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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
ナーシサス編
169/343

燃える平原 後編

 平原での戦いは、最終局面を迎えた。

 ドレイク達三人は、量産機のアキレアを相手に、ジャック達を援護。

 残る三機は、ジャック達が相手どる。


「今度こそ決付けるぞ!根暗女!!」

「望むところ、えっと……あ、アホ女!」

「悪口のセンスガキか!?」

「そろそろ、消えていただけますか!おばさま!!」

「貴女こそ!いい加減礼儀をわきまえなさい!破廉恥女!!」


 ジャックとヘリアン。

 ラベルクとイベリス。

 この二組は、積年の恨みを晴らすが如く、戦いを始める。

 銃撃、砲撃、斬撃の飛び交い、火花の散る戦い。

 空中で繰り広げられる激闘の下で、シルフィは戦っていた。


「オラオラ如何した!?その程度か!!?」

「ッ!(太刀の時より重い!!)」


 相変わらず慣れない剣術で、デュラウスのランスを受け止める。

 デュラウスは、シルフィを相手する事は良いとしても、少し不満も有った。

 桜我流の技を使わずとも、シルフィ単体の相手では、あまり手ごたえを感じない。

 完全に防戦一方のシルフィは、一方的にデュラウスに打たれる。

 ネロとの訓練の時とは、比べ物に成らない衝撃が、シルフィを襲い、鎧も砕かれる。


「ッ!!コンノオオオ!!」

「甘いな」

「あ!ブヘ!」


 何とか攻撃を繰りだせたとしても、デュラウスに軽々と避けられる。

 空振りで姿勢を崩した所に、デュラウスのランスが襲い、シルフィは吹き飛ぶ。

 地面とキスをし、背部の飛行ユニットも破損する。

 痛みに耐えながら、シルフィは起き上がり、デュラウスの方を向く。


「痛たた~、ま、まだまだ」

「たく、諦めの悪い奴だ、俺も、これ以上は手加減できねぇぞ」

「構わないよ、貴女に殺されたら、私は所詮、其処までの女だっただけだし」

「……そうか、なら次から加減しねぇ、マジで串刺しにしてやる」

「来てよ、殺したいんでしょ?私の事」

「ああ、殺してやるよ!!」


 地面を力強く踏み込んだデュラウスは、一瞬でシルフィの間合いに入り込む。

 今度はランスの腹を使った攻撃ではなく、本気で突き刺しにかかる。

 弾丸以上の速度を叩き出し、シルフィの心臓を貫こうとする。


「ッ!!」

「弾いたか、だが、コイツは如何だ!!」


 ギリギリの所で弾くが、今度はデュラウスの突きが連続で襲いかかる。

 フェイントを挟みつつ、本命の攻撃を繰りだす。

 その幾つか、特に致命傷になりかねない一撃は、本気で弾く。

 だが、そうでない場所は、軌道をずらすだけで、腕や足に命中。

 鎧もスーツも貫き、出血は免れなかった。


「(早い、そのうえ、重い、でも!!)」

「テンメッ!!?」

「取ったああ!!」


 食らいつき続けた結果。

 シルフィはデュラウスのランスをつかみ取る事に成功。

 脇でしっかりとランスを抱え、全力で踏ん張る。

 この好機を逃すまいと、シルフィはガーベラを向ける。


「これで!!」

「だから、甘いんだよ!!」

「ッ!!?」


 デュラウスは、すぐにランスを離し、太刀に武器を切り替える。

 抜刀と同時に、シルフィのガーベラを払う。

 そこから、間髪入れずに、赤い紫電を発生させる。


「桜我流剣術・雷鳴討ち!!」

「あ!!」


 音より早く動いたデュラウスの一撃。

 ガーベラで受け止めていなければ、死んでいたような物だった。

 だが、稲妻の余波で、ストレリチアは破損。

 もうアーマーは、六割近く消失してしまっている。


「うっ、あっ!」


 吹き飛ばされ、地面を転がり、鎧の破片も一緒にシルフィの近くに堕ちる。

 瞬時に立ち上がろうとすると、腕や体に激痛が走る。

 受け止めた時に、腕の骨にヒビが入り、稲妻で足を焼いた。

 それだけでなく、鬼人拳法の反動が、既に身体を襲っていた。


「……ッ~、まだ、まだ終わってない」

「いや、これで終わりだ」

「(終わり、嫌だ、だって、この子に勝てないって事は、リリィの元に全然たどり着けてない)」


 デュラウスの剣を見ても、技量はシルフィの知る限り、リリィとそん色ない。

 ここで負ける。

 それは、ジャックやネロと言った、今まで力を貸してくれた人達を裏切る事に成る。

 それ以前に、ここで負ければ、リリィに会う事はできない。


「(皆から、期待されてここまで来たのに、こんな所で負けたら、全部、無駄に成る)」

「諦めが良いな!!」


 迫りくるデュラウスのランス。

 避けようにも、全身が痛む。

 受けようにも、それだけの余力がない。

 その影響で、硬直した状態となってしまい、デュラウスの恰好の的となる。


「(リリィ)」


 ランスが近づき、一瞬だけ思い浮かぶ。

 リリィの悲しげな表情。

 それを思い出したシルフィは、目を見開く。


「ッ!!」

「な!?」


 消えた。

 デュラウスの視界から、シルフィは完全に姿を消した。

 先ほどまでシルフィの居た所には、破損したストレリチアが有るだけ。

 勢いを殺しきれず、デュラウスはそのまま地面をえぐる。


「お、俺の目に、映らなかった、ばかな」


 この事態には、流石のデュラウスも驚きを隠せなかった。

 何処へ行ったのかと、シルフィを探し出そうとし、索敵モードに入ろうとする。

 その瞬間、シルフィの反応を検知し、一本の注射器が落ちて来る。

 反応した頃には、もう遅かった。


「上か!」

「桜我流剣術・炎落とし!!」


 上から落ちてきたのは、鈍い銀色の炎をまとったガーベラを持つシルフィ。

 しかも、今回繰り出した剣術は、ほぼ完ぺき。

 炎はジャックと同レベルの勢い、身体のフォームも、ネロの教えの通りだった。

 シルフィなりのアレンジも有ったが、それでも、求めていた剣を体現している。

 その剣は、ネロの怪力、ドレイクの剣術でも斬れなかったランスを、完全に切断した程。


「ば、バカな、タイラントの大腿骨を削り取った、俺のランスが、こんな」

「は、ははは、ようやく、コツを掴めたよ」

「ッ!こんなマグレ、二度も続くか!!」


 マグレだ。

 デュラウスはそう言い聞かせ、太刀を引き抜く。

 瞬時に赤い紫電を走らせ、剣術を発動。


「雷鳴討ち!!」


 太刀を振り抜き、稲妻が発生。

 振り抜いた後で、音が遅れてやって来る。

 何時もの通りだった。

 だが、手ごたえは無い。

 しかも、遅れ気味に、義体の破損を知らせるアラートが鳴り響く。


「う、腕が!?」

「桜我流剣術・陽炎返し」

「ッ!!?」


 背後から聞こえて来たシルフィの声。

 同時に、無事だったもう一方の腕も切断された。

 得体のしれない恐怖を覚えながらも、デュラウスは体を反転。

 鋭い蹴りを放つ。


「クソが!!」

「炎鬼牢」


 カウンターとして放たれた、シルフィの炎鬼牢。

 ジャックの物より、規模は低いが、デュラウスの両足を簡単に切断。

 動体の方も、容赦なく切り裂いた。


「そんな、おれ、が、わた、し、が」

「ッ!!」


 戦う力を失ったデュラウスを、シルフィは串刺しにする。

 胸部のエーテル・ドライヴ、背骨の金属パーツを避け、地面に張り付けた。

 その際、シルフィは妙な感覚を覚える。

 自分の物ではない思考が、ガーベラを通して伝わって来た。


「ッ!」


 驚いたシルフィは、思わずデュラウスから距離を取る。

 ガーベラも、しっかりと携え、少し呼吸を整えながら彼女を見つめる。

 そんなシルフィの行動に、疑問を抱きながらも、デュラウスは自己修復を開始。

 トラクタービームを使用し、四肢をかき集め、五体満足へと回復。

 太刀を構え直し、シルフィを睨み返す。


「何のつもりだ」

「……今の」

「おい」


 シルフィは、殺気をぶつけ続けるデュラウスを前に、ガーベラを納める。

 しかも、抜刀術の構えさえ取らず、ただ立ち尽くす。

 罠のつもりも無さそうだ。

 そんな彼女を見て、デュラウスは太刀を握る力を強める。


「何やってんだテメェ!!?」

「……貴女を殺したくない」

「ふざけんな、情けは無用!コイツは俺とお前の戦いだ、どっちかが死ぬまで続く!」

「私は最初から死ぬ気も無いし、貴女を殺すつもりも無いよ」

「まさか、今のだけで俺に勝った気になってるのか?だとしたら、大間違いだ!!」


 シルフィの態度を見たデュラウスは、怒りを爆発させる。

 全身に稲妻をまとい、シルフィとの距離を一気に詰める。

 その推力を維持しつつ、太刀を全力で振り下ろす。


「落雷落とし!」

「……そんなつもり、一切無いよ」


 空気さえも切り裂くデュラウスの斬撃。

 音が鳴った時には、既に切り裂かれていてもおかしくはない。

 そんなデュラウスの太刀を、シルフィは余裕を持って受け止めた。

 しかも、白刃取りによって。

 少し手は痺れたが、大した事はない。


「クソ」

「単純に、貴女を殺したくないだけ」

「情けは無用だと」

「違う、リリィの代わりに、私とジャックを殺して、自分が全部の罪を被るなんて、許せないだけ」

「ッ!?そ、それは」


 ガーベラを通じて、シルフィに伝わって来たもの。

 それは、デュラウスの本音。

 リリィの手を汚さず、自分だけが汚れる。

 かなり限界の状態であるリリィが、直接手を下せば、本当にどうにかなってしまう。

 恐らく、一生ぬぐえない後悔を背負う。


「ねぇ、どうなの?」

「……今のアイツは、本当に危ない、アイツが自分で手を汚せば、その時は……そんな事に成ったら、可哀そう、でしょ」


 太刀を握る力だけでなく、声まで弱弱しくなったデュラウスは、シルフィから距離を取る。

 その時のデュラウスの表情は、今まで見た事の無い位、少女らしいものだった。

 口調も大分変ったので、シルフィはかなり戸惑った。

 とりあえず、その辺はスルーし、話を続ける。


「……一人で悩まないでよ」

「う、うるさい、私は、誰かに頼るのが苦手なのよ」

「今の私は、リリィだけじゃない、貴女も……貴女達も助ける事が目的、たとえ貴女が、自分自身を汚しても、リリィが悲しまない訳じゃない」

「そうだけど、貴女がそんなに哀れむことじゃ」

「哀れむことだよ、だって、私を助けてくれたのも、外に出るきっかけを与えたのも、貴女達アンドロイドだもの」


 笑顔を浮かべたシルフィは、デュラウスへ近寄り、その手をとる。

 リリィだけを見ていたのだが、もう彼女だけの問題ではない。

 今となっては、アンドロイド全員を助けたいと思っている。

 チアキとの約束はもちろん、ジャックへの憧れも有る。


「ジャックみたいに、上手くできるか解らないけど、私は、貴女達に降りかかる理不尽を、どうしても許せない、だから、助けたいの」

「……」


 その時、デュラウスは、胸が締め付けられるような気分を覚えた。

 感じた事の無い、甘く、切ない気持ち。

 デュラウスは、思わずシルフィの手を握る力も強めた。


「(バグか、私も、リリィと同じ、バグが)あ、あのね、シルフィ」

「ん?何?」

「その、えっと……ん、なんでも、ない」


 喉まで出かかった言葉を、デュラウスは引っ込める。

 シルフィに言った所で、所詮は無理な話。

 叶う事の無い願いなのだ。

 途中でやめられたシルフィは、思わず笑みをこぼす。


「なにそれ」

「ッ!?」


 笑みを浮かべるシルフィの背後。

 デュラウスは目にする。

 メイスを振りかぶっている、イベリスの姿を。


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