数ある真実 後編
投稿が遅くなり、申し訳ございません。
シルフィが倒れた翌日。
診察の為に、シルフィは検査を受けに行った。
ジャックは、朝食を済ませた後で、エーラの居る研究室に足を運んでいた。
「よう、調子はどうだ?」
「ご心配をおかけしました、もう大丈夫です」
病院の病室程度の広さの殺風景な部屋。
アンドロイド用の工具やベッドが幾つか置かれており、そこには三馬鹿とラベルクが寝かされていた。
ラベルクはエーラの手で治療を受け、イベリスに吹き飛ばされた右腕は、すっかり治っている。
ただし、人工筋肉等ではなく、旧式の金属フレームを流用した物。
本人の意向によって、他のパーツは、ほとんど量産機に回されている。
なので、廃材を使って、応急的な処置に成っていた。
ベッドから起き上がったラベルクは、右腕の稼働をチェックし、治った事を確認する。
「どうだ?有り合わせだから、ちょっとラグとかあるかもな」
「いえ……確かに、コンマ一秒ほどは有りますが、問題は無いかと」
「大丈夫に聞こえないんだが」
ラベルクの返答に、エーラは冷や汗をかいてしまう。
いくら負担をかけたくないからと言って、前線で戦う立場の彼女が、この程度の処置。
流石に問題が多すぎる。
彼女達レベルの戦闘となれば、コンマ一秒のラグでも、命取りになる場合さえある。
オマケに、極力頑丈な作りになっていても、出力は一割近く減っている。
量産型は何とかなっても、リリィ達を相手にする事は難しい。
「それはそれとして、あいつ等、再起動できそうか?」
「たく、お前って奴は……そうだな、試みてはいるが、ブロックが硬くてな」
ジャックの発言にトゲを感じながらも、エーラはヘリアン達の解析結果を伝える。
先ず、エーテル・ドライヴは完全に停止。
他のシステムは問題無いが、エネルギーの供給源を断たれ、動こうに動けない状態だ。
量産型やラベルクのドライヴで、エーテル供給を試したが、何故か供給を拒否された。
しかたがないので、今は停止しているドライヴの再起動を試みている。
「ブロック?」
「ああ、好き勝手できないように、完全にブラックボックス化されている」
「ま、妥当だな」
「私も、再起動をお手伝いいたしましたが、コードが変更されており、解析は難航しております」
「そうか」
二人の返答に、ジャックは顔をしかめる。
できる事であれば、三人の力も借りたかった。
それに、三人が目覚めなければ、シルフィの頑張りが無駄になる。
そのうえ、このまま目覚めないとなれば、絶対落ち込む。
母としては、そんな姿は見たくなかった。
「ま、使える使えないの前に、こいつらの装備は?」
「安心しろ、そっちは、お前たちの物と一緒に進めている、明日には修復できる、ふふ、おかげでコイツらの技術が手に入った」
「お前はそうしていると落ち着くよ」
「それに、何と言ってもメカ・アースドラゴンの腕!あのツヤ、光沢、引張強さに剛性!分子の配列!カルミアとかいう奴とは是非話してみたい!後それから……」
「コーヒー淹れて来る」
「あ、お手伝いいたします」
明らかに悪人の笑みを浮かべるエーラを見て、ジャックはため息をつく。
元より知識欲盛んな性格なので、仕方のない事ではあるが、オタクムーブ全開の彼女には付いて行けない。
とりあえず喋らせておいて、二人はコーヒーを傾けながら時間を潰しだす。
余程レッドクラウンの一部が手に入ったのが嬉しかったのか、一時間程費やした。
一時間後、ようやくエーラは落ち着いた。
「ふぅ、で、何の話だったか」
「エーテル・ドライヴのブラックボックス」
「あ、そうだったな、結論から言って、そいつは現段階では不可能、それと、シルフィの事だが」
「シルフィの事?」
首を傾けるジャックの前で、エーラはカルテに目を通す。
発作を起こす前に、一度脳の検査を行ったので、ある程度の情報はある。
現状の事は理解できなくとも、それはジャック達に伝える事には、あまり関係ない。
なので、エーラは解析した結果を、ジャックに伝える。
「先ず、結論から言って、シルフィの脳は、アンドロイドとの親和性……適性、ま、とにかく、相性がいい」
「……」
「その様子だと、心当たりがあるな」
エーラの言葉を聞き、表情を曇らせたジャックを、エーラは睨む。
恐らく、ジャックはまだ打ち明けていない秘密のような物が有る。
エーラは、リリィの為の材料の横流しをしていたが、細部までは伝えられていない。
そんなジャックをフォローするためか、ラベルクが手を上げる。
「その点に関しては、私が」
「……そいつは、少佐に報告した方が良い案件か?」
「そうですね……あのエーテル・アームズの一件もございます、彼にも、お伝えいたしましょう」
「解った、音声は録音させてもらう」
ボイスレコーダーを取りだしたエーラは、何時になく真剣な表情を浮かべる。
研究員の一人として、是非ともアリサシリーズの細部を聞いておきたかった。
横で煙草を吸えない事にイライラし始めて来たジャックは、細めた目でエーラを見る。
「……(真剣な顔したエーラ久しぶりに見た)」
「私だって真剣に成る事位有る」
「声出てたか?」
「いえ」
「普通に顔に書いてあったぞ」
茶番は置いておき、ラベルクは説明を始める。
説明を聞くエーラは、額に手を当て、息を飲んだ。
数十分にわたるラベルクの説明を聞き終えたエーラは、ジャックの用意したコーヒーを飲み干し、話をまとめた。
「アリサシリーズ、特に、リリィ達103型は、本領を発揮するには、生きた人間の脳が必要、ただし、その為にはある程度の適性や訓練が必要、か」
地味に落ち込んでいるジャックを横に、エーラはラベルクの説明をかみ砕いた。
そもそもの話、リリィ達のコンセプトは、ジャックの支援機として動く事。
その為に、元々リリィ達には、人の脳とリンクする為の機能が備わっている。
ただし、その為には適性と訓練を要する。
勿論、シルフィはその事を知らない。
という事は、ジャックと戦った時や、先日の一件を考えると、シルフィには、訓練を必要としないレベルの適性がある。
「しかも、訓練に要する時間は半年以上……コイツが柄にもなく落ちこむ訳だ」
「うるせぇ、尻尾の毛全部むしるぞ」
「大尉も、訓練時は鼻血や、くも膜下出血を起こしていましたからね」
「だあああ!うるせぇ!うるせぇ!あんだけ苦労したってのに!才能の一言で片づけられた奴の気分が、テメェらに解るかおい!!」
平均がどれ程か解らないが、相当難しい事。
当時は実験段階だった、という事を差し引いても、ジャックはかなり苦労した。
それこそ、リリィが異世界に派遣されるまでで、実験の回数は三桁を迎えた程。
それだけやっておきながら、成功例は三回程度。
なのに、シルフィはぶっつけ本番で成功させた。
落ち込まない方がどうかしているだろう。
「ねぇ、それって、カルミアちゃんにもできるの?」
「はい、彼女も原型は103型ですので、変にいじっていなければ、可能かと……」
「……」
ジャック達の茶番の途中で、ラベルクは持ち掛けられた質問に答えた。
その質問をしたのは、いつの間にか来ていたシルフィ。
かなり真剣な顔をしており、ラベルクにかなり食い掛っている。
「え、えっと、シルフィ、様?」
「本当に使えるの?ねぇ、ねぇ!」
「一旦落ち着け、如何したってんだ?」
「あ、ちょっと、ジャック待って!本当にできるんだよね!?ラベルクさん!」
ジャックは、ほぼゼロ距離まで接近したシルフィをラベルクから引き離す。
それでも、シルフィはラベルクへの質問を止めず、ジャックを振り払おうとする。
そんなシルフィを、ラベルクはそっとなだめる。
「シルフィ様、一旦落ち着いてください」
「う、うん、ゴメン」
「ご心配になられずとも、先ほど申したように、彼女が頭脳に変な細工を施していなければ、リンクは可能となっております」
「……そっか、良かった」
ジャックからの拘束から解放されたシルフィは、ラベルクからの話を聞いて、表情を緩めた。
他の四人に出来ても、彼女にはできない。
それでは、シルフィの目的を完全に果たす事は難しくなる。
そんな不安が有ったのだ。
しかし、エーラは横やりを入れてしまう。
「ま、あのガキんちょの事だ、念を入れて、外してるかもな」
「う」
「恐らく、外している、という事は無いかもしれません」
「俺も同意見」
「……何故分かる?」
カルミアが、念のためにリンク機能を外しているかもしれない。
その懸念を言い出したエーラの意見を、ラベルクとジャックは否定する。
「アンドロイドってのは、戦い方に独特の癖が生じる、だが、アイツにはそいつが無い」
「そして、エーテル・アームズに繋がれたナーダ兵たち、彼らに使用される技術は、現在のカルミア様と同じ物です、こちらも、同時にお話しするつもりでした」
エーテル・アームズに繋がれたナーダ兵たち。
彼らに使用された技術は、カルミアの物とほぼ同じ。
アンドロイドの戦い方の癖を無くすためには、人間の脳が必要となる。
とすれば、カルミアは既に、何者かとリンクしている状態にあるという事だ。
「……つまり、アイツは既に別の人間とリンクしている?」
「はい、人間でなくとも、魔物等、生きた脳さえあれば、可能かと」
ジャックの体験談。
ラベルクの確証の有る証言。
これらを聞いたエーラも、首を縦に振る。
そして、笑みを浮かべたエーラは、シルフィの方を向く。
「シルフィ、お前の望みは何だ?カルミアを如何したい?」
「え……もちろん、助けたい、リリィ達のように」
「なら、ちょっと時間くれ、お前のサイコ・デバイスを、アイツとのリンクをサポートできるように、調整してやる」
「良いの?」
「ああ、私も、あいつ等見てると、どうも胸が痛くなる」
首をかしげたシルフィの言葉を、エーラは胸に手を当てながら答える。
エーラとて、科学者の一人。
周囲から変なあだ名で呼ばれていても、良心は存在する。
だが、彼女の被害者代表は、今のエーラの発言で、表情を引きつらせていた。
「マッドドッグサイエンティストとは思えん発言だな」
「黙れロリコン」
「(あれ?なんか、何処かで聞いたような悪口が……)」
ジャックとエーラ。
二人のやり取りを聞いていて、シルフィは聞き覚えのある言葉に反応していた。
「(何だっけ?なんか気持ち悪いな~こう言うの)」
だが、何処で聞いたのか思い出せずに、四苦八苦していた。




