風になびく花 前編
遅れて申し訳ございません。
本日もう一本更新いたします。
シルフィとデュラウスが話している頃。
イベリスとラベルクは、白熱した戦いを繰り広げていた。
「いい加減、落ちてくださいませ!」
「申し訳ございませんが、まだやられる訳には行かないのですよ!」
メイスによる一撃を、ラベルクはすんなりと回避。
お構い無しに接近してきたラベルクを見て、イベリスは少し焦る。
リーチの長いイベリスのメイスでは、効果的な攻撃を行えない位置へ入り込まれた。
ラベルクのバスターソードは、空気を切り裂きながら襲いくる。
だが、こういった時の為のシールド。
背面に配していたシールドを使い、右方向から来る攻撃を防ぐ。
「ッ!」
「懐に入り込もうと!」
攻撃を防がれ、悔しそうな表情を浮かべたラベルクを押し返し、わずかな隙を作る。
ほんのわずかな時間を利用して、目いっぱいに力を入れたメイスを振り下ろす。
巨大な鉄の塊を前に、ラベルクはバスターソードで防御態勢をとる。
「その程度!」
もはや障害にも成らない。
互いの武器がぶつかり合い、甲高い金属音が辺り一面に響きわたる。
同時に、ラベルクの足は地面にめり込み、バスターソードには大きなヒビが入った。
笑みを浮かべたイベリスは、再度メイスを持ち上げる。
次の一撃で、ラベルクのバスターソードを破壊できる。
そう考えるイベリスの耳に、シルフィの声が入り込む。
『ジャックみたいに、上手くできるか解らないけど、私は、貴女達に降りかかる理不尽を、どうしても許せない、だから、助けたいの』
この言葉を聞いた瞬間。
イベリスはシルフィを睨みつける。
「……(まだあんなたわ言を、言っているのですか?ですが……)」
「(急に雰囲気が)」
「まずは!!」
イベリスは、メイスに怒りを込めて落とす。
振り下ろしたメイスは、ラベルクに避ける暇を与えずに、彼女の得物に命中。
通常よりも力の籠った一撃を前に、バスターソード砕け散る。
その一撃は、武器破壊だけに留まらず、ラベルクに大きな損傷をもたらす。
「あッが!!」
「これで終わりですわ!!」
イベリスの一撃で、ラベルクの装甲は破損。
無防備となった彼女へ向けて追撃を放ち、ラベルクの右半身を吹き飛ばした。
大破したラベルクは、焼け焦げた地面をバウンドしながら進み、行動不能と成ってしまう。
半身を吹き飛ばす程の損傷。
流石のラベルクも、しばらくは動けないだろう。
「後は」
ほとんど無力化と言っていい状態である事を確認し、イベリスはシルフィへと駆ける。
今のシルフィは、デュラウスと話しており、完全に無防備。
このまま不意打ちを入れれば、頭を卵のように潰せる。
「死んで、くださいませ!!」
「イベリス!!」
メイスを振り抜いた。
だが、イベリスの手に伝わって来た衝撃は、想像と違う。
発生した土煙が晴れると、最初に視界に映ったのは、デュラウスの姿。
太刀を使用し、イベリスの打撃を受け止めている。
「どう言ったおつもりで?」
「テメェこそ、何のつもりだ?」
「貴女の行動は、完全に命令違反ですわ、退かないのなら、このまま、潰させていただきますわ」
「グッ!?」
握るメイスの力を、イベリスは更に強める。
単純なパワーで言ってしまえば、イベリスの方が上。
今の状態から抜け出せず、デュラウスは潰されそうになる。
デュラウスに気を取られている間に、シルフィはイベリスの横に立つ。
「……久しぶりだね、イベリス」
「ええ、お久しぶりですわ!!」
「チ、避けろシルフィ!!」
「ッ!!」
そんなシルフィを見たイベリスは、挨拶と同時にメイスを振り抜く。
直撃すれば、上半身を吹き飛ばされてもおかしくはない。
その事をけねんしたデュラウスは、避けるように注意。
だが、シルフィは避けず、メイスを受け止めた。
「ゲホッ!」
「……なぜ、避けなかったのですか?」
「……貴女が、私を殴って気が済むなら、それでよかった」
口から血を吐きながら、シルフィはイベリスの質問に答えた。
受け身をとったようだったが、感触からして、骨を数本砕いた。
恐らく、内蔵にもかなりダメージを受けている。
それでも、シルフィは笑みを崩さない。
痛みへの苦しみは見え隠れしている所を見ると、かなり我慢している。
「お前!」
「手を出さないで!」
「な、何言ってんだ!」
シルフィはデュラウスの仲裁を拒否。
彼女の瞳を見たデュラウスは、その気迫に負け、後ずさりしてしまう。
デュラウスが引いた事を確認したシルフィは、ガーベラを捨て、イベリスにその身を差し出す。
「……殴ってよ、好きなだけ」
「後悔、なさらないでくださいませ」
「良いよ」
イベリスは、シルフィの望み通りに殴りだす。
もちろん、愛用のメイスを使って。
受け続けるシルフィは、急所を避け、受け身を取った。
ダメージを最小限に抑えても、骨にヒビは入り、内蔵もかき回される。
「はぁ、はぁ」
「ゲホ、ゴホ、もう、満足?」
「なぜ、このような事を」
「貴女が、そうしたがってたから」
「相変わらず、シャクに障りますわ」
殴る事を止めたイベリスは、シルフィを睨む。
どうしても、彼女を認められない。
そんな気持ちが、イベリスの中でくすぶっている。
だが、こうして一方的に殴ったところで、気分が晴れる訳でもなかった。
そもそも、彼女を撲殺したところで、過去は変わらない。
「で、如何なの?」
「……もう止めですわ」
「そう」
「勘違いなさらないでいただけます?これ以上貴女を殴っても、意味がないというだけでしてよ」
「……そう、それで、何で怒ってたの?」
「貴女が、気にくわないのですよ」
「イベリス、いい加減、過去位忘れろよ」
「……」
デュラウスの言葉に、イベリスは表情を曇らせる。
イベリスの抱く、過去のトラウマ。
一方的に捨てた人間への怒り。
何時までもぶり返される黒歴史には、どうしても憤りを覚える。
理屈でどうにかなるのであれば、こんな事はしていない。
「理屈では、どうにもできないのですよ、わたくしの過去は」
「お前」
「そう言う物だよ、デュラウス」
「シルフィ」
イベリスの言葉に、シルフィは同情する。
シルフィにも、理屈だけでどうにかならない過去は有る。
イベリスと同じ、とは言えなくとも、今でも嫌な気分に成る。
だが、その時にシルフィを支えてくれたモノが有る。
「イヤな過去は、本当に嫌な物だよ、でも、私は、リリィやルシーラちゃんが居た、あの子達が、支えになってくれた、おかげで、克服とまでは行かないけど、過去から、少し解放された気がしたの」
彼女達に自覚は無いだろう。
だが、少なくとも、二人はシルフィにまとわり付いていた過去を、一部振り払えた。
イベリスを助けるという事は、今度はシルフィ自身が彼女の支えになる。
それが、シルフィなりの解釈だ。
「だから、イベリスさん、私の事、信じてみない?」
「そ、そんな事」
シルフィの出した提案。
イベリスからしてみれば、簡単に飲めるような物ではない。
二つ返事で返せる程、イベリスのトラウマは浅くない。
「イヤなら良いの、今後、私の事を気が済むまで殴ってもいいし」
「あなた、おバカでして!?」
「うん、馬鹿だよ」
「否定しろよ」
「まぁ、それはそれとして」
「な、何ですの?」
デュラウスのツッコミは無視し、シルフィはイベリスへと近寄る。
そんなシルフィを見て、イベリスはメイスを構え直す。
シルフィは、当たり前のようにイベリスの間合いに入り込み、顔を見つめる。
そして、イベリスのほほを、両手で包み込む。
「ちょっと、目閉じて」
「え、ちょ、わたくしはそのような、あ」
「ちょ、な、何しようとしてっ!?」
少し高めの身長を持つイベリスの為に、シルフィは背伸びをし、自分の額をイベリスに当てる。
力強く目を閉じていたイベリスは、少しショックを受ける。
思っていた事と違ったので、ちょっと怒りは有ったが、何をされたのか、すぐに解った。
シルフィは、勝手にイベリスの思考にアクセス。
イベリスの抱く想いを受け取ったのだ。
因みに、その横でデュラウスは胸をなでおろしていた。
「あ、貴女は……」
「凄く、悲しくて、悔しい」
「か、勝手に覗かないでくださいませ!」
額を離したシルフィは、イベリスの抱いていた感情を口にする。
イベリスにとっては、心地の良い物では無かった。
だが、シルフィがイベリスの感情を読み取ったように、その逆もしかり。
イベリスにも、シルフィの思いが流れていた。
故に、無理矢理ながらも、シルフィは本気だという事が解ってしまった。
「ゴメンね、でも、待ってて、必ず、貴女達の事を、肯定してくれる世界を作るから」
「……やはり、大馬鹿ですわ、貴女は」
「でも驚いたよ、貴女達みたいなアンドロイドは、存在しちゃいけないって、知った時は」
「……良いのですか?簡単にはいきませんわよ」
「それでも、認めさせるから、貴女達の事も、リリィの事も、平和的にね」
シルフィの言葉に、イベリスはメイスを持つ力を弱める。
その時のイベリスの目、それは、シルフィもよく覚えている物だった。
まだリリィをアリサと呼んでいた頃、彼女がよく見せていた。
信じてもいいのではないかと言う、疑心が有りながらも、可能性を信じたい目。
「やっぱり、大馬鹿ですわ、貴女は」
「……おやおや、アンドロイドを対話で納得させるとは」
「ら、ラベルクさん!!」
「あ」
「……はぁ、久しぶりにここまで大破いたしましたよ」
イベリスとの話を終えると、半身を飛ばされたラベルクがやって来る。
そして、今のラベルクを見て、イベリスは一気に罪悪感に襲われてきた。
だが、ラベルクは、イベリスを軽く睨むだけで、それ以上はしなかった。
「さて、量産型の方々も退散いたしましたし、あとは大尉だけですね」
「え、あ、何時の間に」
ラベルクの言う通り、アキレア達は戦線を離脱していた。
彼女達を相手していたドレイク達は、すっかり疲れきり、座り込んでしまっている。
こうなると、後はジャックとヘリアンの戦いが気になる所。
そう思い、四人は彼女らの方を向く。
「ヒュウウウ」
「コオオオォォ」
恐る恐る二人の方を見てみると、謎の儀式を二人で行っていた。
何処と無く舞いのように見えるが、二人共地味にやり方が違う。
恐らくだが、同じ物を舞っているのだろう。
「……何、やってるの?」
「さぁ?」
見覚えは有る。
だが、先ほどまで殺し合っていた二人が、何故こんな事をしているのか、シルフィ達には理解できなかった。
そんな事を考えるシルフィ達を無視し、二人は舞いを止め、口論を開始する。
「だからお前!ヒノカ〇神楽は、こうやってだな!こうだろうが!」
「馬鹿、それは攻撃の時、舞うのであれば、もっと炎を、イメージした動きに!」
「オメェらなに戦場で中学生みたいな事やってんの!!?」
決着のつかない論争にツッコミを入れた事で、二人はシルフィ達の戦いが終わった事を知る。
折角なので、第三者に優劣をつけてもらおうと、二人はシルフィ達の方を向く。
関係ないうえに、割とどうでも良い事。
巻き込まれた四人からしてみれば、迷惑もいい所だ。
「なぁお前ら!やっぱりこれ舞うんだったら、実戦的な奴だよな!この根暗馬鹿に何とか言ってくれや!!」
「貴女達も、何とか言って!神楽として舞うなら、実戦的なものより、普通に踊りを、捧げる感じが、一番だと!この馬鹿に、言ってほしい!!」
「お前ら二人共馬鹿!!」
「お前ら二人共馬鹿!!」
ツッコミを入れたのは、シルフィとデュラウス。
シルフィはジャックへ向けて、デュラウスはヘリアンへ向けて。
かかと落としを繰りだし、喧嘩を仲裁。
地面に顔面をめり込ませた二人の喧嘩は終了した。
「はぁ、はぁ」
「はぁ、はぁ」
「……」
「……」
二人は見つめ合い、お互いに親指を立てる。
二人そろって、何かが通じ合ったようだった。




