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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
172/343

風になびく花 後編

 カルミアが戦地へ向かっている事なんて、つゆ知らず、ジャック達は話を続けていた。

 内容は、イベリスがマザーから完全に追い出されているという事。

 その事を教えられたヘリアンとデュラウも、接続状態を確認。

 結果、一つの疑問が浮かんできた。


「確かに、俺もマザーから追い出されてやがる、けどよ」

「何で私は、繋がったまま?」


 今のメンバーの中で、ヘリアンだけが、マザーとリンクを維持したままなのだ。

 デュラウスも、イベリス同様にマザーからはじき出されている。

 試しに、ヘリアンがマザーへ問いただしても、返事は無かった。

 おかげで、原因は不明。

 ラベルクも、現状の装備では解析ができないので、理由は解らない。


「……とりあえず、私は、本部へ戻る、二人は、シルフィと居て」

「え、ヘリアンはどうするの?」

「本部へ戻って、原因を、調べる」

「できんのか?そんな事」

「解らない、でも、もしも、次に会った時、再調整を、受けていたら、迷わず、破壊して、構わない」


 ジャックの質問に答えると、ヘリアンはライフルを持って帰還しようとする。

 こんな所に居ても、解らない物は解らない。

 ならば、いっその事直接確かめた方が良いと判断した。

 だが、そんな行動をデュラウス達が許すわけがなかった。


「おい待てよ、何で俺らは残るんだよ」

「……既に、貴女達は自由、なら、好きな人の元に、居ればいい」

「ふざけんな、テメェだけ恰好つける気かよ」

「違う、推測だけど、アキレアはまだ、二十機以上いる、今回の戦いで、大分戦力を奪った、なら、彼らを助けられるのは、貴女達だけ」


 デュラウス達の事を、ストレンジャーズの面々が受け入れるかは別として。

 今回の戦いで、ジャック達はそれなりの被害が出た。

 アキレア達もまだ半分以上残っている。

 しかも、そこにリリィ達を加えれば、更に凶悪な戦力となる。

 たった二機だけでも、アリサシリーズが居れば、少しは違う。


「だからって」

「あ」

「……何だよ」

「……ミサイル」

「は?」


 ヘリアンの一言で、周りが凍り付く。

 その瞬間、この場に居る全員の耳に、ミサイルのブースター音が入り込んで来る。

 しかも、一発や二発ではなく、大量のミサイルが接近している。

 こんな所で、のほほんと立ち話をしていれば、確実にミサイルの餌食となってしまう。


「そう言う事は早く言えやテメェ!」

「ゴメン」

「口論は良い!早く逃げるぞ!!」


 ドレイクの手で、口論を再開しようとした二人を止め、全員はさっさと逃げ出す。

 雨のように降り注ぐミサイルや、ロケット弾。

 着弾と同時に起こる爆発をかいくぐり、必死に足を動かす。

 生き死にの掛かっている状況であるが、この場に居る全員は、この攻撃をしてくる犯人を思い浮かべていた。


「ねぇ!これってもしかしてカルミアちゃん!?」

「ああ!こんな攻撃できんの、アイツしか居ねぇ!」

「ここの戦いは、中継されてる、多分、さっきのやり取り見て、キレ散らかした」


 事実、カルミアがこのような凶行に及んだのは、彼女達の絡みを見たから。

 もう考えなくても、悪魔のような笑みを浮かべるカルミアが出て来る。


「成程、沸点の低いアイツがやりそうだ」

「ああ、まぁそれよりも」


 爆発の中を逃げていると、デュラウスは妙な重量感を感じていた。

 装備は軽量化を図り、スピード重視の物なのだが、人間一人分重く感じる。

 その理由は、先ほどの会話ですぐに解った。


「テメェは何乗っかってんだ!!?」

「え~いいじゃん」

「良くねぇよ!」


 その犯人はジャック。

 いつの間にかデュラウスの背中に乗り、逃走を彼女に頼っている。

 しかも、後ろからしっかりとホールドしており、とても振り払えそうにない。

 と言うか、そんな事をしていたらミサイルの餌食なる。


「だって、オメェらと戦ってるうちに、腰ガタガタに成っちゃってさ~、ちょっと歩けそうにないわ」

「オメェがガタガタに成ってどうする!?」


 長時間の悪鬼羅刹の使用と、オーバー・ドライヴ。

 これらのせいで、流石のジャックも音を上げてしまった。

 まるで狙いすましたかのように、腰に負担が襲い掛かり、ほとんどギックリ腰状態だ。

 もう仕方無いので、デュラウスはそのままジャックを担いで逃げることにした。



 逃げ続ける事数分。

 弾がきれたのか、ミサイルの雨は止む。

 それをかわきりに、ドレイク達は周辺の警戒を行い始める。

 そんな中、デュラウスはジャックを背負いながら肩で息をしていた。


「はぁ、はぁ、人の事タクシー代わりにしやがって」

「安心しろ、礼としてシルフィにキスする権限をくれてやるぞ!桃ちゃん!」

「フェッ!?」

「勝手に本人の前で決めないでくんない!!」

「ちょ、その反応は傷付く……てか、誰が桃ちゃんだボケ!!」

「だったら地面とキスしてろ!!」


 変な下りをしていると、装備をパージしたレッドクラウンが降下。

 ジャックと共に、デュラウスを踏みつぶした。

 その時、ジャックが地味に嬉しそうな表情をしたのは、秘密である。

 それはさておき、二人を無力化したカルミアは、すぐにシルフィを睨みつける。


「カルミアちゃん!お願い、もう止めて!」

「黙れ、気安く呼ぶな!!」

「ッ!!」


 カルミアの説得を試みようとしたシルフィだが、むしろ怒りを増長。

 レッドクラウンの口が、シルフィへと向けられる。

 この場へ来る前に、予めチャージしておいたエーテルの全てを放出する。

 だが、ビームはシルフィに直撃しなかった。


「い、イベリスさん!?」

「勘違いしないでくださいませ、死んで約束を反故にされては、困るだけですわっ」


 シルフィの前に、盾を構えるイベリスが立ちはだかり、ビームを防ぎ止めた。

 盾の性能を最大限活用し、レッドクラウンのビームを防ぐが、徐々に破れられだす。

 発生した熱で、シールドや装甲は、徐々に融解していく。

 イベリスを助けるべく、シルフィはストレリチアのレールガンを用意する。


「待っててイベリスさん!」

「やるならお早く!もう持ちませんわ!」

「解ってる!」


 即座にチャージを完了させ、引き金を引く。

 レッドクラウンにさえ当たれば、何処だってよかった。

 シルフィの魔力をおびた弾頭は、レッドクラウンのビームを無効化しながら直進。

 半分以下まで威力が減衰しても、何とか命中し、何とか姿勢を崩させた。

 そのおかげで、デュラウス達はレッドクラウンの足から逃れられた。


「クソが!」

「お、遅いですわ」

「ごめんなさい!大丈夫!?」


 ビーム照射から解放されたイベリスは、シルフィに介護される。

 そんな二人のやり取りをみたカルミアは、更に強く歯を食いしばると、尻尾をシルフィへと向かわせる。

 ヘビのようにうねりながら、レッドクラウンの尻尾は、シルフィへ接近。


「させん!!」

「手ぇ貸すで!!」

「クソが、邪魔すんな!!」


 シルフィへ命中する前に、尻尾のワイヤー部分は、振り下ろされたネロの斧に阻まれる。

 更に、ウィルソンの魔法で、地面から黒い手が出現し、尻尾をつかみ取る。

 ホールドされた尻尾は、戻そうとしてもピンと張るだけ。

 その事実に動揺し、動きを止めてしまったカルミアを挟むように、二つの技が交差する。


「桜我流剣術・雷電斬壕!!」

「桜我流剣術・嵐鬼流!!」


 デュラウスの、赤い雷を伴った斬撃。

 ドレイクの、水と風によって生成された無数の刃。

 二つとも、レッドクラウンの装甲は破れなかったが、その衝撃はカルミアへと伝わる。


「ガ、ウッ!クソッ!」


 二人の技が合わさり、本当に嵐の中に居る感覚を覚えたカルミアは、コックピット内で振り回される。

 何とかレッドクラウンのバランスを調整し、目力だけで殺せそうな程の眼光を、彼らに向ける。

 周辺を見渡し、改めて状況を確かめる。


「(クソが、何でアイツがアタシに攻撃できてんだよ!?)」


 一番解らないのは、デュラウスが攻撃を仕掛けて来た事。

 今の彼女達は、カルミアには攻撃できないが、逆に攻撃は受ける。

 その筈が、明確に攻撃をしてきた。

 だが、その原因を考える前に、視界に映り込むシルフィ達への怒りが、その思考を薄める。


「どいつもこいつも、アタシを否定しやがって!!」


 頭数は多くとも、シルフィ達の攻撃で、レッドクラウンの装甲を破る事は不可能。

 ならば、防御は一切気にせず、攻めればいい。

 何の小細工も無く、目の前に居るメンツを一瞬でほうむる。

 それを可能にする一番の方法を思いついたカルミアは、すぐに実行に移す。


「……オーバー、ドライヴッ!」


 オーバー・ドライヴの使用により、レッドクラウンは黄色く発光。

 尻尾の出力も上がった事で、ネロ達を吹き飛ばすと、尻尾を引き戻す。

 その片手間に、口内のビーム砲を最大出力まで引き上げ、照準をセット。

 周辺を黄色い光が包む中で、デュラウスは顔を引きつらせる。


「おい、ちょっとヤバくないか!?」

「ちょっとどころ、じゃない……」


 デュラウスの隣にいたヘリアンは、シルフィの方をチラ見。

 他の面々は、恐怖で動きを止めてしまっている。

 今のレッドクラウンであれば、山の一部どころか、その物を吹き飛ばせる程。

 ほんの数メートル先に居る彼女達に撃てば、どんなに早く動いても、ほぼ一瞬で蒸発させられる。


「完全に消えて無くなれ!!」


 カルミアの叫びと共に、充填されていたエネルギーの全てを放出。

 防御態勢をとる彼らへと、ビーム砲は地面を削りながら直進する。

 完全に動きを止める中で、ただ一人、前へと突き進んで来きた。


「やらせない!!」

「ほう」


 愚かにも、シルフィは一気に前へと出る。

 恐怖の混じる表情を浮かべながらガーベラを突き出し、ビーム砲を受け止めた。

 一番殺したい人物が、このまま蒸発する。

 そんな事を考えるカルミアの期待は、瞬時に崩れ去った。


「まさか、レッドクラウンのエネルギーを」


 身体を強張らせたカルミアが見たのは、レッドクラウンのエネルギーを吸収するシルフィの姿。

 このような芸当ができる事は知っていた。

 だが、このような事が出来るのは、リリィのようなアンドロイドと演算を共有できる場合。

 今の状況で、シルフィに演算を共有し、このような事をしようと思いつく個体。

 検討を付けたカルミアは、彼女の方へと視線を向ける。


「……あんの根暗!!」


 シルフィへと手を伸ばしているヘリアンを見て、カルミアは確信する。

 彼女が演算の共有を行っている。

 できればすぐにでも殺してやりたいが、今はそんな場合ではない。

 シルフィの持つガーベラには、既に大量のエネルギーが吸収されているのだ。


「クソが!」


 すぐに照射を止めたカルミアは、シルフィへと走りだす。

 エネルギーを吸収したシルフィも、更に前へと出る。

 レッドクラウンの爪は、先にシルフィを射程圏内に捉え、空気を切り裂きながらつき出す。


「死ね、シルフィ・エルフィリア!!」

「悪いけど、まだ死ねない!!」


 命中する直前で回避したシルフィは、レッドクラウンの腕を踏み台に、更に接近。

 迎撃するべく、とっさにもう片方の腕を動かした瞬間、カルミアの視界を奪う程の光が発生する。

 ガーベラを構えるシルフィの影は、更に距離を詰め、勢いよく振り下ろした。


「大人しくしてよね!」

「ッ!(マズイ、このままじゃ頭に)」


 攻撃は得策ではないと判断し、レッドクラウンの筋をずらす。

 おかげで、頭部への直撃は避けられた代わりに、左腕が切断される。

 コックピット内に電流が走ると、レッドクラウンから悲鳴にも似た声が吹き出される。


「ガアアアア!!」

「何!?」

「クソが!」


 獣のような声。

 その声に怯んだシルフィに向けて、カルミアは尻尾を繰りだす。

 油断するシルフィを数回切り刻み、地面へ叩きつけると、撤退を開始。

 逃げ帰りながら、カルミアは目を見開き、口を引きつらせる。


「あんの女~」


 身体を震わせながら、シルフィの事を思い出す。

 もはや、彼女を殺す為であれば、どんな事でもするつもりでいる。

 その方法を模索していると、倉庫に眠りっぱなしの兵装が、カルミアの脳裏に浮かぶ。

 うっかり忘れてしまっていた物だが、多少整備すれば、まだ使える。

 そう考えたカルミアの表情は、正に鬼の形相だった。


「必ず殺す、あれを使ってでも」



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