燃える平原 中編
灼熱と化した平原。
いかなる物であろうとも、燃やしつくす程の気温を叩き出していた。
その熱源となっているのは、十三機のアンドロイドを相手にするジャック。
使用できる能力を最大限に活用し、体温を限界以上に上げている。
もはや、近寄っただけで焼け死ぬレベルだ。
「どうした!?息が上がってんぞ!」
「へ、ここからだ、人間ってのは、ちょっと追い込まれた辺りが本番なんだよ!!」
執拗に肉薄してくるデュラウスをあしらいながら、ジャックは動き続ける。
ドローン複数機の操作と、限界を超えるレベルで能力を酷使。
デュラウスの言う通り、かなり消耗している。
しかも、デュラウス達は、全体的に見てリリィとそん色ない戦闘力を持っている。
アキレア達も、見劣りしていても、三割程弱い位と言うのが、ジャックの印象だ。
リリィとシルフィの二人でも、ジャックは苦戦を強いられた。
それが、今や十三体もいる。
「無理はいけない、威勢を張っても、事実は変わらない」
「データに加えておけ!人間ってのは、張らなきゃいけねぇ見栄ってのが有んだよ!!」
「そう」
アキレア達による、全方位からの射撃をかいくぐり、ジャックはヘリアンの相手もする。
かなり正確な偏差射撃であるが、ジャックはドローンも使用して、防御も固める。
実弾でない故に、ジャックの体温上昇も、防御の意味を成していない。
ジャックのエーテル供給を受け、更に強靭と成っているドローンの防御は、今やかなめと言える。
「なら、その自信、壊す」
「ッ!?」
ジャックへ一気に接近したヘリアンは、彼女の顔を踏み台に飛び上がる。
同時に、周辺のドローンを確認。
愛用の拳銃二丁の狙いをつけ、全方位に射撃を開始。
数秒のラグの後、ドローンが半分以上爆散する。
「テメッ!!」
「私を相手に、三度も、同じドローンを、使ったのが、いけない」
ジャックの使用するドローンは、上下に装甲を開閉し、内部のビーム砲で射撃も行う。
堅牢なのは、丸みを帯びる外装のみ。
内部はそれほど頑丈ではない。
ヘリアンが狙ったのは、弱点である内部だ。
「それに、動揺してる場合?」
ヘリアンのセリフと共に、ジャックへ向けてアキレア達の一斉射撃が始まる。
残ったドローンもかき集め、ハルバードでビームを切り裂き、防御に専念。
そんなジャックの隙をつき、デュラウスは自慢のランスを向ける。
「止まったらいけないよな!!」
「うるせぇ!」
「それに、背中がお留守」
「ッ!!」
寸前でランスを受け止めるも、背後からヘリアンの一撃を受ける。
銃剣で背面を斬られ、間髪入れずに、デュラウスのランスが繰り出された。
姿勢を崩すジャックへ、ヘリアンとアキレア達の射撃が雨のように降り注ぐ。
対戦車ライフル以上の破壊力を持つアキレア達のビームは、連続してジャックに命中。
アーマーとスーツの両者へと、ダメージを蓄積させる。
「グ、アッ」
「これで、お終いですわ!!」
完全に動きを止められた所に、イベリスの砲撃が放たれる。
最大出力で撃ちだされた砲撃は、ジャックへ直進。
残りのドローンを気休め程度に配置するが、既に損傷している物がほとんど。
すぐに破壊されるも、タイミングが僅かにズレ、ジャックに直撃せず、背部の翼に被弾。
バランスを崩し、地上へ激突。
その結果、残っていた魔物は全て燃えた。
「はぁ、はぁ、やっべ」
上がって来た息を整えたジャックは、背面のユニットを除去。
スラスターは、予備の物だけだが、飛行するには十分だ。
逃げようにも、もう全員を振り切れるだけの推力は無い。
かといって、ここで負けを認めるのは癪だ。
「……でも、ここで負けたら、アイツらに示しつかねぇよな」
現存するスレイヤーで最弱。
その事は自覚している。
だが、最弱のレッテルは、別に良い。
才能が有る訳でもないのだから。
それでも、今逃げれば、この蔑称以上に屈辱的だ。
「武士道とは、死ぬことと見つけたり、か、ま、俺は違うけどな」
ハルバードを握り締めたジャックは、エーテル・ドライヴの出力を上げる。
生成された魔力は、バルチャーを介してジャックへ伝わる。
そのおかげで、体力は回復。
再び空中へと舞い上がる。
「アイツ」
「まだ、やる気」
「しつこい方ですわ」
思っていた以上のタフネスを発揮するジャックに、三人は驚く。
そんな三人を、ジャックは完全に素通りし、アキレアへと接近。
近づいてくるジャックへ、迎撃を行うが、ジャックはすぐに一機目のアキレアを捉える。
「先ずは、一機!!」
ハルバードを使い、アキレアのハルバードを弾く。
その隙に、アキレアの体内に腕を突っ込み、動力のエーテル・ドライヴを引き抜く。
動力を失ったアキレアは、糸の切れた人形のように落下。
間を入れずに、ジャックは抜き取ったドライヴを別の個体へ投げつける。
「そんで、二機目!!」
ドライヴを投げたアキレアへ、更にハルバードも投擲。
ハルバードはドライヴに命中し、アキレアの腹部に突き刺さる。
機能が不安定となり、ドライヴは大爆発を引き起こした。
「チ、量産機じゃ、この程度か!」
思っていた威力より、低い爆発だったが、アキレアを一機行動不能にする位には十分。
爆風によって、彼女達の陣形は崩壊。
その隙を、ジャックは見逃さない。
別のアキレアへ移動し、ハルバードをもう一つ盗み、ドライヴの有る部分に突き刺す。
「三機目!からの、四機目!!」
「これ以上、やらせない!」
ハルバードに突き刺さったアキレアを、別の個体へと投げつける。
それと同時に、ヘリアンが接近。
アキレアの爆散と同時に、二人の刃がぶつかり合う。
「どうした!?姉妹やられて怒ったか!?」
「にたような、もの!!」
珍しく大声を出すヘリアンをあしらう。
これ以上の被害を出さない為にも、デュラウスとイベリスも参戦。
多数を相手するべく、ジャックはハルバードを二つにし、二刀流を披露する。
何時もの状況であっても、相手は何時もの数段上の実力を持つ。
はっちゃける事無く、ジャックは大まじめに戦う。
「流石だ!俺ら三人を相手に戦うなんてな!」
「伊達に死線くぐってねぇんだよ!!」
「ええ、確かに、ですが」
今までの経験を存分に活かし、戦うジャックへとイベリスの超重量級の一撃が放たれる。
回避する余裕はなく、ハルバードで受ける。
「ッ!やっぱ無理有ったか!」
「使用する武器の性能は、こちらが上でしてよ!!」
「ああ、だがな!!」
イベリスのメイスは、ジャックの持つハルバードを砕く。
鉄の塊と言える、彼女の武器の前では、オモチャも同然。
だが、ジャックもこのままやられるばかりではない。
空いた手を使い、ジャックはイベリスへ拳を振るう。
「無駄な事をッ!?」
盾を使用し、イベリスはジャックの拳を防ぎ止めようとする。
その拳は、イベリスの盾を貫き、そのままイベリス本人を殴り飛ばした。
盾は貫かれたというよりは、ジャックの体温で融解したのである。
「武器の性能ばかりが、全てじゃねぇよ!!」
ジャックは、手にまとわりついた盾を剥がし、イベリスへ投げ返す。
とてつもない勢いで、盾はイベリスへ命中。
地面へと落下して行った。
「こっちの相手もしてくれよな!!」
「ああ、当然だッ!?」
残ったハルバードの柄を使い、ジャックは残りの二人を相手にする。
だが、再開をしようとしたのもつかの間。
ジャックの背面は爆散。
あまりにも酷使しすぎた結果、オーバーロードしたようだ。
オーバー・ドライヴは強制解除。
間の悪い事に、その影響で、疲れがどっと襲い、体温も急激に低下する。
「クソが」
「運に見放されたな!」
「ゴフッ!!」
ジャックは、デュラウスの一撃を貰ってしまった。
胸部の装甲は砕かれ、口から大量に血を吹き出す。
殴られた部分の骨が折れるのを感じながら、ジャックは地面に叩きつけられる。
今のジャックへと、デュラウスはランスを構えて接近する。
「痛って~、うわヤバ!!」
「コイツで!しまいだ!!」
ジャックにランスが差し掛かろうとした瞬間。
デュラウスに鈍い銀色のビームが直撃。
その衝撃で、バランスを崩したデュラウスは、地面に突っ込む。
「今の、まさか!」
「大尉!」
「助けに来たで!」
今の攻撃で、誰が来たのかを判別。
救援に来たメンバーに驚くジャックを、ドレイク達は横切る。
「ネロ、ウィルソンは、私と共に、量産機を相手にしろ!シルフィとラベルクは、カスタム機だ!!」
「了解!」
「大尉!落とし物です!!」
ネロとウィルソンは、ドレイクの指示通り、量産機を相手にし始める。
ラベルクは、途中で拾ったジャックの刀を投げ返す。
そして、刀を受け取ったジャックの前に、シルフィが佇む。
「……おいおい、無理すんなよ」
「無理でも、やらなきゃいけない時が有るでしょ」
「はぁ~、ヤレヤレ、誰に似たんだか」
「さぁね」
ガーベラを構えるシルフィは、先の狙撃で、吹き飛ばされたデュラウスを見つける。
まとわりついたホコリを払っているが、損傷は見られない。
軌道を変える程の威力でも、どうやらデュラウス相手には、威力不足のようだ。
「あの子は私がやる、ラベルクさんは?」
「私は、あの破廉恥な個体を、では、大尉は」
「おいおい、こっちは疲れきってんのに、まだ働かせんのか?」
「予備のドライヴをお持ちいたしましたので、頑張ってください」
「ポンコツが」
ラベルクは、ジャックの背後に回り、格納されているエーテル・ドライヴを引き抜く。
完全に使い物にならなくなっている事を確認し、予備のドライヴをセット。
起動と同時に、ジャックの体力は徐々に回復。
ため息交じりに、刀を構える。
「やれやれ、残業手当は期待すんなよ」
「私は、元よりアンドロイド、報酬の類は必要ありません」
「私も、リリィに会えるなら、傷治してくれるだけでいいよ、あ、あとご飯も」
「あ、では私も、変えのパーツなどをお願いします」
「お前らな~」
二人の図々しい発言に、ジャックは頭を抱える。
そんな三人の前に、空気を読んで待っていた三馬鹿が降り立つ。
「話は、終わった?」
「ああ、再開しようぜ、三馬鹿ども」
「誰が三馬鹿ですって!?」
「お前らだよ」
「ブフッ!」
ジャックの三馬鹿発言に、イベリスは怒る。
その横で、ヘリアンも不服な顔を浮かべる。
因みに、ジャックとイベリスのやりとりに、ラベルクは少し吹き出した。
「……ム、こいつらと、私を、一緒にして、欲しくない」
「おい、それどういう意味だヘリアン」
「そのまんまの意味」
「そうですわ、ヘリアンならともかく、わたくしまで馬鹿呼ばわりとは、聞き捨て成りませんわ!!」
「テメェもどういうつもりだゴラ!!」
勝手に仲間割れを始めた三馬鹿を見て、ラベルクは更に吹き出す。
その横で、シルフィとジャックは、同じ感想を抱いていた。
「仲いいね」
「だな」
「あの!調子が狂うので早く初めていただけませんか!!?」
「はいよ~」
ドレイクの叱責に反応し、三馬鹿は喧嘩を止める。
ジャック達も、三人に合わせて、武器を構えた。
緊迫する空気が流れ、六人は戦闘を再開する。
「さぁ、最終局面と行こうか!」




