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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
173/343

数ある真実 前編

 カルミアが撤退した後。

 ジャック達は、静寂に包まれた平原を後にし、撤退した仲間達の元へ向かった。

 戦いが長引いた事で、すっかり空は赤く染まっており、もうすぐで夜が来る。

 できれば、迎えの車位用意して欲しい所だが、向こうもそんな余裕はないのかもしれない。

 退却するドレイク達の顔は、少し曇り気味だった。

 何しろ。


「お、重い」

「言うな、私だって重い」

「荷物が増えただけだ、気にするな」


 ラベルクを除き、女性陣がそろいもそろって、行動不能なのだ。

 そのままにしておく訳にも行かず、ラベルクの手も借りて、全員を運んでいるのだ。

 もちろん、ジャックも腰を完全に痛めているので、歩く事もままならない状態。

 シルフィも、悪鬼羅刹と百鬼夜行の反動で、気を失っている。


「おいおいウィル、乙女の事運んでおきながら、重いはあきまへんで~」

「今回ばかりはつっこませてもらいますけど、アンドロイドが重いの、大尉も知っとるよな」


 ジャックの言葉に腹を立てながらも、ウィルはヘリアンを運ぶ。

 カルミアが引いた瞬間、アリサシリーズの三機は、何故か機能を停止。

 しかたがないので、運んで帰る事に成ったのだが、問題は重量だ。

 リリィ程の小ささでも、九十キロ以上有る。

 そこに、カスタムを加えて体格を大きくし、更にエーテル・ギアも装着している。

 おかげで、重量もその分増えている。

 つまり、今のウィル達は、疲れているのに、数百キロの大荷物を持っているのだ。


「しかし、こうもあっさり鹵獲を許すとは、向こうの司令官の器の小ささが見て取れる」

「恐らく、自分の意にそぐわない存在は、どうでも良い、といった具合なのでしょう」

「ま、その為に数少ないエーテル・ドライヴを手放すかね?」

「確かに、彼女達がダメでも、取り外せば、別の個体に移植を行えます、回収しない意味はございませんね」


 ジャックの言った事に、ラベルクは思考を巡らせた。

 改めて調べた結果、現在三機ともマザーから切り離されていた。

 その事を確認した途端、彼女達は機能を停止させ、こうしてお荷物状態と成っている。

 こんな事に成ってしまえば、全部盗んでください、と言っているようなものだ。

 人格だけならばまだしも、動力のエーテル・ドライヴまで捨てるとは考えにくい。

 動力を取り外し、新しい義体の方に移植すれば、それで三人の始末は済む。


「その事に関しては、後で考えよう、揚陸艇が見えて来た」

「おう、もうそんなに進んでたか」


 話をしている内に、後方へ下がっていた揚陸艇に到着。

 ジャックとシルフィは、医務室へ運ばれ、ドレイク達も、医療スタッフの世話になる。

 ラベルクは、他のアンドロイドと共にエーラの元へ向かい、修復を依頼した。


 ――――――


 医務室にて。

 他の負傷兵が眠り、消毒液の臭いが充満する中。

 シルフィとジャックは、老人から整体を受けていた。


「痛だだだ!!マジ痛い!温泉の時より痛い!!」

「少し黙らぬか、これが一番効く」

「痛ったあああ!!」


 整体と言うより、整体と言う名の拷問。

 テルの村で受けた整体より、遥かに強い激痛が、シルフィを襲っていた。

 意識を取り戻し、非常にマズイ漢方薬を飲まされた数十分後にこれ。

 目覚めが悪い何てものではない。


「ははは、良いね、昔を思い出すぜ」

「他人事だと思って、このクソ親」

「ほれ、次ゆくぞ」

「え?ギャアアアア!!」


 横でおきゅう的な物をするジャックは、横で苦しむシルフィを見て口角を上げる。

 何しろ、以前もシルフィのように苦しみながら整体を受けていたので、少し懐かしく思っていた。

 ジャックがほのぼのとしている横で、シルフィはトドメの一手を加えられ、絶叫した。


「ふう、後は安静にしておればよい」

「はい、ありがとうございます」

「ほれ、紅蓮もそろそろよいじゃろう」

「おう、もう十分だぜ」


 涙目で寝込むシルフィを他所に、老人はジャックのおきゅうを回収。

 気休め程度だが、腰の痛みから解放され、ジャックは顔を緩めた。

 そんなジャックの表情に、シルフィは待遇の違いを感じた。


「はぁ、気休めだが、大分楽になったぜ」

「(私ももうちょっと楽なのにしてよ)」

「そうかそうか、では」

「え?」


 だが、そんなジャックの油断に付け込むように、老人はジャックにも整体を始める。

 その際、腰の骨がねじ切れそうな感覚が、ジャックを襲った。


「ギャアアアア!!」

「(いい気味)」


 ジャックも同じ苦しみを味わった事に、ご満悦なシルフィだった。


 ――――――


 その後、施術を終えた老人は、食事を持ってくると、病室を出ていった。

 残されたシルフィは、老人の用意したお茶を堪能。

 ジャックは、整体の影響で、倒れてしまった。


「……あ~、この緑茶っていうの、良いね」

「あのくそジジィ、覚えてやがれ」

「てか、アンタでも痛いんだ」

「そりゃそうだ、幾ら俺でも、痛い物は痛い」


 そう言いながら、ジャックは服を直しながら起き上がると、バックパックをあさる。

 中から缶とりだすと、封を開け、中身を飲む。

 因みに、缶の中身はビール、つまり酒である。

 漫画やアニメでもよく見かける、スーパーでドライな物なので、シルフィもすぐに酒と分かった。

 ここしばらく、シルフィは勿論、他の隊員達も、そんなに飲む機会があった訳ではない。

 なのに、ジャックはためらい無くビールを飲み始める。


「あ、ジャックお酒!」

「いいだろ、最近ろくに飲んで無かったし」

「私だってずっと我慢してるんだからね!まったく、アンタみたいなのが親なんてね」

「それとこれとは別だ」


 シルフィの言葉に嫌気を感じながら、ジャックは更に酒をかたむける。

 ジャックのふるまいに呆れながら、シルフィはお茶をすする。

 緑茶のうま味に和みながら、シルフィは気になっていた事を考える。

 とはいえ、横で飲まれると、彼女自身も飲みたくなってくるが、我慢だ。


「(……それにしても、アイツ、何であんなことが正しいなんて)」


 カルドの言っていた計画は正しい。

 ジャックがあの戦場で考えていた事だ。

 あの時は距離が有ったうえに、他の思考も有った、

 だから、正確に彼女の気持ちが解った訳ではない。

 それでも、総人口の半分を消す事を正しく思うジャックに、シルフィは疑念を生んだ。


「聞きたい事でもあんのか?」

「え、ま、まぁね」

「何だ?ま大方」

「う……」

「俺みたいなナイスバディにどうすれば成れるのか、それが知りたいんだろうが」

「それも有るけど違う」

「有るには有るのな」


 冗談のつもりで言ったのだが、少し当たっていたようだ。

 それはそれとして、シルフィは本当に聞きたかった事を聞く。

 もちろん、なぜあんな事を考えたか、である。


「ジャックは、正しいと思ったの?あのアンドロイドの言う事」

「……まぁな」

「なんで?」

「……」


 少し黙ったジャックは、話す意を決するべく、更に酒を飲む。

 息を零したジャックは、あの時何を思ったのか、シルフィに打ち明ける。

 少し表情を曇らせており、酒によってその曇りをかき消しながら。


「あれもまた、一つの正解だからだ」

「一つの正解?」

「そうだ、宇宙に新天地を求めている時点で、人口の増加に歯止めがかからない状態だ、だったら、少しでも資源を節約するために、人間の数を減らす、合理的で現実的だ」

「でも、それだと犠牲が多すぎるよ、悲しむ人だって沢山」

「だろうな、アイツが何処まで面倒を見るのか、そいつは解らん、野垂れ死ねば、それまでかもしれない、だが、今のまま、資源が無くなれば、もっと酷い事に成る、そうなれば、更に泥沼な結果になって、悲しむ奴もさらに増える」


 真剣な顔で言うジャックを見て、シルフィは思う。

 本気で賛同している。

 ジャックの言葉を聞いても、シルフィは賛同できない。

 なのに、ジャックの価値観では、正しい事だというのだ。

 やはりジャックの考えは、理解できない。

 そんな事を考えるシルフィを見て、ジャックはたとえ話を始める。


「……シルフィ、お前ならどっちがいい?木の実一個の為に殺される事と、食いきれないごちそうの為に、殺される事」

「どっちも嫌だよ!」

「だが、人口を半分にしねぇと、いずれ木の実一個の為に殺される事に成る」

「え」

「資源が無くなるという事は、そう言う事だ、食うもんも、飲むもんも無ぇ、だから、木の実一個でも、人の命と等価になる」

「だから、使う人を減らす」

「そうだ」


 この話を聞いて、シルフィは少し考えを改める。

 使う人を減らせば、確かに資源は余る。

 里でも、口減らしの類は行われていた。

 やろうとしているのは、それと同じ事。

 里の規模ではなく、世界規模で、同じ事をしようとしているのだ。

 思った以上に命が軽くなる戦場と同じ位、命が軽く成らないように。

 何の生産もせずに、物資を食いつぶすだけとなれば、今以上に命は軽くなる。

 だが、だからと言って、許される事とは、とても思えない。


「だがな、さっきも言ったが、そいつはあくまでも、答えの一つでしかない」

「答えの一つ?」

「そうだ、真実が一つだけなんざ、つまらん、いくつも有る中で、テメェの答えを見つける事も、楽しみって奴だ」

「……じゃぁ、ジャックの答えってなに?」

「……そうだな、仮に戦争がなくなれば、それだけ人も増える、そうなれば、食う物も大量に必要だ、そうなると」


 ジャックは、仮に自分の目的を果たしたらどうなるか、久しぶりに考える。

 だが、ジャックはとある重要な事を思い出した。


「あ、そういや、戦争無くしたらどうするか、考えてなかったわ」

「おい」

「わり、他に頭割く事多くて、考えてなかった」

「……」

「わ、悪かったって、だからそんな目しないでくれ」


 あの時の尊敬返せ。

 シルフィはそんな事を思いながら、ジャックを睨む。

 事実、ジャックは戦争を無くした後、如何するのか考えてなかった。

 とはいえ、死に辛いとはいえ、死なない訳ではない。

 まかり間違って、志半ばで倒れたらどうなるのか。

 そう考えただけで、どうも真剣に考えた事なかった。


「あ~、そうだな、ハイテク関連は、アンドロイド達に任せて、俺ら人間は、農業や畜産に精を出すとかか?」

「何それ?」

「何てな、ま、人間体動かしてなんぼだ、頭使うのが苦手なら、身体使えってな」

「……アンタが農業ね」

「ああ、そうだな、治安維持の部隊が有っても、退屈だろうし、スローライフも良いな、あ、喫茶店なんかも良いな、俺のお手製コーヒー、皆に飲んでもらうのも、一興か」

「店開くなら、楽しみにしてるよ」


 会話をはさんでいると、シルフィはジャックの言葉の一つを思い出す。

 彼女は人のエゴに優劣をつけない。

 きっと、誰が何と言おうとも、それが理にかなっていれば、尊重する。

 戦場で多くの声を聴き、沢山の思考を聞いて来たからこその柔軟性。

 とはいえ、許せない物は許せないようで。

 ジャックは笑顔を浮かべながら、拳を握る。


「ま、それはそれ、正しい正しくないはさておき、アイツの計画潰す事には変わりないから安心しろ」

「むしろアンタのその姿勢が安心する」


 上げた後、普通に落としてくる。

 この性格に、むしろ安心感さえ覚えるように成ってしまった。


 余談だが、この後飲酒が老人にバレ、酒を取り上げられた。


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