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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
170/343

風になびく花 前編

遅れて申し訳ございません。

本日もう一本更新いたします。

 シルフィとデュラウスが話している頃。

 イベリスとラベルクは、白熱した戦いを繰り広げていた。


「いい加減、落ちてくださいませ!」

「申し訳ございませんが、まだやられる訳には行かないのですよ!」


 メイスによる一撃を、ラベルクはすんなりと回避。

 お構い無しに接近してきたラベルクを見て、イベリスは少し焦る。

 リーチの長いイベリスのメイスでは、効果的な攻撃を行えない位置へ入り込まれた。

 ラベルクのバスターソードは、空気を切り裂きながら襲いくる。

 だが、こういった時の為のシールド。

 背面に配していたシールドを使い、右方向から来る攻撃を防ぐ。


「ッ!」

「懐に入り込もうと!」


 攻撃を防がれ、悔しそうな表情を浮かべたラベルクを押し返し、わずかな隙を作る。

 ほんのわずかな時間を利用して、目いっぱいに力を入れたメイスを振り下ろす。

 巨大な鉄の塊を前に、ラベルクはバスターソードで防御態勢をとる。


「その程度!」


 もはや障害にも成らない。

 互いの武器がぶつかり合い、甲高い金属音が辺り一面に響きわたる。

 同時に、ラベルクの足は地面にめり込み、バスターソードには大きなヒビが入った。

 笑みを浮かべたイベリスは、再度メイスを持ち上げる。

 次の一撃で、ラベルクのバスターソードを破壊できる。

 そう考えるイベリスの耳に、シルフィの声が入り込む。

『ジャックみたいに、上手くできるか解らないけど、私は、貴女達に降りかかる理不尽を、どうしても許せない、だから、助けたいの』

 この言葉を聞いた瞬間。

 イベリスはシルフィを睨みつける。


「……(まだあんなたわ言を、言っているのですか?ですが……)」

「(急に雰囲気が)」

「まずは!!」


 イベリスは、メイスに怒りを込めて落とす。

 振り下ろしたメイスは、ラベルクに避ける暇を与えずに、彼女の得物に命中。

 通常よりも力の籠った一撃を前に、バスターソード砕け散る。

 その一撃は、武器破壊だけに留まらず、ラベルクに大きな損傷をもたらす。


「あッが!!」

「これで終わりですわ!!」


 イベリスの一撃で、ラベルクの装甲は破損。

 無防備となった彼女へ向けて追撃を放ち、ラベルクの右半身を吹き飛ばした。

 大破したラベルクは、焼け焦げた地面をバウンドしながら進み、行動不能と成ってしまう。

 半身を吹き飛ばす程の損傷。

 流石のラベルクも、しばらくは動けないだろう。


「後は」


 ほとんど無力化と言っていい状態である事を確認し、イベリスはシルフィへと駆ける。

 今のシルフィは、デュラウスと話しており、完全に無防備。

 このまま不意打ちを入れれば、頭を卵のように潰せる。


「死んで、くださいませ!!」

「イベリス!!」


 メイスを振り抜いた。

 だが、イベリスの手に伝わって来た衝撃は、想像と違う。

 発生した土煙が晴れると、最初に視界に映ったのは、デュラウスの姿。

 太刀を使用し、イベリスの打撃を受け止めている。


「どう言ったおつもりで?」

「テメェこそ、何のつもりだ?」

「貴女の行動は、完全に命令違反ですわ、退かないのなら、このまま、潰させていただきますわ」

「グッ!?」


 握るメイスの力を、イベリスは更に強める。

 単純なパワーで言ってしまえば、イベリスの方が上。

 今の状態から抜け出せず、デュラウスは潰されそうになる。

 デュラウスに気を取られている間に、シルフィはイベリスの横に立つ。


「……久しぶりだね、イベリス」

「ええ、お久しぶりですわ!!」

「チ、避けろシルフィ!!」

「ッ!!」


 そんなシルフィを見たイベリスは、挨拶と同時にメイスを振り抜く。

 直撃すれば、上半身を吹き飛ばされてもおかしくはない。

 その事をけねんしたデュラウスは、避けるように注意。

 だが、シルフィは避けず、メイスを受け止めた。


「ゲホッ!」

「……なぜ、避けなかったのですか?」

「……貴女が、私を殴って気が済むなら、それでよかった」


 口から血を吐きながら、シルフィはイベリスの質問に答えた。

 受け身をとったようだったが、感触からして、骨を数本砕いた。

 恐らく、内蔵にもかなりダメージを受けている。

 それでも、シルフィは笑みを崩さない。

 痛みへの苦しみは見え隠れしている所を見ると、かなり我慢している。


「お前!」

「手を出さないで!」

「な、何言ってんだ!」


 シルフィはデュラウスの仲裁を拒否。

 彼女の瞳を見たデュラウスは、その気迫に負け、後ずさりしてしまう。

 デュラウスが引いた事を確認したシルフィは、ガーベラを捨て、イベリスにその身を差し出す。


「……殴ってよ、好きなだけ」

「後悔、なさらないでくださいませ」

「良いよ」


 イベリスは、シルフィの望み通りに殴りだす。

 もちろん、愛用のメイスを使って。

 受け続けるシルフィは、急所を避け、受け身を取った。

 ダメージを最小限に抑えても、骨にヒビは入り、内蔵もかき回される。


「はぁ、はぁ」

「ゲホ、ゴホ、もう、満足?」

「なぜ、このような事を」

「貴女が、そうしたがってたから」

「相変わらず、シャクに障りますわ」


 殴る事を止めたイベリスは、シルフィを睨む。

 どうしても、彼女を認められない。

 そんな気持ちが、イベリスの中でくすぶっている。

 だが、こうして一方的に殴ったところで、気分が晴れる訳でもなかった。

 そもそも、彼女を撲殺したところで、過去は変わらない。


「で、如何なの?」

「……もう止めですわ」

「そう」

「勘違いなさらないでいただけます?これ以上貴女を殴っても、意味がないというだけでしてよ」

「……そう、それで、何で怒ってたの?」

「貴女が、気にくわないのですよ」

「イベリス、いい加減、過去位忘れろよ」

「……」


 デュラウスの言葉に、イベリスは表情を曇らせる。

 イベリスの抱く、過去のトラウマ。

 一方的に捨てた人間への怒り。

 何時までもぶり返される黒歴史には、どうしても憤りを覚える。

 理屈でどうにかなるのであれば、こんな事はしていない。


「理屈では、どうにもできないのですよ、わたくしの過去は」

「お前」

「そう言う物だよ、デュラウス」

「シルフィ」


 イベリスの言葉に、シルフィは同情する。

 シルフィにも、理屈だけでどうにかならない過去は有る。

 イベリスと同じ、とは言えなくとも、今でも嫌な気分に成る。

 だが、その時にシルフィを支えてくれたモノが有る。


「イヤな過去は、本当に嫌な物だよ、でも、私は、リリィやルシーラちゃんが居た、あの子達が、支えになってくれた、おかげで、克服とまでは行かないけど、過去から、少し解放された気がしたの」


 彼女達に自覚は無いだろう。

 だが、少なくとも、二人はシルフィにまとわり付いていた過去を、一部振り払えた。

 イベリスを助けるという事は、今度はシルフィ自身が彼女の支えになる。

 それが、シルフィなりの解釈だ。


「だから、イベリスさん、私の事、信じてみない?」

「そ、そんな事」


 シルフィの出した提案。

 イベリスからしてみれば、簡単に飲めるような物ではない。

 二つ返事で返せる程、イベリスのトラウマは浅くない。


「イヤなら良いの、今後、私の事を気が済むまで殴ってもいいし」

「あなた、おバカでして!?」

「うん、馬鹿だよ」

「否定しろよ」

「まぁ、それはそれとして」

「な、何ですの?」


 デュラウスのツッコミは無視し、シルフィはイベリスへと近寄る。

 そんなシルフィを見て、イベリスはメイスを構え直す。

 シルフィは、当たり前のようにイベリスの間合いに入り込み、顔を見つめる。

 そして、イベリスのほほを、両手で包み込む。


「ちょっと、目閉じて」

「え、ちょ、わたくしはそのような、あ」

「ちょ、な、何しようとしてっ!?」


 少し高めの身長を持つイベリスの為に、シルフィは背伸びをし、自分の額をイベリスに当てる。

 力強く目を閉じていたイベリスは、少しショックを受ける。

 思っていた事と違ったので、ちょっと怒りは有ったが、何をされたのか、すぐに解った。

 シルフィは、勝手にイベリスの思考にアクセス。

 イベリスの抱く想いを受け取ったのだ。

 因みに、その横でデュラウスは胸をなでおろしていた。


「あ、貴女は……」

「凄く、悲しくて、悔しい」

「か、勝手に覗かないでくださいませ!」


 額を離したシルフィは、イベリスの抱いていた感情を口にする。

 イベリスにとっては、心地の良い物では無かった。

 だが、シルフィがイベリスの感情を読み取ったように、その逆もしかり。

 イベリスにも、シルフィの思いが流れていた。

 故に、無理矢理ながらも、シルフィは本気だという事が解ってしまった。


「ゴメンね、でも、待ってて、必ず、貴女達の事を、肯定してくれる世界を作るから」

「……やはり、大馬鹿ですわ、貴女は」

「でも驚いたよ、貴女達みたいなアンドロイドは、存在しちゃいけないって、知った時は」

「……良いのですか?簡単にはいきませんわよ」

「それでも、認めさせるから、貴女達の事も、リリィの事も、平和的にね」


 シルフィの言葉に、イベリスはメイスを持つ力を弱める。

 その時のイベリスの目、それは、シルフィもよく覚えている物だった。

 まだリリィをアリサと呼んでいた頃、彼女がよく見せていた。

 信じてもいいのではないかと言う、疑心が有りながらも、可能性を信じたい目。


「やっぱり、大馬鹿ですわ、貴女は」

「……おやおや、アンドロイドを対話で納得させるとは」

「ら、ラベルクさん!!」

「あ」

「……はぁ、久しぶりにここまで大破いたしましたよ」


 イベリスとの話を終えると、半身を飛ばされたラベルクがやって来る。

 そして、今のラベルクを見て、イベリスは一気に罪悪感に襲われてきた。

 だが、ラベルクは、イベリスを軽く睨むだけで、それ以上はしなかった。


「さて、量産型の方々も退散いたしましたし、あとは大尉だけですね」

「え、あ、何時の間に」


 ラベルクの言う通り、アキレア達は戦線を離脱していた。

 彼女達を相手していたドレイク達は、すっかり疲れきり、座り込んでしまっている。

 こうなると、後はジャックとヘリアンの戦いが気になる所。

 そう思い、四人は彼女らの方を向く。


「ヒュウウウ」

「コオオオォォ」


 恐る恐る二人の方を見てみると、謎の儀式を二人で行っていた。

 何処と無く舞いのように見えるが、二人共地味にやり方が違う。

 恐らくだが、同じ物を舞っているのだろう。


「……何、やってるの?」

「さぁ?」


 見覚えは有る。

 だが、先ほどまで殺し合っていた二人が、何故こんな事をしているのか、シルフィ達には理解できなかった。

 そんな事を考えるシルフィ達を無視し、二人は舞いを止め、口論を開始する。


「だからお前!ヒノカ〇神楽は、こうやってだな!こうだろうが!」

「馬鹿、それは攻撃の時、舞うのであれば、もっと炎を、イメージした動きに!」

「オメェらなに戦場で中学生みたいな事やってんの!!?」


 決着のつかない論争にツッコミを入れた事で、二人はシルフィ達の戦いが終わった事を知る。

 折角なので、第三者に優劣をつけてもらおうと、二人はシルフィ達の方を向く。

 関係ないうえに、割とどうでも良い事。

 巻き込まれた四人からしてみれば、迷惑もいい所だ。


「なぁお前ら!やっぱりこれ舞うんだったら、実戦的な奴だよな!この根暗馬鹿に何とか言ってくれや!!」

「貴女達も、何とか言って!神楽として舞うなら、実戦的なものより、普通に踊りを、捧げる感じが、一番だと!この馬鹿に、言ってほしい!!」

「お前ら二人共馬鹿!!」

「お前ら二人共馬鹿!!」


 ツッコミを入れたのは、シルフィとデュラウス。

 シルフィはジャックへ向けて、デュラウスはヘリアンへ向けて。

 かかと落としを繰りだし、喧嘩を仲裁。

 地面に顔面をめり込ませた二人の喧嘩は終了した。


「はぁ、はぁ」

「はぁ、はぁ」

「……」

「……」


 二人は見つめ合い、お互いに親指を立てる。

 二人そろって、何かが通じ合ったようだった。



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