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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
183/343

一緒に居られる事 中編

「……カルミアさえ、落ちたか」


 高みの見物で、戦況を見下すカルドは、カルミアが行動不能になった事を知った。

 ある種の必然とも言える事だが、この事実に、カルドは頭を抱えた。

 カルミアと言う少女は、精神的にもろい部分が、いくつも見られる。

 ならば、シルフィの持つ謎の能力のえじきとなる位は、想像に難くない。

 カルミアは、リリィ以上に人間味が強い。

 そのせいもあって、精神のぜい弱性は強く成り、シルフィに言いくるめられても、おかしくはない。


「だが……誰もが、君のようではない、君のように優しくはない」


 シルフィと言う、少女の言動。

 それは全て、無知から来るものがほとんどだ。

 リリィの中に有る記憶、そして、この場で拾えるだけ拾えたデータ。

 それらを解析しても、無知による偽善の発言でしかない。


「その優しさは、人を貶める、善意は常に、人類を地獄へと向かわせる、だれも、真実になど、興味はないのだから」


 そう言った事を呟きながら、カルドはコンソールをいじり、目を細める。

 カルミアとの闘いによって、ラベルクの頭部ユニットは破壊された。

 だが、用心深いラベルクやヒューリーが、頭部にマザーのキーを隠しているとは思えない。

 何しろ、リリィから見つけた、マザーのキーの半分は、エーテル・ドライヴに隠されていた。

 ラベルクも、隠し場所が同じであれば、頭部を消し去った後でも、義体かドライヴを回収できれば、何とかなるかもしれない。


 ――――――


 その頃

 シルフィは、ラベルクを抱え、エーラの元へと到着。

 大破したラベルクを目にしたエーラは、目を見開き、しばらく思考を停止させてしまった。


「おいおい、まさか、そいつが」

「……うん、私を庇って」


 鼻血で染まった口周りを、ウエットティッシュでぬぐい、エーラへと大雑把に報告をした。

 その報告に、エーラは頭を抱えた。

 ラベルクの義体は、リリィ達の物とほぼ同じ構造と、性能を有している。

 つまり、彼女達の数少ない金属フレームである、背骨と頭蓋骨の強度は、六機とも同格。

 その筈が、頭部は完全に消滅し、機能を停止してしまった。

 しかし、幾らか気になる部分もある。


「……レッドクラウン、予想以上だな」

「うん、私も、見た時は驚いたよ」


 アリサシリーズであるラベルクを、一撃で破壊した機体。

 今は沈黙しているが、まだ動いていたら、全滅していてもおかしくはない。

 そんな畏怖を覚えながら、エーラはシルフィの方を見る。


「しかし、何故奴はラベルクを破壊した?こんな事しても、あいつ等には何の得も……むしろ、マザーの完成が余計に遅れるだけの筈」

「あ、そう言えばそんな事言ってたね」

「おい」

「ご、ゴメン、色々有りすぎて、すっかり忘れてた」


 レッドクラウンの攻撃で、削り取られてしまった左ホホと、左耳に治療を施しながら、シルフィはエーラの疑問を考え出す。

 確かに、彼らの目的は、ラベルクの回収でもある筈。

 何か深い意味があるのかと、考えてしまうが、一度カルミアとリンクした事も有って、何となくその意図を察する。


「……きっと、私達が勝っても負けても、どっちでも良かったのかな?」

「なんだよそれ」

「なんとなくだけどね、でも、錯乱してたのも有るかな?結構無茶してたみたいだし」

「そう言うもんかね?」


 シルフィの答えに、少し頭を抱えるエーラは、端末を使って、ラベルクを改めてスキャンしていく。

 エーラ自身、カルミアの事を知っている訳ではない。

 だが、ほとんど錯乱しているような状態であっても、ドライヴだけは無傷にとどめている。

 キーボードを叩いていると、少しだけではあるが、彼女の行動にも、合点が行く部分を見つけた。


「……成程な、だが、お前も無茶すんな、ただでさえ、脳に障害抱えてんだから」

「あ、えへへ、でも、あの時はカルミアちゃんを助けるのに必死だったから」


 口周りを鼻血で汚した彼女を見て、どんな無茶をしたのか、エーラはある程度察していた。

 何しろ、しっかりと言いつけを守って運用していれば、鼻血を流す事は無い。

 それなのに、帰って来たシルフィの鼻が血だらけだったのだから、嫌でもなにをしたのか、理解できる。


「そ、それはそうと、代えのエーテル・ドライヴ有る?カルミアちゃんに潰されちゃって」

「……はぁ、親が親なら、娘も娘だな」

「う」

「まぁいい……とはいえ、ラベルクがこんな状態ではな……よし」


 エーラの反応を見たシルフィは、首を少しだけかしげる。

 すると、エーラはラベルクの義体を解剖。

 彼女の義体から、エーテル・ドライヴを取りだした。


「コイツを持って行け」

「え、でも」


 ラベルクのエーテル・ドライヴ。

 先ほどまでシルフィの使っていた、量産品とは違う。

 五百年以上の寿命を誇る、ヒューリー特別製の代物だ。

 そんな大切な物を使えなんて、まるで高級車を渡されたような感覚に成ってしまう。

 連続使用で三日しか持たない量産品とは、比べ物にならない代物だ。


「コイツ位しか代えの物が無いって、訳じゃないんだが、使ってくれ、コイツも、それを望んでいる筈だ」

「……」


 エーラの手に握られる、リリィの姉の心臓。

 彼女の命その物である、金属の球体。

 それを使うのは、不謹慎な気もするシルフィだが、最期にラベルクが言い放った言葉を思い出す。


『私の願い、託しましたよ』


 そう言い残し、彼女は散った。

 ならば、彼女の一部を使い、戦う事で、彼女の願いを叶えられるのであれば。

 そう思ったシルフィは、左耳に巻いていた包帯を、キュっと縛ると、エーラに背を向ける。


「お願い」

「おう」

「ッ!」


 エーラは、シルフィの背中に、ラベルクのエーテル・ドライヴをセット。

 供給を開始されたドライヴの魔力は、一気にシルフィの身体を巡る。

 量産品とはまた違った感覚を覚えながら、シルフィは体内の魔力を制御。

 体力もギリギリだったシルフィは、流れ込んで来る魔力の恩恵を受け、回復を始める。


「……じゃぁ、行ってくる」

「ああ、こいつ等も、すぐに向かわせる」

「ありがとう、頑張って」


 エーラにお礼を言い、再出撃をしようとした途端、揚陸艇は大きく揺れだす。

 その揺れは、爆発も伴っており、確実に良いものを貰った。


「どうした!?」

『こ、こちらブリッジ!敵に防衛線を突破されたっス!』

「何だと!?」

「すぐ助けに行く!」


 チアキからの報告を受けたシルフィは、血相を変えて部屋から出る。

 その時、通路でとある人物とぶつかる。


「ッ!?あ、貴女達」


 ――――――


 同時刻、揚陸艇周辺はギリギリの戦闘を強いられていた。

 既に部隊の二割を失い、徐々に押されつつあった。

 肝心のドレイク達は、前線でアキレア達の足止めをくっており、後方まで手が回らずにいる。


「畜生!数が多すぎる!」

「ルプス2!下がってミサイルを補給しろ!」

「そんな暇はない、デカいのは任せろ!小物をやれ!」


 歩兵と連携し、ルプス2は手斧を振り回す。

 ミノタウロスのような、大型の魔物に対して、果敢に応戦するが、それも長くは持ちそうにない。

 ほとんどの隊員は、射撃を行えるだけのエネルギーを失い、接近戦を強いられている。


「クソ、この数を相手に白兵戦かよ!」

「装甲も武器もガタガタだ、誰か武器をくれ!何でもいい!!」

「いっその事殴れ!武器代わりになるものは、そこら中に有る!」

「そんな無茶な」


 だが、予想以上の物量を前に、接近戦用の武器さえも限界を迎えていた。

 幾らエーテルで武器を強化しているとはいえ、戦いが長引けば、ガタが来る。

 中には、はがれた装甲板や、敵の使っていた武器を鹵獲し、使用している者もいる。

 完全に泥沼の戦いとなっており、最悪の持久戦を覚悟しなければならなくなっていた。


「マズイ、来るぞ!」


 乱戦の中、一人の兵士は、ブレスを吐こうとしているタイラントを発見。

 しかし、もはや防ぎ止める余裕はなく、妨害する程の余裕も無い。

 なす術も無く、ブレスは繰り出されてしまい、一部の兵士やアンドロイドは、その光に飲まれる。


「ホーリー・ウォール!!」

「ッ!!?」


 揚陸艇に着弾する寸前。

 危機一髪の所で、そのブレスは光の壁に阻まれた。

 その事実に驚く間もなく、今度は大量のグレネードが降り注ぎ、ツララが掃射された。

 繰り出された攻撃のおかげで、僅か数秒、敵の攻撃が緩み、彼らの前にその攻撃を行った少女たちが降り立つ。


「やれやれ、冒険ってのはやってみるもんだな、まさか、異世界の戦に参加できるなんてな!」

「全くじゃ、故郷を飛び出した時は、よもやこのような事に成るとは、想像もせんかったわ」

「あ、アンタ等!」

『間に合ったようだな』


 隊員の危機を救ったのは、葵達四人。

 全員黒いスーツを着用しており、今回の戦い様に、幾らかアップデートされた武器を携えている。

 揚陸艇内では、増援が間に合った事に、少佐は安堵していたが、それもつかの間になる。


「落ち着いている暇は有りません、まだ来ます!」

「おし、お前らは補給を済ませろ!その間は、アタシらで何とか食い止める!」

「けど、アンタ等民間人だろ!」

「ええい!この際細かい事はよい!さっさと具足を整えよ!」

「こいつらの言う通りだ!今は補給を済ませるぞ!」

「ああ、まかせな!」


 ストレンジャーズ隊員達を下げさせた葵は、金棒を振り抜く。

 その結果、目前まで迫って来た魔物達は、大小問わず半分に引き裂かれた。

 流石に予想外だったのか、葵は目を丸めた。


「この服すげぇな!何時も以上に力が出せるぜ!」

「だからと言って、油断は禁物じゃぞ」

「ああってるよ!」


 藤子からの忠告を受けながらも、葵は魔物を蹴散らす。

 サイボーグ化され、防御力も向上している筈の魔物達でさえ、葵の怪力には無力。

 次から次へと、葵の持つ金棒の餌食となる。

 そんな葵の活躍を目にしていたクレハも、張り切って攻撃を開始する。


「ほな、ウチもやってまうか!」


 クレハが嬉々としてバックパックから取り出したのは、大量に繋がれた手りゅう弾。

 全てのピンを抜くためのヒモを引っ張り、魔物が密集しているところへ投げ飛ばす。

 昨今の装甲に、ダメージを与える威力の有る手りゅう弾は、一斉に爆発した事で、複数の魔物を撃破。

 それを期に、クレハは次々と手りゅう弾を投げまくる。

 妙に肌をツヤツヤとさせながら。


「これが、異世界の発破……快感やで!!」

「ほ、程々にしてくださいよ」


 異世界の爆弾を堪能するクレハに、少し引き気味に成りながらも、ヘレルスは魔物達を倒す。

 回復職であっても、ダンジョンを渡り歩くだけの戦闘力は有している。

 とは言え、今の彼女達の役目は、補給の手伝い以外にもある。


「行くぞシルフィ、準備は良いか!?」

「はい!何時でも良いよ!」

「上手く乗るのじゃぞ、行け、氷龍噛壊(ひょうりゅうごうかい)!!」


 それは、シルフィが前衛へ戻る事の支援。

 その為に、藤子の最大の魔法を使用。

 シルフィは、形成された氷の龍の上に乗り、魔物達を蹴散らしながら進んで行く。


「ありがとう!藤子さん!」

「礼ならば後で受けおう!今はあのうつけ者を引っ叩いて来い!」

「はい!」


 氷の龍に乗って行くシルフィを見送った四人は、戦闘を再開。

 しかし、相手の数は膨大。

 いままで相手にしてきた魔物よりも、圧倒的な物量を誇る。

 オマケに、葵のパーティは四人、全ての揚陸艇をカバーできる訳ではない。


「あ、おいオッサン!あっちの船がヤベェぞ!」

『クソ、頼めるか!?』

「任せろ!藤子、ここ頼んだぞ!」

「よい!御大将には、指一本触れさせはせん!!」

『私は大将ではないのだが……』


 色々と細かい事は置いておき、葵は隣で苦戦する揚陸艇の援護へ向かう。

 残された三人は、補給の完了を待ちつつ、戦闘を続行。

 ギリギリの戦いである事に変わりは無いが、何とか持ち答えている。


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