風になびく花 後編
カルミアが戦地へ向かっている事なんて、つゆ知らず、ジャック達は話を続けていた。
内容は、イベリスがマザーから完全に追い出されているという事。
その事を教えられたヘリアンとデュラウも、接続状態を確認。
結果、一つの疑問が浮かんできた。
「確かに、俺もマザーから追い出されてやがる、けどよ」
「何で私は、繋がったまま?」
今のメンバーの中で、ヘリアンだけが、マザーとリンクを維持したままなのだ。
デュラウスも、イベリス同様にマザーからはじき出されている。
試しに、ヘリアンがマザーへ問いただしても、返事は無かった。
おかげで、原因は不明。
ラベルクも、現状の装備では解析ができないので、理由は解らない。
「……とりあえず、私は、本部へ戻る、二人は、シルフィと居て」
「え、ヘリアンはどうするの?」
「本部へ戻って、原因を、調べる」
「できんのか?そんな事」
「解らない、でも、もしも、次に会った時、再調整を、受けていたら、迷わず、破壊して、構わない」
ジャックの質問に答えると、ヘリアンはライフルを持って帰還しようとする。
こんな所に居ても、解らない物は解らない。
ならば、いっその事直接確かめた方が良いと判断した。
だが、そんな行動をデュラウス達が許すわけがなかった。
「おい待てよ、何で俺らは残るんだよ」
「……既に、貴女達は自由、なら、好きな人の元に、居ればいい」
「ふざけんな、テメェだけ恰好つける気かよ」
「違う、推測だけど、アキレアはまだ、二十機以上いる、今回の戦いで、大分戦力を奪った、なら、彼らを助けられるのは、貴女達だけ」
デュラウス達の事を、ストレンジャーズの面々が受け入れるかは別として。
今回の戦いで、ジャック達はそれなりの被害が出た。
アキレア達もまだ半分以上残っている。
しかも、そこにリリィ達を加えれば、更に凶悪な戦力となる。
たった二機だけでも、アリサシリーズが居れば、少しは違う。
「だからって」
「あ」
「……何だよ」
「……ミサイル」
「は?」
ヘリアンの一言で、周りが凍り付く。
その瞬間、この場に居る全員の耳に、ミサイルのブースター音が入り込んで来る。
しかも、一発や二発ではなく、大量のミサイルが接近している。
こんな所で、のほほんと立ち話をしていれば、確実にミサイルの餌食となってしまう。
「そう言う事は早く言えやテメェ!」
「ゴメン」
「口論は良い!早く逃げるぞ!!」
ドレイクの手で、口論を再開しようとした二人を止め、全員はさっさと逃げ出す。
雨のように降り注ぐミサイルや、ロケット弾。
着弾と同時に起こる爆発をかいくぐり、必死に足を動かす。
生き死にの掛かっている状況であるが、この場に居る全員は、この攻撃をしてくる犯人を思い浮かべていた。
「ねぇ!これってもしかしてカルミアちゃん!?」
「ああ!こんな攻撃できんの、アイツしか居ねぇ!」
「ここの戦いは、中継されてる、多分、さっきのやり取り見て、キレ散らかした」
事実、カルミアがこのような凶行に及んだのは、彼女達の絡みを見たから。
もう考えなくても、悪魔のような笑みを浮かべるカルミアが出て来る。
「成程、沸点の低いアイツがやりそうだ」
「ああ、まぁそれよりも」
爆発の中を逃げていると、デュラウスは妙な重量感を感じていた。
装備は軽量化を図り、スピード重視の物なのだが、人間一人分重く感じる。
その理由は、先ほどの会話ですぐに解った。
「テメェは何乗っかってんだ!!?」
「え~いいじゃん」
「良くねぇよ!」
その犯人はジャック。
いつの間にかデュラウスの背中に乗り、逃走を彼女に頼っている。
しかも、後ろからしっかりとホールドしており、とても振り払えそうにない。
と言うか、そんな事をしていたらミサイルの餌食なる。
「だって、オメェらと戦ってるうちに、腰ガタガタに成っちゃってさ~、ちょっと歩けそうにないわ」
「オメェがガタガタに成ってどうする!?」
長時間の悪鬼羅刹の使用と、オーバー・ドライヴ。
これらのせいで、流石のジャックも音を上げてしまった。
まるで狙いすましたかのように、腰に負担が襲い掛かり、ほとんどギックリ腰状態だ。
もう仕方無いので、デュラウスはそのままジャックを担いで逃げることにした。
逃げ続ける事数分。
弾がきれたのか、ミサイルの雨は止む。
それをかわきりに、ドレイク達は周辺の警戒を行い始める。
そんな中、デュラウスはジャックを背負いながら肩で息をしていた。
「はぁ、はぁ、人の事タクシー代わりにしやがって」
「安心しろ、礼としてシルフィにキスする権限をくれてやるぞ!桃ちゃん!」
「フェッ!?」
「勝手に本人の前で決めないでくんない!!」
「ちょ、その反応は傷付く……てか、誰が桃ちゃんだボケ!!」
「だったら地面とキスしてろ!!」
変な下りをしていると、装備をパージしたレッドクラウンが降下。
ジャックと共に、デュラウスを踏みつぶした。
その時、ジャックが地味に嬉しそうな表情をしたのは、秘密である。
それはさておき、二人を無力化したカルミアは、すぐにシルフィを睨みつける。
「カルミアちゃん!お願い、もう止めて!」
「黙れ、気安く呼ぶな!!」
「ッ!!」
カルミアの説得を試みようとしたシルフィだが、むしろ怒りを増長。
レッドクラウンの口が、シルフィへと向けられる。
この場へ来る前に、予めチャージしておいたエーテルの全てを放出する。
だが、ビームはシルフィに直撃しなかった。
「い、イベリスさん!?」
「勘違いしないでくださいませ、死んで約束を反故にされては、困るだけですわっ」
シルフィの前に、盾を構えるイベリスが立ちはだかり、ビームを防ぎ止めた。
盾の性能を最大限活用し、レッドクラウンのビームを防ぐが、徐々に破れられだす。
発生した熱で、シールドや装甲は、徐々に融解していく。
イベリスを助けるべく、シルフィはストレリチアのレールガンを用意する。
「待っててイベリスさん!」
「やるならお早く!もう持ちませんわ!」
「解ってる!」
即座にチャージを完了させ、引き金を引く。
レッドクラウンにさえ当たれば、何処だってよかった。
シルフィの魔力をおびた弾頭は、レッドクラウンのビームを無効化しながら直進。
半分以下まで威力が減衰しても、何とか命中し、何とか姿勢を崩させた。
そのおかげで、デュラウス達はレッドクラウンの足から逃れられた。
「クソが!」
「お、遅いですわ」
「ごめんなさい!大丈夫!?」
ビーム照射から解放されたイベリスは、シルフィに介護される。
そんな二人のやり取りをみたカルミアは、更に強く歯を食いしばると、尻尾をシルフィへと向かわせる。
ヘビのようにうねりながら、レッドクラウンの尻尾は、シルフィへ接近。
「させん!!」
「手ぇ貸すで!!」
「クソが、邪魔すんな!!」
シルフィへ命中する前に、尻尾のワイヤー部分は、振り下ろされたネロの斧に阻まれる。
更に、ウィルソンの魔法で、地面から黒い手が出現し、尻尾をつかみ取る。
ホールドされた尻尾は、戻そうとしてもピンと張るだけ。
その事実に動揺し、動きを止めてしまったカルミアを挟むように、二つの技が交差する。
「桜我流剣術・雷電斬壕!!」
「桜我流剣術・嵐鬼流!!」
デュラウスの、赤い雷を伴った斬撃。
ドレイクの、水と風によって生成された無数の刃。
二つとも、レッドクラウンの装甲は破れなかったが、その衝撃はカルミアへと伝わる。
「ガ、ウッ!クソッ!」
二人の技が合わさり、本当に嵐の中に居る感覚を覚えたカルミアは、コックピット内で振り回される。
何とかレッドクラウンのバランスを調整し、目力だけで殺せそうな程の眼光を、彼らに向ける。
周辺を見渡し、改めて状況を確かめる。
「(クソが、何でアイツがアタシに攻撃できてんだよ!?)」
一番解らないのは、デュラウスが攻撃を仕掛けて来た事。
今の彼女達は、カルミアには攻撃できないが、逆に攻撃は受ける。
その筈が、明確に攻撃をしてきた。
だが、その原因を考える前に、視界に映り込むシルフィ達への怒りが、その思考を薄める。
「どいつもこいつも、アタシを否定しやがって!!」
頭数は多くとも、シルフィ達の攻撃で、レッドクラウンの装甲を破る事は不可能。
ならば、防御は一切気にせず、攻めればいい。
何の小細工も無く、目の前に居るメンツを一瞬でほうむる。
それを可能にする一番の方法を思いついたカルミアは、すぐに実行に移す。
「……オーバー、ドライヴッ!」
オーバー・ドライヴの使用により、レッドクラウンは黄色く発光。
尻尾の出力も上がった事で、ネロ達を吹き飛ばすと、尻尾を引き戻す。
その片手間に、口内のビーム砲を最大出力まで引き上げ、照準をセット。
周辺を黄色い光が包む中で、デュラウスは顔を引きつらせる。
「おい、ちょっとヤバくないか!?」
「ちょっとどころ、じゃない……」
デュラウスの隣にいたヘリアンは、シルフィの方をチラ見。
他の面々は、恐怖で動きを止めてしまっている。
今のレッドクラウンであれば、山の一部どころか、その物を吹き飛ばせる程。
ほんの数メートル先に居る彼女達に撃てば、どんなに早く動いても、ほぼ一瞬で蒸発させられる。
「完全に消えて無くなれ!!」
カルミアの叫びと共に、充填されていたエネルギーの全てを放出。
防御態勢をとる彼らへと、ビーム砲は地面を削りながら直進する。
完全に動きを止める中で、ただ一人、前へと突き進んで来きた。
「やらせない!!」
「ほう」
愚かにも、シルフィは一気に前へと出る。
恐怖の混じる表情を浮かべながらガーベラを突き出し、ビーム砲を受け止めた。
一番殺したい人物が、このまま蒸発する。
そんな事を考えるカルミアの期待は、瞬時に崩れ去った。
「まさか、レッドクラウンのエネルギーを」
身体を強張らせたカルミアが見たのは、レッドクラウンのエネルギーを吸収するシルフィの姿。
このような芸当ができる事は知っていた。
だが、このような事が出来るのは、リリィのようなアンドロイドと演算を共有できる場合。
今の状況で、シルフィに演算を共有し、このような事をしようと思いつく個体。
検討を付けたカルミアは、彼女の方へと視線を向ける。
「……あんの根暗!!」
シルフィへと手を伸ばしているヘリアンを見て、カルミアは確信する。
彼女が演算の共有を行っている。
できればすぐにでも殺してやりたいが、今はそんな場合ではない。
シルフィの持つガーベラには、既に大量のエネルギーが吸収されているのだ。
「クソが!」
すぐに照射を止めたカルミアは、シルフィへと走りだす。
エネルギーを吸収したシルフィも、更に前へと出る。
レッドクラウンの爪は、先にシルフィを射程圏内に捉え、空気を切り裂きながらつき出す。
「死ね、シルフィ・エルフィリア!!」
「悪いけど、まだ死ねない!!」
命中する直前で回避したシルフィは、レッドクラウンの腕を踏み台に、更に接近。
迎撃するべく、とっさにもう片方の腕を動かした瞬間、カルミアの視界を奪う程の光が発生する。
ガーベラを構えるシルフィの影は、更に距離を詰め、勢いよく振り下ろした。
「大人しくしてよね!」
「ッ!(マズイ、このままじゃ頭に)」
攻撃は得策ではないと判断し、レッドクラウンの筋をずらす。
おかげで、頭部への直撃は避けられた代わりに、左腕が切断される。
コックピット内に電流が走ると、レッドクラウンから悲鳴にも似た声が吹き出される。
「ガアアアア!!」
「何!?」
「クソが!」
獣のような声。
その声に怯んだシルフィに向けて、カルミアは尻尾を繰りだす。
油断するシルフィを数回切り刻み、地面へ叩きつけると、撤退を開始。
逃げ帰りながら、カルミアは目を見開き、口を引きつらせる。
「あんの女~」
身体を震わせながら、シルフィの事を思い出す。
もはや、彼女を殺す為であれば、どんな事でもするつもりでいる。
その方法を模索していると、倉庫に眠りっぱなしの兵装が、カルミアの脳裏に浮かぶ。
うっかり忘れてしまっていた物だが、多少整備すれば、まだ使える。
そう考えたカルミアの表情は、正に鬼の形相だった。
「必ず殺す、あれを使ってでも」




