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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
174/343

数ある真実 中編

 ジャック達に食事を用意した後、老人は少佐の元へ向かっていた。

 少佐の居る執務室へ入ると、難しい顔で報告書に目を通す少佐を見つける。

 扉の開いた音で、老人の存在を確認するなり、少佐は立ち上がり、敬礼した。


「……どうじゃ?参謀殿」

「貴方でしたか、私は参謀ではないと、何度も、いや良いか、何か飲み物でもどうですか?」

「いや、よい、紅茶と言うのは、どうも苦手でな」

「そうでしたな、では、せめて座る物を」

「すまん」


 老人は基本的に、緑茶か麦茶位しか飲まない事を思い出すと、老人の椅子を用意する。

 一先ず、少佐のご厚意に甘えた老人は、用意された椅子に座る。

 一連の事を終えた少佐は、席に戻り、話を始める。


「ところで、本日はどのような要件で?」

「なに、戦況が気になっての」

「はは、何分、小戦力な物で、後は敵の本陣のみなのですが、もはや策に頼らず、正面から行く他無いかとも」


 先の戦いで、戦力を随分と落としてしまった。

 しかも、肝心のジャックとシルフィは負傷し、戦闘力を落としている。

 沿岸で砲撃を行っていたエーテル・アームズを前線へ出し、修復中の物と交換。

 砲兵隊等の小細工はせず、導入可能な戦力は全て投入する。

 そう言った事をした方が良いかもしれない。

 そんな状況だ。


「あの機械人形が原因か」

「はい、策が通じない事も無さそうですが、多少の小細工では、子供だましにもなりません」


 この状況に陥ったのは、量産型のアリサシリーズ。

 数機を撃破したとはいえ、あれが全てとは考え辛い。

 性能面でも、ちょっとやそっとの事では、子供だましにしかならない。

 補給を終えた時に、ジャック達の回復も終えている事を、祈るばかりだ。


「まさか、ジャックの回復を待つ時が来るとは」

「アヤツも、まだまだ未熟よ」

「……貴方さえ、出てくれれば」

「いや、ワシはもう、引退した身、お主らに任せる」

「そうでしたな」

「じゃが、せめてアヤツらの刀位、砥いでおく位は、しておこう」

「……」


 そう言うと、老人は立ち上がり、部屋を出て行こうとする。

 少佐はその後ろ姿を見送ると、少しだけ微笑む。


「相変わらずだ、貴方は」


 ――――――


 その頃、酒を取り上げられたジャックは、中途半端な酔いのまま、ベッドの上で落ち込んでいた。

 ベッドにうつ伏せになりながら、枕を抱きしめ、虚ろな表情を浮かべている。


「おしゃけ~」

「自業自得だよ」


 酒を取り上げられた位で落ち込むジャック。

 忘れそうになるが、彼女はシルフィの母親。

 今の情けない姿と、戦場の凛々しい姿の印象が、圧倒的に違いすぎる。

 流石にこんな姿を延々と見せられると、気分が悪いので、箸を置いたシルフィは、話題を考える。

 とりあえず、ジャックが元気を取り戻しそうな話題。

 子供に関する事、妹に関する事。

 前者は変な方向に行きそうなので、妹関連にした。


「……そう言えば、ジャックの妹って、どんな人?」

「悪魔と言う名の天使だよ!」

「あ、機嫌治った」


 不意に気になったジャックの妹。

 シルフィの叔母に当たる人物なのだから、前々から気に成っていた。

 気になってはいたが、以前の変態トークのせいで、聞く気を失せていた。

 妹の話題になった途端、機嫌が直ったのは、もう触れない事にする。


「でも~最近はお姉ちゃん離れが深刻で、中々甘えてくれなくてさ~、それに、モンブランの上の栗盗み食いしたくらいで、もう半年も口きいてくれないの~」

「十分それ位の罪犯してる」


 モンブランの上の栗を食べるという事。

 それがどれだけ罪深い事か、しっかりと認識しているシルフィから見て、ジャックの犯した罪は、かなり重い。

 一応、日常系のアニメやマンガに目を通していたので、その辺は把握している。

 何か弁護してくれ、みたいな表情のジャックだが、すぐに明後日の方を向き、無視する。


「お姉ちゃん寂しいぃぃぃ!」

「うるさい」

「んで、こっちからも良いか?」

「アンタそんなに切り替え早かったっけ?」


 あまりに切り替えが早いので、本当にシスコンなのか、少し疑う。

 それはそれとして、ジャックの言う質問に、シルフィは耳を傾ける。


「で、何?」

「お前の妹、ルシーラだっけ?アイツ、何?」

「何その目」


 ルシーラについて、聞いて来たジャックの目は、真剣そのもの。

 正直、そんな目をする理由が解らなかった。

 ルシーラは、ジャックの好みとはかけ離れたスタイルの持ち主。

 それに、敵対するような中では、今は無い。

 ぶっちゃけ、早々に見つかったら、ジャックの相手を任せようかと考えてはいた。


「いや、だってアイツ、俺より強いし、怖いし、目力だけで殺されるかと思った」

「え」


 ジャックの言葉に、シルフィはひっかかりを覚える。

 何しろ、今の話し方は、実際に本人に会わなければできない感想。

 実際、ルシーラの目つきは悪いし、性格も温厚とはいいがたい(家族以外に対して)

 顔事態は、写真で解るだろうが、あの時は普通に笑っているので、こんな感想は出ない。

 となると、ジャックはルシーラと一度以上会っている事になる。


「会ったの!?ルシーラちゃん見たの!!」

「ひ、一目だけ、な!会話、とも、いえ、ない位の、話、しか、して、ない、し!」


 かなり焦りながら、シルフィはジャックの身体を前後に揺さぶる。

 勢いよく振られたせいで、ジャックの言葉は色々とカミカミに成ってしまう。

 シルフィがこんな事に成っても、仕方ない事だ。

 そもそもの話、冒険に出た一番の理由は、ルシーラの捜索なのだ。


「てか、どこで会ったの!?」

「えっと、あの、サイクロプスと戦った町の隣町」

「えええええ!!そんな近くに居たの!!?」

「つーか、何ではぐれたまま放置してんだ、あと騒ぐな、耳に障る」

「あ、ゴメン、後、はぐれたって言うか、家出したの」

「家出ぇ~?ラベルクとの会話聞いた限りだと、そんな感じしなかったが」

「それは、えっと……あれ?」


 騒ぎたてた後、落ち着いたシルフィは、ルシーラの家出理由を思い出そうとする。

 正直、何故彼女が家出したのか、考えた事ない。

 実家のテーブルに、すぐ戻る、という置手紙を残して、気づけば居なくなっていたのだ。

 特に喧嘩したわけでも、仲たがいをした訳でもなく。

 ただ、突然いなくなったのだ。

 その後、クラブ達を返り討ちにし、完全に消息を絶った。


「そう言えば、何で、家出なんて」

「……額に傷があった、あれが原因か?」

「いや、あれは、家に来た時から、ずっとあるやつで」

「家に来た?」

「あれ?義妹って、言ってなかったっけ?」

「初めて聞いたぞ、てっきり俺とジェニーから生まれた、えぐい第二子かと」


 ルシーラは、森で倒れていた所を、ジェニーが見つけて来た外来のエルフ。

 金髪なので、恐らくは離れ者の一家だったのだろう。

 一先ず、エルフィリア宅にて保護し、面倒を見ていた。


「まぁ、それほど歳が離れてる訳じゃないけど、実妹に成る事はあり得ないよ、ただでさえ、私達妊娠確率低いんだから」

「そうだったな、エルフの二卵性双生児の確率は、人間が五つ子産む位だったな」


 長寿である分、エルフの妊娠確率は低い。

 その為、シルフィが産まれた後に、ルシーラが産まれる可能性はゼロだ。

 それはさておき、シルフィは考えた。

 何故彼女が家を出たのか。


「見つけた時、確か傷だらけで、死にかけてたって聞いたけど、それで……あれ?」

「如何した?」

「おかしい、あの子と過ごした記憶が、何か、不安定で」


 シルフィは、ルシーラを拾ってから家出するまで。

 その間に起きた事を思い出そうとする。

 今までばくぜんと思い出していたが、真剣に思い出す機会は滅多になかった。

 だが、今となっては解る。

 思い出そうとしたのではなく、思い出せなかったのだ。

 ルシーラとの記憶に、濃いモヤがかかったかのような感じ。


「あれ?あれ?」

「おい、シルフィ?」

「なんか、頭が……ッ!痛い!」

「おい!」


 思い出そうとするシルフィは、突然苦しみだす。

 呼吸は荒くなり、頭が割れるかと思う位の痛みで、頭を押さえだす。

 ジャックはすぐにナースコールを押し、シルフィに寄り添う。


「(一体、なにが起きて……ッ!)」


 今のシルフィに触れたジャックは、その思考が共有される。

 少女一人の記憶位、どうにもなると思ったが、そうでもなかった。

 シルフィから共有された記憶。

 砂嵐がかかったように、途切れ途切れ。

 情報量が多い訳ではない、何らかの妨害がかけられている。


「(やはりコイツ、何かかけられて)」


 ――――――


 数分後、コールを聞きつけたナース達によって、シルフィは看護された。

 発作は十分ほどで収まり、今は眠っている。


「ドクター、原因は解るか?」

「申し訳ない、現時点では不明としか」

「そうか」

「ですが、彼女の脳に、何らかの乱れがある事は、確認されています」

「どんなだ?」

「大量出血による、記憶の障害、それ以外にも、同行したアリサシリーズが発見した障害も、見受けられます」

「そうか」


 駆け付けたドクターの話。

 大量出血の部分は、恐らく初めて会った時に負わせた傷が原因だろう。

 だが、それ以外の障害となると、それより前の可能性が有る。

 かつて基地に収容された際のカルテを照らし合わせても、恐らくは以前の話だ。


「では、明日にでも診察を行います、大尉も、本日はお休みください」

「ああ、そうさせてもらう」


 ドクターが部屋を出ると同時に、ジャックはベッドに横たわる。

 隣で眠るシルフィは、少し辛そうに眠る。

 心配だが、今はどうしようもできない。


「……俺の、血のつながった、もう一人の、家族」


 家族に憧れを抱いていたジャックにとって、彼女の存在は、かけがえ無い。

 徐々にウトウトとしてきたジャックは、かすんだ目で、シルフィを見つめる。


「守ってやる、お前も、リリィも、みんな、今度こそ、俺が、わたし、が……」


 かつて失った恋人と影を重ねながら、ジャックは眠る。


「私が、守るから、ね」


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