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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
200/343

機械少女の病みごころ 前編

 シルフィがカルミアから、メガネを受け取って数日。

 リリィは、余計に気を荒くしていた。

 目が見えるようになってから、シルフィは少佐から雑務の仕事を頂き、今も汗を流している。

 だが、リリィはただ一人、エーテル・ギアの整備を行っていた。

 カルドの自爆で全壊してしまったので、バルチャーをベースに、アスセナを改良した物を、エーラと共に制作した。

 因みに、ガーベラの方は、刀身だけの状態で発見され、修理も完了している。


「……シルフィ、シルフィ、あんなに、幸せだったのに……」


 ストレス発散ついでに、アスセナを整備しつつ、シルフィの姿を思い浮かべる。

 彼女の名を何度もつぶやきながら、同じ作業工程を何度も繰り返し、終わらせようとしない。

 元介護用として、盲目となってしまったシルフィの介護は、正に天職だった。

 シルフィとの冒険、戦い、これらをしのぐ幸せを覚えた。

 だが、それでも、不快な気持ちになる事は、何度も有った。


「……ヒューリーさん、何故、私以外にも作ったのですか」


 ただでさえ、シルフィが他の電子機器に触れたりみたりするだけで、妬ましいというのに、同型のアンドロイドが、他に四機。

 しかも、シルフィは前の戦いで、その四機を口説き落としてしまった。

 本人に自覚がなくとも、あの四機はシルフィに気がある事は事実。


「妬ましい……ああ、イライラする」


 顔に片手を置きながら、沸き上がる妬みを、気休め程度におさえこむ。

 あの四機の名前や話題が上がるだけで、嫌な気分になっていた。

 しかし、シルフィの頼ることが出来るのは、自分だけだという思い込みが、ブレーキになっていた。

 そのおかげで、今まで大事にはならなかったが、その見積もりは軽率だった。


「あのクソガキ」


 リリィが真っ先に思い浮かべたのは、カルミアの姿。

 幾度となく、魔物の大軍を差し向けるだけでなく、リリィをハッキングし、シルフィに重症を負わせ、何度も殺そうとした。

 そんな彼女が、手のひらを返したように、シルフィに献身している。

 彼女のせいで、シルフィの盲目は回復してしまい、一緒に居られる時間だけでなく、仕事まで失った。


「アイツのせいで、アイツが……」


 仕事や時間失った事で、リリィのトラウマがフラッシュバックする。

 身勝手に扱われ、何度も捨てられ、転職を繰り返し、やがてゴミとして扱われた。

 もうそんな事は無いと思っていた。

 その筈が、こうして似たような憂き目に遭っている。


「う……気持ちが、悪い」


 アンドロイドだというのに、何かが口から吐き出そうな気分になってしまう。

 シルフィが他の姉妹の方へ行くと考えただけで、システムに異常が生じ、このような症状が、何度か引きおこる。

 床にひざを付き、両手で口を押えながら、セリフをこぼす。


「嫌だ、もう、捨てられたく、ない」


 頭の中をかき回される気分になりながらも、シルフィのとの思い出が過ぎる。

 そして、その中で、つい最近、シルフィに言われた言葉を思い出す。


「シルフィ、言って、くれましたよね?何処にも行かないでって、一緒に、居てって」


 ――――――


 リリィが苦しんでいる頃。

 少佐とラベルクは、執務室にて、改めて顔を合わせていた。


「最近、君の妹達が騒がしいな」

「申し訳ございません、どうも、色恋沙汰にやっきになっているようで」


 シルフィの目が見えるようになってから、リリィ以外にも、色々とアタックする面々も増えてきていた。

 そのせいで、スタッフから色々と苦情が来ている。

 一応、ジャックとシルフィも、色々と押さえつけはしているようだが、特に長女が厄介である。

 整備班からも、暗い、気味が悪い、近寄りたくない等、とにかく嫌な話が絶えない。


「とりあえず、君の妹に関しては、ジャック達に任せるとして、あのドラゴン……アーセナル、だったか?」

「はい、他にも、様々なドラゴンタイプの魔物は、全て回収いたしました」


 話を戻した少佐が言い出したのは、カルミアの制作した魔物達。

 通常の魔物は、ヘンリーの用意した生物兵器、という事で報告してある。

 だが、ドラゴンタイプは、その危険せいから、ラベルクの提案により、安全な場所へと内密に移送された。

 特に、アーセナルの右腕となっていた砲台は、何に使われるか分かった物ではないので、絶対に渡したくはない。

 先の戦いで、砲台は大破したが、技術的に重要な部分は、いくらか残っていので、一つ残らず回収した。

 移送先は、ヒューリーが水面下で用意していた施設らしく、ラベルクしか知らない場所に設置されている。

 ラベルクも、レベルセブンにアクセスできるようになって、初めて知った場所だ。


「しかし、回収された場所と言うのは、私にも秘密なのか?」

「はい、申し訳ございませんが、緊急事態以外では、口外しないようにプログラムされておりまして」

「……ジャックは知っているのか?」

「……はい」

「そうか」


 ――――――


 その頃、研究室にて。

 カルミアとエーラは顔を合わせていた。


「そうか、渡せたのか」

「へへ~、うん、ジャックのおかげでぇ」


 カルミアは、椅子の上でホワホワとした感じになりながら、エーラに成功を報告した。

 しかし、成功が余程嬉しかったのか、パソコンの画面が、途中で止まってしまっている。

 喜ぶのは一向に構わないが、今は仕事に専念してほしい所だ。


「……それで、動作の方はどうだった?」

「うへへ~」

「……問題なかったんだな」


 ニヤニヤと口を歪ませるカルミアは、もはやエーラの言葉さえ届かなくなっていた。

 シルフィの弾けるような笑顔、それを見られたおかげで、カルミアは桃源郷をさ迷い続けている。

 とは言え、折角作ったメガネの動作が正常である事がわかり、エーラは安堵する。


「……(シルフィ、目はとりあえず大丈夫だが、次の問題は、こいつだな)」


 だが、問題の全てが解決した訳では無い。

 エーラが真剣に見つめるパソコンの画面には、脳のレントゲン写真等、様々な資料が映し出されている。

 映されている資料は、全てシルフィに関する物。

 空軍基地や、リリィのスキャン、様々な方法で得られた物。

 ずっと解析が止まっていたが、カルミアが加わってくれたおかげで、流れが変わった。


「(カルミアのデータベースに有った、クラウスの研究データ、そこに彼女の脳を治す手がかりが有る事は確実だな)」


 随分前に、ジャックの口から進言されていた事がある。

 シルフィの脳には、何らかの障害、と言うより、魔法による細工がほどこされているとの事だった。

 その後の検査で、細工自体は判明したが、治療の方法は何も解っていない。


「(解っている事は、シルフィの脳に使用されている魔法の属性は、彼女と同じ天、そして、天は総合的に強力な方に、魔法の優先権を持てる特性を持っている、そう考えると……)」


 シルフィの脳の、記憶を司る部分、魔力制御するための部分。

 この二つには、それぞれ強さの異なる魔法がかけられている。

 シルフィの能力が強くなるにつれて、記憶や能力を縛りとめる鎖が解ける様になっていたのだ。


「(あの子にかけられているのは、力を強める度に、記憶や力の制御を取り戻せるように成っているのか……だが、力を取り戻せば、彼女のトラウマと呼べる物まで、呼び起こされる、これは、まさか)」


 現段階で判明している事をまとめたエーラは、一つの仮説を創り上げた。

 その仮説が正しかった所で、何か進展が有るのか解らないが、エーラの記憶に、該当する物が有る。

 とある人物のクセ、とでも言える特徴。

 力を手に入れる、取り戻す、それらを行うには、代償が必要になる。

 メリットとデメリットの二つを、共存させているかのような仕組み。


「(……アイツ、いや、そんな筈は無い、だが、これは……)」


 力を与えるのであれば解るが、力を失う為に、記憶を支払う。

 これではつじつまが合わない。

 逆に、トラウマと言える苦い過去を忘れる為に、力も失った。

 これであれば解る。

 過去に、そのような呪いか何かをかけられていたとすれば、彼女の急激なパワーアップも、頷けてしまう。


「(けど、ジャックが行った、瀕死からの復活、一生に一度使える、彼女達のパワーアップ方法から、彼女は、それ以上のパワーアップを遂げてやがる)」


 心臓を潰され、瀕死状態から自力で回復した場合、ジャック達は一度だけ力を増す事が出来る。

 だが、シルフィは短期間で、天による悪鬼羅刹を長時間行える程に、成長を遂げていた。

 期間から考えても、不自然な成長速度であり、復活によるパワーアップの影響とは、考えられない。


「(……だが、アイツは……とりあえず、心の隅にでもとどめておくか)」

「うへ~、うへへ~」

「……おい、いい加減戻って来い」

「うへ!……な、何だっけ?」

「メガネの動作、問題無かったか?」

「……まぁね……でも、気づくのに時間がかかったよ」


 何時までもホワンホワンしているカルミアを叩き起こし、エーラは改めてメガネについて尋ねた。

 メガネを制作するまでの苦労を思い出しながら、カルミアは質問に答えた。

 なにしろ、エーラ達の世界で普及している盲目の治療を行っても、シルフィの目は治らなかったのだ。

 相当重度でも、メガネをかければ、何とか見える位には回復できる筈だった。

 それでも、シルフィは回復せず、原因は解らないままだったが、分かってみれば、普通の治療が通じなかったのも頷けてしまう。


「ああ、あの子は、目が見えなかった訳じゃなく、見え過ぎていたんだからな」

「そうそう、見え過ぎるから見えないなんて、普通思わないもんね」


 その原因を突き止めるのに、大分時間がかかった。

 何しろ、見えなかったのではなく、見え過ぎていたのだ。

 天によって、過剰に強化されたシルフィの目は、異常なほどに発達してしまったのが原因である。

 おかげで、色々と遠回りにしてしまった。


「彼女がエーテルを通して見える全て、上下左右、壁の向こう、千万里先、それだけじゃない、数秒前、数秒先まで、その目に映っている」

「ああ、アイツが認識できる全て、そのせいで、脳は処理できずに、視界が消えたように見えていた」


 原因がわかっても、彼女の認識能力は、カルミア達の想像を超えていた。

 距離や透視能力だけならばまだしも、別の時間軸まで見えていた。

 おかげで、制作に時間がかかってしまった。

 リリィの妨害があったせいで、直接的な検査が出来ず、マザーを使い、何度も検証をおこない、ようやく完成したのだ。

 他にも、シルフィの認識できる全てを処理する装置を、メガネのサイズまで縮小させるのに、大分苦戦してしまった。


「……いつかは、アイツが自力で、その力を制御できるようになれば、あれ無しでも」

「けど、そいつは、アイツ自身の力じゃないとな」

「ああ、そうだね」


 話を終えた二人は、研究を続ける。

 今後の戦いに向けて。



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