表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
190/343

その幸せを教えてくれた 後編

「さぁ、終わりの時だよ、ストレンジャーズ、そして、欠陥品の小娘共」


 カルドは、コンソールを操作し、主砲の状態を確認する。

 一発撃つのに、かなりのエーテルを使用するので、十分程チャージが必要になる。

 だが、必要はない。

 後は取り巻きのドラゴンたちだけで、どうにでもなる。

 戦線は崩壊、戦力もほとんど壊滅。

 ここにドラゴンさえ投入すれば、簡単に勝てる。


「……いや、君はまだ、諦めないつもり……でもないか」


 勝ちの芽しかないカルドの前に、一人の少女が立ちはだかる。

 蒼い髪の、欠陥品の一人。


 ――――――


 装備を整えたリリィは、ただ一人、カルド達の前へと立つが、この行動に困惑していた。

 腰に差しているガーベラを、手でいじりながら、何故こうなったのかという事に、眉をひそめる。


「(何故私は、こんな事を)」


 半覚醒状態となったシルフィ。

 そんな彼女に手を掴まれ、瞳を半分開いた状態で、こう告げられた。


『逃げないで』


 まるで、先ほどまでの会話を聞いていたかのような、シルフィの言葉。

 この後、すぐに気を失ってしまったが、こんな事を言われては、進まない訳には行かない。

 しかたがないので、今はエーラにシルフィの全てを任せたのは良いが、こんな無意味な行為自体に、リリィ自身理解できていなかった。


「……いや、たとえ無意味でも、せめて、最期は、彼女の命令で」


 最期の戦闘になるかもしれない、この状況。

 せめて、最愛の人からの命令であれば、悔いはない。

 いや、せめて言えば、シルフィの隣で死にたかった。

 そんな願望も、有るにはある。

 それでも、最期に最愛の人からの命令で、アンドロイドとして死ぬのも、一興だった。

 だが、少しでもシルフィの事を感じ取れるように、彼女の持つ、形見の石を拝借してきた。


「さて、行くと、しますか」


 首にかけている石を少し弄ったリリィは、石をスーツの中へとしまい、ガーベラを引き抜く。

 蒼い炎を発生させ、ドラゴンの群れへ、全力で足を進める

 援護は無し、オマケに、くつがえしがたい戦力差。

 この世界に来てからは、何時も通りの状況とはいえ、なんの保証もない。

 勝てる可能性なんて、もはや微塵もない。

 リリィの接近と同時に、進軍を開始したドラゴンたちを見て、リリィはガーベラを握る力を強める。


「せめて、できるだけ多くを道連れに」


 そんな消極的な意思を見せながらも、リリィはドラゴン達の放つ攻撃を全て回避する。

 シルフィの射撃に比べれば、素人同然だが、威力は非常に高い。

 ドラゴン系は、他の魔物の追従を許さない程、高い魔力を有する。

 ドラゴン達が例外なく産まれ持って得る特性。

 その魔力を利用し、行われる砲撃。

 そして、サイボーグ化に伴い、搭載されたミサイルポッド。

 これらを利用した遠距離攻撃は、意味をなさず、リリィの接近を許してしまう。


「トカゲが」


 ドラゴン達に着せられた装甲、その下に有る強靭な外殻と、発達した筋肉、骨格。

 それら全てを、リリィは一撃で切断する。

 切り捨てたのは、ロードドラゴンと呼ばれる、トリケラトプスのようなドラゴン。

 元々、怪力や強固な外骨格を持った個体。

 それがサイボーグ化される事によって、より強力となり、角もドリルに切り替えられている。

 だが、巨体ゆえに動きは単調、リリィにはちょっと硬い位の相手だ。


『誰だ!?だれが戦っている!?』

『解析中……機体コード、AS-103-01、リリィです!』

「(無線、回復したのか)」


 戦っている中で、揚陸艇からの無線を拾ってしまう。

 恐らく、少佐達は回線を全開にしてでも、仲間を見つけ出そうとしていたのだろう。

 そんな推測をたてながら、リリィはロックドラゴンを両断する。

 ティラノサウルスのようなドラゴンで、一番武装を多く施されている。

 背負っている大型のライフル、手のひらに仕込まれたマシンガン、そしてミサイル。

 通常の兵士や、その辺の冒険者であれば、軽く潰せるだろうが、リリィの敵ではなかった。


『戦える者は居ないか!?彼女を援護しろ!』

『探していますが、この状況では』

『クソ、誰か、誰か居ないか!?』

「だれも居ませんよ、こんな状況では」


 呼びかけを続ける少佐であるが、リリィは完全に諦めを見せている。

 確かに、この状況では、生き残っている者は少ないと思うのも、無理はない。

 それだけならば、まだ良いかもしれないが、先の攻撃で、多くの兵士が戦意を喪失している。

 しかも、助ける対象は、先ほどまで敵だったアンドロイド。

 今の士気では、助けようと思う事すら難しい。


「いや、誰も来なくとも、せめて、お前だけは」


 プテラノドンのような見た目の、エアロドラゴンを、リリィは上空で仕留める。

 空を飛ぶたに、比較的軽装で、武装も少ない。

 だが、尻尾のような物は、レッドクラウンのように成っており、先端のブレードで攻撃してくる。

 ワイバーン達も加えると、かなりの数であり、それが彼らの本当の武器とも言える。

 そんな彼らを足場にし、リリィはカルドの元を目指す。


「アイツのせいだ、そもそも、アイツのせいで!」


 リリィは、足場にしたワイバーンの頭にガーベラを突き刺しながら、カルドを睨む。

 アーセナル・ドラゴンの頭部で、悠々としている彼を見ただけで、リリィの怒りは沸騰する。

 リリィは思い出した、そもそも、カルドというアンドロイドが、今回の不幸の発端。

 彼のせいで、シルフィと戦うハメになり、彼女は重体となった。


「お前だけでも!」


 因果関係の発端である存在を見つけた途端、リリィの戦意は向上する。

 絶対に許せなかった。

 この事態を引き起こした、カルドというアンドロイドを。

 正面から突っ込むリリィに、カルドはゴミを見るような目を向ける。


「欠陥品どころか、もはや、獣だな」

「黙れ、このクソ野郎が!!」

「……君如き、僕が相手をするほどでもないか」

「何かした所で!」


 コンソールを操作したカルドは、もう一種類のドラゴンを呼び寄せる。

 その間に、リリィはカルドに接近。

 ガーベラの刃を、彼の首へと向けた。


「無駄だよ」

「ッ!!」


 カルドの言った通り、リリィの攻撃は通らなかった。

 それどころか、突然襲い掛かった衝撃に、リリィは吹き飛ばされてしまう。


「チ、一体、だれがッ!」


 地面に激突したリリィは、その衝撃を生み出した犯人を捜そうとするが、踏みつぶされ、阻まれてしまう。

 顔を踏まれながらも、リリィはその犯人を視界にとらえた。

 その直後、犯人に蹴り飛ばされたリリィは、すぐに受け身を取る。


「ッ……ドラゴノイド、あんな奴まで」


 立ちはだかったのは、人とドラゴンを合わせたような見た目を持つ存在、ドラゴノイド。

 二メートル近く有る体格に、二枚の大きな翼。

 武器こそ持っていないが、彼ように調整されたエーテル・ギアを装備している。

 だが、リリィにとっては、ドラゴノイドが出て来た所で、やる事はかわらない。


「退きやがれ、トカゲ人間が!」


 さっさと倒して、カルドを破壊する。

 そうしたかったが、リリィの思い通りには成らなかった。


「ッ!?こいつ」


 片腕で、リリィのガーベラを防ぎ止めた。

 この一撃で、ドラゴノイドの戦闘力を把握したリリィは、予定の変更を余儀なくされる。

 硬い甲殻の防御力、体格に見合わない俊敏性を見せつけられた。

 先にこの化け物を倒さなければ、接近は不可能だ。

 ガーベラは弾かれ二人の戦いは始まる。


「チ、強い」


 早く、重い攻撃。

 ガーベラで受け止める事で、真面に受ければ、リリィでも致命傷は避けられない事が、伝わって来る。

 しかも、防御まで厄介だ。

 リリィの攻撃は、文字通り歯が立たず、強靭なウロコに防がれてしまう。

 今まで戦ってきた魔物とは、比較にならない強さを見せつけて来る。


「何故戦う?君にはもうその理由がない」

「黙れ、高みの見物きめてる奴が」


 ただでさえ厄介な敵と戦っている所に、カルドが言葉による横やりを入れて来る。

 だが、今は目の前の敵に集中しなければ成らない。

 だというのに、カルドは容赦しない。


「君がどれだけ頑張ろうと、全て無意味だ」

「黙れ!」

「戦った所で何になる?誰が理解する?君がその身を削り、勝利を掴んでも、誰が称賛される?」

「うるさい!」

「君がどれだけ、人の為という真実を掲げても、アンドロイドだという事実が残る、そうなればどうなる?」

「黙れと言っている!」

「しょせんはプログラムされた行動と、けなされる、人間の物と比べて、遥かに下にしか見られない」

「……」


 リリィは、何も反論できなかった。

 ただ、沸き上がって来るのは、人間への怒り。

 今リリィが戦っているのは、シルフィの為。

 生きている人間の中で、彼女以外に愛着は無い。

 こうして、アリサシリーズになる前から、ずっとそうだった。

 カルドの言う通り、アンドロイドは、人間程正当な評価を受けない。

 仮に、今ここでカルドを殺しても、手柄になるのは、少佐やジャックの辺り。

 リリィには、何の褒賞も無い。


「どれだけ傷付こうと、どれだけ身を削ろうと、君が認められる事は無い」

「ッ」

「アンドロイドが評価を貰う事は間違っている、君だってそう思っていただろう」

「うるさ、ガッ!」

「だが、君は感情を得た事で、求めてしまった、知ってしまった、今まで得る事の無いものを得た事で、愛や、幸せと言う物を」


 カルドのセリフに、心をかき乱され続けるリリィは、ドラゴノイドの一撃を受けてしまう。

 同時に、リリィは今の戦いにさえ、疑問を抱いてしまう。

 先ほど、シルフィは覚醒したが、その後すぐに意識を手放してしまった。

 エーラの治療を受けているとはいえ、絶対に助かるみこみはない。

 彼女を失えば、本当にこの戦いに意味を無くしてしまう。

 勝っても負けても、一人。

 ただ、傷つき、失うだけ。

 結局、ジャックのように強く成れない。

 そんな絶望を抱きながら、リリィは地べたに這いつくばる。


「僕と彼の理想を邪魔するには、君の覚悟も動機も、全てが浅すぎる」

「……」

「君に有るのか?全てを捨てて戦う理由が、誰からも称賛されず、見られず、理解されず、孤独の中で戦う、覚悟があるか?」

「……」

「その姿が良い証拠だ、守る物が有るから、理解されたいから、そんな事の為に戦うような君に、僕は倒せない」


 もはや、ドラゴノイドのダメージ以上に、精神へのダメージで、リリィは戦意を喪失する。

 自分の弱さ、浅はかさ、その程度を知った事による挫折。

 彼の言う通り、守る物、理解者、それらを持つジャックの音沙汰がなくなった。

 この事実が、リリィにのしかかり、敗北感を募らせる。


「……たったこれだけで、君の心は折れたか、やはり、君にはその心臓は相応しくない」


 虚無となったリリィの首は、ドラゴノイドの手に捕まれ、そのまま持ち上げられる。

 ドラゴノイドは、カルドからの命令に応えるため、貫き手の構えを取る。

 その時だった。

 突如、二人の間に、落雷が鳴り響く。


「ッ!?何だ」


 落雷が響いた直後、リリィは無傷で地面に落ち、ドラゴノイドの両手は、両断されていた。

 そして、両腕を失ったドラゴノイドは、空高く打ち上げられ、後に放たれたレールガンによって、身体の大半を消失する。


「守る物がねぇ?」

「理解されない?」

「そんな、つまらない戦い、ごめん」


 落雷によって発生した煙がはれ、攻撃を仕掛けた面々の姿が現れる。


「あ、貴女達」

「よぉ、増援到着だぜ、お姉ちゃん」


 ついさっきまで眠っていた、デュラウス、ヘリアン、イベリス。

 この三機と、生き残ったアキレア十七機。

 彼女達が増援として駆けつけたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ