糸を使うやつは大体強い 後編
相変わらず戦闘描写が雑です。
申し訳ございません
丸太を投げつけられたアリサは、すぐに丸太をどけると、スーツについた塵を叩きながら、再びアラクネの前にたたずみ、ブレードを構える。
「やれやれ、会話の途中で丸太を投げるとは、随分乱暴な方ですね」
「自業自得よ」
「安心してください、ただの冗談です」
「安心できない冗談だから止めたんでしょうが!」
「まぁ大方、連邦の技術者にそそのかされて、蜘蛛の入り込んだことに気付かずに空間転移装置にぶち込まれて、遺伝子レベルでその蜘蛛と融合したといった所でしょうか?」
「……あんた、仲間のエルフから其処まで聞いたの?」
「いえ、空間転移装置の辺りから説明があやふやでして、要約するとこんな感じかと」
「本当に、有能ね」
そう言ったアラクネは、再び糸を展開し、シルフィの時と同様の技で、アリサを迎え撃とうとする。
しかし、アリサは少し疑問に思う節があり、試しに質問してみる。
「……ところで、貴女どうやってここに来たのですか?」
アリサの疑問は、何故彼女がこの世界に居るのか、という事だ。
というのも、二十年前の技術では、今アリサたちの居る世界へ赴くことは不可能だ。
先ほどの話に出てきた空間転移装置も、装置と装置の間を行き来するだけの代物、遥か数万光年以上のこの世界へは行くことができない。
この質問に対し、糸の操作を止めたアラクネは、青筋を浮かべて、その経緯を説明し始める。
「この体に成って、一度精密検査しようってことになって、専用の設備が有る別の研究所に行くために、一度地下駐車場に行ったら……」
「フム、それで?」
体をプルプルと震わせながら、その後何が有ったのか、言い放つ。
「変なトラックにはねられて、気づいたらこの山に居たの!」
「何で貴女普通にテンプレな方法で来てるんですか!?」
「悪い!?というかそもそも、悪いのはあのトラックでしょ!おかげで気に入ってた刑事ドラマコンプリートし損ねたし!百合物の新刊買い損ねたのよ!!」
「それは御愁傷さまで!」
アリサのツッコミが炸裂すると、しばらくの沈黙が訪れ、二人はにらみあっている中で、激痛に苛まれながらも、シルフィは二人の間にできた空間に圧迫される。
草むらがそよ風で揺られ、木々の小枝がこすれ合う音だけが、三人の居る空間で奏でられる。
アラクネは再び糸を周囲に展開し、アリサは手持ちのブレードを構え、既に臨戦態勢がとられている様子を眺める。
たったそれだけのことで、息が詰まっていた。
「(アリサの戦い、今まではすぐに終わっていたけど、今回は……)」
――長くなりそうだ。
二人の緊張状態だけで、その事を物語っている。
唾をのむ音さえ、大きく聞こえ、鼻息さえも騒音に思える。
シルフィの頬を伝った汗が、地面に落ちた瞬間、二人は動きだす。
アラクネの駆る糸は、まるで生きているような動きをし、アリサへと迫って行く。
彼女の糸は、やはり常人には全く目視する事の出来ない程、細く、早い物。
草木はもちろん、宙に舞う木の葉さえも簡単に切り裂く。
しかし、シルフィの目には見える、アラクネの操る糸が。
操られる糸は、アリサの首筋、太もも、腕、顔面、あらゆる場所に差し掛かる。
もしも、全ての糸がクリーンヒットすれば、ダルマ状態になるのは必須。
そんな予想をしていたシルフィは目にした。
「え?」
シルフィがあれだけ苦戦した糸を、一瞬にして切り裂き、時を同じくして、アラクネの間合いに入り込む、アリサの姿を。
傍から見ても、アラクネから見ても、まるでアリサが瞬間移動したように見える、そんな高速移動だった。
「ッ!?」
あまりにも早い一瞬であっても、アラクネは反応した。
背中の四本の腕と、人間の腕を用いて、ブレードによる一撃を防ぎ止めるも、その衝撃は凄まじく、後方へと吹き飛ばされてしまった。
「(なんて力なの!?)」
必死に踏ん張り、煙の立つ背の足の一本を目にしながら、アリサの性能に驚愕した。
驚いている場合ではなく、既に目の前には、ブレードを構えるアリサの姿が有った。
シルフィなんて目ではない程、早く重い一撃の数々がアラクネへと繰り出される。
ナイト以上の強度を持つ背の足は、傾斜を付けていなすことによって、ダメージを最低限に抑えても、長く続かなかった。
「なっ!?」
アラクネの計算では、重機銃や掘削機でさえも破壊することのできない、ずっとそう思っていた背の足は、アリサの細いブレードによって、切り裂かれてしまう。
無防備に成ったところに、アリサの一撃が加えられた瞬間、アラクネは全身に力を入れ、のしかかった負荷を受け止めた。
刃が差し掛かる寸前、アラクネは自らが生成する事の出来る、最も強靭な糸を作り出して束ね、アリサの一撃を防ぎ止めた。
「なかなかの糸ですね、主力戦車や重装モデルのエーテル・アームズさえも両断できるのですが」
「ええ、あれから二十年、どれほど強靭な装甲材が開発されたか知らないけど、この糸だけは、簡単には破らせないわ!!」
喉が裂けんばかりに叫ぶと、再び自らの周囲に糸を展開し、アリサの体へと放つと、命中した箇所から鮮血が吹き出る。
アリサの着用するスーツも、シルフィと同等の強度を誇り、その下には、簡単には切断できない人工皮膚までもが存在し、下部の人工筋肉を保護している。
出血したという事は、人工筋肉に流れる人工血液が外に漏れたという事だ。
先ほどまで使われた糸とは、比較に成らない代物だ。
「……」
頬に流れる血液を手の平で拭い、それを舐めとった。
その時には既に傷は完治し、まるで何事も無かったように振舞っている。
「(人工血液による急速再生、ここまで技術が進歩していたなんて)」
「この程度、簡単に治せないようでは、私の目標を倒すどころか、出会う事もできませんから」
「(見透かされたか)なるほど、やはり貴女は……でも、この攻防一体の結界、破れるかしら!?」
「さぁ、どうでしょうかね!」
操られる糸たちは、まるですべてを切り裂くような勢いで繰り出される。
そんな攻撃を、アリサは常人離れした動きで回避し、ブレードで糸を弾く。
今回の糸は、アラクネの使う事の出来る最強の糸、必要最低限の出力しか出せていない高周波ブレードでは、溶断することはできなかった。
糸とブレードが接触するたびに、火花が散り、金属同士がぶつかり合った音が、森中に響きわたる。
搭載されている各種センサーをフル活用し、今出す事の出来る、最高の機動性を発揮し、全方位から来る糸を回避する。
「射撃攻撃による敵勢力の鎮圧を開始」
レッグホルスターから、エーテル・ガンを取り出したアリサは、瞬時にアラクネへと照準を合わせ、発砲を開始する。
蒼白い光弾は、細長い糸では防ぐことはできず、まっすぐアラクネへと迫りくる。
「無駄な事よ!」
すぐさま糸を一枚の布のように織り込んだアラクネは、射出された光弾を受け止める。
アリサの一撃さえも受け止める強度を誇る彼女の糸、やはりハンドガンでは突破することはできなかった。
「……次のプランを実行、対象へと急接近する」
空中で糸を弾き、地面に着地すると、先ほどと同様に、一瞬にしてアラクネへと接近しようとしたが、それは叶わなかった。
「させない!」
アラクネは両手をアリサへとかざすと、手首から粘性を持った糸が放出し、アリサの足をからめとる。
バランスを崩したアリサの脚部に、アラクネの糸が巻き付き、アリサを一方的に操作し始めた。
「(硬いな、流石アンドロイド)」
巧みに操られる糸によって、切り株や地面に叩きつけられ続けるが、糸から伝わってくる感触で、アリサには一切ダメージが入っていないのが解ってしまう。
本来アンドロイドを破壊するのであれば、対戦車系の兵器が必要になる。
近年のアンドロイドは、機動性や生産性を上げるべく、装甲材を比較的安価な物を採用する場合があるが、ワンオフ機であるアリサは、従来品以上の強度を持っている。
やはり、アリサを倒すには、糸による斬殺しかないと判断し、操り人形状態のアリサの両腕に糸を巻き付け、切断する。
「腕部パーツ喪失、戦闘能力大幅に低下」
「次は足を頂くわ!」
巻き付けられた糸を引っ張り、アリサの両脚を切断した。
四肢を失ったアリサの首に、糸を巻き付け、ミノムシのような状態にしたアラクネは、勝利を確信し、思わず笑みをこぼしてしまう。
連邦の研究員たちにとって、アリサと言う存在は、二十年前から目の上のこぶともいえる存在だ。
戦闘能力はもちろん、搭載されているAIの完成度、義体の精巧さ、どれをとっても勝てる物が無いような代物。
どんな任務さえもこなすように訓練される連邦軍人たち、そんな彼らが恐れ、おののくような存在。
そんな存在を、今まさに自らの手で倒そうとしているのだ。
「これで、終わりよ!」
意気揚々と、クビをはねる為に、糸を全力で引っ張る。
胴体と頭部パーツの外れたアンドロイドは、簡単に機能を停止してしまう。
だが、アラクネの思うようには成らなかった。
彼女の目に留まったのは、ピンと張っている糸。
糸はアリサの首を切断できず、未だに彼女の首から伸びていた。
「そんな」
「私の金属骨格は核シェル以上ですよ、そんなものでは切断できません」
予想外の事態に、アラクネは直ぐにプランをBに変更、直接アリサの動力へと狙いをすまし、接近しつつ手を伸ばした。
行動に移した時には、もう手遅れだった。
アリサの肩部に有る突起と、切り落とされた右腕の突起から、紫電が発生し、地面に転がる腕が浮き上がり、両者は合体する。
同時に接近してきたアラクネを殴り飛ばし、残りの四肢を回収し、患部をさするアラクネに視線を向ける。
「ふふ、トラクタービームまで、科学の進歩って恐ろしいわね」
「ええ、それと、もう二次災害とか気にせずに行かせていただきますね」
ブレードを握りなおすと、ブレードに大量のエーテルが注ぎ込まれ、ブレードの刀身の色は、使用されている素材そのものの色から、青白く発光する。
すると、舞い落ちる木の葉が、刀身に触れた瞬間、斬れるのではなく、燃え尽きるという現象が起こった。
その後すぐに首をつっている糸をブレードで切断し、脱出した。
「これくらいしなければ、貴女の糸は斬れそうにありませんから」
「そうね、でも、そんな状態が何時まで持つかしら!?」
再び糸を展開したアラクネに対し、アリサは突撃を仕掛ける。
アラクネには、まだ勝算が有るのも知らずに。




