風になびく花 中編
デュラウスとシルフィが、謎の共感を得ている中で、ジャックは地面から顔を引き抜く。
顔に付いた土を振り払うと、シルフィとデュラウスへ、抗議を始める。
「おい!ここまでする必要ねぇだろ!?今完全に本気だっただろ!」
「有るわ!第一アンタ、定期的にボケないと死ぬの!?バカなの!?」
「バカだよ死ぬよ!」
「何そのウザい返し方!」
顔の土を払いながら、ジャックはシルフィへと物申す。
ツッコミを入れる事は別に良いいとして、本気でやられた事にご立腹の様子。
二人が言い合っている横で、ヘリアンも顔を地面から引き抜く。
彼女も、顔の土を取りながら、デュラウスへ反論を言い始める。
「と言うより、私まで、一緒にされたくない」
「てか、何でそうなった、お前らさっきまで戦ってただろ」
「そんなの、五分ぐらいで飽きて、アニメの技の、完成度で、競ってた」
「飽きるな!ここ戦場だぞ!!」
実の所、ジャックとへリアンの戦いは、開始五分ちょっとで終了。
結局引き分けとなったので、アニメの技で競い始めた。
それも、四人が必死で戦っている中である。
デュラウスとしては、戦場でそんな事をする二人の神経が解らなかった。
そんな彼女に、ジャックは異議を申し立てる。
「いいかデュラウス、こんな話がある、戦争中に、塹壕の中で歌を歌ったら、その一日だけ銃声は一切ならず、敵味方関係なく、酒盛りやサッカーを楽しんだという話だ」
「そう、現場の兵士だって、戦いたくない、所詮、戦争なんて、上の連中が、勝手に始める、ただの茶番、互いの文化を、理解すれば、自ずと、世界は平和になる」
「つまり」
「世界は」
「歌で平和になる!」
「歌で平和になる!」
つい先程まで、銃弾撃ちまくっていた仲の二人とは思えない言葉。
かなり意気投合したようで、二人そろって謎のポーズを取りだしながら言ってきた。
そんな二人の奇行に、シルフィは唖然とし、デュラウスは頭をかきむしる。
なにしろ、二人の言動には、色々とひっかかる部分が多いのだ。
「おい、それって確か、結局翌日殺し合いになった奴だよな、つか、ヘリアンも、そんな世の中甘くねぇんだよ、マク〇スみたいにはいかねぇんだよ!」
「チェ、夢のねぇ女」
「世界は歌のように優しく無くとも、人にはそう言う可能性が有る」
「うるせぇんだよ、さっきまで殺し合ってたクセに、何が夢だよ、説得力ねぇんだよ」
ジャックとヘリアンは、先ほどまで殺し合っていた事が信じられない位、仲良く反論を述べる。
だが、デュラウスの冷静なツッコミに、ジャックはそっぽを向きつつ、舌を鳴らす。
腹いせ紛いに、先ほど耳に入ったデュラウスの以外な一面をいじる事にした。
「チ、ギャップ萌え狙ったみたいなキャラ設定されてるくせに、偉そうに」
「んだとゴルア!!」
「まぁ、まぁ!……って、アババババ!!」
「あちょ!?」
ジャックに恥ずかしい一面を聞かれ、普通にバカにされ、デュラウスは鬼の形相と化す。
全身に雷をまとい、太刀を振り回しながらジャックを切り刻もうとする。
そんなデュラウスを抑え込むべく、シルフィは羽交い締めにするが、彼女をまとう電流に感電。
痺れてしまったシルフィの介護等で、デュラウスは怒りを忘れ、ジャックは悪い笑みを浮かべていた。
そんな彼女達の様子を見ていたイベリスはと言うと……
「……信じて大丈夫なのでしょうか?」
「恐らく大丈夫でしょう、彼女達は、色々と義理堅いですから」
「恐ろしく不安ですわ」
まるで何も考えて居ないかのようにふるまい、お互いに馬鹿をやり合う。
そんな彼女達を見て、イベリスはすっかり疑いの目を浮かべてしまっている。
とはいえ、信じると決めてしまったのだ。
信じるしかない。
色々と不安になりながらも、イベリスはラベルクの修復作業を続ける。
修復と言っても、今はロクな物が無いので、応急手当がせいぜいだ。
「しかし、このような事をして、大丈夫なのですか?」
「はい、何故だか解りませんが」
「(そう言えば、あの、はしたない個体も、根暗な個体に蹴りを……)」
ラベルクの問いかけに、イベリスは首をかしげながら答える。
アンドロイド兵でありながら、敵の治療を行うという行動は異常。
通常であれば、行動にロックがかかる筈なのだ。
それに、デュラウスがヘリアンへとかかと落としを決めた事も気になる。
「……ちょっと失礼」
「はい」
応急手当を行うイベリスの額に、ラベルクは指を当て、アクセスを開始。
イベリスは、彼女からのアクセスをすんなりと受け入れる。
お互いに原因を知りたかった。
「……これは」
「何かお分かりに?」
解析を難しく進める必要はなかった。
何しろ、アクセスをして数秒程度で原因は判明したのだ。
「……マザーとのリンクが、きれています」
「え」
ラベルクのセリフに、イベリスは目を見開いた。
試しに、自分でもマザーへのアクセスを試みるも、不可能に成っている。
二人は、急いで四人のもとへ行き、今の事態を伝える。
そんな彼女達のやり取りを見て、男どもはと言うと。
「ヤレヤレ、あきまへんな~ワイも年かね~」
「全くだ、彼女達の馬鹿みたいな体力が羨ましい」
「それはそれだ、急に撤退した事が、どうも気になる」
「ネロはんは丈夫やな~流石ドワーフや」
彼らの戦績は、アキレア三機。
四機目を何とか無力化できる、という所まで追い込んだ所で、急に撤退を始めた。
その事実を前に、ネロは難しい顔を崩さなかった。
何しろ、まだデュラウス達が、ジャック達と共にいる。
気にならない方がどうかしている。
一先ず、計七機を破壊できたことは、それなりに大きな戦果だ。
――――――
その頃、リリィは自室で今回の戦いの映像を生中継で見ていた。
照明は落ち、端末の明かりだけが部屋を照らす中、リリィは唇をかみしめる。
ドローンを経由して、映像を彼女の専用の端末へ送信されている。
戦闘で発生したエーテルによって、多少のラグは有るが、ほとんどリアルタイム。
何とかシルフィが生きていた事に安堵していると、見てしまったのだ。
「シルフィ、あんなに、楽しそうに」
シルフィの浮かべる、とても楽しそうで、満ちたれた表情。
姉妹であるアリサシリーズ、母であるジャック。
彼女達との交流によって、シルフィはとても楽しそうにやり取りをしている。
しかも、戦闘に向かった機体の内、二体はシルフィと羨ましい事をしていた。
音声までは拾えていないが、シルフィはとても楽しそうにしている。
そんな彼女をみて、リリィは拳を強く握り、身体を震わせた。
「やはり、私が居なくても」
今のシルフィは、自分が居なくても、楽しくやっていける。
そう思っただけで、リリィは今度こそ、本当に居場所を失った気分になった。
だが、考えてもみれば、そもそも最初からそんな関係だったのかもしれない。
所詮、二か月程度の関係。
恋人にすらなっていない。
「(いや、最初からそうだ、あの子には、母親が、義妹が居る、私なんて、最初から必要なかったんだ)」
その考えにたどり着いたリリィは、込みあがっていた力が抜け落ちた。
目から力は無くなり、ため息まで零れる。
シルフィには自分が必要だ。
そう思っていたのは、ただの思い込み。
シルフィに、自分は必要ないのだと。
改めて思ってしまう。
それだけで、胸の奥に、かきむしられるような痛みが襲い掛かる。
「(考えてもみれば、私があの子を大尉から遠ざけていたのは、これが怖かったからだ、私が、必要なくなるのが、怖かった……そうだ、もう、私に居場所はない、なら、過去はもう、必要ない)」
そんな事を考えながら、リリィは作っていた仮面を被る。
感情モジュールの抑制、空間把握能力の向上。
他にも様々な機能を取り付けた物だ。
「……さようならです、シルフィ」
仮面を取り付けた途端、先ほどまで感じていた哀しみは、ウソのように晴れる。
シルフィへの未練、居場所を失う事への不安。
全てが無くなった。
「ああ……そうだ、これだ、これが、私の、私達の、あるべき姿」
――――――
リリィが仮面を取り付けた頃。
ドローンの中継で、様子を見ていたカルミアは、視聴に使っていた端末は握りつぶし、レッドクラウンの整備を切り上げた。
装備を取り付け、すぐにコックピットへ乗り込み、平原への移動を開始する。
「ざけんな、ざけんな、ざけんなざけんな……ふざけんなクソ共!!」
出撃はもっと後の予定だった。
だが、彼女達のやり取りを見ていたら、居ても立っても居られなかった。
憂さ晴らしに、出撃ハッチをぶち壊し、スラスターを最大で吹かせる。
装備も、機動力を無視したような重装備を持っている。
「ぶっ殺す、あいつ等だけは絶対に!!」
爆撃機と言っても良い程の重装備を携え、カルミアはジャック達の元へ向かう。
大量のミサイルや、ロケットランチャーを携え、スラスターを全開に吹かせる。
重装備を持っているとは思えないスピードで、カルミアは戦場へ向かう。
自分を否定する連中を、全員殺すために。
「ぶっ殺してやる、アタシを否定する奴らは、誰だろうと!」
真っ先に思い浮かんだシルフィの顔。
彼女の事を考えただけで、歯が折れてしまう程に食いしばってしまう。
表情も、睨むように目を鋭くし、はるか遠くにいるシルフィに向ける。
「殺す、絶対に殺す!!」




