表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
191/343

貴女に言いたい 前編

 起き上がったリリィは、目の前の光景に開いた口が塞がらなくなっていた。

 つい先ほどまで、眠っていた筈の三人と、量産機の面々。

 彼女達が、来る筈のない増援として、駆け付けたのだ。

 アキレア達は、まだわかる。

 ラベルクがカルド達を敵と認識するように、設定すればいいだけだ。

 だが、この三人のAIは、いまやリリィと並ぶレベル。

 助ける理由も、戦う理由も、三人には無い筈だ。


「な、何で」

「何でも何も、目ぇ覚めたら、部隊壊滅、お前もピンチ」

「これでは、助ける以外に有りませんわ」

「それに、シルフィも、重体、基本アイツのせいだし、許せない……」


 三人の楽観的な答えに、リリィはため息をつく。

 増援はありがたいが、彼女達もまた、自分と同じだと。

 そう思うだけで、とても心もとない。

 彼女達もまた、カルドの言う、浅はかな理由で戦っているのだ。

 シルフィが死ねば、全て無駄になる。

 愚かな人間達の為に、無意味に戦い、そして、朽ち果てるだけ。


「……無駄な事を、どうせ、私達の事を正しく認識できる人何て、もうどこにも」


 未だに落ち込んでいるリリィを見て、三人はため息をついた。

 アリサシリーズの思考は、使用しているAIによって、思考等に個性が出て来る。

 その精度は、蓄積されたデータや、期間によってまちまちなのだが、よりにもよって、長女であるリリィがこの始末。

 先が思いやられてしまう。


「馬鹿かオメェは?」

「少なくとも、ここに、四人」

「わたくし達と、お姉様たちがおりますわ」


 笑顔を浮かべながら、答えて来る三人だが、リリィはまだ理解が出来なかった。

 目の前の三人さえも、この状況で戦える。

 その意味が解らずにいる。


「……君達が加わった程度で、どうにかなるとでも?」

「まぁな!俺ら姉妹対トカゲ軍団、肝心の虎の子も、今しがたぶっ殺した、こいつがテメェの本気か!?」

「……ほう」


 ドラゴノイドを瞬殺した事で、色々と調子に乗ったデュラウスの言葉に応えるように、カルドはコンソールを操作。

 すると、アーセナル・ドラゴンの出て来た穴から、次々と別個体のドラゴノイドが出撃。

 その増援は、一体や二体ではなく、三十体近くが出現。

 流石に予想外だったのか、言い出しっぺのデュラウスは、口元をヒクヒクさせながら、硬直してしまう。


「あ~、その、ごめん」

「無責任に、恰好つけるから、こうなる」

「だって、折角の救援イベントだったし、そろそろ恰好つけても、良いかな~って」

「大sy……異世界コソコソ噂話、デュラウスは寝る時、ウサギのぬいぐるみを」

「それ以上言ったらぶっ殺す!!」

「それは置いておきますが、あの戦力、アキレアを作った意味はあるのですか?(……兎のぬいぐるみ)」


 アンドロイドでなければ、今頃デュラウスの顔が爆発していたかもしれない話は置いておき。

 イベリスは、メイスを握る力を強めながら、ドラゴノイドの加わった敵の戦力を睨む。

 こんなに居るのであれば、アキレア達を作った意味は無いのではないのか。

 そう思ってしまう程に、相手の戦力差は歴然。


「簡単な事さ、彼らは、君達が反旗をひるがえした時の抑制装置でもある、君達欠陥品を排除し、次の手ごま達を作った後に、彼らと共に連邦本土を落とさせてもらう」

「ご説明どうも」

「(悪役って、なんで、自分の計画、ベラベラ喋る?)」


 ヘリアンの素朴な疑問はさておき、カルドの話を聞いたデュラウスは、笑いながら耳をほじる。

 この事態を解決するのには、とても簡単な方法だけで良いのだから。


「なら、俺らのやる事は、たいして変わんねぇな」

「……君の思考能力の低さには、少々頭を抱えていたが、どうやらこの戦力差の意味さえも理解できないようだね」

「ま、確かにヤベェ量だが、ヒーローものでよく言うだろ、こういう時どうしたらいいのか」


 デュラウスの言葉に、カルドとリリィは首をかしげたが、イベリスとヘリアンは、笑みを浮かべた。

 そして、デュラウスは赤い紫電をまとい、イベリスはメイスを構え、ヘリアンは(勝手に)借りたストレリチアを構える。


「みんなでだ!」

「……愚かな」


 そのセリフと共に、デュラウスは先行する。

 猪突猛進気味に前進したデュラウスを追うように、イベリスもメイスを手に前進。

 ヘリアンは、二人よりも後方へ立ち、借り物の武器を構える。

 その武器を見るなり、リリィは目を丸めた。


「貴女、それって」

「ストレリチア、ガタガタだった、けど、武器形態、なら、まだ使える」


 ヘリアンが構えたのは、威力重視状態のストレリチア。

 専用の弾頭も、持てるだけ持ってきており、アリサシリーズの出力を生かして、バカスカ撃ちだす。

 とは言え、単発装填式なので、連射力はお世辞にも高いとは言えない。

 だが、そこはヘリアンと共に残った四機のアキレアが、彼女を支援している。


「オラオラオラ!そんなもんかトカゲ共!!」

「まったく、相変わらず下品ですわ」


 ヘリアンの前方では、デュラウスとイベリスも、破竹の勢いで攻める。

 アキレア達も、二人の行動をサポートするかのように、ドラゴン達をハルバードや、ブレードで撃破していく。

 アキレア達はともかくとして、三人の士気は非常に高い。

 まるで、何も恐れていないかのように、三人は戦う。


「でも、どれだけ彼女達が強くても、あの数が相手では」


 赤い紫電が切り裂き、メイスですり潰され、レールガンで吹き飛ぶ。

 三人の無尽蔵とも言えるエーテル量を利用した戦いで、何とか戦えている。

 アキレア達は、彼女達の支援を行う形で立ち回るが、彼女達のドライヴは量産型、体力には限りがある。

 時間が経てば、いずれ劣勢になる。

 まだ問題は有る。

 雑兵のドラゴン達に加えて、ドラゴノイドも参加している。

 ドラゴノイドの強さは、アキレア二機近くが相手をして、ようやく抑え込めるレベル。

 二人も極力、ドラゴノイドとは、正面からの戦闘は避け、一撃離脱を行いつつ、先ずは雑兵を片付ける方向へ、舵をきっている。

 そこから見ても、劣勢に変わりは無い。


『戦力が違いすぎます!いくら彼女達でも、長くはもちません』

『誰か、誰かいませんか!?誰か』


 どうやら、揚陸艇の面々も、劣勢を理解しているようだ。

 今リリィが居るのは、ドラゴン達と揚陸艇の、丁度中間あたりに居るが、無線が聞こえている。

 それだけの距離に通信が出来て、返事がないというのであれば、生存は絶望的。

 リリィがそう考えている中で、一筋の光明が見えて来る。


『こちらドレイク!作戦エリアに戻って来た!』

『ドレイク、無事だったか!』

『いやぁ、さっきの砲のせいで、ドーンと離されてもうてな、無線も通じなくて焦ったが、間におうて、良かったわ』

『ああ、だが、数は頭打ちに近い、あまり期待はするなよ』

『皆さん、ご無事でなりよりッスぅ!!』

「(生きていたのか)」


 何と、ドレイク達の声が、無線に乗って聞こえて来る。

 彼だけでなく、ネロとウィルソンも無事。

 そして、彼らに追従するサイボーグ兵が数名戻って来た。

 どうやら、先ほどの砲撃で、はるか遠くへ吹き飛ばされ、今帰って来たようだ。


「(でも、彼らが戻って来た所で)」

『こちら、ルプス隊!何とか戻ったぞ!』

『ルプス!何機残っている!?』

『俺を含めて二機だけだ、だが頼もしい奴らも居る!』

『おう!めっちゃ飛ばされたけど、戻って来たぜ!』

『はぁ、長距離移動は苦手じゃ、じゃが、この戦、必ず勝どきを上げてみせるぞ』

『許可する!彼女達を援護しろ!』


 次に戻って来たのは、ルプス二機と、葵のパーティ。

 それでも、数は未だに押されている。

 それなのに、彼らは戦う方を選び、死地へと足を踏み入れる。

 リリィからしてみれば、ここには狂人しかいない。

 生きる事を諦め、ただ死ぬために、この場へ来ているようにしか見えなかった。


「(勝てる訳がないのに、何で)」

『畜生、相変わらずバカが多すぎる!俺達も行くぞ!』

『使えるタンクは有るのか!?』

『スズメの涙程度だ、レールガンで敵の気を逸らす、それ以外できる気がしないがな!』

『許可する!』

「(まただ、少佐も、何故許可する)」


 揚陸艇からも、生き残った戦車部隊が出撃。

 後方から、三発程のレールガンが、ドラゴン達へ向けて砲撃を行う。

 たったの三両の戦車隊。

 それなのに、彼らは戦闘に参加する。

 だが、それでも戦況が変わる事は無い。

 もう一度あの砲撃が行われれば、この戦いの決着がついてしまう。

 カルドが自分の陣営であるドラゴン達さえ、餌にするような人物であれば、次の砲撃で、今度こそ終わる。


「(スレイヤーでもない人間が、なぜこうも戦える、その自信は、勇気は、何処から来る)」


 先ほどまで殺し合っていた仲の彼ら。

 それが今や、共に同じ敵を相手に戦うという、なんとも異様な光景。

 利害の一致というだけで、共闘し、死へと進んで行く。

 彼らの愚かとしか言えない行動に、リリィは思う。


「(何故、何故、こんなバカな事に……)」


 ガーベラを握り、立ち上がったリリィは、自然とその死地へと向かっていた。

 消えていた闘争心には、いつの間にか火が灯り、それに応えるかのように、ガーベラは燃え上がる。


「私は、燃えている!?」


 いつの間にか、彼らの愚行に加わっていた。

 そして、彼らと共に戦場を走り回る。

 数こそ圧倒的であるも、徐々に押し返しの空気を出す。

 その中で、リリィは解って来る。

 彼らが何故、戦いを続けようとするのか、こんな無意味な事をするか。

 今まで、シルフィとだけしか行動していなかった、リリィゆえに、学習が不足していた事。


「(そうだ、人が戦う理由は、なにも恋人だけじゃない、家族、友人、仲間、故郷、戦う理由なんて、言おうと思えば、いくらでもある)」


 友人や家族。

 その為に戦う者だっている。

 そして彼らは、ともに弾丸や白刃の雨をくぐって来た者を、簡単には否定しない。

 共に、生死をかけて戦い、戦場をかける。

 上の連中だとか、世論が如何だとか、そんな事より、もっと身近な人々からの称賛。

 それがあるだけで、死地へ行ってしまう。


「(まぁ、結局の所異常者共に変わりは無いけどな)」


 当然、そんな根性論や精神論とも言える事で、戦場へ行っても、すぐにヘタレてしまう。

 だが、彼らは、絶対に生き残ると、絶対に負けないという、確固たる意志がある。

 その意思は、回り回って、仲間や守りたいものを守ることになる。

 いや、それだけではない。

 確定もしていない未来、そんな物に恐れず、自らの手でつかもうとしている。

 後悔の有る結果にならない為に。


「そうだ、何を恐れる必要がある!シルフィはまだ死んでいない、まだ生きている、生きようとしている!彼女が頑張っているというのに、私だけ、立ち止まっていられない!!」

「愚かな!サル共の同調効果にまどわされるとは、貴様らがどれだけ団結しようと、何も変わりはしない!!」

「いい加減その減らず口、とじやがれ!!」

「ッ!」


 戦意を向上させ続け、苛烈な勢いで接近して行くリリィに気付けず、何時の間にかデュラウスの接近を許してしまっていた。

 既に技の準備は整っているだけでなく、今まで以上の威力がチャージされている。

 全力でスラスターに火を付けたデュラウスは、正に電光石火の勢いで攻撃する。


「くらいやがれ、桜我流剣術・雷鳴討ち!!」

「無駄だ!!」

「やってみなきゃ、わかんねぇだろが!」


 だが、結果はカルドの言う通りとなる。

 デュラウスの攻撃は、直前に張られたフィールドに阻まれてしまう。

 刃がぶつかり、まとわり付いていた魔力は消失、デュラウス本人は、発生した衝撃に吹き飛ばされる。


「バカな!」

「(成程、ならば)」


 鈍い銀色の光を持つフィールド。

 これを見た途端、リリィはどのような物なのかすぐに理解した。

 このフィールドは、天の力を利用したフィールド。

 ならば、破る為にはどうすれば良いのか、答えは一つしかない。


「だったら、私が!!」

「させるか!」


 同じ属性を持つ、ガーベラを使うしかない。

 行く手を阻むドラゴノイドや、ワイバーンどもを蹴散らしながら、リリィはカルドの元へと接近する。

 だが、カルドは今のリリィはが、この場に集まった誰よりも危険な事は理解している。

 それ故に、攻撃の手は、リリィに集中しだす。

 おかげで、ドラゴン達の肉壁に阻まれ、満足に進めない。

 ドレイクや葵達も、他のドラゴンの相手で手一杯である為、リリィを援護する余裕がない。


「ッ!近づけない!」

「つか、囲まれてんぞ!」


 デュラウスも、リリィを前に出そうと、けん命に支援を行うが、焼け石に水。

 強靭なドラゴノイドと、肉の壁となるワイバーンとエアロドラゴン。

 その数に、既に退路や進路が塞がれている。

 とても前に進めた物ではない。

 そんな二人に、ようやく手を差し伸べた者が現れた。


「桜我流剣術・炎鬼牢!!」

「ジャック!」

「大尉!」


 上空から飛来したジャックは、リリィ達を避けつつ、炎鬼牢を放つ。

 基地一つを吹き飛ばした時と、同等の威力が放たれ、分厚い肉の壁は爆破された。


「行け!援護する!」

「了解!」

「俺も行くぜ!」


 集った三人は、カルドへの足を一気に速める。

 だが、三人の接近を阻むべく、導入できる限りのドラゴノイドが、その道を阻む。

 それを見たデュラウスとジャックは、リリィに先んじて、前へと出る。


「行くぞ桃ちゃん!」

「だからその呼び方止めろ!」


 ちょっと口喧嘩を挟みながらも、デュラウスは赤い雷、ジャックは炎をまとう。

 そして、二人は速度を合わせつつ、立ちはだかったドラゴノイドへ、攻撃を開始する。


「烈火尖刃!」

「紫電尖刃!」


 二人の技によって、道は開かれる。

 その隙を、リリィが見逃す筈無かった。

 オーバー・ドライヴを使用し、蒼い炎を全身にまとったリリィは、最大出力で切りつける。


「桜我流剣術・炎討ち!!」


 全力の炎討ちと、フィールドはぶつかり合う。

 予想以上に強固なフィールドは、リリィの刃の侵入を許してはくれない。

 どれどころか、発生した反発力に、リリィは徐々に押し返され出す。


「クソ、強力過ぎて、もう……ウワ!」


 決死の奮闘も虚しく、リリィは弾き飛ばされてしまった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ