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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
197/343

小さな恋ごころ 前編

 戦いの終結から、三か月後。

 アリサシリーズの面々は、色々と苦労は有るが、徐々にストレンジャーズ達と馴染んで行った。


 あれから、断固として反逆の姿勢を続けていたナーダの基地は、制圧されつつある。

 やはり、現状の政治家たちからすれば、未だに反抗するような存在は、断罪されなければならない。

 などという、過激な方針があるおかげで、武力制圧を余儀なくされている。


 今は、リリィ達の事もあるので、下手に事を荒立て無い為にも、渋々と従っている。

 彼女達の扱いとしては、ラベルクのみが研究用に拘束している事になっており、他は破壊した事にした。

 法律的には、研究さえ禁止されているが、今後、似たような敵が現れた際の情報収集、と言う特例の処置で、何とか見逃されている。


 選挙まで後五か月。

 少佐の友人が当選するまでの間は、何とか誤魔化し続けなければならない。


 ――――――


 そんなこんな有る中で、カルミアは、仕事終わりに、レッドクラウンの元を訪れた。

 今の彼女は、エーラの元で、助手を務めている。

 カルミアには、エーラ達が入手し損ねた、ナーダの研究データも入っており、彼女も研究員として、申し分ない能力を持っているおかげで、良い働きをしている。

 のだが、その分こき使われていた。


「はぁ、あのマッドドッグサイエンティスト、知識欲が旺盛すぎんだよ」


 といった文句を垂れながら、カルミアは途中の自販機で買った、パックのオレンジジュースに口を付ける。

 ストレンジャーズと同盟を結んでからは、以前より騒がしくなってしまい、ほとんどこのコックピットがカルミアの自室と言ってもいい。

 元々、レッドクラウンの中が一番落ち着くので、仕方ない部分もある。


「でもま、おかげで、良いのできたし、アイツには感謝だな」


 しかし、エーラはなんだかんだ仕事ができる女。

 性格や趣味があれだが、おかげで、カルミア一人では作れなかった代物を、作る事が出来た。

 その事に感謝しながら、カルミアは懐から小さな箱を取りだす。


「……アイツ、喜んでくれるかな?」


 シルフィの喜ぶ姿を想像したカルミアは、恥ずかしさから足をバタバタとさせる。

 今の彼女の状態を見れば、喜んでくれる事は間違いない。

 だが、問題なのは、ちゃんと渡せるかどうか、である。


「あああ、でも、ちゃんと渡せるかな?ねぇ、レッドクラウンはどう思う?どんな風に渡した方が良い?なんか、手紙とか添えた方が良いかな?」


 まるで、友人に恋愛相談を持ち掛ける、女子高生のような表情を浮かべながら、カルミアは物言わぬ人形に話しかける。

 因みに、レッドクラウンには、自我はしっかりあるが、現状でコンタクトが取れるのは、シルフィだけで、カルミアは、未だに会話さえできていない。

 なので、今の質問は、ほとんど独り言と言える。


「……で、でも、どうしよう、色々やっておいて、こんな事やるなんて、調子乗ってるとか思われるかな?と、友達……とは行かなくても、最近よくすれ違う近所の子供位には、なってるよね?」


 カルミアの止まらない独り言に、レッドクラウンは冷や汗をかく(かけないけど)

 事実、ここ最近、カルミアはシルフィと一言も話していない。

 プライドとかではなく、完全に緊張して話しかけられないのだ。

 一応、カルミアと繋がっているので、その辺は知っているので、先が思いやられてしまう。


「……はぁ、なにやってんだろ、アタシ、未だにアンタと話す方法もわかって無いってのに、こんな独り言やっても、状況は進展しないよな、それに、負け戦に首つっ込もうってんだから、はぁ」


 そもそも、シルフィとリリィは付き合っている。

 既に敗北しているのに、今から参戦しようなんて、お門違いもいい所だ。

 しかし、シルフィに渡したい物が有るのは事実。

 こんな所で、何時までもうずくまっていても、何も変わりはしない。


「……よし!」


 決意を決めたように、カルミアは自分のホホを叩く。


「や、やってやる、やってやるぞ!!れ、恋愛、そ、そそ、相談!!」


 シートの上に立ちながら、決心を口にした。

 のは、いいのだが、相談相手と顔を合わせたのは、この三日後だった。


 ――――――


 カフェルーム。

 基地の中に有る、娯楽施設の一つ。

 小規模ながらも、コーヒーや紅茶、軽食やオヤツなどを楽しめるので、基地に駐屯する兵士達いこいの場となっている。

 いくつも有るテーブル席や、カウンター、そして、ほんのり聞こえて来るピアノの演奏。

 チャラ着いた感じではなく、隠れ家的な印象のカフェである。

 なので、ここに来る客の兵士達は、日々の疲れを癒すべく訪れている。

 そのせいなのか、カルミアが恋愛相談場所に持ち掛ける為に、選ばれたのであった。


「……で、どういう風の吹き回しだ?俺に相談があるなんざ」

「……」


 目の前で、落ち着いたカフェで読む何て、御法度としか思えない、いかがわしい本を読む女。

 ジャックを前に、カルミアは硬直する。

 何故彼女に相談を持ち掛けたのか、正直カルミアにだってわからない。

 だが、その理由は、何となく自覚している。


 先ず、少佐は忙しいので、相談なんてもってのほか。

 他の姉妹達には、聞かれたくないので、パス。

 チハル達も考えたが、まだなんか溝を感じるので、保留。

 その他スタッフ達も、恋愛相談なんてできる程、親しい人間が居ないので、パス。


「消去法?」

「何で消去の先に俺が居るんだよ」

「別に良いじゃん、アンタ、アタシらのお目付け役的な感じになってたし」

「それ、先週までずっと別のとこ居たから、昨日知ったんだよ……たく、知らねぇうちに変な役職に就けやがって」

「……そういえば、結構やせた?」

「ああ……あのクソジジィ」


 本を読みながら、カフェモカをすするジャックをよく見れば、結構やせている気がする。

 元々着やせする体質なのだが、今日はいつも以上に痩せているように見える。

 と言うのも、ジャックは、刀をへし折ったため、新しい刀を貰う事と、更なる修行のために、本土へ戻っていた。

 そこでの修業は、過酷そのものであった為、すっかり痩せてしまったのだ。

 計ったら、十キロ近く軽く成っていたらしい。


「ま、まぁ、それは良いとして、その、聞いて、くれる?」

「するんなら早くしろ、ま、大方シルフィの話だろうけど」

「……せ、正解」


 普通に正解を言い当てられ、カルミアはすっかり委縮してしまう。

 三日もかけて決心を硬め、こうして相談の席までこぎつけた。

 その筈が、いざ相談しようとすれば、このざまである。


「そ、その、あの子に、わ、渡したい、ぷ、プレゼントがあって……それで、ど、どうやって、渡したら、あ~、良いかなって」

「……なら、以前の雰囲気で渡せや、プレゼントだ、ありがたく受け取れ、クソレズエルフ、てな具合で」

「ゴフッ」


 別に血なんて吐けるわけでは無いが、今回ばかりは本当に吐きそうになった。

 思い出してもみれば、カルミアには前科があるどころの話ではない。

 様々な事を思い出しながらも、一旦オレンジジュースを含み、落ち着きを取り戻す。


「そ、そう言うのは、ちょっと、てか、アンタアタシの事なんだと思ってんの?」

「人の娘に数々の罵詈雑言、殺人未遂を二回、口癖が【クソが】、市街地への機銃掃射、ミサイル乱射する危険なロリ」

「ごめんなさい、ごめんなさい、マジごめんなさい、一旦許してください」

「これ以外にも色々したんだ、簡単に印象は変わんねぇよ(随分丸くなったな)」


 ジャックの知る限りの、カルミアの悪行を早口で述べ、カルミアは黒歴史をほじられ、頭を抱えてしまう。

 その状態で、カルミアは自分のしでかした悪行に、泣きそうになる。

 やさぐれ状態だった、何て言い訳が通じないレベルの素行の悪さしか、自分でも思い出せないのだ。


「……う~……ウワアアアア!!」

「あ、おい!」


 色々と限界になったカルミアは、カフェを飛び出してしまった。

 その姿を見たジャックも、カフェでの勘定を払い、カルミアの後を追っていく。

 非戦闘用の義体だというのに、かなりの速さで格納庫の方へと走る。

 そのまま、レッドクラウンの格納されている区画へと移動して行くと、コックピットへと飛び込んだ。


「オイイイ!」


 ギリギリの所で、ハッチが閉じてしまい、ジャックは伸ばした手を引っ込めてしまう。

 相談を持ち掛けておきながら、こうして逃げた事に、流石のジャックも額に青筋を浮かべ、ハッチに蹴りを入れ出す。


「おい!相談のれ、つったのテメェだろ!何逃げてんだ!?」

『……う、グス』


 ゲシゲシとハッチを蹴っていると、金属音の中に、少し水の音が聞こえてきた。


「……おい」


 蹴るのを止め、よく耳を澄ますと、その音はコックピットから聞こえる。

 よく聞けば、すすり泣いているかのような音。


『う、う~』

「え、おい、ちょっと」


 反響する音の中に有る、カルミアの声で、ジャックは確信する。

 確実に泣いてしまっている。

 その事に気付いたジャックは、ちょっと声のトーンを上げて話し出す。


「ちょ、泣くなって、俺も、ちょっと言い過ぎたけどさぁ、ね?ちょっと一回出てきて、もう一回、ちゃんと話してみようか?」

「……」

「もしも~し」


 ハッチをノックしたり、優しめの声で語りかけたりするが、カルミアの返事は無い。

 だが、その数秒後、ハッチが開く。


「お、開いた」

「……」

「どうした?渡す気になったか?」


 少し安堵しながら、コックピットでうずくまるカルミアを視界に収める。

 まだいじけている感じが強いが、とりあえず話す気にはなってくれたようだ。


「まぁ、その、渡すのは良いとして、どうせ、アタシが渡すやつなら、アイツ、何でも喜びそうで」

「それはそれで良いだろ」

「そ、そうだけどさ……それって、渡す意味あるのかなって」


 とりあえず泣き止んだカルミアだったが、彼女が個人的に一番問題だと思っている事をジャックに打ち明けた。

 シルフィは超がつく位お人よしだ。

 何しろ、何度も殺そうとしたアンドロイドを助けるなんて、余程の事が無い限りできない。

 そんなシルフィの事なのだから、たとえありがた迷惑でも、プレゼントを受け取ってくれるだろう。

 そう思うと、どうにも渡すのをためらってしまっている。


「わ、渡した所で、そもそもあの子が望んでいるのか解らないし、別に、ブランド物のアクセサリーだったりする訳でもないし、迷惑がられても、こっちがね、あれだし」

「……」


 カルミアのネガティブ発言に、ジャックは後頭部をボリボリとかきむしる。

 とても、民間人へ向けて、機銃やらミサイルやらを乱射し、何の抵抗も無く、この世界の住民を巻き込んでいたような少女と、同一個体とは思えない。

 違いに戸惑いながらも、ジャックはため息交じりに話を始める。


「あのな、プレゼントってのは、気持ちだ、どんだけそいつを思っているか、値段だの、ブランドかどうか何て気にする奴は、相当な地雷だ、因みに、俺はバッグとかより、来月発売の漫画だな」

「いや、アンタの知った所で、どうでも良いんだけど」

「……まぁそれは良い、とにかく、恋やら何やらは、当たって砕けろ精神だ、せめて突っ込んでから落ち込めや」

「あ、当たって、砕けろ?」

「そうだ」

「……」


 ジャックの言葉を聞いたカルミアは、数秒程考え込む。

 確かに、当たって砕ける位の覚悟でなければ、恋愛なんてやっていられない。

 このまま何もせずに、心にくすぶる後悔を、ただただ味わうより、行動に移した方がいい。

 その時の後悔は、きっと、今よりはマシな物に成っているだろう。


「……」

「よし、その調子だ」


 立ち上がったカルミアは、ハッチに手を置き、レッドクラウンから出て来る。


「や、やっぱ無理!!」

「おい!」


 のだが、物凄い勢いで戻り、ハッチも彼女に合わせるように勢いよく閉じた。

 そんなヘタレた姿に、ジャックはまたハッチを蹴り始める。


「テメェ!十数体のアンドロイドとリンクなんて無茶ぶりさせたのは、何処のどいつだ!?あの時の勢いでぶつかればいいんだよ!」

「やだ!怖い!恥ずかしい!てか、アイツの場合柔らかすぎて当たっても絶対砕けない!」

「いい加減にしろ!そんな事が怖くて戦やら恋愛やらができるか!!」


 説教をする事と一緒に、蹴り飛ばし続けたハッチは、徐々に形が歪みだす。

 その事に気付いたジャックは、無理やりハッチを持ち上げ、コックピットブロックにナイフを突き立てる。

 ナイフが折れる事なんてお構い無しに、扉をこじ開け、シートに抱き着いているカルミアと目を合わせる。


「これで面と向かって話せるぜ」

「イヤアアア!何してくれてんだテメェ!!」

「うるせぇ!テメェがヘタレなきゃこんな事しないで済むんだよ!」


 力技でハッチ類をこじ開けたジャックは、堪忍袋の緒が切れたように、カルミアを引っ張り出す。

 だが、そんな事をされるカルミアは、抵抗を始める。


「イヤアア!ロリコンにさらわれるぅ!!」

「うるせぇんだよ!ほら、早く行くぞ」

「う~」


 カルミアを持ち上げ、リフトの上に立たせると、ジャックは少しだけ彼女の外観を整えだす。

 髪を少しあそばせ、着ているスーツのホコリを叩き落とすといった具合だ。

 今のシルフィは、目が見えないとはいえ、折角なので、少し位見た目に気を使った方が良いという、ジャックなりの配慮である。


「ほら、遠くから見守ってやるから」

「……」

「おい」

「わ、分かった、い、行ってやる!当たって砕けろで行ってやる!!」

「その意気だ、行ってこい!」


 ガッツポーズをとりながら、シルフィの元へ向かおうとするカルミアであるが、三歩程機械の足を動かした辺りで、その動きを止めてしまう。

 その後数秒、カルミアは固まり、徐々に震えだしてしまう。


「……え、えっと、あ、明日位に、出直した方が、良いかな?ダメ?」

「……」


 無垢な少女のような瞳を、ジャックへと向けるカルミアだが、ジャックは殺意マシマシの視線をカルミアへ向けていた。

 もしも目の前に居るのが、カルミアではなく、リリィ等であったら、殺人級のビンタをお見舞いしていたかもしれない。


「え、えっと、その……た、退避!!」

「させん!!」


 またレッドクラウンの中へと戻っていったカルミアだが、もうそのパターンは通じないと言わんばかりに、ジャックは飛び込む。

 コックピット逃げ込んだカルミアは、すぐにハッチを閉めるが、途中でジャックの胴体が挟まる。

 何かが折れたような音が聞こえたが、そんなのお構いなしに、ジャックはカルミアを睨む。


「テメェ、俺がロリコンでもいい加減に怒るぞ」

「で、でも、でも……」

「でももクソも有るか!お前はすれ違って、言葉何てろくに交わさずに、色々失ったんだろうが!だったら、その失敗反省して、今回だけでもまともに話してみろや!!」

「ッ」


 アセビの件を思い出したカルミアは、拳を強く握りしめる。

 あの時のような後悔をしたくはない。

 そんな思いがわき上がって来た事で、以前よりもはるかに硬い決心が付いた。


「そうだ、アタシは、もう二度と、あんな後悔をしたくない思いで、これは作ったんだ、ありがとうジャック、行ってくる!!」

「おう、今度こそ行ってこい」


 ハッチを開けたカルミアは、レッドクラウンから降り、シルフィの元へと向かっていく。

 その様子を、ジャックは背中をさすりながら見守っていた。


 ――――――


 その数分後。

 シルフィの前に行く事に成功したが、話しかけようとした瞬間、言語インターフェースに異常が発生。

 たった数秒で撤退し、レッドクラウンの中へ潜り込んでしまった。


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