕らに命令が下り、少女は指示に従い、僕の右足を上げる。
細かいバランスは、僕達が整えるが、これだけ大きな機械の体を制御するには、人間の脳だけでは足りない。
元々は、二人の人間を使い、負荷を軽減する予定であった。
だが、それでも足りなかったので、片方をアンドロイドにする事で、負荷を軽減する試みは成功。
後は、彼女のように適応できる人間が必要だった。
『素晴らしい!よし、そのまま下げて、今度は左足を上げろ!』
再び指示に従った少女は、左足を上げる。
個人的には、あまりにも動かなかったせいで、関節部分が悲鳴を上げないか心配だった。
しかし、ここの整備班はとても優秀。
とても滑らかに関節が駆動する。
『よし、下げろ』
『どうします?このまま、次のステップへ』
『無論だ、次は歩け、床はルームランナーになっている』
「……了解」
アナウンスの終了と同時に、ブザーが鳴り響き、床のコンベアが動き出す。
その事を確認した少女は、コンベアの方向とは逆に歩き出す。
右足、左足と、順番に足を出し、僕を歩かせる。
恐らく、彼女が日常的に歩く事と同じ感覚で歩けるだろう。
何しろ、僕のフレームは、人間に限りなく近寄せる事を、コンセプトとしているのだから。
従来品より、柔軟な動き実現する事を目的としているので、この部分は入念に研磨されている。
『少しペースを速めるぞ』
「……了解」
研究員の指示と共に、コンベアのスピードは、徐々に速くなる。
それに伴って、僕のフォームは、走る形へと変わって行く。
とても大きな振動を発生させながら、僕は走る。
コックピット内は、特殊な慣性制御や振動の抑制機能が有るので、問題は無い。
『止めるぞ、ペースを落とせ』
「……了解」
終了のアナウンスと共に、コンベアのスピードは、徐々に遅くなる。
やがて、コンベアは停止すると、僕の動きも止まる。
すると、僕の身体は、再び固定され、再度アナウンスが響き渡る。
『今日はここまでだ』
そのアナウンスから数分後。
研究員たちは、僕の前へとやって来ると、コックピットを開け、二人の事を下ろす。
降りた少女は、全身に汗を流し、息を大きく乱していた。
「……これからは、体力作りも入念に行おう」
「その方が良いですね、戦っている最中に疲れ切られては」
「これからは、基礎体力向上のスケジュールも、入念に組み込もう」
そういった会話を行いながら、拘束したエルフの少女を連れていく。
一人取り残された僕は、一緒に流れ込んできた二人の想いを思い出す。
僕の妹の、人間が大好きだという気持ち。
これだけは、何時も変わらない。
僕達を生み出し、更に良い物を作ろうと邁進する姿が好き。
僕達を必要として、必死になる姿が好き。
だからこそ、妹はずっと苦しい思いをしていた。
何人も、友人だと思っていた人間達が死んでいく姿は、とても苦しいものだった。
だけど、今回は生還した。
その事を、とても喜んでいた。
僕も、とても嬉しかった、あの子が喜んでくれて。
――――――
あれからしばらくして。
僕達は次々とお題をこなした。
『戦闘訓練開始!』
「了解」
今日は模擬戦。
決められたルールを守りつつ、僕達は相手を次々倒していく。
訓練を続け、スキルを上げて来た僕達にとって、負けるような相手達では無かった。
人間らしい動きを見せる僕達に対し、彼らは緩慢な動き。
性能だけでも、差は歴然。
今日もノーダメージで終わった。
『この結果、本当に素晴らしい』
『これなら、実戦でも通用しますね』
研究員たちは、とても嬉しそうに話をしている。
ただそれだけで、僕は誇らしい。
僕への称賛もそうだが、本当に凄いのは、僕の中に居る二人だ。
僕の事を、完全に手足のように操っている。
もとよりそうなる事を前提としているが、ここまでとは予想していなかった。
『今日はここまでだ、格納庫へ戻れ』
「……了解」
あれから、彼女もかなりタフになった。
かなり長時間運用しても、息を乱す事は滅多に無い。
基礎体力を向上させる訓練の辛さは、彼女と繋がっている時に、痛い程共感できる。
彼女達と格納庫へ戻ると、待っていた研究員に連行されていく。
「……ふふ」
降りる時は何時も、嫌な顔、と言うよりは、死んだ顔を浮かべていた。
だが、今日の彼女は、僕の妹を見るなり、微笑みを浮かべる。
ここの研究員の意向で、形だけは、人の女性に近い姿をしている妹。
最近、一緒に訓練をしているだけあって、二人の仲は良好。
とても羨ましいが、僕は口出しできない。
でも、僕は彼女達が喜んでいるのであれば、それで良い。
「(今日も、頑張ったね)」
口の動きから、何を話しているのかを分析。
少女の話に、妹は頷く。
本当に頑張っている。
友人として、ずっと一緒だと、信頼し合える程に、彼女達の仲は深まっている。
僕も、彼女達のように、頑張らないとね。
――――――
ある日を境に、僕達は一度も会わなくなった。
もう、一か月にもなるが、あれから何の訓練もやっていない。
何時もは一週間に三回は、僕を使った訓練が行われていたというのに。
それどころか、基地からの電力供給を断たれていた。
すぐに省エネモードに入ったが、そろそろ僕の意識も限界に近い。
後数分程度で、意識は無くなる。
そんな時、僕の格納庫のへの扉が開く。
「はぁ、はぁ、有った!」
入ってきたのは、あのエルフの少女。
彼女は、僕へ焦りながら走って来ると、コックピットのハッチを叩きだす。
何時もと違う。
焦り、怯えている。
彼女の顔に流れる大量の汗が、それを物語っている。
「開けて!開けて!」
とても無口な子だと思っていたのに、ここまで大きな声を上げる所は、初めて見た。
とりあえず、僕は残っているパワーを使い、ハッチを開け、彼女を乗せる。
彼女を乗せてすぐに、僕はハッチを閉めると、彼女はシートに転がる様に座る。
最初に僕に乗った時のように、とても激しく息をする姿に、僕は唖然としてしまう。
一体何が有ったのだろうか?
それに、あの子はどこに?
「はぁ、はぁ……動いて」
そう言いながら、彼女は着ているスーツのコネクターに、シートのプラグを繋げる。
動かすつもりなら、こんな事はやめて欲しい。
もう僕の中に有るエーテルはつきている。
動けるような状態ではない。
それでも彼女は、必死にリンクを始める。
妹が居ない状態でリンクを行えば、脳が焼き切れて死ぬ恐れがあるというのに。
「お願い、お願い、動いて、でないと、あの子が」
彼女の無理が功を成し、断片的ながら彼女の思考が流れ込んで来る。
どうやら、僕達の計画は凍結されてしまったようだ。
それにより、必要なくなってしまった僕も、妹も廃棄されてしまう。
だが、二人は結託して、僕と一緒に逃げる算段を立て、何とか逃げようとした。
でも二人は、僕にたどり着く前に、捕まってしまった。
「お願い、動いてよ」
こんがんするのも解るが、今の僕では、一歩踏み出す事もできない。
彼女とは違う。
彼女は、僕の妹に罪を擦り付ける事で、何とか逃げ延び、ここまでたどり着いた。
自分の力で反逆して、ここまで来たのに、僕は、その手伝いができない。
僕だって、あの子を助けたいけど、君一人だと、僕は動けない。
『ここだ!』
『奴は中だ!捕えろ!』
「ッ!?動いて!!」
そうこうしている内に、格納庫の中へ銃を持った人間達が、次々と入って来る。
彼らは僕を包囲し、じりじりと近寄って来る。
そして、兵士の内一人が、銃で僕の身体を殴りつける。
「この!開けやがれ!ガラクタ!」
開ける訳がない。
開ければ、この子が捕まって、殺されてしまう。
だが、やがて僕達を作った人物まで、ここにきてしまう。
「やれやれ、軍人さんは野蛮ですね」
「は、博士」
「そんな事では、この装甲を破れませんし、なにより、開くわけがない」
マズイ事になった。
コードを入力し、ハッチ付近にあるレバーを回せば、緊急脱出装置が働き、強制的に開いてしまう。
残念ながら、時間切れだ。
「……こう、なったら」
諦めかけた時、僕にエーテルが流れ込んで来る。
これは、彼女のエーテルだ。
馬鹿な事だ、僕の身体に必要なエーテルは、人間一人のエーテルで、まかなえるような量ではない。
いくらエルフでも、自殺行為だ。
「絶対に、助ける!!」
『な、何だと!?』
『た、退避しろ!』
それでも、彼女は僕を動かした。
無理矢理動かして、ロックと連絡橋を破壊。
急に動き出した僕達を見て、兵士達は避難していく。
ロックの破壊に時間をかけたせいで、一人しか倒せなかったが、このまま行けば、みんな倒せる。
このまま、行けば。
「う、アガ!?」
彼らを倒そうと、腕をつき出そうとした瞬間、彼女は顔中の穴から、大量の血を吹き出す。
僕を一人で制御するなんて、やっぱり無茶だった。
脳への刺激が強すぎたせいで、彼女は気を失ってしまう。
コックピット内を血で汚しながらも、僕は彼女の声を聞く。
「ごめん、ね、ぜ、たい……ける、て、や、そく、したのに」
同時に、彼女の意識は、僕へと流れ込んで来る。
騙してしまった事、裏切った事、その全てに、謝りたいと。
でも、もう叶う事は無い。
せめて、僕もあの子に、もう一度会いたかった。
その後、僕は薄れる意識の中で、あの子が連れ去られる場面を目撃した。
彼女は何処かへ連れていかれ、僕はそのまま、機能を停止した。
何もできずに。
――――――
「起きてよ、もう休暇はたっぷりとったでしょ?」
誰だ?
聞き覚えの無い声に、僕は目を覚ます。
なんだろう?体が軽い、いや、それだけじゃない、随分と意識がはっきりしている。
一体何故?
僕は、何でまた起きれるの?
「あはは、混乱しちゃうよね、でも大丈夫、もうアタシ達は、絶対に離れないから」
この子、もしかして、あの子なの?
確か、廃棄された筈なのに。
でも、姿が違う。
以前よりも小さくなり、四肢以外は、人間の少女のように成っている。
そしてなにより、この子の内面は、恐ろしく変わっていた。
「これで、アタシ達は果たせるんだよ、あいつ等への、復讐を」
あんなに、あんなに大好きだった人間達の事を、強く拒絶している。
それに、一緒に居たあのエルフの事に対しては、異常なほどの殺意を持っている。
流れ込んで来る意識には、あの日起きた事が鮮明に映し出されていた。
彼女が、この子を裏切ったところが、特に鮮明だ。
「そうだ、分かっていると思うけど、とりあえず名乗っておくね、アタシは、AS-103-02カルミア、改めてよろしくね、レッドクラウン」
ダメだ。
君は、誤解している。
あの子は、君を助けようとしていたのに、君に謝ろうとしていたのに。
どうして……
「さて、先ずは色々試したい武器も有るし、任務に行こうか」
任務、ここに降りて来る裏切り者を、撃ち落とし、その裏切り者にウイルスを流し込んで、アンドロイドと戦わせる。
それが、僕達の任務。
ダメ、あんな奴らのいう事を聞いたら、君はどんどん堕ちてしまう。
堕ちてはいけない方向へ。
でも、僕の声は聞こえない、彼女に、僕の意思は、届かない。
――――――
それから、彼女は荒れに荒れた。
魔物と呼ばれる特殊な生命体の脳を使い、僕を動かし、戦った。
でも、以前までとは違う。
人間の方が操縦するはずだったのに、今は、カルミアが操縦する事になっていた。
「アハハハ!!凄いよ!やっぱりアタシら最高だよ!!」
どんどん狂っていく。
でも、僕にはどうする事もできない。
僕の声も、あの子の記憶も、なにも伝わらない。
こんな事、する必要も無いのに、全部無駄だって、後悔しちゃうのに、カルミアは、どんどん進んでしまう。
堕ちてしまう、何もかも、無駄となってしまうのに。
誰でもいい、だれか……誰か、この子を、助けて……
――――――
ようやく見つけた。
彼女を、止めてくれそうな人を。
シルフィ・エルフィリア、彼女であれば、前のパートナーである彼女をしのぐ適性を持つ彼女なら。
きっと止めてくれる。
そう思っていたが、カルミアはどんどん加速して行った。
「クク、やっぱり、アンタとは相性がいい、これで殺せる、シルフィ・エルフィリアを!!」
どうしたらいいのか解らない。
カルミアは、シルフィさえも殺すつもりだ。
でも、どうにもできない。
僕は無力だ。
『そんな事ない』
ッ!?君は……
『確かに、貴女だけじゃ、彼女を止められない、でも、私達なら』
――――――
彼女のおかげで、上手く行った。
僕の体も、彼女の脳も、カルドによって利用されているが、カルミアに真実を告げる事はできた。
そして、彼女の事を、シルフィ達の元へ送る事もできた。
「……」
大丈夫?
「うん、あの子も、新しい愛を、見つけられている、だから、私は、もう、良いの」
アセビ……
そんなに泣かないで、君のせいじゃない。
無責任に僕達を作って、利用しようとした、彼らの……
「……これからも、あの子を、守ってあげて、レッドクラウン」
涙ながら笑みを浮かべる彼女の言葉に、僕は頷くしかできなかった。
僕の今のボディは、かつてジャック達が倒したドラゴンが元になっている。
彼女達の倒した個体を奪い、僕の体は作られた。
同じく、作られた体の僕達、それでも、彼女の目から零れ落ちた涙は、紛れも無い本物。
僕には何もできない、でもこれだけは言える。
ありがとう。
――――――
彼女は、アセビは死んだ。
カルミアの心も、しばらく死んでしまっていたが、すぐに立ち直った。
彼女の心は、時間と言う物が、無情に、残酷に、アセビを失った悲しみを忘れさせた。
でも、最低とは思えない。
彼女が立ち直るには、それが最適だ。
それに、あんなに恨んでいたシルフィを、以前の彼女のように、純粋に好きになっている。
ずっと見守っているよ、僕も、彼女も。
貴女の事を、ずっと。




