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糸使うやつは、大体強い 前編

 シルフィの目の前に居る女性、彼女の手には奪われたマチェットが握られ、刃はシルフィに向けられる。

 この状況を、シルフィは飲み込み切れていなかった。

 自分たちは、アリサの装備を探すためにここに来ただけ、このような脅しをかけるのであれば、彼女らと喧嘩したガイに向けられる筈だ。

 ただ一つ、分かるとしたら。


「〈挨拶が遅れたわね、私はアラクネ、そちらのコードネームは何かしら?〉」


 アラクネの使用している言語は、アリサの母星にて使用されている言語の一つ。

 シルフィは自身の親から、何時か役に立つ時が来ると予見され、幼少の頃から教えられていた経緯があり、しっかり聞きとる事が出来ている。

 彼女の口より発せられた、連邦と言う単語、何度かアリサの口からも聞かされている。

 しかし、シルフィからすれば、連邦は彼女の父親の出身国である、という事しか知らされていない。

 別に自分はその国の兵士ではないと、一瞬思ったのだが、もしかしたら、父がその連邦と言うところで、兵士をしていたのでは?

 という考えも、同時に浮かび上がる。


「〈待って、レンポウの出身はお父さんで、私はこの近くの生れだよ!〉」

「〈そう、ならもう一人は如何なの?〉」

「〈もう一人?〉」

「〈ええ、貴女のお友達、黒い服を着て、貴女と一緒に居たのなら、連邦の関係者でしょ?〉」

「〈それは……〉」


 シルフィは困惑してしまう、アリサの事を何と答えたら良いのか。

 会って間もないこともあり、アリサが一体何者なのかさえも、教えられても居ないのだ、何と説明すればいいのか、シルフィには解らなかった。

 周りからしてみれば、何処の国の言葉なのか、全くわからない為、二人が何の会話をしているのか、全然把握できていない。

 その事も相まって、アラクネはこれと言って隠し事も無く、シルフィと話をしている。


「〈答えられない?なら、せめて何をしに来たのかを話して、彼らとは違う目的で来た事位、私にはわかるわ〉」


 何をしに来たのか、アリサに頼まれて、何をしに来たのかと聞かれても、ただのハイキングだと、答えるように言われている。

 理由としては、捜索している装備は、決して悪人の手に渡ってほしくないからだ。

 頼まれた通り、シルフィはただのハイキングだと答える前に、アラクネはマチェットをいじりながら、話題を変えだす。


「〈慈善で私を倒しに来たの?それとも、二十年前のあの日の事を、もみ消しに来たの?〉」

「二十年前?」

「〈そう、連邦の事だし、あの事実を消そうと、何時かは刺客を送り付けてくると踏んで、警戒していたけど、まさかこんなにも時間がかかるなんて〉」


 手にしているマチェットをいじりながら、女性は近くにある木の前に立つ。

 その表情は、怒りを宿し、瞳の奥には怒りの炎が見え隠れしている。

 その怒りを鎮めるかのように、マチェットを振るい、目の前に有る大木を一撃で切断した。


「嘘」


 その光景に、二人は絶句する。

 ただのマチェットを無造作に振るっただけで、今も尚健康に伸びる木を、一撃で切り倒したのだ。

 それは、彼女の怒り故に成せる技なのか、それとも、武器の性能がそれだけ高いのか、二人はもちろん、周りの蜘蛛達にも解らなかった。

 アラクネは二十年前に何が有ったのか、ハンニャのように、表情を怒りで染め上げ、怒りの原因を口にする。


「〈空間転移装置に、実験で生み出された蜘蛛が紛れているのを知らずに使わせて、遺伝子レベルで蜘蛛と融合してしまったあの日の事を!!私は忘れない!!〉」


 全く持って身に覚えも無く、アリサの口はもちろん、父親からも語られていない事件が、彼女の口より放たれた。

 驚いたせいで、向こうの言葉ではなく、シルフィは母語でツッコミを入れてしまう


「いや、何の話!!?」

「〈とぼけないで!その事実を隠蔽しに来たのでしょ!〉」

「知らないって!そんないろんな作品がごっちゃになったような事件!私達とは全く別件だよ!」

「〈何が別件よ!おかげで顔の半分は蜘蛛になるし、手から蜘蛛の糸出るわ、反射神経が異常に良くなるわ、おまけに壁とか天井に張り付いて、縦横無尽に歩ける様になったのよ!〉」

「後半良い事づくめじゃん!」

「〈良い事?こんな姿に成っても良い事だと思ってんの!?〉」

「イヤアァァァ!あんたの背中どうなってんの!?」


 怒り心頭なアラクネは、背中から蜘蛛の足のような物を四本生やし、シルフィに見せつける。

 背中の四本の足の先は、槍の穂先のように鋭利に成っており、人間の着用する簡単な鎧程度であれば、簡単に貫けそうだ。

 そんなものが突然背中から出現し、更には今にも突き刺そうとしているのだから、シルフィは涙目に成りながら叫んでしまう。

 それでも、少し冷静に成って考えてみると、彼女の言い放っていた言葉に、少し違和感を覚える。


「というか、何でそんな危険な代物に、蜘蛛が紛れてるのに気づかなかったの!?それに、そういうのって普通、人じゃない何かで試すよね!?」


 聞くからに危険な装置に、何で蜘蛛が紛れている事に気が付かなかったなんていうのは、かなり違和感がある。

 そんな事を言ったら、アラクネは図星であったかのように、体をビクッと動かし、冷や汗をダラダラと流しながら、そっぽを向く。


「……あんた」

「その、蜘蛛の方は、私が研究してて、多分エリとか、袖とかに紛れてたんだと思う」

「それ半分自業自得だよね」

「自業自得ね、半分はね、半分、は!ん!ぶ!ん!!」


 図星に成った後、また当時の事を思い返してしまったらしく、怒りが再燃し、その辺の木を蹴り飛ばし、破壊してしまった。

 ここまで怒るのは珍しいのか、周りの蜘蛛達も、アラクネの反応に驚き、数歩下がってしまう。


「確かに最初は無機物で実験してたけど、実験用のマウスとかに何か有ったら如何するんだ!とか意味不明な説教されて、手ごろな人が居ないとかで、無理矢理押し込められた結果これだよ、戻れたらただじゃおかねぇぞ、あんのマッドドッグサイエンティストォォォ!」

「アンタが相当嫌な人の元で働いてたのはわかった!」

「ああもう、ムカつくからあんたの耳、斬り落とさせてもらうから!」

「何その勝手な理由!」

「うっさい!あんな理不尽なことでこうなったんだから!私も理不尽な目に遭わせてやる!!」


 異世界の言語同士で言い争っていたのだが、いつの間にかシルフィ達の世界の言語に直ったと思うと、腹いせに耳を切り落とすなんて凶行に走り出す。

 そんな理不尽な理由で、大切な耳を切り落とされてはたまらない。


 しかし逃げようにも、後ろのナイト・スパイダーによって取り押さえられ、更にはワイヤーのように頑丈な糸で縛られている。

 だが、今はガイが近くに居るわけでは無く、前に敵後ろにも敵、ならば遠慮することは無いと、シルフィは判断し、とっておきのスキルを使用する。

 一度荒ぶる気を落ち着けるために、大きく深呼吸をすると、全身の魔力を集中し始める。


「今更何かしたところで!」


 マチェットが振り下ろされた瞬間、シルフィは目をカッと見開き、足のワイヤーを引きちぎり、座った状態から、一気に飛び上がる。

 しかも、体重百キロは有るナイト・スパイダーを背負ったままだ。


「な!?」


 付近に生えるどの木々よりも高く飛び、腕のワイヤーも引きちぎると、シルフィに食いついていたナイト・スパイダーを、地面に向けて投げつけた。


「えい!!」


 地面に投げられたナイト・スパイダーは、その衝撃で地面にめり込み、紫色の血を口から吹き出す。

 ぐったりと倒れこんだナイト・スパイダーの付近に着地し、間髪入れずに強烈な蹴りを繰り出す。

 その結果、ナイト・スパイダーの固い外殻は叩き割られ、鮮血をまき散らしながら吹き飛ばされる。

 後ろに有る木々をなぎ倒しながら。

 この異様な光景に、目撃していたナイト・スパイダーはもちろん、アラクネも、ガイも、皆唖然としていた。

 エルフと言うのは、魔法に突出した存在、当然、身体強化の魔法も心得ているエルフも、少なくはない。

 しかし、シルフィの用いた身体強化魔法は、魔法と呼ぶには、魔力の流れ自体が根本的に異なり、燃費も圧倒的に良い。

 そして何より、彼女の表情が、その異質さを物語っていた。


「これ使ったら、あなた達の命は保証できないよ」


 スーツは着用しているシルフィの体のラインに沿ってはいるものの、何時もとは異なり、筋肉質な見た目が浮き出ている。

 額の血管が浮き上がり、瞳の形状も若干変貌している、人間の物と言うよりは、爬虫類のように鋭いものへと変貌していた。

 湧き出るオーラは、アラクネとガイ以外を一切寄せ付けようとはせず、周囲の蜘蛛達は、吹き荒れる強風で、自由を奪われている錯覚に陥る。

 もはや、彼らの目の前に居るのは、エルフとは呼べない、別の何かだ。



――――――



「……この反応は、一体」


 川に流されたことによって、シルフィ達からかなり離れた位置より、アリサは自身のセンサーで、謎の反応を拾っていた。

 彼女の視界には、赤い文字で『Warning』と表示されている。

 余程のことが無ければ、この表示が使われることは無いのだが、システムが表示する事を選択した。

 アリサにとって、非常に危険な存在が、この山に居る事を暗示しているのだが、何故今になって現れたのか、不明な点が多い。


「一体何が起きている」


 非常事態であることには変わりなく、アリサは進む足を速め出す。

 嫌な予感を募らせながら。


「(一体何なんだ?この山は、やはり、連邦軍は、既にこの世界に到着しているというのか?)」


 一歩踏み出すたびに、嫌な考えが膨らむ。

 装備の見つかっていないというのに、最も凶悪な存在がこの山に居るのではないのか?という考えだ。

 もしも、そいつがこの山に居るとしたら、今のアリサには勝ち目はない。

 それでも、行くしかない、そのようにプログラムされているのだから。


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