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糸使うやつは、大体強い 中編

ちょっと長めです。

戦闘描写が、まだぎこちなく、申し訳ございません

 全身が燃える。

 そんな感覚をシルフィは全身に覚えていた。

 使用したスキルによって、強化された肉体は、始動したエンジンのように、内側から熱がこみ上げる。

 自らを拘束していたナイト・スパイダーをねじ伏せ、周囲に居る蜘蛛達をにらみつける。

 すると、獣としての直感よりも、仲間を殺されたことへの怒りを露わにした三体は、シルフィへと襲い掛かってくる。


「止せ!お前たち!」


 アラクネの静止を聞くことなく、ナイト・スパイダー達は二本の前足に生える刃を、シルフィに向ける。

 三方向からの同時攻撃、完全に避けきることは容易ではなくとも、シルフィはやってのけた。

 まるで死角が無いかのように、ナイトの武器である前足を全て砕き、三匹のうち一体に、正拳突きを繰り出す。

 アリサの一撃を防ぐ強度の甲羅を持つナイト・スパイダーの外殻は、シルフィのスラリとした腕によって砕かれ、紫色の鮮血が吹き出る。

 もはや、勝負はついているとしか思えないその個体に対して、左アッパーが繰り出され、頭だけがくす玉のように破裂した。

 その瞬間、残りの二体と、自らの本能に従い、前に出なかった蜘蛛達は、心の底から恐怖した。

 本能が語る。

 太陽が西から昇っても、自分たちの勝てる可能性はゼロでしかない。


「言ったでしょ、こうなったら、あんたらの命は保証できないって、自分でも抑えられないんだから」


 呼吸を乱しながらも、鋭い眼光で、周囲の蜘蛛達を威圧する。

 押しつぶされそうな圧迫感を覚え、アラクネ以外の蜘蛛達は委縮し、木陰へと下がってしまう。

 唯一下がらなかったアラクネは、シルフィへ憤慨の視線を送ると、取り上げたマチェットを、シルフィへ投げつけ、そのままシルフィの手へと戻す。


「どうも」

「こちらこそ、よくも可愛い部下を二人も、殺してくれたわね!」

「ッ!?」


 激怒したアラクネは、勢いよく腕を振るうと、シルフィの腕は引っ張られ、体は宙を舞い、アラクネが何かを操作するような挙動をとると、地面に勢いよく叩きつけられる。

 完全に自由を奪われている右腕には、光る線が絡みついており、アラクネの腕へと伸びていた。


「(糸?いつの間に!?)」


 考えられるのは、先ほどアラクネがマチェットを奪っていた時に、糸を巻き付けられてしまったのだろう。

 そんな事を考えている余裕は、シルフィには無く、糸に掛かった魚のように引きずられ、岩や木に叩きつけられる。

 手を放そうにも、糸は拳に絡みつき、握った状態が維持されてしまっている。


「如何したの!それで終わりなのかしら!?」


 そんな挑発を受け、黙って居られるはずも無く、シルフィは木の幹で受け身をとり、すぐに糸を引きちぎる。

 力いっぱい木を蹴り飛ばし、一気にアラクネとの距離を詰める。

 容易く近づかせるようなアラクネではなく、手首より伸びる糸を操り、レーザートラップのように、糸を張り巡らせ、進行を防ぐ。

 糸の細さは、普通の人間が視認することの困難なレベル、しかも今は夜だ、視認はより難しい物と成っている。


「小ざかしい!」


 張り巡らされた糸を、シルフィは容易に避けていく。

 マチェットで切ることも無く、手でちぎるでもなく、強化された身体能力を生かし、わずかな隙間を潜り抜ける。

 間合いに入り込んだシルフィは、マチェットを振るう。

 アラクネは、徒手空拳によって振るわれるマチェットを全て弾き、間合いから離れる。

 大きく腕を広げ、アラクネ自身の周囲に糸を展開させつつ、素早く腕を振るう。


「ッ!?」


 うっすらと何かが見えたシルフィは、瞬時に身をかがめた時、背後に生える木々が切り倒された。

 振るわれたのは糸、しかも拘束時に使用していた物より、はるかに強度の高いものだ。

 驚いている暇も無く、次から次へと糸による斬撃が繰り出される。

 その度に、周囲の木は切り倒され、先ほど張り巡らせた糸も、同時に切り裂いている。


「(こうなったら)」


 逃げ惑うシルフィへと、糸は繰り出されるなかで、その辺に落ちていた石を投げつける。

 強化された肩の力によって、石の速度はライフル弾並みと成り、アラクネへと迫るが、展開している糸によって、石は粉々に砕け散ってしまう。


「無駄よ、私の糸の前には、どんな遠距離攻撃も防ぎ、対象を切り刻むわ!」

「だったら!」


 次にシルフィが投げつけたのは、アラクネの斬撃によって切り裂かれた木の幹。

 しかし、木の幹は空中で切り裂かれ、空中に木の葉が舞い散る。


「無駄だというのが」

「本当にそう?」


 セリフを言い終える前に、突如木の葉の中からシルフィが現れる。

 間合いに入り込んだ瞬間、シルフィはマチェットを振るい、アラクネの肉体を切り裂こうとする。

 ほんの一瞬、反応の遅れたアラクネに、刃が通るかと思われたが。


「クソ!」


 アラクネの背に生える腕によって、その一撃ははじかれてしまった。

 シルフィは攻撃の手は緩めず、一定の間合いを維持し続ける。

 もしも間合いを取られてしまえば、再びこれだけ接近できる機会は、簡単に作れるものではない。

 この機会を逃すまいと、身を削る思いで、マチェットを振るうも、物事は簡単には運ばなかった。

 アラクネの背より生える足は、ナイト・スパイダーの前足以上の強度を誇り、パワーアップしたシルフィの腕力であっても、切断はできず、弾かれてしまう。

 背足からの攻撃を避け、弾き、本体への攻撃を続行するも、四本の足は、シルフィの動きを全て掴んでいるように、直撃を許すことは無かった。

 四本の足から伝わる衝撃は、本人にも伝わっている、今のシルフィの攻撃をまともにくらえば、自分の体はただでは済まないというのも解る。

 一瞬でも油断すれば、自分はミンチに成りかねない中であっても、アラクネは一筋の光明があった。


「(なるほど、やはりあの噂は……でも、その状態が何時まで持つかしら?)」


 異常なまでの身体能力の強化、外観から見ても、もはや限界に達した状態が維持されているような状態だ。

 そんな状態が長引くことは、まずない、今の彼女は、長距離走で最初から本気を出して走っているようなものだ。

 アラクネの予想は、すぐに的中する。

 突如、シルフィは吐血し、攻撃の手は緩み、その隙をつかれてしまった。

 すぐに距離を取ったアラクネは、糸を操作して、シルフィに対して斬撃を加えだす。

 スーツの防御力で、斬られこそしなかったが、四方八方から鞭で殴る様にして、シルフィを叩く。

 シルフィは、唯一露出する顔面を守りつつ、アラクネの攻撃を耐え続ける。


「(もう、だからこれ使いたくなかったんだよ!)」


 そんな愚痴を心の中で叫ぶと、できる限り早く決着をつけられるように、ゴリ押しを始める。

 糸による鞭打をくらいながらも、再び間合いを詰めたシルフィは、再びマチェットを振るいだした。

 一度マチェットを振るうだけで、シルフィの骨はきしみ、筋肉は悲鳴を上げ始める。

 シルフィの使用したスキルは、身体能力を限界まで引き上げる代わりに、反動で自らの体を蝕むことになる。

 正に諸刃の剣だ、短期決戦で終わらせたくても、歪む視界に、痛む体が、呼吸と集中力を乱してしまう。

 遂にシルフィの体は限界を迎え、シルフィの体は、マチェットを振り下ろそうとする状態で硬直し、顔を青ざめたシルフィは、再び口から血を吹き出してしまう。


「ゲホッ!ゲホッ!」


 咳をする度に、胸の内が焼けるように痛み、同時に血を吹き出し、マチェットの高周波も止まってしまった。

 動きを止めた瞬間、一瞬にしてシルフィの体に疲労がのしかかり、体に鉛を流し込んだように重くなる。

 胸を抑えながら、膝から崩れ落ちたシルフィは、全身の痛みに苦しみだす。

 そんな状態のシルフィにアラクネは近寄り、無理矢理仰向けにしたシルフィの顔面を、何度も踏みつける。

 既に決着の付いた状態かもしれないが、まだ戦う気力が有ることを危惧し、徹底的に戦意を削いでいく。

 そして、シルフィの顔はあざだらけと成り、エルフの美しい容姿は一切感じ取れない


「それは自身のリミッターを外す事に等しい、余程体が頑丈でない限り、五分もせずにそうなるのよ」

「随分、詳しいね」

「ええ、そのスキルの研究もしていたからね、ウチの研究所、噂程度には耳にしていたわ」


 説明したアラクネは、糸でシルフィが暴れ出さないように拘束する。

 活動限界を迎えたシルフィは、もはや糸をちぎるだけの力はなく、それどころか、今は日常生活に支障が出る程、全身に激痛が走っている。

 結論から言って、逃げることも戦う事も出来ない状態なのだ。


「貴女には、今回の事とは別件で、色々とあるからね、殺さないであげるわ、もう一人も捕まえたら、すぐに貴女の元に連れて行ってあげるからね」


 そう言った瞬間、アラクネは、自らの第六感が避けろと叫ぶのを感じ、すぐにその場から逃れると、先ほどまで彼女が居た場所が爆散する。

 霞むシルフィの目に映ったのは、青い閃光を発する光の玉、此処まで来るのに何度も見てきたからこそ、誰なのかすぐにはっきりした。


「あ、アリ、サ……?」

「やれやれ、見ない間にたいそうな事に成っていますね」


 安堵しながら、聞きなれた声の方を見ると、シルフィは硬直してしまう。

 視線の先には、水濡れの状態の上に、頭の上に乗る鳥の巣のような物の上に、魚がピチピチと跳ね、エーテルガンを持たない左手は、糸の先に居る子蜘蛛をもてあそび、右腕には蛇が絡みつき、両足には狼型の魔物がかみついていた。


「アンタに言われたか無いわ!!ゴファ!」


 情報量てんこ盛りのアリサに、何時もの癖でツッコんだせいで、余計に吐血してしまい、顔もより青ざめてしまう。

 エーテルガンをしまい、体にまとわりついている物を全て取り払いつつ、シルフィの体を拘束する糸を斬る。


「もう、無理しないでくださいね」

「誰のせいだと、ウェッヘ!ウェッヘ!」

「最近シリアス続きだったので、そろそろこういったギャグを挟んだ方が良いかと、それから、こちら、落としていましたよ」

「ありがとう、そして今回はもうツッコミやらせないで」


 近くの木にもたれ駆けると、捕らわれた際に没収された弓矢を返却する。

 酷く疲弊したように呼吸するシルフィは、完全に疲れ果ててしまっている事が見て取れる、もう戦わせることは困難だ。

 辛いかもしれないが、アリサは何が有ったのかを、シルフィから聞き出し、大体の事を把握する。


「成程、あの方が件の人さらいですか」

「そう、それから気を付けて、糸がすごく頑丈で、何でも切るから」

「それは周りを見ればわかります、一先ず、休んでください、後は私が何とか致します」

「ありがとう、全身筋肉痛だから、しばらく休ませてもらうよ」


 ぐったりとしたシルフィを見届けると、アリサはもてあそんでいた子蜘蛛を、アラクネめがけて投げ飛ばす。

 当然、その中に酸が入っている事を承知のアラクネは、手首からトリモチのような糸の塊を出して撃ち落とす。

 子蜘蛛を撃ち落とした瞬間、アラクネは憤慨した表情になる。

 アリサの捕縛に行かせたのは、グランとナイトの二体、そのうちの一体であるグランの武器である子蜘蛛を持っているという事は、二体とも殺されてしまったという事だ。


「申し訳ありません、そちらの子分は、皆……」

「いいわ、自然界では、何時死ぬか解らないのだから(見た感じ、連邦の感じが無い、まさか、ナーダの?)」

「そうですか、まぁ貴女が何者か存じませんが、我々の邪魔をするようであれば、容赦は致しませんよ、体内のナノマシンからは、敵対反応が出ていますし」


 そう言い、戦闘態勢をとったアリサの瞳を、アラクネは見つめる。

 人間のような目をしているが、その奥には、わずかに何かが動いているように見える、まるでカメラのレンズのように。

 そして、アリサの正体に、薄々と感づきだす。


「(あの子、アンドロイドね、それも最先端の、それに、さっきあのエルフ、アリサって、まさか、噂に聞くアリサシリーズ?)わかっているわ、そうプログラムされているのでしょ?」

「ほぉ、話の早いご婦人ですね、私の正体を知り、なおかつ〈空間転移装置〉と言う単語、成程、貴女まさか」

「そう、そのまさかよ」


 アリサは口にする、自ら演算して導き出したアラクネの正体を。


「五の型で殺された母g『ちげぇから!』」


 全く持って見当はずれの答えを言い放ったアリサに、アラクネはツッコミを入れる。

 まさかここまで的外れな答えを言ってくるとは、思っていなかったらしく、続けざまにツッコミを入れていく。


「何で今の話からその子が出てくんだよ!誰が中身幼女つった!?誰が鬼と契約したって言った!?」

「え?違うんですか?では地底で根を張っている……」

「病気なんざ操れるか!」

「これも違う、ならば、まさか貴女、いや、そんな、どうしてこんなところに蜘蛛k」

「転生もしてねぇぇ!!」


 あまりにも見当はずれな回答の数々に加え、最後の最後にとんでもない人物の名前を言い出しそうになったので、丸太を投げつけてそれを阻止した。


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