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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
171/343

風になびく花 中編

 デュラウスとシルフィが、謎の共感を得ている中で、ジャックは地面から顔を引き抜く。

 顔に付いた土を振り払うと、シルフィとデュラウスへ、抗議を始める。


「おい!ここまでする必要ねぇだろ!?今完全に本気だっただろ!」

「有るわ!第一アンタ、定期的にボケないと死ぬの!?バカなの!?」

「バカだよ死ぬよ!」

「何そのウザい返し方!」


 顔の土を払いながら、ジャックはシルフィへと物申す。

 ツッコミを入れる事は別に良いいとして、本気でやられた事にご立腹の様子。

 二人が言い合っている横で、ヘリアンも顔を地面から引き抜く。

 彼女も、顔の土を取りながら、デュラウスへ反論を言い始める。


「と言うより、私まで、一緒にされたくない」

「てか、何でそうなった、お前らさっきまで戦ってただろ」

「そんなの、五分ぐらいで飽きて、アニメの技の、完成度で、競ってた」

「飽きるな!ここ戦場だぞ!!」


 実の所、ジャックとへリアンの戦いは、開始五分ちょっとで終了。

 結局引き分けとなったので、アニメの技で競い始めた。

 それも、四人が必死で戦っている中である。

 デュラウスとしては、戦場でそんな事をする二人の神経が解らなかった。

 そんな彼女に、ジャックは異議を申し立てる。


「いいかデュラウス、こんな話がある、戦争中に、塹壕の中で歌を歌ったら、その一日だけ銃声は一切ならず、敵味方関係なく、酒盛りやサッカーを楽しんだという話だ」

「そう、現場の兵士だって、戦いたくない、所詮、戦争なんて、上の連中が、勝手に始める、ただの茶番、互いの文化を、理解すれば、自ずと、世界は平和になる」

「つまり」

「世界は」

「歌で平和になる!」

「歌で平和になる!」


 つい先程まで、銃弾撃ちまくっていた仲の二人とは思えない言葉。

 かなり意気投合したようで、二人そろって謎のポーズを取りだしながら言ってきた。

 そんな二人の奇行に、シルフィは唖然とし、デュラウスは頭をかきむしる。

 なにしろ、二人の言動には、色々とひっかかる部分が多いのだ。


「おい、それって確か、結局翌日殺し合いになった奴だよな、つか、ヘリアンも、そんな世の中甘くねぇんだよ、マク〇スみたいにはいかねぇんだよ!」

「チェ、夢のねぇ女」

「世界は歌のように優しく無くとも、人にはそう言う可能性が有る」

「うるせぇんだよ、さっきまで殺し合ってたクセに、何が夢だよ、説得力ねぇんだよ」


 ジャックとヘリアンは、先ほどまで殺し合っていた事が信じられない位、仲良く反論を述べる。

 だが、デュラウスの冷静なツッコミに、ジャックはそっぽを向きつつ、舌を鳴らす。

 腹いせ紛いに、先ほど耳に入ったデュラウスの以外な一面をいじる事にした。


「チ、ギャップ萌え狙ったみたいなキャラ設定されてるくせに、偉そうに」

「んだとゴルア!!」

「まぁ、まぁ!……って、アババババ!!」

「あちょ!?」


 ジャックに恥ずかしい一面を聞かれ、普通にバカにされ、デュラウスは鬼の形相と化す。

 全身に雷をまとい、太刀を振り回しながらジャックを切り刻もうとする。

 そんなデュラウスを抑え込むべく、シルフィは羽交い締めにするが、彼女をまとう電流に感電。

 痺れてしまったシルフィの介護等で、デュラウスは怒りを忘れ、ジャックは悪い笑みを浮かべていた。

 そんな彼女達の様子を見ていたイベリスはと言うと……


「……信じて大丈夫なのでしょうか?」

「恐らく大丈夫でしょう、彼女達は、色々と義理堅いですから」

「恐ろしく不安ですわ」


 まるで何も考えて居ないかのようにふるまい、お互いに馬鹿をやり合う。

 そんな彼女達を見て、イベリスはすっかり疑いの目を浮かべてしまっている。

 とはいえ、信じると決めてしまったのだ。

 信じるしかない。

 色々と不安になりながらも、イベリスはラベルクの修復作業を続ける。

 修復と言っても、今はロクな物が無いので、応急手当がせいぜいだ。


「しかし、このような事をして、大丈夫なのですか?」

「はい、何故だか解りませんが」

「(そう言えば、あの、はしたない個体も、根暗な個体に蹴りを……)」


 ラベルクの問いかけに、イベリスは首をかしげながら答える。

 アンドロイド兵でありながら、敵の治療を行うという行動は異常。

 通常であれば、行動にロックがかかる筈なのだ。

 それに、デュラウスがヘリアンへとかかと落としを決めた事も気になる。


「……ちょっと失礼」

「はい」


 応急手当を行うイベリスの額に、ラベルクは指を当て、アクセスを開始。

 イベリスは、彼女からのアクセスをすんなりと受け入れる。

 お互いに原因を知りたかった。


「……これは」

「何かお分かりに?」


 解析を難しく進める必要はなかった。

 何しろ、アクセスをして数秒程度で原因は判明したのだ。


「……マザーとのリンクが、きれています」

「え」


 ラベルクのセリフに、イベリスは目を見開いた。

 試しに、自分でもマザーへのアクセスを試みるも、不可能に成っている。

 二人は、急いで四人のもとへ行き、今の事態を伝える。

 そんな彼女達のやり取りを見て、男どもはと言うと。


「ヤレヤレ、あきまへんな~ワイも年かね~」

「全くだ、彼女達の馬鹿みたいな体力が羨ましい」

「それはそれだ、急に撤退した事が、どうも気になる」

「ネロはんは丈夫やな~流石ドワーフや」


 彼らの戦績は、アキレア三機。

 四機目を何とか無力化できる、という所まで追い込んだ所で、急に撤退を始めた。

 その事実を前に、ネロは難しい顔を崩さなかった。

 何しろ、まだデュラウス達が、ジャック達と共にいる。

 気にならない方がどうかしている。

 一先ず、計七機を破壊できたことは、それなりに大きな戦果だ。


 ――――――


 その頃、リリィは自室で今回の戦いの映像を生中継で見ていた。

 照明は落ち、端末の明かりだけが部屋を照らす中、リリィは唇をかみしめる。

 ドローンを経由して、映像を彼女の専用の端末へ送信されている。

 戦闘で発生したエーテルによって、多少のラグは有るが、ほとんどリアルタイム。

 何とかシルフィが生きていた事に安堵していると、見てしまったのだ。


「シルフィ、あんなに、楽しそうに」


 シルフィの浮かべる、とても楽しそうで、満ちたれた表情。

 姉妹であるアリサシリーズ、母であるジャック。

 彼女達との交流によって、シルフィはとても楽しそうにやり取りをしている。

 しかも、戦闘に向かった機体の内、二体はシルフィと羨ましい事をしていた。

 音声までは拾えていないが、シルフィはとても楽しそうにしている。

 そんな彼女をみて、リリィは拳を強く握り、身体を震わせた。


「やはり、私が居なくても」


 今のシルフィは、自分が居なくても、楽しくやっていける。

 そう思っただけで、リリィは今度こそ、本当に居場所を失った気分になった。

 だが、考えてもみれば、そもそも最初からそんな関係だったのかもしれない。

 所詮、二か月程度の関係。

 恋人にすらなっていない。


「(いや、最初からそうだ、あの子には、母親が、義妹が居る、私なんて、最初から必要なかったんだ)」


 その考えにたどり着いたリリィは、込みあがっていた力が抜け落ちた。

 目から力は無くなり、ため息まで零れる。

 シルフィには自分が必要だ。

 そう思っていたのは、ただの思い込み。

 シルフィに、自分は必要ないのだと。

 改めて思ってしまう。

 それだけで、胸の奥に、かきむしられるような痛みが襲い掛かる。


「(考えてもみれば、私があの子を大尉から遠ざけていたのは、これが怖かったからだ、私が、必要なくなるのが、怖かった……そうだ、もう、私に居場所はない、なら、過去はもう、必要ない)」


 そんな事を考えながら、リリィは作っていた仮面を被る。

 感情モジュールの抑制、空間把握能力の向上。

 他にも様々な機能を取り付けた物だ。


「……さようならです、シルフィ」


 仮面を取り付けた途端、先ほどまで感じていた哀しみは、ウソのように晴れる。

 シルフィへの未練、居場所を失う事への不安。

 全てが無くなった。


「ああ……そうだ、これだ、これが、私の、私達の、あるべき姿」


 ――――――


 リリィが仮面を取り付けた頃。

 ドローンの中継で、様子を見ていたカルミアは、視聴に使っていた端末は握りつぶし、レッドクラウンの整備を切り上げた。

 装備を取り付け、すぐにコックピットへ乗り込み、平原への移動を開始する。


「ざけんな、ざけんな、ざけんなざけんな……ふざけんなクソ共!!」


 出撃はもっと後の予定だった。

 だが、彼女達のやり取りを見ていたら、居ても立っても居られなかった。

 憂さ晴らしに、出撃ハッチをぶち壊し、スラスターを最大で吹かせる。

 装備も、機動力を無視したような重装備を持っている。


「ぶっ殺す、あいつ等だけは絶対に!!」


 爆撃機と言っても良い程の重装備を携え、カルミアはジャック達の元へ向かう。

 大量のミサイルや、ロケットランチャーを携え、スラスターを全開に吹かせる。

 重装備を持っているとは思えないスピードで、カルミアは戦場へ向かう。

 自分を否定する連中を、全員殺すために。


「ぶっ殺してやる、アタシを否定する奴らは、誰だろうと!」


 真っ先に思い浮かんだシルフィの顔。

 彼女の事を考えただけで、歯が折れてしまう程に食いしばってしまう。

 表情も、睨むように目を鋭くし、はるか遠くにいるシルフィに向ける。


「殺す、絶対に殺す!!」


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