燃える平原 後編
平原での戦いは、最終局面を迎えた。
ドレイク達三人は、量産機のアキレアを相手に、ジャック達を援護。
残る三機は、ジャック達が相手どる。
「今度こそ決付けるぞ!根暗女!!」
「望むところ、えっと……あ、アホ女!」
「悪口のセンスガキか!?」
「そろそろ、消えていただけますか!おばさま!!」
「貴女こそ!いい加減礼儀をわきまえなさい!破廉恥女!!」
ジャックとヘリアン。
ラベルクとイベリス。
この二組は、積年の恨みを晴らすが如く、戦いを始める。
銃撃、砲撃、斬撃の飛び交い、火花の散る戦い。
空中で繰り広げられる激闘の下で、シルフィは戦っていた。
「オラオラ如何した!?その程度か!!?」
「ッ!(太刀の時より重い!!)」
相変わらず慣れない剣術で、デュラウスのランスを受け止める。
デュラウスは、シルフィを相手する事は良いとしても、少し不満も有った。
桜我流の技を使わずとも、シルフィ単体の相手では、あまり手ごたえを感じない。
完全に防戦一方のシルフィは、一方的にデュラウスに打たれる。
ネロとの訓練の時とは、比べ物に成らない衝撃が、シルフィを襲い、鎧も砕かれる。
「ッ!!コンノオオオ!!」
「甘いな」
「あ!ブヘ!」
何とか攻撃を繰りだせたとしても、デュラウスに軽々と避けられる。
空振りで姿勢を崩した所に、デュラウスのランスが襲い、シルフィは吹き飛ぶ。
地面とキスをし、背部の飛行ユニットも破損する。
痛みに耐えながら、シルフィは起き上がり、デュラウスの方を向く。
「痛たた~、ま、まだまだ」
「たく、諦めの悪い奴だ、俺も、これ以上は手加減できねぇぞ」
「構わないよ、貴女に殺されたら、私は所詮、其処までの女だっただけだし」
「……そうか、なら次から加減しねぇ、マジで串刺しにしてやる」
「来てよ、殺したいんでしょ?私の事」
「ああ、殺してやるよ!!」
地面を力強く踏み込んだデュラウスは、一瞬でシルフィの間合いに入り込む。
今度はランスの腹を使った攻撃ではなく、本気で突き刺しにかかる。
弾丸以上の速度を叩き出し、シルフィの心臓を貫こうとする。
「ッ!!」
「弾いたか、だが、コイツは如何だ!!」
ギリギリの所で弾くが、今度はデュラウスの突きが連続で襲いかかる。
フェイントを挟みつつ、本命の攻撃を繰りだす。
その幾つか、特に致命傷になりかねない一撃は、本気で弾く。
だが、そうでない場所は、軌道をずらすだけで、腕や足に命中。
鎧もスーツも貫き、出血は免れなかった。
「(早い、そのうえ、重い、でも!!)」
「テンメッ!!?」
「取ったああ!!」
食らいつき続けた結果。
シルフィはデュラウスのランスをつかみ取る事に成功。
脇でしっかりとランスを抱え、全力で踏ん張る。
この好機を逃すまいと、シルフィはガーベラを向ける。
「これで!!」
「だから、甘いんだよ!!」
「ッ!!?」
デュラウスは、すぐにランスを離し、太刀に武器を切り替える。
抜刀と同時に、シルフィのガーベラを払う。
そこから、間髪入れずに、赤い紫電を発生させる。
「桜我流剣術・雷鳴討ち!!」
「あ!!」
音より早く動いたデュラウスの一撃。
ガーベラで受け止めていなければ、死んでいたような物だった。
だが、稲妻の余波で、ストレリチアは破損。
もうアーマーは、六割近く消失してしまっている。
「うっ、あっ!」
吹き飛ばされ、地面を転がり、鎧の破片も一緒にシルフィの近くに堕ちる。
瞬時に立ち上がろうとすると、腕や体に激痛が走る。
受け止めた時に、腕の骨にヒビが入り、稲妻で足を焼いた。
それだけでなく、鬼人拳法の反動が、既に身体を襲っていた。
「……ッ~、まだ、まだ終わってない」
「いや、これで終わりだ」
「(終わり、嫌だ、だって、この子に勝てないって事は、リリィの元に全然たどり着けてない)」
デュラウスの剣を見ても、技量はシルフィの知る限り、リリィとそん色ない。
ここで負ける。
それは、ジャックやネロと言った、今まで力を貸してくれた人達を裏切る事に成る。
それ以前に、ここで負ければ、リリィに会う事はできない。
「(皆から、期待されてここまで来たのに、こんな所で負けたら、全部、無駄に成る)」
「諦めが良いな!!」
迫りくるデュラウスのランス。
避けようにも、全身が痛む。
受けようにも、それだけの余力がない。
その影響で、硬直した状態となってしまい、デュラウスの恰好の的となる。
「(リリィ)」
ランスが近づき、一瞬だけ思い浮かぶ。
リリィの悲しげな表情。
それを思い出したシルフィは、目を見開く。
「ッ!!」
「な!?」
消えた。
デュラウスの視界から、シルフィは完全に姿を消した。
先ほどまでシルフィの居た所には、破損したストレリチアが有るだけ。
勢いを殺しきれず、デュラウスはそのまま地面をえぐる。
「お、俺の目に、映らなかった、ばかな」
この事態には、流石のデュラウスも驚きを隠せなかった。
何処へ行ったのかと、シルフィを探し出そうとし、索敵モードに入ろうとする。
その瞬間、シルフィの反応を検知し、一本の注射器が落ちて来る。
反応した頃には、もう遅かった。
「上か!」
「桜我流剣術・炎落とし!!」
上から落ちてきたのは、鈍い銀色の炎をまとったガーベラを持つシルフィ。
しかも、今回繰り出した剣術は、ほぼ完ぺき。
炎はジャックと同レベルの勢い、身体のフォームも、ネロの教えの通りだった。
シルフィなりのアレンジも有ったが、それでも、求めていた剣を体現している。
その剣は、ネロの怪力、ドレイクの剣術でも斬れなかったランスを、完全に切断した程。
「ば、バカな、タイラントの大腿骨を削り取った、俺のランスが、こんな」
「は、ははは、ようやく、コツを掴めたよ」
「ッ!こんなマグレ、二度も続くか!!」
マグレだ。
デュラウスはそう言い聞かせ、太刀を引き抜く。
瞬時に赤い紫電を走らせ、剣術を発動。
「雷鳴討ち!!」
太刀を振り抜き、稲妻が発生。
振り抜いた後で、音が遅れてやって来る。
何時もの通りだった。
だが、手ごたえは無い。
しかも、遅れ気味に、義体の破損を知らせるアラートが鳴り響く。
「う、腕が!?」
「桜我流剣術・陽炎返し」
「ッ!!?」
背後から聞こえて来たシルフィの声。
同時に、無事だったもう一方の腕も切断された。
得体のしれない恐怖を覚えながらも、デュラウスは体を反転。
鋭い蹴りを放つ。
「クソが!!」
「炎鬼牢」
カウンターとして放たれた、シルフィの炎鬼牢。
ジャックの物より、規模は低いが、デュラウスの両足を簡単に切断。
動体の方も、容赦なく切り裂いた。
「そんな、おれ、が、わた、し、が」
「ッ!!」
戦う力を失ったデュラウスを、シルフィは串刺しにする。
胸部のエーテル・ドライヴ、背骨の金属パーツを避け、地面に張り付けた。
その際、シルフィは妙な感覚を覚える。
自分の物ではない思考が、ガーベラを通して伝わって来た。
「ッ!」
驚いたシルフィは、思わずデュラウスから距離を取る。
ガーベラも、しっかりと携え、少し呼吸を整えながら彼女を見つめる。
そんなシルフィの行動に、疑問を抱きながらも、デュラウスは自己修復を開始。
トラクタービームを使用し、四肢をかき集め、五体満足へと回復。
太刀を構え直し、シルフィを睨み返す。
「何のつもりだ」
「……今の」
「おい」
シルフィは、殺気をぶつけ続けるデュラウスを前に、ガーベラを納める。
しかも、抜刀術の構えさえ取らず、ただ立ち尽くす。
罠のつもりも無さそうだ。
そんな彼女を見て、デュラウスは太刀を握る力を強める。
「何やってんだテメェ!!?」
「……貴女を殺したくない」
「ふざけんな、情けは無用!コイツは俺とお前の戦いだ、どっちかが死ぬまで続く!」
「私は最初から死ぬ気も無いし、貴女を殺すつもりも無いよ」
「まさか、今のだけで俺に勝った気になってるのか?だとしたら、大間違いだ!!」
シルフィの態度を見たデュラウスは、怒りを爆発させる。
全身に稲妻をまとい、シルフィとの距離を一気に詰める。
その推力を維持しつつ、太刀を全力で振り下ろす。
「落雷落とし!」
「……そんなつもり、一切無いよ」
空気さえも切り裂くデュラウスの斬撃。
音が鳴った時には、既に切り裂かれていてもおかしくはない。
そんなデュラウスの太刀を、シルフィは余裕を持って受け止めた。
しかも、白刃取りによって。
少し手は痺れたが、大した事はない。
「クソ」
「単純に、貴女を殺したくないだけ」
「情けは無用だと」
「違う、リリィの代わりに、私とジャックを殺して、自分が全部の罪を被るなんて、許せないだけ」
「ッ!?そ、それは」
ガーベラを通じて、シルフィに伝わって来たもの。
それは、デュラウスの本音。
リリィの手を汚さず、自分だけが汚れる。
かなり限界の状態であるリリィが、直接手を下せば、本当にどうにかなってしまう。
恐らく、一生ぬぐえない後悔を背負う。
「ねぇ、どうなの?」
「……今のアイツは、本当に危ない、アイツが自分で手を汚せば、その時は……そんな事に成ったら、可哀そう、でしょ」
太刀を握る力だけでなく、声まで弱弱しくなったデュラウスは、シルフィから距離を取る。
その時のデュラウスの表情は、今まで見た事の無い位、少女らしいものだった。
口調も大分変ったので、シルフィはかなり戸惑った。
とりあえず、その辺はスルーし、話を続ける。
「……一人で悩まないでよ」
「う、うるさい、私は、誰かに頼るのが苦手なのよ」
「今の私は、リリィだけじゃない、貴女も……貴女達も助ける事が目的、たとえ貴女が、自分自身を汚しても、リリィが悲しまない訳じゃない」
「そうだけど、貴女がそんなに哀れむことじゃ」
「哀れむことだよ、だって、私を助けてくれたのも、外に出るきっかけを与えたのも、貴女達アンドロイドだもの」
笑顔を浮かべたシルフィは、デュラウスへ近寄り、その手をとる。
リリィだけを見ていたのだが、もう彼女だけの問題ではない。
今となっては、アンドロイド全員を助けたいと思っている。
チアキとの約束はもちろん、ジャックへの憧れも有る。
「ジャックみたいに、上手くできるか解らないけど、私は、貴女達に降りかかる理不尽を、どうしても許せない、だから、助けたいの」
「……」
その時、デュラウスは、胸が締め付けられるような気分を覚えた。
感じた事の無い、甘く、切ない気持ち。
デュラウスは、思わずシルフィの手を握る力も強めた。
「(バグか、私も、リリィと同じ、バグが)あ、あのね、シルフィ」
「ん?何?」
「その、えっと……ん、なんでも、ない」
喉まで出かかった言葉を、デュラウスは引っ込める。
シルフィに言った所で、所詮は無理な話。
叶う事の無い願いなのだ。
途中でやめられたシルフィは、思わず笑みをこぼす。
「なにそれ」
「ッ!?」
笑みを浮かべるシルフィの背後。
デュラウスは目にする。
メイスを振りかぶっている、イベリスの姿を。




