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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
203/343

悲しみのみのむこうへ 前編

 リリィが奇行を行った翌日。

 カフェルームにて、シルフィはテーブルにつっぷしていた。

 その顔は、ショックやら何やら、様々な感情がごった煮になっており、もう色々と疲れ果てている。


「はぁ~、別に私、五股かけてる訳じゃないんだけど……ねぇ、そうだよね?私、ちゃんとリリィ一筋でやってるよね?」

「俺に振るな、母親でも、介入できる恋愛と、出来ない恋愛が有るんだよ」


 因みに、目の前には普通にジャックが座っている。

 と言うより、消去法で悩んだ末、相談があると、シルフィの方から呼んだのだ。

 その内容としては、シルフィの恋愛事情である。


「てか、傍から見たら、五股かけてるようにしかみえねぇよ」

「かけてないって!」

「かかってるよ、かんきつ風味の栄光の架け橋がかかってるよ、チナツの言う通りだよ」

「ふえ~」


 事の発端は、昨日の女子会。

 チナツが悪意ゼロに発した言葉である。


『シルフィさんって、五股もかけて大丈夫なんですか?』


 と言うセリフが、シルフィの頭の中で、ピンボールの如く乱反射していた。

 そのせいで、シルフィは悩みに悩んでしまっており、こうして親元に相談を持ち掛けたのである。

 チナツは、恋愛関係の噂が服を着ているようなもの、そのおかげで、シルフィの現状は、彼女にとって絶好のカモだ。

 必然的に、そのような話も出てきてしまう。


「はぁ~、私、これでもリリィ一筋なのに」

「……(本当に一筋なら、あんな怖いことしねぇよ)」

「それなのに、最近リリィが怖くて、若干タガが外れてる感じだし、あ、そう言えば、最近変な視線が……はっ」

「……どうした?」


 落ち込みついでに、シルフィは何かに気付いたらしく、上半身を起こし、目を見開く。

 シルフィの仕草を見たジャックも、モカチョコパフェを食べる手を止める。


「私、刺されたりしない?」

「……」


 シルフィの発した言葉に、ジャックは冷や汗を垂らしつつ、目をそらした。

 何しろ、リリィはマジで危険なゾーンに入り込み、カルミアも、最近はシルフィをストーカーしている。

 視線の方は……色々推測ができるので、断定ができない。

 流石のジャックでも、面倒見切れないレベルまで、事態が進展している。

 幸い、イベリスとヘリアンは、狙撃訓練で、しばらく帰っていないので、安心ではあった。

 だが、リリィの方は、少し、と言うか、かなりマズイ。


「やっぱり嫌な事起こるの!?大丈夫!?リリィから来たメール見てたら、背後からブスリってやられないよね!?」

「……あ~、うん、多分大丈夫、きっと、うん、ね、そ、そんな気負う事、無いとは、思うよ」

「気負うよ!だって今回のサブタイトル見た!?不穏以外の何物でもないよ!!」

「大丈夫だって、一回二回刺されても、すぐ再生するから」

「そう言う問題じゃないから!」


 色々と心配事の有るシルフィは、泣きながらネガティブ方向へと考えてしまう。

 ジャックも、娘のこんな姿を見ては、力にならない訳にもいかなかった。

 一先ず、エスプレッソを飲んで落ち着きながら、シルフィが落ち着くような打開案を考え出す。


「……とりあえず、サブタイの問題は、今回はこういう奴だって、思いこめば大丈夫だって」

「……どういうやつ?」

「例えば」


 ジャックは、どこからか取りだしたスケッチブックに、マジックで何かを書きだす。

 少し不安感を抱きながら、何かが書き終わるまで待つ。

 数秒で書き終えたジャックは、その内容をシルフィに見せつける。


「はい、これが今回のサブタイだ、自己暗示しろ、自己暗示」

「……希望の、花、ね」


 そのジャックの提示した文字を見た途端、シルフィは青筋をデカデカと浮かべた。

 拳の方も、手から血が流れそうなレベルで握り締め、ジャックの顔面を、全力でぶん殴った。


「ヒットマンにでもやられろってかオラァ!!」

「オルガッ!!」


 下あごを砕く勢いで殴なれたジャックは、とてつもない勢いで空中を回転し、地面へと叩きつけられた。

 それではシルフィの怒りはおさまらず、そのままジャックに馬乗りとなり、首元を掴みかかる。


「ねぇ、ちゃんと考えてる?私の死亡フラグを積み上げよう、て気しか感じないんだけど」

「大丈夫だ、しっかり考えている、成功した祝いは、パインサラダでいいか?」

「それも死亡フラグだろうが!しかもメッチャ古い!」

「スカル!」


 完全にブチギレたシルフィは、ジャックの鼻先にストレートを決め、後頭部を床に叩きつけた。


 その後、二人はカフェのマスターに、こってり怒られ、床に応急処置を施し、再度席に着いた。


「もう、ジャックのせいで怒られちゃったじゃん」

「いや、破壊行動したの、全部お前だろ」

「アンタが変な事言わなければ何もせずにすんだわ、毒親」

「へいへい」


 後頭部をボリボリかきながら、ジャックはパフェを完食。

 ウインナーコーヒーを追加で注文し、バックパックから取り出した薄い本の黙読を始める。

 内容は、シルフィから見て、かなりキツい物だが、もう面倒はゴメンなので、グッとこらえた。

 湧きたつ感情を抑えるべく、キャラメルマキアートふくみ、恋愛相談の続きを始める。


「で、結局の所、私どうすればいいの?(てか、娘の前で母子百合物読むなよ)」

「うるせぇな、美少女姉妹五人、しかも全員から好かれるハーレムに、何の不満が有る?見ようによっちゃぁ、五等〇〇花嫁みたいだぜ」

「現状考えるとこっちが五等分にされかねないわ!!」


 話が脱線したので、二人は先ほどまでの事は忘れ、路線を戻しだす。

 とにかく、シルフィとしては、周りの人たちから、五股をかけている、と言う汚名を返上したいというのが有る。

 ジャックとしては、シルフィがしっかりケジメを付ける分では、何股かけようが、別に気にはしない。

 とは言え、シルフィはリリィ一筋、他の姉妹からも、好意を向けられているのは、最近ようやくわかってきている。

 そこが問題だ。


「……とにかく、どうしたら、他の四人が傷付く事なく、リリィとだけ付き合えるかが問題だよ」

「無理だな」

「リリィ並の即答!」


 薄い本のページを進めながら、ジャックはシルフィにキツイ一言を放った。

 そもそも、好かれている時点で、四人を傷つけないなんて、まず無理。

 相当うまくやったとしても、何かしらの傷ができる。

 簡単に好感度を下げようなんて、そんなうまい話は無い。


「良いか、ハーレムってのは、好かれた全員を愛せる度量、しっかりお楽しめる体力がいる、それが無いなら、正妻だけを選んで、他のメンバーをフッて、地獄のフチに叩きこむ覚悟が必要なんだよ」

「何その持論!?もっと夢見させろや!!」

「そもそも、お前が考え無しに、全員口説き落とすからこんな事になるんだよ」

「口説いてない!皆に元気になって、暗い気持ちとか、そう言うのから解放されてほしかったの!それだけ私にとってあの子達が大切なの!」

「それを世間一般では口説いてるって言うの、落ち込んでる所に、光を当てれば、誰だってその光に寄り付くものなの」

「う」


 ジャックのお説教に、シルフィはすっかり委縮してしまう。

 リリィやカルミア、彼女達の事を口説いた覚えは無い。

 しかし、ジャックの言う通り、暗闇でうずくまっている所を見て、どうしても助けたかった。

 リリィのおかげで、ずっと居た暗闇の中から抜け出せた。

 でも、リリィ達アンドロイドも、同じように暗い場所に捕らわれていると知り、せめて一筋でも光を与えたかった。


「……あれ?」

「どうした?」


 色々と考えていたら、シルフィはとある事を思い出す。

 リリィは、かなり長い期間一緒にいて、いつの間にか相思相愛になっていた。

 その後で、カルミア、デュラウス、イベリスらと出会い、紆余曲折ありながら、ジャックの言う通り、口説いたかもしれない。

 しかし、一人だけ覚えがない。


「私、ヘリアンさんだけ、口説いてない」

「え?いや、そんな事」


 そう言いながら、ジャックは懐からスマホを取りだし、スイスイと操作を行う。


「え、ちょ、何してんの?」

「アイツの初登場回から、今回まで読み返してる……あ、マジだ、アイツだけ口説かれてねぇ」

「何そのチートツール!」

「大丈夫だ、次の回にはこんな物の存在忘れてる」


 それはそれで置いておき、ジャックはスマホをしまい、シルフィがヘリアンだけ口説いていない事を思い出す。

 戦争中も、ヘリアンが関わっていたのは、ジャックの方であり、あまりシルフィとは関わっていなかった。

 しかし、ヘリアンもシルフィに好意を寄せている事に変わりは無い。


「どうやら、口説く口説かない以前に、お前はアンドロイドに好かれやすいみたいだな」

「そんな他人事みたいに」

「それに、お前もお前で幸せなんだろ?なんか以前より少しふっくらしてるし」

「ッ」

「(……やべ、流石のエルフでも、これは地雷か)」


 盲目になってしまい、あまり動けなかった事も加味しても、シルフィの身体には、ちょっと肉が付いている。

 と言っても、本当に誤差の範囲、裸体をさらそうが、下腹部等に触れない限り、分からない位だ。

 その事を指摘した途端、シルフィはカチリと硬直した後、プルプルし始め、ホホから耳にかけて、顔を真っ赤に染め上げてしまう。


「……すぎるの」

「え?」

「便利なうえに、快適すぎるの!アンタ等の生活!」

「何それ、逆切れ?」

「ちげぇよ!オメェらも、ちょっとは私の森での生活してみろよ!多分一週間持たないよ!」

「何?そんな酷いの?」


 シルフィは、自身の体がぽっちゃりしだしたのは、ここでの生活のせいだと言い出す。

 とはいえ、実際ここでの生活は、里での生活よりもはるかに快適である。

 訓練以外は、当たりの良い人も多く、エアコン、車、温かい風呂やシャワーといった、文明の利器。

 そして何より、しっかり三食出て来る温かい食事や、スナック菓子等。

 里での生活に比べれば、天と地ほどの差がある。


「夏なんて、バカみたいに暑くて、汗で溺れそうになるし、夜は虫と虫型の魔物と戦争だよ、寝苦しいし、虫の音とかクソうるさいし」

「あ~、なるほど、田舎の人しかわからない系の悩みてきな?」

「ま、夏は良いよ、冬はとにかく酷い、毎日毎日ひもじくて……私の家族、地味に村八分的な目に遭ってたから、保存食とかなんて、盗まれてすぐに無くなっちゃうし、場合によってはゴブリンとかの骨しゃぶって、飢えをしのいだり……そうだ、ルシーラちゃんも出て行って、お父さんも死んじゃった後は、狩りが上手くいかなくなくて、その辺に居た蜘蛛とかネズミ食べてたなぁ」


 虚ろの目を浮かべるシルフィは、里での生活を思い出す。

 夏は虫達と、縄張り争いじみた事を行っていた。

 それはそれで、食料の確保にもなるので、別に良いが、問題は冬とジェニーの死後。

 嫌われ者一家だった事も有って、食料を盗まれても、咎める者は居なかった。

 魔物達も、冬は身を潜めており、ゴブリン一匹見つけるのも大変である。

 おかげで、冬はとにかく空腹感に襲われる日々を送っていた。

 当時は普通の弓矢しか使えなかったので、狩りはろくに成功せず、見つけたネズミやカエル何かを食べていた。


「……すみません、この子にモカチョコパフェ、大盛りお願いします」

「かしこまりました」

「いや、同情しなくて良いから!」

「あの、こちら来週から出そうと思っている、厚切りハニーバタートーストです、ご試食どうぞ」

「あ、いや、そういうの良いので」

「お待たせしました、当カフェ特性、デラックスランチプレートでございます」

「だから大丈夫だって!」


 そんなスラム街での生活じみた事を聞いてしまい、同情したジャックは、パフェを注文。

 たまたま聞いていたカフェの店員たちも、憐れむかのように、三センチ位の厚さに斬られたトーストを置いてくる。

 同じように、聞いていたマスターも、ハンバーグやナポリタン等、人気のメニューをマシマシで乗せられた大皿を持ってきてしまう。


「今はあなた達のおかげで幸せだから!今まで不幸だった分のツケが、今回って来てる感じなの!幸せ過ぎて、もう感謝してもしきれないの!!」


 シルフィの言葉に、この場に居るほとんどが、キュンとしていた。


「そう言う所だぞ、シルフィ」



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