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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
195/343

ありがとう 中編

 戦いは終わった。

 だが、全てが終わった訳ではない。


 終戦当日。

 生存者の確認と、負傷者の治療を重点的に行われた。

 ドレイク達、爆心地に居た筈の面々は、ガレキ等に守られ、奇跡的に八割以上が生還。

 アリサシリーズは、リリィ達以外の量産機は、十三機が生還した。


 二日目。

 ラベルクの協力で、基地の生き残った設備を使い、ストレンジャーズ達は、安息の地を得られた。

 そして、再稼働させた医療設備を使い、エーテル・アームズと接続されたナーダの兵士達を、カルミアの協力で、解放で来た。

 破損した装備等も、基地の設備を再稼働させ、修復させるめども立ってきた。


 三日目。

 大分落ち着いて来たので、戦死者達の弔いが行われた。

 丁度、この世界の尼さんであるヘレルスも居たので、異世界の方法でも弔われた。

 ストレンジャーズは、かつては敵であっても、死ねば同じ仏様である、と言う考えがある為、敵味方区別なく、しっかりと送られた。


 五日目。

 カルドの自爆で、色々と死んでいた基地の施設は、おおむね再稼働を開始。

 宇宙に居る味方の艦隊にも、勝利を報告で来た。

 ただ、問題なのは、ナーダの残党勢力の交渉には、骨が折れるという事が分かった。

 この異世界には、現在ストレンジャーズ達が抑えている基地以外にも、複数の基地が存在する。

 カルミア達は、ジャック達を倒した後で、その基地を制圧し、物資を調達した後で、本土へ攻める予定だった為、ほとんど手つかず。

 ヘンリーの訃報も、この交渉で判明した程。

 ジャック達が占拠した場所を除けば、ナーダの基地は後四つ。

 元々残存兵力をかき集めた、寄せ集めという事を考えれば、それなりに多いといえるかもしれない。

 その内の二つは、降伏に応じてくれたが、他の二つは、未だに抗戦を続けるとの事だった。


 五日目。

 念願のどんちゃん騒ぎが始まった。

 酒やら肉やらで、正に勝利の美酒を味わい、仲間の死の哀しみを、酒で流していった。


 そして、終戦から七日目。

 ジャックと少佐は、ラベルクの居るマザーの部屋へと足を運んでいた。


「これがマザーか」

「ああ、いわゆる量子コンピュータ、こいつ一個で、世界中の接続可能なネットワークは、全てハッキングできる」

「生憎、私はそのような使い方は考えていない」

「だろうな」


 初めてマザーを前にした少佐は、息をのんだ。

 目の前に有るのは、世界を変えてしまう力をもったコンピュータ。

 そんな危険な物を、大隊程度の部隊が所持する事に成ったのだ。

 と言うか、ヒューリーの意向で、今の連邦には渡せない、と言われてしまっている。

 なので、連邦とは、密接に見えて、実はそうでもない、ストレンジャーズに譲渡する事になった。


「あ、皆さま、お待ちしておりました」

「ああ、君も、すっかり治ったようで何よりだ」

「ご心配をおかけしました、エーラ様が、義体とドライヴを残してくださったおかげで、こうして、早めの修復が完了しました」


 ジャックと少佐の姿を確認したラベルクは、二人に頭を下げた。

 できれば、お茶か何かを出したい所であるが、今居る場所は、そんなほのぼのとした場所ではない。

 今回ここに三人が集まったのは、今後の身の振り方の相談だ。


「では、早速本題に入りましょう」

「ああ、先ず、君達の在り方についてだが」

「一先ず、私達姉妹は、貴方方の軍門へ下ります、しかし、このままでは、貴方方まで、犯罪者という事に」


 現在、一番の問題は、リリィ達アリサシリーズの存在。

 彼女達は、元々ナーダ側の兵器。

 しかも、連邦側では、存在は愚か、研究開発さえ禁止されている。

 所持なんて事をすれば、刑罰は免れない。

 だが、これは現在における、アンドロイドに対して否定的な政治家の思惑もある。

 少佐としては、出来れば彼女達にも、人並みの人権を確保できればと考えている。


「……この状況を打開できるのは、やはり法案の改定、そして、現在はそれが難しい派閥が、取り仕切っている」

「ああ、だが、八か月後の代表選挙で、アンタの友人が当選すれば、あるいは」

「ジョージ・アルストン議員、確か、彼はアンドロイドに対しても、戦争に関しても、かなり穏健な姿勢が有りますね」


 唯一の望みとしているのは、八か月後の代表選挙。

 ここ十年以上、過激な派閥が選挙を納めてきた事もあって、ジャック達の戦いも、残虐性を求められてきた。

 とにかく、良い部分だけを、国民に見せつけては、彼らに票が集まる様に、ロビー活動を行い、今まで当選を勝ち取って来た。

 だが、戦争が終わった今では、彼らが戦争の英雄である、と言うような形で、人気を取る事は、少し無理がある。

 その可能性にかければ、現政権を覆せるかもしれない。


「しかし、見返りも無く、我々が有利になるような法案を可決してくれるでしょうか?」

「う~む、やはり、手見上げとして、このマザーの利用を、許可せざるを得ないな」

「確かに、そちらの方向で、手を打った方がよろしいかもしれませんね」


 問題なのは、やはり当選した後。

 アンドロイドはただの道具、感情や人権は必要ない。

 そんな風潮の有る現在の社会で、わざわざリリィ達の存在を許すには、相応の見返りが必要だ。

 政治家だって、人間である事に変わりは無い。

 損得勘定が強いからこそ、連邦の代表への立候補できる立場にある。

 真っ先に思いつくのは、やはりマザーの利用を許可する事。

 ジョージ氏が当選すれば、ある意味では、ヒューリーの理想を叶える事が出来る。

 であれば、マザーを政治利用させても良いかもしれないが、もう一つ欲しい所だ。


「……もう一つあるな」

「何?」

「……あ、あの手が有りましたね」

「な、なんだ?」

「ここの世界の姫、レリアとのコネクションが、リリィには有る、そいつを持ち出せば」


 ジャックが出した提案。

 それは、この世界の国の一つ、イリス王国の姫、レリアとのコネクションが、リリィに有るという事。

 リリィからレリアを通じて、双方の世界の架け橋になれば、ある程度は交渉をスムーズに進められるようになる。

 それだけではなく、この世界に有る手付かずの資源の開発を、手掛けられるようになる。


「……最近は、宇宙の小惑星やらからも、資源を採掘しているが、直近の問題は、人口の増加と食糧難、資源開発さえ持ち出せば、当面の雇用には困らなくなるだろ?」

「それに、食料の方も、この世界の土地や資源を有効活用すれば、何とかなるか」

「そう言えば、ヘンリー氏も、同じようなことを考えていましたね」

「最初に言ってくれ……だが、そいつは難しいな」

「何でだよ」


 と、ここまで色々と希望を出していたが、その八か月後まで、どうやってリリィ達を生存さるか、である。

 それに、確実に当選するという保証も無いうえに、問題はまだある。

 目を細めるジャックに、少佐はその問題点を諭す。


「先ず、そのレリアと言うお姫様が、確実に我々に手を貸してくれるとは限らない、それだけでなく、まだここと本土の交通弁に、問題がある」

「それもそうか」

「という事は、今の所、マザーの貸与のみが条件ですね」


 目前の問題としては、レリアがただの友人か、顔見知り程度かもしれない少女の頼みに応じてくれるか、である。

 しかも、少佐達の世界と、この異世界をつなぐ転移装置の設置を、無断で行う訳には行かない。

 転移装置を設置するのなら、規模などから考えても、衛星軌道上に設置する事に成る。

 いくらレリア達の目に届かないとはいえ、そんな所にどでかい装置を置かれても、反発されてもおかしくは無い。

 とは言え、何が有ろうとも、リリィ達の事は、何とか隠すしかない。

 存在そのものが許されていない現状、とにかく、のらりくらりするしか無いかもしれない。


「……とりあえず、君達の事は、何とか誤魔化す形で、上に報告する、査察なんかが入らないように、細心の注意は払う」

「ありがとうございます、ですが、やはり査察を入れないというのは、むしろ怪しいのでは?」

「最悪、君達には、法律に触れないレベルのアンドロイドを演じてもらう事になるな」

「いたしかたありませんね」


 一先ず、話がひと段落した辺りで、ジャックは手を上げる。


「あ、少佐、ちょっと良いか?」

「何だ?」

「悪いが、俺、ちょっと、その、呼ばれてて」

「……そうか」


 ジャックは、少佐にそれとなく、呼ばれている理由をジェスチャーで伝える。

 両手の人差し指で角を表現するジャックをみて、少佐は中座を黙認した。

 会釈をしたジャックは、部屋から出て行く。


「あのジェスチャー、彼が」

「……ああ、以前の戦いで、刀を折ったらしくてな」

「……ご愁傷様です」


 ――――――


 部屋からでたジャックは、とある部屋へと足を運んだ。


「し、失礼しま~す」


 恐る恐る、複数のロウソクで照らされた、和室へと足を踏み入れる。

 部屋には、ロウソク以外にも、折れたジャックの刀と、一人の初老の男性が座禅を組んでいた。


「……来たか」

「は、はい(何でよりによって……)」


 ガラにも無く、ジャックはきっちりとした佇まいを取る。

 完全にガチガチとなっており、冷や汗も滝の様に流れている。

 それもその筈、前にしている男は、少佐はもちろん、ジャックでさえ頭の上がらない存在なのだ。


「先ずは、座れ」

「はい」


 全身を突き抜ける悪寒、押しつぶされそうな圧迫感。

 それらに耐えながら、ジャックは男の後ろに正座する。

 後ろに座っているというのに、今ここで首を取ろうとしようものであれば、ジャックでも一瞬で首を斬られる気しかしない。


「そ、その」

「……未熟な」

「は、はい」

「火之迦具土は、その威力ゆえに、刀が折れる事も有る、しかし、貴様は、この技を幾度となく使用し、それでも尚、刀は折れなかった」

「……」


 青年が故意に発する威圧に屈するジャックは、すっかり言葉を失ってしまう。

 ジャックの使用した奥義は、桜我流の中でも、最強火力を持っている。

 それ故か、剣術が未成熟の場合、使用した武器が折れる事がほとんど。

 しかし、今のジャックは、その心配がない程成熟している。

 折れてしまったという事は、何らかの不備があったという事だ。

 もちろん、敵が硬かった、と言うのは言い訳にすらならない。

 しかも、刀は戦いの前日に、しっかりと整備してもらったばかりだ。


「……あの機械人間と、妖精種に、何を思った?」

「え、えっと」

「この折れ方は、貴様の中の邪念が起因している、ただでさえ貴様は邪念が強いというのに、これ以上、何が貴様を歪める?」

「……」

「まぁよい、仕事が終わり次第、再び鍛え直そう、刀も、貴様も」

「はい……師匠」


 そう言い、ジャックは深々と土下座する。

 すると、男は立ち上がり、ジャックの方へ視線を落とす。

 葵よりも一回り小さな身長に、ジャック並みの細身、和服にハカマにタンクトップと、妙なファッションセンスの彼。

 黒髪に、無精髭や額に生える二本の角が、彼の存在感を強める。


「よき心得だ、これからも励め」

「はい」


 ザラム・スレイヤー。

 ジャックの師匠にして、初代スレイヤーである。




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