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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
201/343

機械少女の病みごころ 中編

 シルフィは、軍紀である時間に起床し、ルーティーンをこなした後で、仕事を始めていた。

 主に基地の中の清掃や、炊事、補給が、シルフィの仕事だ。

 大抵の事は、作戦中や、空軍基地の方で行っていたので、ある程度はキビキビ動けている。

 そして、今のシルフィの仕事は、補給である。


「えっと、確かこの辺りの平原……」


 シルフィは、懐かしい場所にでていた。

 デュラウス達と激戦を繰り広げ、アキレア達が最初に猛威を振るった場所。

 今はこの広さを利用して、長距離射撃武器の実験場として利用されている。

 流れ弾も、半径一キロにわたる広範囲に、巨大なエーテル・フィールドを展開して防止している。


「懐かしいなぁ」


 ここまで、シルフィは走って来た。

 車やトラックの免許を持っている訳ではないので、当然の事ではある。

 と言っても、最近運動不足気味だったので、車でも片道一時間前後はかかる距離を走破した。

 感傷に浸りながら、アイテムボックスを下げて、目的地へと急ぐ。


「……それにしても、あの子達の苦手意識、まだ消えないんだ」


 仕方ないと言えば、仕方のない事を、シルフィは思い出す。

 何しろ、この先の実験場に居るのは、ヘリアンとイベリスの二人。

 二人は、この一週間程ずっとこの場所で狙撃の訓練をしている。

 なので、補給の弾薬や、武器や部品の代えを、こうして補給する必要があった。

 シルフィの目が治るまでの間、配達は補給班の仕事だったが、復帰してすぐに、この仕事を任された。

 どう考えても、二人に苦手意識が有るから、としか思えなかった。


「……でも、私があの人達の立場だったら、そうだったのかな」


 シルフィにとって、アンドロイドのイメージは、リリィとの関りが一番前に出ている。

 ストレンジャーズの面々の大半は、アンドロイドに寛容な傾向がある。

 だが、彼らとアリサシリーズは、長年戦いを繰り広げて来た者同士。

 しかも、つい最近まで殺し合っていたのだから、そう簡単に恐怖がぬぐえる訳でもない。

 実際、シルフィも、彼らが使用している量産型のアンドロイドに殺されかけた身。

 見かけると、今でもドキッ、としてしまう。


「……あ、あれかな?」


 色々と考えていると、シルフィの耳に、重々しい砲撃音が響いてくる。

 ヘリアンではなく、イベリスが狙撃の練習をしているので、納得してしまう程の音だ。

 まるで、砲撃による衝撃で、骨や内蔵が震えてしまうようである。


「……また外れですわ」

「もう少し、風をよんで、砲門グイって、動かして、ガチリって、身体を固定して、ドーン!」

「……わかり辛いですわ」

「二人共~、補給持ってきたよ~」


 ヘリアンの抽象的すぎる言い方に、イベリスが困惑している中で、シルフィは三か月振りに、二人と顔を合わせる。

 ヘリアンは以前とあまり変わっていないが、イベリスは少し変わっている。

 と言っても、ヘリアンが特別に作ったヘルメットを被っているだけ。

 ヘリアンの右目のように、周辺の情報を把握し、目標への狙いを修正する物だ。


「あ、シルフィ、見える様になったんだ、良かった(メガネ、キュン)」

「……心配、かけないでいただけます?」


 シルフィとの再会に、笑みを浮かべるヘリアンに対し、イベリスだけは、バイザーをチラリと上げただけで、すぐに顔を隠してしまう。

 そして、練習用に使用している砲の安全装置を入れ、補給品を受け取ろうとする。

 その時に、シルフィは訓練の成果をたずねだす。


「どう?調子は」

「なんとも、言えない、リリィと、カルミアよりは、上手くなって来た、けど、一キロ以上は、成功率が、低い」

「そうなんだ」

「バカスカ当てる貴女方が異常なだけですわ、それに、これでも良くなった方なのですよ」


 ヘリアンの言葉を聞いたイベリスは、目を細める。

 実際、一キロ以上先の狙撃はかなり難しい。

 風向きや空気抵抗等、様々な要因で変化する弾道、それらを計算したうえで、狙撃を行う。

 ヘリアンは、元々その方向での計算を得意としており、シルフィはほとんど勘で成し遂げている。

 それなのに、シルフィとヘリアンは、どんな直距離でも、百発百中と言える腕前を持っている。


「……そう言えば、的は?それっぽいの無いけど」


 イベリスが砲弾の補給を行っている横で、シルフィは的を探すが、それらしいものが見つからない事に気付く。


「あ、イベリスの使う武器、威力強すぎるから、いちいち、変えないように、ドローン使ってる」

「へ~……あ、本当に何か有る」


 ヘリアンは、射撃場のはるか遠くを指さしながら、シルフィの質問に答えた。

 指の先を見るシルフィは、四つ程何か浮いている物を目にする。

 それは、ヘリアンが制作したドローンであり、四方に配置し、通過した砲弾の弾道を計測する機能を設けている。


「確かに、あれだけ音が大きいんだから、威力も有るよね、弓みたいに、回収すればまた使える、何てことも無いし」

「そう、よく、わかってる」

「使ってるのは、レールガン?」

「そう、実弾を使うなら、火薬式よりも、電磁誘導の方が、今は有効」

「エーテルの方は?使わないの?」

「エーテル式は、実弾より、空気抵抗が、大きい、私位にならないと、当てるのが、難しい、だから、今はこっちで、感覚を掴んでる所」


 シルフィと話すヘリアンは、何処か嬉しそうで、声にもメリハリが出ている。

 そんな細かい部分に気付かず、シルフィはイベリスの使う武器を観察していく。

 イベリスの使う武器は、ヘリアンがエーラと一緒に制作した特別製。

 砲身は、使用者のイベリスより長く、重量もかなりある。

 だが、大きさと、アリサシリーズの出力が合わさり、威力や射程と言った部分は、戦車砲以上だ。


「……あの、受領書を」

「あ、ゴメンゴメン」


 話の弾む二人に、多少のもうし訳なさと、歯がゆさを覚えながら、イベリスは受領書を要求した。

 彼女の言葉に、シルフィは端末を取りだし、配達の完了のサインを頂く。

 しっかりと内容を確認したうえで、シルフィは端末をしまった。


「はい、ご苦労様ですわ」

「うん、確かに……あ、数とか大丈夫だった?最近、そういうの厳しいみたいで」

「そうでしょう、最近、糧食班が物資を大量に誤発注したとお聞きいたしました」


 一週間程前の事。

 糧食班が、食材の一部を大量に誤発注したせいで、こういった物資関連の仕事が、厳しくなっている。

 そう言った事は置いておき、イベリスは話す片手間に、砲弾の補給を終えた。


「さて、続きを始めましょう」


 弾倉を取りかえたイベリスは、レールガンを軽々と持ち上げる。

 個人携行用とは思えないサイズだというのに、まるで軽い荷物を持つようだった。

 そんな彼女の事を見ながら、シルフィは少しも仕分け無さそうに、イベリスに話しかける。


「あ、イベリスさん、一ついい?」

「どうなさいました?」

「……ありがとう、そして、ごめんなさい」

「ちょ……」


 練習を妨げた事に、少し罪悪感を抱きながら、シルフィは頭を下げた。

 いきなり頭を下げたシルフィを見て、イベリスは思わず、レールガンを落としそうになってしまった。

 ギリギリで受け止めながら、イベリスはシルフィが頭を下げた理由をさっする。


「ま、まさか、まだあの事を……」


 目が見えなくなってすぐの頃。

 シルフィは、イベリスに深々と頭を下げた事が有った。

 リリィ達アンドロイドを認めさせる、その約束を守れる保証が、一気に無くなってしまったからである。


「うん、でも、貴女の言う通りだからさ、せめて、私も、ジャック達の手伝いができたらなって」

「……貴女は、もう」


 頭を上げたシルフィは、笑みを浮かべる。

 そんな彼女を見て、イベリスは強い恥ずかしさを覚えながら、ヘルメットからはみ出る髪の毛を弄る。

 そして、その羞恥を隠すように、以前言った言葉を再度言い放つ。


「い、以前申し上げましたが、貴女一人ができる事なんて、たかが知れておりますわ、だから、貴女がそれほど気負う事は、無いのですよ」

「でも、私ができる事は、やらないとね」


 そもそも、シルフィ一人でできる事なんて、たかが知れている。

 その事を承知だったイベリスにとって、謝られた事は、正直頭にくる事だった。

 一人で何とかしようとしたところで、世界はみじんも変わりはしない。

 何の発言権も、信頼も、知識も無い彼女が、すぐに何かを変えるなんて、無理な話なのだ。

 とは言え、シルフィもそんな事で引き下がるような覚悟で、ここまで来てはいない。


「この前も、ジャックに、頼んで、向こうの教科書とか、参考書とか、貰っていたし、ほんとに、頑張ってる」

「あ、あはは(本当はチンプンカンプンで、ほとんど頭に入って無いんだけどね)」


 ヘリアンの言う通り、シルフィはジャックに頼み込んで、向こうの世界の教科書などを入手していた。

 一応、向こうの文字等は読めるのだが、内容が内容なので、シルフィでは理解しきれない部分が多かった。


「さ、さて、それじゃ、そろそろ戻らないと、頑張ってね、二人共、私も頑張るから」

「うん、そっちも」

「……では、ごきげんよう」


 シルフィが去って行くと同時に、イベリスはすぐに狙撃体勢に戻る。

 だが、なぜだか、照準が安定せず、先ほど以上にブレてしまう。

 その理由を、ヘリアンはすぐに見抜いた。


「……好きの一言、言えば良かった、のに」

「お、お黙りなさい!わ、わたくしは、あの子の事なんて、ちっとも、好きでなくってよ!」

「……今時珍しい」

「ッ……」


 恐らく、人間の身体であったら、顔が真っ赤になっていただろうイベリスは、レールガンを乱射する。

 もう、狙撃の練習という本文を忘れ、恥ずかしさをまぎらわすようだった。


 ――――――


 シルフィが基地へと戻ろうとしている時。

 リリィは空中での訓練を名目に、シルフィを監視していた。


「……シルフィ、シルフィ……」


 彼女の名を何度も呼びながら、訓練相手であるアキレア三機をいたぶる。

 双方、新しいエーテル・ギアの性能試験中であり、それを良い事に、リリィはアキレア達でストレスを発散していた。

 二機のアキレアを、圧倒的な力でねじ伏せると、最後の一機を、地面へ叩きつけ、何度も踏みつけにし始める。


「クソクソクソクソクソクソ」


 完全に乙女の目を向けていたヘリアン、古典的なツンデレのイベリス。

 あの二人を見ているだけで、虫唾が走ってしまう。

 彼女達の顔を、アキレアの顔面に投影しながら、地面へ叩きつける様に踏み続ける。


「私のだ、私のだ、私のだ、私だけの、私一人の、シルフィなんだ」

『リリィ!いい加減にしろ!ストップだ!』

「チッ(面倒くさいシステムだ)」


 だが、その行動は、ネロや他の訓練兵たちにも見られていた。

 見かねたネロは、限定的なリリィへの命令権限を利用し、静止させる。

 セーフティの働いたリリィは、すぐに攻撃を中止し、アキレアから離れる。

 この事に、リリィは舌を鳴らし、遠くで恐ろしい物を見るかのような人間達を睨む。


「(……サル共が)」


 ガーベラをしまったリリィは、故障したアキレアに背を向け、エーテル・ギアのメンテをはじめる。

 今の彼女に渦巻く感情は、嫉妬と怒り。

 シルフィは、他の女たちに目を付けられており、リリィは好きにシルフィと会えない。

 リリィの視点から見て、今の自分は、自由にはなれていないと思ってしまう。

 カルドやヘンリー、彼らの支配を逃れてなお、人間達の命令には、服従しなければならない。

 どこまで行っても、解放される事なんて無かった。


「……畜生」


 一言漏らしながら、リリィはエーテル・ギアを整備していく。

 背後で、アキレアが回収される事を無視しながら。


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