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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
177/343

喧嘩する程仲がいい 中編

 シルフィがリリィへのグチを考えてすぐ。

 いくらか言いたいことを決め、ジャックの膝枕も終了。

 二人は夜空を見上げていた。


「不思議なもんだ、どの世界でも、見る空は何時も同じだ、ただ、形が違うだけ」

「だね、あの空の何処かに、アンタ達の世界が有るんだね」


 夜空を見る二人は、妙な感慨を受ける。

 ジャックからすれば、また違う形の夜空。

 だが、違うのは外観だけ、中身は同じ宇宙なのだ。


「まぁな、だが、水差して悪いが、俺らの星はあっちだな」

「え」


 感動するシルフィに水を差すように、ジャックは横の方向を指さす。

 ジャックの故郷と、第二の故郷、そして、この世界。

 この三つは、同じ銀河系に属している。

 今居る星から見て、上に有るという訳ではなく、場所や時間によって、方角は大きく異なる。

 なので、今見ている夜空に、他二つの世界があるとは限らない。


「はぁ、もうちょっとロマンチックにさせてよ」

「悪い悪い、じゃ、ロマンチックな話……そうだな、あのヒシャクみたいな並びをしている、七つの星の横の星とか?結構綺麗だぜ」

「え」


 そう言ったジャックの指さす空。

 確かに七つの星が、ヒシャクという道具の形をしている。

 だが、横に星なんて見えない。

 ジャックの指の先を見ても、それほど綺麗な星は見受けられない。


「ねぇ、何が見えてんの?私の記憶が正しかったら、それ見えたらヤバい奴だよね、見えて死んじゃった人いるよね!?」

「ははは、現実とフィクションの区別位つけろよ、漫画の話なんだから」

「何その反応!?つか、別の奴だけど、漫画の真似してた人に言われたくないんだけど!」

「うるせぇな」


 漫画の話だが、心配して言っていたのに、ジャックの返しに、シルフィは声を大きくした。

 ジャックともかかわる様になってから、読む漫画のレパートリーも増え、話に置いて行かれる事も無い。

 しかし、時々彼女がボケで言っているのか、真剣に言っているのか、分からなくなることが有る。

 ただ、これ以上言い合っても、無駄だと思ったシルフィは、大きくため息をこぼす。


「はぁ……死ぬと言えば、エーラさん大丈夫なの?」

「何が?」

「だって、私達のエーテル・ギアとか修復して、デュラウス達も起こそうとしてで……過労死とかしない?」

「いつもの事だ」


 死ぬという言葉から連想したのは、エーラの労働環境。

 実際、エーラの労働スケジュールは、かなりキツイ。

 それこそ、シルフィが心配するのも無理ない程だ。

 寝る間も惜しみ、食事も最低限で、頭が働けばいい程度で済ませる。

 とはいえ、これは命令されたのではなく、自分からブラック労働を好んでいるのだ。


「いつもって」

「考えてみろ、服は三日取り換えず、床で雑魚寝する奴だぞ」

「そ、そうだけど」

「研究以外で一グラムもエネルギー使いたくないと、運動はせず、思い立ったら即行動して、寝落ちするまで絶対寝ようとしない、そんな奴だ、しかもガチで自主的に」


 それなりに長い付き合いのジャックは、今までのエーラを思い出す。

 実際、シルフィがエーラと初対面した時のように、だらしなさが本当に目立つ。

 床で寝る事は勿論、服変えず、シャワーも浴びない。

 そう言った事を思い出したジャックは、マジで七美との付き合いを考えてしまった。


「……七美の奴、あれの何処に惹かれたんだ?」

「で、でもまぁ、頭は良いよね、本当に」

「そいつは認めるよ、実際、アイツはこの部隊に一番迷惑をかけてているが、アイツほどこの部隊に貢献してる奴は居ないな」

「名言っぽいのに、何か違うんだけど、何だろう」


 ジャックの中のエーラの評価。

 何処か名言のように聞こえたが、果物の種が喉につかえたかのような感覚を、シルフィは覚えた。

 その話をした途端、ジャックは何かを思い出したかのように手を叩いた。


「そういや、少佐って元々は大佐だったけど、エーラの不祥事が原因で降格になったんだったな、ははは」

「へぇ~、そう、なんd」

「え?」


 エーラの不祥事のせいで、少佐が大佐でなくなった。

 そう話していたジャックを見ていたシルフィは、まるで幽霊でも見たような表情を浮かべた。

 そんなシルフィの反応に、首をかしげていると、ジャックの頭部に太い鉄パイプが振り下ろされる。


「それ貴様も関わっているだろうが!!」

「ヒデブッ!!」

「ひ!?」


 ガンッ、という甲高い音と共に、鉄パイプはジャックの頭の形に曲がる。

 突然の奇襲を仕掛けたのは、もちろん少佐だ。

 倒れ込んだジャックを、少佐は頬に青筋を浮かべながら持ち上げ、首元を掴み、顔を息がかかる程接近させる。

 今の少佐の形相には、シルフィは顔を青ざめながら引いてしまった。


「痛ってぇな、本当の事だろ?」

「ああ、大佐だったのは本当だ、だがエーラ君の不祥事の時の降格は中佐だ!更に貴様が町吹き飛ばしたせいで少佐に落ち着いたんだよ!」

「ありゃ~そうだったかね~」

「このロリコンクソ女が!」


 ジャックの態度に腹を立てた少佐は、右手をジャックへと繰り出す。

 だが、命中する寸前で、ジャックは彼の前から姿を消す。

 消えたジャックを探す少佐に目に映り込んだのは、月をバックに、綺麗に体をひねりながら着地したジャック。

 地味に美しく思ったのが、少佐は少し気に入らなかった。

 しかも、とうのジャックはどや顔キメている。


「どうした?腕が落ちたな大佐ぁ」

「チ」

「……ねぇ、何か糸引いてるけど」

「え?」


 どや顔だったジャックは、シルフィの指さす部分を見つめる。

 特に何も無いように見えたが、確かにキラリと何かが見えた。

 確かに、極細の糸が垂れており、それは少佐の右手に繋がっている。

 しかもそれは、ジャックの首にもつながっていた。


「あ、えっと、しょう、さ?」

「……フン!!」

「ちょ!」


 右手を勢いよく引いた少佐の動きに合わせ、そのまま少佐の方へと引き寄せられる。

 そして、そのままの勢いに乗せて、少佐はジャックの顔面に一撃を入れた。


「ふざけやがってぃ!!」

「あ、ちょ!やめ!」


 その一撃を境に、少佐はただひたすらにジャックを殴り倒す。

 ジャックの強さを見に染みさせているシルフィからしてみれば、かなり異質な光景。

 あれだけ苦戦したジャックを、こうして一方的に殴る。

 少佐が強いのか、それともジャックが手加減しているのか。

 どちらかは分からないが、少なくともジャックはダメージを受けている。

 以前のシルフィが殴っても、ほとんどダメージが無かったというのに。


「ヌンッ!!」

「ゴッファ!!」

「え~」


 トドメに、少佐はジャックのアゴへ強烈なアッパーを炸裂。

 その時のジャックは、異様に綺麗な弧を描き、地面に落下した。

 起き上がろうとするジャックを見て、少佐は放置した鉄パイプを拾う。

 それに合わせ、起き上がったジャックはナイフ片手に少佐へ接近しようとする。


「この、野郎ぶっ殺しゃアアア!!」

「させん!!」

「ゲバ!」


 何処かで聞いた事有る叫びをあげながら、近寄って来るジャック。

 接近される前に、少佐は拾ったパイプをジャックへ投げつけた。

 結果、ジャックの身体は勿論、スーツさえ貫通し、最終的に地面に突き刺さる。


「うそん」

「地獄に堕ちろ」


 ジャックの敗北する様を見て、シルフィは口をあんぐりと開ける。

 見るからにジャックは手加減しているのだが、少佐は完全に沈黙させた。

 しかも少佐が来ているのは、普通の軍服。

 エルフから見ても、それなりの老体だというのに、純粋な身体能力でジャックの身体を貫く攻撃をしたのだ。


「たく、シルフィ君」

「は、はい!」

「ああいう大人にだけは、なるなよ」

「はい!(てか、上官にナイフ向けるとか、軍法会議になってもおかしくないよね)」


 疑問を浮かべるシルフィを他所に、少佐は揚陸艇へ戻って行く。

 ただ、訓練中にも、ちらほら似たような言い争いをしていた。

 毎度チハルが仲裁しているが、とても映画で見るような上官と部下のやり取りでは無かった。

 ただ、最後の方はちょっと見た事が有った。


「(……喧嘩する程、仲がいい、か、ちょっと、羨ましいな)」


 ――――――


 ジャック達がバカ騒ぎしている頃。

 カルミアは、レッドクラウンの整備を終えていた。

 シルフィに両断された腕は修復され、他にも傷を修復した。


「さて、後はこいつを」


 レッドクラウンの後頭部へと昇り、装甲を開く。

 内部の慎重ロックを外し、ハンドルを握ると、中身を引き抜く。


「……あーあ、やっぱこんな粗悪品じゃ、オーバー・ドライヴは無茶か」


 彼女の引き抜いたのは、角張った筒状のケース。

 その中には、黒い物体がちらつく。

 炭のように成った物、それは魔物の脳、だった物だ。

 魔法が使える位、高度な知能を持った魔物の脳だ。

 それを乱雑に捨てると、別のケースを取りだす。


「……クク、改めて久しぶり、クラウスの奴には、感謝しないとね」


 随分と前、シルフィと初めて会ったあの日。

 顔見せと装備の運搬、そしてもう一つの物を取りに行っていた。

 あの基地で、一番脳の研究を行っていた人物の研究成果。

 カルミアの持っている物は、その一つだ。

 回収した後、色々とありすぎて、倉庫に放りっぱなしで、ホコリを被っていた。

 だが、しっかりと点検したので、十分使える状態だ。


「無様だね、必要とされたアンタの結果はこのざま、けどアタシは、自由と力を手に入れた、アンタのおかげだよ、ありがとね」


 そうつぶやいたカルミアは、ケースをレッドクラウンにセット。

 ロックを取り付けると、カルミアはレッドクラウンに搭乗。

 起動テストを開始する。


「さて、テスト、開始……ッ!!」


 テストを開始すると、カルミアは懐かしい感覚に包まれる。

 だが、これは決して楽な物ではない。

 懐かしい感覚を覚えた途端、カルミアは目を見開き、身体を振るわせながら、歯を食いしばる。

 そして、無意識に思い出される記憶達が、目に映りだしてくる。


「……はぁ!はぁ~」


 追憶が終わると、カルミアに襲い掛かっていた不快感は消える。

 息を整え、表情を戻すと、カルミアは口角を上げる。


「クク、やっぱり、アンタとは相性がいい、これで殺せる、シルフィ・エルフィリアを!!」


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