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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
198/343

小さな恋ごころ 中編


「で、また逃げ出したと」

「……」


 翌日、カフェテリアにて、ジャックとカルミアは、再び顔を合わせていた。

 一応、音でカルミアが逃げ出した事は知っているが、改めて聞かされたジャックは、カルミアを冷めた目で見つめていた。


「たく、グダグダと一話食いつぶして決心固めてこれとは、さきが思いやられる」

「……あ、あのさぁ、や、やっぱり、手伝ってもらっていい?」

「……て、言われてもな」

「いや、問題が多いのはわかるけど、お願い」


 手伝ってほしいと頭を下げるカルミアに、ジャックはカフェラテをすすりながら、考え出す。

 何しろ、シルフィはジャックの娘。

 ここ暫く、シルフィの事が、可愛くて仕方がないジャックとしては、少し長考してしまう。


「ま、今後は近所の付きあいだとか、色々と考えないといけないから、ある程度のコネは必要か」

「コネって、アンタ、アイツに何を望んでんの?」

「そうだな、先ずは、リリィには軍をやめて、普通の真っ当な職に就いてもらいたい」

「……」


 ジャックの発言に、カルミアは目を白くする。

 急に何を言い出すかと思えば、戦闘用のリリィに軍を辞めてもらいたい何て言い出した。

 しかも、現状を考えても、リリィのようなアンドロイドが、真っ当な職に就けるかなんて、無謀もいい所だ。

 そんな事を、クソ真面目に言っているのだから、呆れるなんてレベルではない。


「そもそも、軍なんてロクなもんじゃない、何時死ぬかもわからないし、全然会えないから、寝取られても文句言えねぇしよ!」

「大声で何言ってんだ!!」


 いきなりのとんでも発言に、カルミアは大声を上げる。

 しかも、今のジャックの発言は、他のお客たちも聞いていたが、何時もの事だと、半ば呆れながら聞き流す。

 とは言え、発言が発言なので、引いている事に変わりは無い。

 そんなスタッフらの気持ちなんて、一切考慮していないかのように、ジャックは話を続ける。


「言うだろ普通!大体、寝取られ物なんて、大半が彼氏が構ってくれないだとか、出張だとかがほとんど何だよ!!」

「テメェの感想みたいなもんだろそれ!!」

「とにかく!年収は八百万位で、休暇もしっかり取れて、残業代もしっかりでる、マトモな職に就いてもらわんと、シルフィが幸せになれんだろうが!」

「どんだけ可愛がってんだよ!親バカが!」


 もう、ジャックの親バカぶりが、フルスロットルな事に気付いたカルミアも、現状を忘れて騒ぎだしてしまう。

 しかし、カルミアの、親バカが、と言う言葉に、ジャックはホホを染めてしまう。

 しかも、かなり嬉しそうに、口元がピクついている。


「……」

「おい、何顔染めてんだ、まさか感じてんのか、変態女!」

「……ンホ」

「クソが!!」

「クソが頂きました!!」


 カルミアは忘れていた、ジャックが重度のロリコンだという事を。

 それも、レッドクラウンごしからでも、殴られて喜ぶような異常性癖者だ。

 オマケに、師匠の元で、修行僧同然の生活を数か月強いられていたので、ここ暫くご無沙汰。

 ちょっとした悪口でも、ジャックは喜んでしまう。


「いやぁ、でも……エフ」

「この、クソ女ぁ~」

「あ、その目、ちょ、ア!ヤバい!その目やめて!一旦目逸らして!」

「クソが」

「ありがとうございます!」


 もう、カルミアの冷めた目だけで、喜んでしまうジャックを、カルミアは心から軽蔑する。

 完全に頼み相手間違えたとさえ、思ってしまう。

 周りのスタッフらも、完全に引いてしまっている。

 ジャックの噂で、ロリコンは周知の事実だが、実際に立ち会ったのは初めてだった事も有り、軽蔑の目が向けられてしまう。

 そんなこんな、とりあえずカルミアが目をそらした事で、ジャックは徐々に落ち着きを取り戻しだす。


「はぁ、はぁ、実際ロリに、冷めた目ぇ向けられんのが、こんなに良いとはな」

「クソロリコンが」

「す~、はぁ、それはそれとして、条件付きで良いんなら、手伝ってやらんでもない」

「ッ、急に話戻しやがって、後顔赤くすんな」

「俺としては、娘に友人が増えてくれるって言うんなら、嬉しい事だからな」

「……」


 カフェラテを飲み、完全に落ち着いたジャックは、改めて話を戻す。

 色々と将来の不安はあるが、先ずは今の事が大事だ。

 かつて色々としでかしたアンドロイドでも、今はすっかり大人しい。

 それであれば、友人に成る事を許して良いと思っている。

 カルミアとしても、シルフィと友人になれれば、どんな手でも使う気でいる。


「どうだ?」

「……条件ってのは?」

「……」


 しかし、ジャックは条件を提示せずに、カルミアの前で、ニヤニヤと変な笑みを浮かべる。

 よからぬ事を企んでいるのは明白。

 そして、カルミアはジャックへと、取引の物を提示する。


「あ、アタシの、お腹に、顔うずめて、深呼吸、一分」

「……十分だ」

「ッ、二分」

「九分」

「……三分」

「八分」

「四」

「七」

「……ご、五分」

「さて、仕事に戻るとするか」

「ちょ!」


 古臭い手に乗り、徐々に時間を増やしていくカルミアだが、途中でジャックは帰ろうとする。

 ジャックの着る服を掴み、帰ろうとするのを静止すると、ジャックの事を睨みつける。

 歯を全力で食いしばり、こみ上げて来る悔しさを、必死に押さえながら、更に追加する。


「ご、ご……五分半!」

「君のように勘のいい子は、だぁい好きだよ」

「クソが……」

「ま、こんな冗談はさておき、本当の条件だが」

「じゃぁ、何だったんだよ、今のやり取りは」

「尺稼ぎ」

「素直に言うな!」

「で、条件は一つ、ただ質問に答えてくれればいい」

「……何?」

「お前、本当にAS-103-02カルミアだよな?」

「ああそうだよ!何か文句あっか!?」


 ――――――


 基地の外にて。

 現在は、新型のエーテル・ギアの研究が、盛んに行われている。

 次期正式採用の新型、そのひな型に選ばれたのは、ジャックのバルチャー。

 現在の戦力では、空中や宇宙での戦闘に、対応しきれていないと判断され、ハヤブサ以上の性能が求められた。

 その運用試験が、ここ数日、度々行われている。


「へ!その程度じゃ、まだまだ俺に追いつけないな!」

「ッ、追いつけない!」

「頑張りすぎや!ドレイクはん!」


 ドレイクとウィルソンは、支給された新型のバルチャーを使い、デュラウスを追いかけまわす。

 バルチャーは、スピードと加速力に重きを置いたアーマー。

 なので、速さに自身の有るデュラウスが、模擬戦相手に選ばれた。

 だが、速さはデュラウスの方に軍配が上がり、二人は苦戦を続け、未だに一本も取れていない。

 そんな三人の模擬戦を、リリィとシルフィは、散歩がてら見学していた。


「……ドレイクさん、必死だね」

「以前の戦いで、辛酸をなめさせられてから、デュラウスをライバル視しているらしいです」

「……バルチャー、カスタム機なんだね」

「はい……情報を入手しましたが、お聞きになられますか?」

「え、良いの?」

「はい、機密情報ではないので」


 空中に軌跡を描き続ける三つの光。

 それを見ながら、リリィは二人の着用するバルチャーの解説を始める。

 二人の使用する物は、それぞれ別のカスタムを行われている。


「ドレイク中尉の場合、ドローン機能の排除と、大尉が全てマニュアルで行っていた、慣性制御能力の付与、加速能力の安定化が施されています」

「……成程、だから、あんなに速いんだ」

「ウィルソン伍長の場合、ドレイク中尉の物と同じカスタムに加え、翼の格納性等を追求し、隠密作戦能力を向上させております」

「格納……確かに、魔力の出方が少し違うね」

「……(速度の認識、そして、ブースターの違い、そんな所まで認識できるのか)」


 ドレイクのバルチャーの説明を聞きながら、シルフィはその軌跡を指でなぞる。

 しかも、かなり不規則な動きの筈なのだが、寸分たがわずに追いかけている。

 まるで、ドレイクの動きの全てを、見すえているかのような動きだ。

 オマケに、肉眼でも解り辛い、ウィルソンのスラスター噴出の仕方に、盲目の身で気づけている。

 本当に見えていない、という訳ではないのだろう。


「でも、何で、今更新しい物を」

「……何でも、上層からの命令だそうです」

「へ~……あ、珍しい、デュラウスちゃんの負けだ」

「え?まだ決着は」

「おい!中尉が勝ったぞ!」

「マジでか!!」

「え」


 他にも観戦していたやじ馬達の声に、リリィは目を丸くする。

 僅か数秒と言う短い時間だったが、シルフィが勝敗を口にしたときは、まだデュラウスが優勢だった。

 とても、ドレイク達が勝ちをとれる状況では無かった。

 それなのに、シルフィは、その勝敗を言い当てたのだ。


「……ふふ、デュラウスちゃん、相変わらず血の気が荒いね」

「……は、はい、それでは、そろそろ」

「あ、そうだね」


 デュラウスが、ドレイク達に再戦を持ち掛ける場面を見ながら、リリィとシルフィは散歩を続けようとする。

 そんな二人を、カルミアは陰でコソコソと眺めていた。


「……相変わらず、シルフィにべったりだね、アイツ……目が見えないからって、胸とか押し付けやがって」

『てか、リリィの奴あんな感じだったか?なんか雰囲気違くね?』

「なんか、最近怖い雰囲気なんだよね」


 提案にのったジャックは、せめて一人で渡す、と言う状況を作るべく、カフェでコーヒーを堪能しつつ、カルミアに百鬼夜行を使用し、サポートを行っている。

 しかし、こうしてカルミアと繋がっていて解るが、シルフィを見ているだけで、既にあがっている。

 陰で見ているだけで、面接五分前と言う状態だ。


『まぁいい、とりあえず、お前は俺が指定するセリフを言えばいい、それで後は、勢いでもなんでもいいから、そのプレゼントを渡して来い』

「……」

『どうした?』

「いや、お前が用意したセリフとか、不安しかないんだけど」

『安心しろ、俺はバトルものと同じくらい、ラブコメが好きだ、キザなセリフの一つや二つ、簡単に教えてやる』

「ダークネスなトラブルが起こる未来しか見えない……」

『ま、今回は無責任な奴より、アブノーマルでいくか』


 多少、と言うよりも、かなりの不安を残しながらも、カルミアはシルフィらの元へと向かう。

 人ごみをかき分け、一歩、また一歩と進むたびに、その緊張は高まって行く。

 もう二回も失敗しているのだ。

 これ以上は変な奴認定されてもおかしくは無い。

 だが、今はジャックが居る。

 自分で手伝って欲しいと言っておきながら、安心すれば良いのか解らないが、一人で行くよりはマシだ。


『ま、雰囲気が変わっているとはいえ、アイツの事だから、極力人目の少ない所に行くはずだし、そこをねらうか』

「そ、そうだね」


 シルフィの付き人的なポジションになってから、妙に闇の有る雰囲気に成っているリリィに臆しながらも、カルミアは二人の後を追う。

 そして、後を付けること数分。

 ジャックの読み通り、二人は人目の少ない所に出る。

 そのタイミングを見計らい、カルミアは二人の前へと移動する。


「……あ……あ、あの!!」

「ッ!」

「か、カルミアちゃん?」


 身体だけでなく、声まで震えてしまっており、目さえ合わせられていない。

 完全な緊張状態だが、勇気を振り絞り、何とかシルフィに話しかける事に成功する。

 声でカルミアである事に気付いたシルフィは、足を止め、彼女の方へと視線を落とす。

 せめてと、シルフィの方へ視線を向けるカルミアだが、その時点で、詰んでしまう。


「あ、え、えっと」

「……大丈夫?声、震えてるよ?」

「え、うえぇ(し、心配された)」


 あまりにも緊張しすぎて、心配されてしまう。

 その際、内心嬉しい半面、心配をかけてしまった申し訳なさが共存し、なんとも言えない気分になってしまう。

 表情の方も、かなり崩れており、喜んでいるのか、困っているのか、良く解らない感じになっている。


「……あの、用が無いのでしたら、このまま行きますよ」

「ま、待って、有る、用なら、有るから」

「どうかしたの……」

「え、えっと(ジャックぅぅ、はよセリフぅぅ!!)」

『解ってる……そうだな、これを受け取って欲しい、この前のお礼だ、これからもよろしく、的な感じで』

「(わ、分かった)」


 実際、お礼であり、友好の印として渡そうと思っていた物。

 ジャックのセリフに、多少の食い違いがあっても、この際如何だって良い。

 今はプレゼントを渡す事に専念するべく、カルミアは箱を取りだす。


「そ、その、お、おれ」

「……ねぇ、何か、ジャックがとりついてるけど、変な事されてない?」

『え、ちょまっ!?』

「え?」


 何が起きたのか、ジャックにもカルミアにも解らなかった。

 シルフィは、放った言葉と共に、デコピンをするように指を弾くと、何故かカルミアとジャックのリンクが切れてしまった。

 しかも、他の人間やアンドロイドに悟られないようにしておいたというのに、シルフィは気づいた。

 その事に、余計にカルミアは困惑してしまう。


「これで良し、大丈夫?変な事されてない?」

「あ」

「ッ!」


 横で獲物を狩ろうとする、狼のような眼光を向けるリリィなんて、気にならなくなる事が起きた。

 シルフィの手が、カルミアの頭に置かれたのだ。

 しかも、その手はカルミアの頭の上で、左右に揺れ動く。

 いわゆる、ナデナデだが、今のカルミアには、あまりにも刺激が強かった。


「ふぇ、ふぇあああああ!!」

「ちょ!」


 嬉しさと恥ずかしさのあまり、奇声を全力で上げてしまったカルミアは、その場にぶっ倒れた。


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