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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
192/343

貴女に言いたい 中編

 リリィの渾身の一撃は弾かれた。

 その事態を目撃していた少佐は、色々と準備を進めながら、エーラとラベルクに通信を行っていた。


「何が起きたかわかるか?」

『見たところ、敵のフィールドが強すぎるな、本来なら、エーテルをまとった実体剣ならフィールドを中和して、突破できる筈だが、中和しようにも、相手のエーテル量が多すぎるな』

『厄介な事に、フィールドそのものが、周辺のエーテルを吸収し、出力を高めています、エーテル兵器主体の現在では、相性が悪すぎます』

「クソ、如何したら」


 二人からの報告に、少佐は拳を握り締める。

 アーセナル・ドラゴンは、以前戦った個体よりも、遥かに強固な防御能力を持っている。

 少佐も、リリィの持つガーベラの特性は、話に聞いて理解している。

 それさえ効かないという事は、かなりマズイ事態だ。

 やはり、一番事情に詳しそうな存在に、聞くしか道は無さそうだ。


「……ラベルク」

『はい』

「カルミアと言うアンドロイドから、情報を引き出せないか?」


 少佐から見て、カルド陣営きっての忠臣であるカルミア。

 彼女であれば、目の前に居る化け物の対処方法がわかるかもしれない。

 だが、問題なのは、デュラウス達のように、寝返ってくれるかどうかが問題である。

 その心配をする少佐を知ってか、ラベルクの出した答えは、可能性はあるという物だった。


『……上手く行けば、恐らく』

「本当か!?」

『ええ、ですが、今は彼女とのリンクも切れている状態です、こちらからは、彼女へアクセスはできません』

「……そうか、何とか彼女と話が出来れば」


 顔をしかめる少佐だったが、すぐに別の希望が現れる。


『それなら、何とかなりそうだ』

「何だと?」


 シルフィの面倒を任されているエーラは、彼女を映像に映しながら、その希望の解説を始める。


『これだけエーテルが濃いんだ、もしかしたら、彼女の、シルフィの意識を運べるかもしれない、そうすれば、彼女の意識と、カルミアの意識をつなげば、マザーとのリンクは回復できかもしれない』

「可能なのか?」

『ああ、何とかしてみるさ』

「……わかった、ただし、シルフィの許可は取れよ」

『解っている、ラベルク、手伝ってくれ』

『了解』


 ――――――


 覚えの有る感覚。

 水の中に入り、その中を遊泳しているかのような感じ。

 だが、以前とは違う。

 重さは無く、冷たくも無い。

 まるで、無重力の中に身を置いているかのような、心地の良い浮遊感。


「……あ」


 夢心地と言える空間の中、シルフィは目を覚ます。

 辺り一面、白い空間が広がっており、何の音も聞こえてこない。

 この空間に受けたシルフィの第一印象は。


「(私、死んだ!?)」


 だった。

 無理も無い、覚えている限りの苦しみと出血量。

 死んでいてもおかしくなかった状態という事は、身に染みて覚えている。

 だから、今ここで、神様的な人が出て来て、貴女は死にましたと言われても、驚きはしない。

 何としてでも生き返らせろと、首元鷲掴みにする自身も有る。


「(ちょっとぉぉ!ここで私が死んだら、この作品、もとい、リリィはどうなるの!?今のあの子に訃報聞かせたら、発狂してスタッフ皆殺しにしかねないよ!)」

『安心してください、死んでません』

「え?」


 状況が呑み込めない中で、シルフィの耳に、ラベルクの声が入り込む。

 聞こえる筈のない、彼女の声に、シルフィは顔を少し青ざめながら、辺りを見渡す。

 死んでいないと言われたが、ここでラベルクが出てきたら、マジで死んだ気しかしない。

 そんな事を思うシルフィの前に、ラベルクが出現する。


「おはようございます、早速ですが、もう一仕事、お手伝い願います」

「……な、何地獄に何年でしょうか?執行猶予はつきますか?」

「い、いえ、地獄での懲役ではないですよ」


 シルフィは、ちょっと涙目になりながら、目の前に現れたラベルクに訊ねるが、ラベルクはそれを否定。

 彼女の反応も、しかたのない事だ。

 何しろ、シルフィはラベルクが生きている事を知らない。

 こんなあの世ムーブ全開の空間に、突然放り出されて、ラベルクが現れてしまったのなら、死んだと誤認してもおかしくない。


「落ち着いてください、良いですか?落ち着いて聞いてください、私は普通に生きていますから」

「は、はい」

「ここは精神世界、貴女の意識のみを、この場にインストールし、疑似的に目覚めさせました」

「……」


 とりあえず、シルフィを落ち着かせたラベルクは、ここがどのような場所なのか説明する。

 だが、ただでさえ状況が呑み込めないのに、更に訳の分からない恐ろしい単語が並び、シルフィは、笑顔と真顔の中間位の表情を浮かべてしまう。


「いや、いやいやいや!何急に恐ろしい事言ってんの!!?」

「とりあえず、ここは飲み込んでください、貴女の肉体から、精神のみを引き抜くのって、結構大変でしたから」

「だから怖い事言わないでくんない!」

「とにかくこちらへ、時間が有りません」

「え、ちょっと、待ってよ!」


 突然の幽体離脱じみた体験に戸惑いながら、シルフィはラベルクの後を追う。

 とりあえず、エーテル・ギアで飛んでいるのと同じ感覚で、この空間を飛べるので、何とか追いつく。

 とにかく、シルフィが知りたいのは、ラベルクの言っていたもう一仕事と言う言葉。

 リリィとキスをしてから、その後の事を認識していないシルフィにとって、現在の戦況がどうなっているのか、非常に気になる所だ。


「ねぇ、今戦いはどうなってるの?リリィは?他の皆は無事なの?」

「順を追ってご説明いたします、戦いは劣勢、リリィや大尉、他の皆様が、何とか抑えていますが、長くは持ちそうにありません」

「順追ってるの!?それ!」

「以前、貴女とリリィが倒したアース・ドラゴンが、サイボーグ兵として蘇りました、ですが、こちらにはそのデータが無く、対策の検討が難しい状態です、なので、詳しそうな人物に、詳細をお聞きいたします!」

「詳しそうな人?」


 倒した魔物が、再び目の前に現れている。

 その事にも驚きはしたが、それ以上に、ジャック達であっても、抑え込む事が難しいという事の方が、何倍も驚いた。

 少し冷や汗を流すシルフィに告げられた、ドラゴンの攻略が解りそうな人物が、かなり気になる。

 とは言え、少し見当はつく。

 アース・ドラゴンのサイボーグ化。

 これと似たような事を成し遂げた人物がいる。


「……もしかして、カルミアちゃん?」

「そうです」

「あの子、まだあいつの方に居るの?」

「はい、どちらかと言えば、利用されている状態、と言った方が正しいかもしれません、マザーからも締め出され、独立したネットワークに組み込まれたため、私でも対処に当たれない状態です」

「そんな」

「ですので、貴女の力が必要です」

「私の?」


 ラベルクの言葉に、小首をかしげながらも、二人は目的地の眼前へと到着する。

 白い空間だったというのに、たどり着いた場所は、とても黒くなっている。

 だが、うっすらとであるが、人影のような物が、シルフィには見えていた。

 リリィの事を、子供のように小さくしたような、四肢が機械に成っている少女。


「か、カルミアちゃん?」

「はい、貴女の力を使って、あの子を」

「き、急だね、そうしたいけど、どうしたら?」

「先ほど、あの子にしたようにすれば、あの子とリンクが行えます、上手く行けばあの子も助けられるでしょう」


 真剣な表情で言ってくるラベルクに、シルフィは息をのむ。

 まさか、こんな重要な役目までやる事になるとは、思いもしなかった。

 そんな事を思いながら、シルフィは自分の手を見つめる。

 ラベルクでも、カルミアに干渉できないのであれば、アンドロイドに脳波で繋がれるシルフィが適任だ。


「……わかった、やってみる」

「ありがとうございます、私は、こちらでサポートいたします」

「うん、お願い……ッ!」


 ラベルクに後方を任せたシルフィは、空間の黒く成っている部分へ、手を添える。

 そして、ラベルクのサポートを受けながら、カルミアへとアクセスを開始。

 以前よりも、頭痛はそれほど無いが、少しチクチクとする痛みが、シルフィの頭を襲う。

 この痛みが有るという事は、カルミアとのリンクが成功している証拠でもある。

 だが、以前と違い、とても入りやすい。


「カルミアちゃん!」

「ッ!?シルフィ、な、何で……」

「ほら、やっぱり来てくれた」


 ようやくたどり着いた先に、カルミアと、あのエルフの少女を見つけた。

 彼女とちゃんと会うのは初めてだったので、シルフィはちょっと、目を見開いてしまう。

 肝心のカルミアは、その子の後ろへと回ってしまった事は、少し目を逸らしておく


「あ、貴女は」

「こうして会うのは初めてだね、シルフィさん」

「は、初めまして、えっと、何て呼べば」

「今は良いよ、時間、無いんでしょ?ほら、渡すの有るんでしょ?」

「え、あ、うん」


 少女の陰から出て来たカルミアは、シルフィの姿を見るなり、口角を少し上げたが、すぐに目をそらし、笑みは消えてしまう。

 この仕草に、シルフィは少し耳をペタンと落としてしまう。


「……カルミア、ちゃん、まだ、怒ってるの?」

「あ、いや、違う、そうじゃ、ない」


 シルフィの純粋な目に、カルミアは視線を下へ向ける。

 あんな事をしたのに、酷い事も沢山言った筈なのに、目の前のお人よしのエルフは、助けに来た。

 相にも変わらず、偽善者にも程が有る。


「(偽善者が……でも、ありがとう)」

「え、えっと、その」

「解ってる……ほら、ラベルクが居るんなら、これに触れれば、アンタ等の知りたいことが、すぐにわかる」

「え」


 ここに来た理由を話そうとしたシルフィを遮り、カルミアは手のひらサイズの黄色い光の玉を、シルフィに手渡す。

 中身は、アーセナル・ドラゴンの設計図。

 マザーの中には、このドラゴンの設計図は保存されていない。

 そもそも、ドラゴンのサイボーグ化を設計したのは、カルミア自身。

 だからこそ、彼女達の知りたい事は、全て彼女が知っており、その全てを、玉の中に入れておいた。

 そして、シルフィ辺りが来るだろうと思い、対処方法も一緒に記載されている。


「……これって」

「……」

「……」


 カルミアから渡された設計図と、アーセナルの対処方法を閲覧したシルフィは、目を見開く。

 その方法は、カルミア達二人が犠牲になる者と言う、とても容認できない物。

 当然、そんなものを見せたのだから、二人そろってバツの悪い顔をしてしまう。


「あのドラゴンに接続されている貴女の脳、それを破壊して、相手の魔力制御を狂わせ、防御能力とカルミアちゃんの制御をはく奪した後で、カルミアちゃんがレッドクラウンと一緒に自爆、こんなの」

「残念だけど、それしか方法はない」

「そんな」

「(そんな顔すんなよ、でも、これで良い、他にも方法は有るけど、これでいいんだ)」


 涙目になるシルフィを見て、カルミアは心を傷める。

 本当は、まだ方法はもう一つある。

 だが、その方法を使っても、結局は彼女を失い、レッドクラウンとカルミアだけが助かる。

 そんな道でしかない。

 シルフィに渡したのは、カルミアが望む道なのだ。


「(この子には、沢山迷惑をかけたし、何より、アタシを受け入れる人間は、もういない)」


 助かった所で、カルミアを受け入れてくれる人間は居ない。

 いや、居ない事は無い。

 その事は、カルミアも十分承知している。

 目の前に居る、超お人よしエルフ、彼女であれば、間違いなく受け入れてくれる。

 だから、いや、だからこそ、犠牲とならなければならない。

 本当の善人を、自分と言う忌むべき存在のせいで、傷つけたくなかった。

 その覚悟は、既にできて居たからこそ、カルミアは、犠牲になる選択をした。


「他に、他に方法がある筈、何か、良い方法が」

「(これで良いんだこれで)」

「……」


 シルフィは、渡された設計図を端から端まで読み漁りだす。

 だが、その内容は、シルフィの頭で理解するには、とても複雑な物。

 とてもシルフィ一人では、代案を考える事はできない。

 早く諦めて、ジャック達の援護に回って欲しい。

 そう考えていたカルミアを見透かしたのか、エルフの少女は、横から告げ口する。


「防御を崩した後、カルドを破壊すれば、どうにかなるよ」

「え?」

「ちょっと!」

「私は、抜け出そうとすれば、強力な電気が流れて脳死するようになってるけど、カルミアは違う、カルドさえ倒せば、彼女とレッドクラウンだけは助かる」


 そう、別にカルミア達が自爆しないでも、カルドを倒せば済む話だ。

 しかし、その方法でも、少女は死ぬ。

 救出を阻む為に、正しい手順を踏まなければ、脳を破壊する設計があだとなってしまった。

 カルミアに通ずる三人全員を助ける事は、そもそも無理なのだ。


「で、でも、それじゃ貴女が」

「そうだよ!アタシのせいで、アンタは抜け出せなくなってる、これは、せめてのしょく罪!アタシもアンタと一緒に死ぬ!」

「……私は、もう十分生きたから、親に捨てられて、友達も何も無く過ごして、気づいたら体をいじられて、そんな人生」


 暗い笑みを浮かべ、語られる少女の過去に、二人は黙ってしまう。

 だからと言って、死んでいい事にはならないが、その目からは、もう生気が感じられない。


「そんな私の、初めての友達、カルミアを、どうしても助けたかった、でも、その行動が、かえってこの子を狂わせた」

「そ、そんな事、もういい!もうなんとも思ってない!むしろ、感謝しか」

「……カルミア」

「な、なに……うわッ!?」


 少女は、自らの罪を告白すると、カルミアの事を持ち上げる。

 自分の軽はずみな行動で、最愛の人を狂わせてしまった。

 その罪の重さを感じながら、少女はカルミアと唇を重ねる。

 少女は目一杯の笑みを浮かべると、カルミアの事を、シルフィに託す。


「ちょ、ちょっと!勝手に何さ!こんな、こんな事して!」

「……この子をお願い!」

「ッ!」

「ちょ、おい!クソ、クソオオ!!」


 カルミアをシルフィに託した少女は、二人を精神世界から締め出すと、涙を流しながら、少女は二人に背を向ける。

 背後から聞こえて来る、カルミアの叫びに、心を傷めながら。


「クソ!最後の最後で、裏切ってんじゃぇよ!アセビ!こっち見ろよ!折角、名前考えてやったってのに!!アセビぃぃ!!」

「……ごめんね、ありがとう」


 最後の最後で、裏切ってしまった事に、アセビは大粒の涙を流す。

 しかも、カルミアははるか昔に交わした約束を覚えていた。

 罪悪感に押しつぶされそうになりながらも、アセビは振りむかない。


「カルミア、私の最愛の人に、こんな顔、見せられないよ」


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