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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
194/343

ありがとう 前編

「ッ、あれ、私……いっ」


 シルフィは、身体の痛みを感じながら、ベッドから起き上がる。

 辺りには、医療機器や薬、ストレンジャーズの面々が転がっているが、みんな生きている。

 皆が倒れている中で、近くに転がっていたエーラは、シルフィのベッドをつかい、起き上がる。


「あたた、すんごい爆発だったな、この感じ、揚陸艇がかたむいてんな」

「え、エーラさん?(なんだろう、何か変)」

「お、生きてやがったか」

「うん、ねぇ、リリィは?」

「さぁな、立てそうか?」

「うん」


 立てると言ったシルフィは、エーラが差し伸べる手を掴もうとする。

 その際、エーラはシルフィの瞳を改めて見つめる。

 本来青い筈のシルフィの目は、何故か、銀色と言えるような色に変わっている事に気付いた。


「(あれ?こいつの目、こんな色だったか?)」

「あれ?あれ?エーラ、さん、あれ?」

「お、おい、お前」


 シルフィは目と鼻の先に居る筈の、エーラの手を何度も空ぶる。

 エーラが普通に見えているというのに、シルフィが見えないというのもおかしい。

 言動から見ても、シルフィの目が焼けていているとは思えない。

 となると、シルフィの目は、もう。


「……あ、そっか、無理、しすぎたもんね」


 シルフィは、手を見つめると、自分の状態を把握する。

 目が見えない。

 リリィの動きを、全て見る為とは言え、込められるだけの魔力を目へ注ぎ込んだ。

 血の涙を流したのだから、何らかの副作用はあると覚悟していたが、リリィを止められた代償としては、頷けてしまう。


「……エーラさん、お願い」

「ああ、任せろ」


 エーラは、少ない筋量を総動員して、シルフィの事を担ぎ上げる。

 一応、戦闘時だったので、スーツを着ているが、元々の力が弱いので、それなりに四苦八苦してしまう。


「やれやれ、私は科学者なんだがな」

「まぁまぁ」

「足元気を付けろよ、色々散乱してっから」


 エーラはシルフィを連れて、ジャックがぶち破った扉から、外へと出る。

 何とか外へと抜け出していき、揚陸艇の外に出て行く。


「……おいおい」


 その時、彼女の目に映り込んだのは、更地となった戦場跡。

 アーセナル・ドラゴンは、その形を保っているが、他は完全に焼け焦げている。

 夕焼けに照らされ、どこか神秘的であるが、感傷に浸っている場合ではない。

 タンクは横転し、他の揚陸艇や、エーテル・アームズも、土を被ってしまっている。

 ジャック達以外の兵士がどうなっているのか、認識する能力を持たないエーラとしては、かなり心配だ。


「マジか、こんな状況何時ぶりだ?」

「……リリィ、どこ?」


 見えない目で、シルフィはリリィを探し出す。

 そんな彼女を気遣い、エーラはシルフィを誘導しながら、アーセナルの残骸へ運ぶ。


「(流石にジャックが死ぬとは思えないが、これだけの爆発だ、他の連中はどうなった?)」


 シルフィを運びながら、エーラは他の隊員達の安否を案ずる。

 土を被っているのか、またどこかへ飛ばされたのか、それは解らないが、とにかく見当たらない。

 ギャグマンガ等の科学者のように、白衣の中に便利グッズを仕込んでいる訳でもないので、今探す事は無理そうだ。


「あ」

「どうした?」

「り、リリィ……ジャックも、あ、カルミアちゃんも無事だ!」

「え?ど、どこだ?」


 シルフィの言葉に、エーラは辺りを見渡す。

 しかし、エーラの目には、三人の姿は見えない。

 おおかた、魔力を探知したのだろうが、姿が見えない。

 どこかに居るのか、探していると、アーセナルの身体の一部が爆散した。


「ッ!何だ!?」


 ――――――


「あ~、畜生が、介護用が聞いてあきれるぜ、人間に介護されるとはな」

「も、もうしわけございません」


 爆散したアーセナルから、ジャックはリリィを担いで出て来る。

 奥義を使ったせいで、刀と一緒に、反動で骨もボロボロに折れた。

 スーツの補強で、何とか立っているが、ガス欠である事に変わりは無い。

 回復に回せるだけの魔力は無く、もう銃弾一発で死にそうだ。


「……終わったんですね」

「戦いはな、でも、お前にはまだやる事あんだろ」

「え」


 ジャックの言葉に、リリィは前を向くと、エーラに担がれるシルフィの姿を見つける。

 生きていた。

 シルフィが生きている。

 その事実を認識したリリィは、ジャックから離れ、損傷した足をひきずりながら、シルフィの元へ向かう。


「シルフィ、シルフィ!!」


 至近距離で爆発に巻き込まれたせいで、今のリリィは停止寸前。

 アスセナは全壊し、スーツもボロボロ。

 義体の方も、右足や胴体、胸部の人工筋肉がえぐれ、右腕に至っては、欠損している状態。

 頭部の皮膚も剥げ、金属骨格が半分近く露出している。

 そんな状態でも、リリィはシルフィの元へ走る。


「リリィ!」

「お、おい、大丈夫かよ」

「うん、何処にいるか、大体わかる、でも、目が見えなくなったのは、まだ黙ってて、まだあの子に、勝利の美酒を味わってほしいから」

「……ああ」


 エーラに黙るように頼んだシルフィは、聞こえる声や足音を頼りに、リリィの元へ歩みよる。

 お互いに歩み寄り、そして、抱きしめ合う。

 二人共に、生き残る事が出来た。


「リリィ」

「シルフィ」


 抱き合う二人は、今までの思い出を走馬灯のように駆け巡らせる。

 今の幸せをかみしめる二人は、同じ事を思う。


 ――――――


 二人が抱きあっている最中。

 ジャックは、腰を下ろし、煙草に火を付ける。


「……幸せそうなこった」


 そう言ったジャックを残は、紫煙を吐き出しながら、昔の事を思い出す。


「……俺は、守れなかった、力も、味方も無かったせいで」


 半身とも言えるような存在を無くし、それでも、ここまで進んできた。

 当時は最愛の人以外、何も無かった。

 味方も、力も、武器も、何も無かった。

 だが、シルフィもリリィも、その全てを持っている。


「……所詮、人間一人ができる事なんて、たかが知れている、か」


 煙草を携帯灰皿に捨てると、バックパックの中から、キャンディの入った袋を取りだす。

 コーヒーと書かれた袋から、一粒のキャンディを取りだし、口の中に放り込む。

 コーヒーの風味、ミルクの甘味に、ジャックはホホを緩ませる。


「でも、お前は教えてくれた、何も無かったはずの、この俺に」


 ジャックが思うのは、ただ一言だけ、最愛の人へ向けた、当たり前の一言。


 ――――――


 ジャックがコーヒーキャンディを舐め始めた辺り。

 カルミアは、レッドクラウンのハッチをこじ開け、外へと出る。

 すっかり変わり果てた景色を見る間もなく、その視線はレッドクラウンへ向けられる。


「……守ってくれて、ありがとう」


 若干装甲の表面が溶けているが、他は大丈夫そうだ。

 回収して、少し手を加えれば、まだ使える。

 だが、それよりも確認したい事が、カルミアには有る。


「……でも、ゴメン、先ずはあの子に」


 後頭部の方まで登って行ったカルミアは、突き刺さっている弾頭を見つける。

 ヘリアンの放った、ストレリチアの弾頭。

 その近くには、血と薬品が流れ落ちており、それを見たカルミアは、膝から崩れ落ちる。


「……」


 解っていた事。

 わかりきっていた事実。

 大きくすれ違い、彼女を信じなかった事で生まれたツケ。

 その精算を行った結果が、この最期だ。


「ゴメン、本当に、ゴメン」


 ヘリアンに狙撃を任せた時。

 本当は自分でやろうと思っていた。

 自分で、ケリをつける気でいた。

 だが、何もできなかった。

 出来たのは、皆に指示を出して、アキレアを活躍させる程度。


「何、悩んでいる?」

「……ヘリアン、無事だったのか」

「うん、他の二人も、無事、それと、他のメンバーも、奇跡的に、無事」


 落ち込んでいるカルミアの後ろに、ヘリアンは立ち、デュラウスとイベリス達の無事も知らせる。

 しかし、今のヘリアンも、無事とは言えない。

 アーセナル・ドラゴンの一撃で、義体が半分近く消し飛び、立っているのもやっとの状態だ。

 カルミアにとって、今はそんな事どうでも良かった。

 アセビを、自分の手で終わらせられなかった。

 その悔しさが、カルミアに襲い掛かっていた。


「ヘリアン、礼は言っておく、ありがとう」

「何が?」

「アンタのおかげで、この子は終われた、ずっと、苦しんでいたこの子を、終わらせられた」

「……これだけは、言っておく、彼女を、終わらせたのは、貴女」

「え?」

「私がやったのは、ストレリチアを、チャージして、照準を付けて、弾を装填した、それだけ、引き金を、引いたのは、貴女の手」


 ヘリアンのセリフを聞いたカルミアは、自身の手を見つめる。

 確かに、ヘリアンが狙撃をしたとき、一緒に狙撃したような感覚は有った。

 ヘリアンの義体で、狙撃したからとか、ヘリアン以外ともリンクしていたとか、小難しい哲学じみた事は置いておき、カルミアは、自らの手を胸に押し当てる。


「……色々と、小難しい、言い訳は、どうでもいい、引き金を引いたのは、貴女、これは、事実」

「そうか、アタシも、終わらせられたんだ、この子を」


 これが、カルミアがアセビに出来たしょく罪。

 こんな事で、全ての罪が償えたわけでは無いが、その一歩は踏み出せた。

 その事実をかみしめながら、カルミアは思い出す。

 最後の最後、裏切られたと思ったあの時。

 完全に裏切られたわけでは無かった。


「(聞こえていたよ、アタシの事を最愛の人と、言ってくれた事)」


 この時、カルミアは、誰かに抱きしめられているような感覚を覚えた。

 とても懐かしく、安心する感じ。

 実験段階の時に、何度も感じていた、あの優しい感じ。


「アセビ?」

「ん?」

「……そうか、お前も、最後の最後で、そんな事言いに来たのか」

「(急に独り言言い出した)」


 変な人を見るような目をするヘリアンだが、カルミアには、しっかり聞こえた。

 アセビの声、想い、その全てが。

 そして、カルミアも、同じ事を思っていた。


 ――――――


 カルミア、ジャック、シルフィ、リリィ。

 彼女達が、愛しあった者達へと伝えた、当たり前の一言。

 もう伝えられなくとも、伝えたとしても意味は無くとも、今はただ、その思いで、心が一杯だった。



 ありがとう


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