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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
206/343

ナーシサスの花言葉 前編

 あの一件から翌日、シルフィとジャックの捜索により、逃亡中のリリィ達は発見され、基地へ連行された。

 その後、彼女達が主体で、基地の修復作業が始まった。


 それから数日後。

 アリサシリーズのスペックの高さを利用した作業により、基地の修復はかなりはかどっていた。

 彼女達の作業も、他のスタッフらの仕事も終わった、その日の夜。

 ジャックと少佐は、バーのカウンター席で隣合わせになりながら、共に酒をたしなんでいた。


「やれやれ、あの五人には手を焼くな」

「ああ、本当だ」


 リリィ達の手に余る行動に、少佐は眉をひそめる。

 何しろ、これから彼女達が人間として過ごせるような、世界を作らなければならないというのに、今回のような騒動は、もうごめんだ。

 ただでさえ、世論からは卑下されているというのに、今回のように、私情で人間に手を出されては、余計に反発されてしまう。


「……それで、ご友人はなんて?」

「あまり乗り気ではなかったな」

「だろうな」


 今回のような一件は、話していないが、バレれば友人の頼みでも、流石に断られてしまう事は、目に見えている。

 友人のジョージも、政治家である事に変わりは無い。

 一文にもならないような話には、首を突っ込まないのは、当然の判断だ。

 それに、問題は彼女達の態度だけではない。


「仮に、彼が当選したとしても、法案の改定には、議員の半分以上の賛成が必要だ、それに、民衆の情緒も有る、容易くはいくまい」

「都合の良い所で、民主主義持ち出すもんな」


 現在の連邦政府は、力を保持しすぎた。

 その力に酔いしれた政府は、ほとんど独裁政権に近い。

 表面では民主主義をうたっているが、事実上、民衆の支持は、上手い事得ている、と言える。

 仮に、リリィ達の存在が認められるとしても、反発する民衆の言葉を盾に、民主主義を持ち出してくる。

 それに、現在の状況で、アンドロイド関連の法案を改定するという部分で、支持率を上げる事は、不可能。

 当選するには、色々と策が必要になって来る。


「けど、何とかするっきゃない、最近、ご友人の政敵さんが、妙な動きをしているみたいだしな」

「ああ、七美君たちも、そう言っていたな」

「ラベルクに調べさせてもいいが、ここであいつを使うと、後で面倒になりそうだし、厄介なものだ」


 グラスを傾けながら、ジャックは七美からの報告を思い出す。

 現在の彼女は、ストレンジャーズの隠密部隊と共に、政府の裏側を調べまわっている。

 しかし、腐っても政府の闇部分。

 ジャック達がこの世界へ足を踏み入れる前から、調査を進めていているというのに、確かな食いつきが無い。

 マザーを使い、ハッキングして情報を抜き出してもいいが、そう言った行為が、後で問題になる事も有る。

 現状、リリィ達には控えてもらうしかない。


「はぁ、厄介な事引き受けちまったな」

「ああ……だが、私としては、君の事の方が気になる」

「……おいおい、アンタと不倫なんかしたら、マスコミじゃなくて、奥さんに物理的に殺されるんだからな」

「バカ者、そう言う話ではない」


 そんな冗談を言っておきながら、ジャックは勝手に顔を青ざめる。

 結構前の事だが、ジャックは、少佐の説教にムカついて、パパ活女子の如く、少佐の自宅に乗り込んだことが有った。

 しかし、その場面を少佐の奥さんに見られ、ジャックは半殺しされてしまった。

 完全に不意打ちだったとはいえ、民間人である少佐の奥さんによって、ジャックは完膚なきまでに叩きのめされたのだった。

 当時のことを思い出し、頭に青筋を浮かべながら、少佐は気になっていた事をジャックに打ち明ける。


「話を戻すが……君は、確かめたかったのではないか?」

「何を?」

「君と、君の恋人が、助かる方法を」

「……」

「もっと力が有れば、周りがもっとましな連中であれば、助かったかもしれない、そう考え、彼女に協力した」


 少佐は、別の世界から流れ着いたジャックの、一番の古株。

 それ位長い付き合いだっただけに、少佐はジャックの事を誰より理解している。

 だからこそ、ジャックが何故、シルフィの事を戦場に連れ出したのか、色々と考えていた。

 リリィを助けたい、そんなシルフィのワガママに答える為、と言うのはほとんど建前。

 本当の理由は、別の物。

 だが、ジャックは少佐の考察を鼻で笑った。


「ふ、老いたな、少佐」

「……」

「俺は、母親として、アイツのワガママを聞いてやっただけだ」

「……(そんな表情、私は見たくないのだがね)」


 ジャックは、なんとも悲しそうな顔を浮かべる。

 シルフィは自分の娘だ、その事実を、ジャックは言い訳や、隠れミノにしている。

 何しろ、シルフィが娘という事を知る前から、ジャックはシルフィを連れて行くつもりだった。

 なら、その理由は明白。

 少佐の考察通りに、確かめたいと思っていたのだろう。

 絶望的な状況の中であっても、愛する人と共に、生き残れる方法を。


「……(以前にも言ったが、君は、私の長い人生の中で、一番の友人だ、悩みが有れば、打ち明けて欲しいものだ)」

「ま、母親として、あの子に教えてやれんのは、ベッドの上の百鬼夜行くらいだな」

「……ちょっとまて」

「何だ?」


 話のすり替え、と言うのは確実なのだが、ジャックが急に言い放ったセリフに、少佐はグラスを勢いよくテーブルに置く。

 何しろ、そのセリフを言った時のジャックは、ホホを赤らめていた。

 どう考えても、あっちの意味である。


「貴様、それ、どういう事だ?」

「まぁ要するにだ、めしべとめしべを」

「娘相手に話したのか!?相変わらずどんなメンタルをしている!?」

「しかたねぇだろ、シルフィの奴が、そろそろリリィとベッドの上で百鬼夜行したい、って言うんだから」

「師からたまわった技を隠語に使うな!!」


 ――――――


 少佐のツッコミが響き渡る数分前。

 今日の工事を終えたリリィは、自室の片づけを行っていた。


「……これはもう、必要ありませんからね」


 何枚もプリントアウトし、壁が埋まる程貼り付けていた、シルフィの写真。

 それを、一枚一枚ていねいに剥がしていく。

 と言っても、処分はせずに、アルバム風にまとめて、大切に保管するつもりだ。


「彼女はもう、何時でも私と共に、有りますから」


 片づけを終えたリリィは、ベッドに座り、手足を治したシルフィのぬいぐるみを抱く。

 あれから、シルフィへの想いが、爆発的に膨れ上がってしまっている。

 事有る事に、シルフィの事を考え、最近は目を合わせる事もままならない。

 ここまで温かい感情は、初めてだった。


「……結局、私は、彼女に依存していただけか、そして、これが、本当の、彼女への好意」


 キュンキュンする胸を抑える様に、リリィはぬいぐるみを強く抱きしめる。

 心なしか、顔が熱い。

 以前よりも、はるかに自分の事がわかってしまう。

 ただ、プログラムに従っていただけの自分とは違い、今は、自らの考えで、自分を表現できる。

 いや、されてしまう、と言った方が良いかもしれない。

 我慢しようにも、勝手にあふれ出てきてしまう。


「……感情って、意外と面倒なんだな」


 そんなグチを垂れていると、リリィの部屋のドアが叩かれる。


「ッ、だ、誰ですか?」

「私、開けて」

「し、シルフィ!?ちょ、ちょっと待ってください!」


 ノックの音に、驚きながらも、その主がシルフィという事に気付いたリリィは、急いで準備を始める。

 消していた電気をつけ、残していた等身大のポスターや、ぬいぐるみを片付ける。

 更に、タンクトップに短パン姿と言う、とても人前に出られないような服から、軍服に着替える。

 その上で、乱れていた髪をしっかりと整え、身だしなみにもしっかりと気を使う。


「ど、どうぞ、はぁ、はぁ」

「なんか、息上がって無い?」

「……気のせいです」


 色々と終えたリリィは、シルフィを自室へと招く。

 そして、二人はベッドの上に、となり合わせになりながら座る。


「……」

「……」


 しかし、二人は無言。

 冒険をしていた頃は、もっと話を弾ませた物だが、今のリリィは、シルフィに触れる事すら、恐れおおく思えてしまう。

 すぐ傍に有るシルフィの手さえ、触れられずにいた。

 それどころか、目すら見られない。


「(ああああ!何これ、何なのこれ、シルフィと同じ空気吸ってるってだけで恥ずかしいんだけど!しかも、この匂い、もしかして風呂上り?攻撃力ヤバいんだけど!)」


 顔には一切出ていないが、リリィの心境はなんとも言えない。

 加えて、嗅覚センサーの捉えるシルフィの匂いが、その心境を更にかき回す。

 そんなリリィへと、追い打ちがかかる。


「……」

「ッ(ファヴァァァ!?)」


 シルフィの手が、リリィの手にからめられる。

 しかも、リリィの手を握るシルフィの浮かべる表情は、柔らかな笑み。

 だが、リリィとしては、もう状況について行けなかった。

 そんなリリィの心境はお構い無しに、シルフィはリリィの手を撫でまわす。


「ねぇ、リリィ」

「ふぇ?ひゃい」

「リリィの手、やっぱり本物と変わらないね」

「え、ええ」

「斬り落とされてたら、絶対に、こんな事できなかったよ」

「ッ、も、申し訳、ございません」


 やはり、まだあの事を気にしていると思ったリリィは、すぐにベッドから降りて土下座する。

 切られた腕の方は、ジャックがすぐに繋ぎ合わせたので、ちゃんと感覚も戻っている。

 とは言え、骨を断つ寸前まで斬ってしまったのは事実だ。

 まだ怒っていても、おかしくは無い。


「もう怒ってないんだから、そんな事しないでよ」

「え?」

「ほら、ここ座って」

「で、ですが」

「これ命令」

「はい」


 怒っていない。

 そう言われても、リリィの罪悪感は消えず、隣に座る事さえ拒否したいが、命令と言われれば従わなければならない。

 相変わらずの不便さを感じながらも、リリィはシルフィの隣に座る。

 しかし、珍しい事でもあった。

 マスター登録されているとはいえ、シルフィは命令の権限を滅多に使用しない。


「……」

「ごめんね、無理言っちゃって」

「良いですよ、どうせ、私達アンドロイドは、どこまで行っても、自由にはなれないのですから」

「……」


 隣に座り直したリリィだったが、久しぶりに使われたシステムに、目に影を落とす。

 結局、自由になれていないという事に、そろそろ嫌気が刺してしまう。

 そんなリリィの姿を見て、シルフィは体を寄せる。


「し、シルフィ?」

「自由ってさ、結局、幻想だよね」

「え、ええ」

「でも、確かに現実に有る、実感しにくい、というより、実感している事に、気づきづらい」

「どういう事ですか?」

「……森を出て、自由になれたって、私も思ったけど、外で生活するにも、何かに縛られて、生きていかなきゃいけない、不自由だなって、リリィに仕事を紹介された時は思ったよ」

「……」


 リリィの言葉に、シルフィは森を出た時の事を思い出した。

 ベヒーモスに追いかけられ、リリィの料理で体調を崩して、色々とさんざんではあったが、それでも、自由になれた実感は有った。

 その後で、生活の為に金銭を稼ぐ方法を教わった。

 そして、実感した。

 やる事は、結局里に居た頃と変わらない。


「いま思えば、私、いじめから逃げたかったんだよ、それで、リリィを助ける事を口実に、里を抜け出した、自由何て、どうでも良かった」

「それで、今はどうなんですか?」

「今は、自由を実感してる、だって、自由は、不自由が有るから有るんだって、わかったから」

「……成程、こうして貴女と一緒に居られる、小さいですが、これも、確かな自由ですね」

「そう、そして、こうすることも、私なりの自由」

「ッ!?」


 話の中で、シルフィはリリィと唇を重ねる。

 重ねられた唇に、珍しく動揺するリリィであったが、シルフィはその口を離そうとしてくれない。

 数秒間、じっくりとしたキスの後で、シルフィはようやく口を離す。


「し、シルフィ?な、何で?」

「もう、ずっと、こうしたがってたクセに」

「あ、ちょ」


 耳の先まで顔を赤くするシルフィであったが、そのままリリィの事を押し倒す。

 いきなりの事に、更に状況を理解できなくなったリリィは、思考を一部停止させてしまう。

 しかし、何とも乙女な表情を浮かべる、シルフィの吐息を浴びながら、自分を取り戻す。


「ま、待ってください!わ、私は、貴女とこんな事をする資格なんて」


 シルフィの視線から、目をそらし、少し距離を取る。

 今の自分に、これ以上の行為をする事は、許されると思わない。

 だが、シルフィは止まらなかった。


「……十分あるよ、だって、私が、こうしたいんだから」

「で、ですが」

「ふふ、でも、もう遅いよ、私、我慢できそうにないの、理性もモラルも無い自由何て、ただの無法だけど、たまには、それも良いよね」

「そんな、無茶苦茶な……」


 折角着たリリィの軍服を、ゆっくりと脱がせながら、シルフィはリリィと唇を重ねる。

 ここまで来たのだから、もう引き下がれない。


「リリィ」

「し、シルフィ、ん」


 お互いの名を呼び合いながら、二人はもう一度キスをする。

 グイグイと押してくるシルフィに、リリィは負けてしまい、シルフィを受け入れる。


「(ありがとうございます、シルフィ、今度こそ、貴女を愛してみせます)」


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